ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス 作:オリゴデンドロサイト
マルフォイ家の巨大な屋敷の中、主の懐妊が判明してから急いで子供部屋として改装された部屋。そこに母親と思しき女性と赤ん坊がいた。
母の名はナルシッサ・マルフォイ。聖28一族であるブラック家よりマルフォイ家に嫁いできた純血の中の純血だ。
ルシウス・マルフォイとの結婚。それは当初、両人にとってすら純血を保つための、ただの政略結婚でしかなかった。それでも純血を保つためには当たり前のことである、と本人も思っていたため特に彼女に不満などなかった。
が、彼女も一度として恋をした男性と結婚したいと夢見たことがないかといえば、嘘になるだろう。それが彼女の結婚する以前の小さな不満であり、不安でもあった。
そして……そんな小さな不満も過去の話。
彼女はルシウスと出会い、彼の貴族としての誇りや矜持に見え隠れする本来の彼が持つ優しさや、ちょっぴり寂しがり屋な所を見ているうちに、彼を可愛らしく思え、そして彼に恋慕、愛情をも持つようになっていた。
そして彼との間にドラコという息子を授かり、この愛する夫と息子に不変の家族愛を持つようになっていた。
しかし、彼女にはどうしても考えずにはいられない、家族にではなく、自らに対しての不満があるのだった。
その不満とは……
ナルシッサ視点
「ドラコ……。わたしの可愛い息子……」
私が慈愛を籠めて見つめるのは……私達に似た、プラチナブロンドの髪と薄いグレーの瞳を持つかわいらしい赤ん坊。私とルシウスの特徴をふんだんに持ち合わせた息子。
ずっと見つめていたいような可愛い自慢の息子であるが、先ほど夫から帰ってくると連絡があったため、そろそろ玄関に迎えに行かねばならない。
私はドラコにかけていた静かな声音とは違い、優しさの欠片もない声を空中に上げた。
「ドビー! ドラコの世話をしっかりするのよ!」
声を上げると即座に、マルフォイ家につかえる屋敷しもべが空中から現れる。
「はい……奥様」
私はそう返す屋敷しもべを一瞬だけみやった後、そのまま玄関まで歩き始める。
長い歴史を持つマルフォイ家の屋敷は巨大で、玄関まで行くのにもちょっとした時間がかかる。姿現しすれば早いのだろうが、そんなまね貴族たるマルフォイ家がしてよい行いではない。
長い廊下を歩き、ようやく玄関にたどり着くと、ちょうどルシウスが家に入ってくるところだった。
「おかえりなさい」
「ああ……」
私の挨拶にルシウスが返事を返すが、どこかいつになく浮かない雰囲気があった。よく見ればなぜか両手を後ろ手に回しており、何かを隠している様子である。
どう考えてもいつもと様子が違う。
「どうしたの? 浮かない顔をして。それに……」
「それがだな……」
私の問いに、いつも自信に満ちた彼にしては珍しく戸惑っている様子であったけれど……彼は覚悟を決めたように、そっと後ろ手に抱えていたものを前に出した。
そこには、
「赤ん坊?」
「ああ、闇の帝王が、私たちの子供として育てよとのことだ」
白銀の髪と真っ白な肌を持つ、大変かわいらしい女の子の存在があった。
突然の出来事に当惑する。育てよといきなり言われても困惑するのは当然のことだろう。まずこの子が何者かもわからない。
しかし何故かしら。本来なら困惑するばかりの状況であるにも関わらず……それ以上に、私の胸の奥底で埋もれていた不満と期待が揺れたのだ。
だから自らの奥底から湧き上がる期待を隠すように質問を投げかける。
「闇の帝王が? なぜ?」
「この子は帝王の血を受け継ぎ、将来帝王の片腕となるために帝王自身がお造りになった子供らしい。だが、帝王の娘としてではなく、我々の娘として育ったほうが都合がいいとのことだ」
「帝王の血を受け継ぐって……。誰の子供なの? まさかベラ?」
髪の色からおそらく違うとは思うのだが、いかんせん帝王の周りをうろついている女性は自分の姉であるベラしか知らない。
「いや、本当は娘というわけではないようだ。造ったとはおっしゃってはいたが……。あと、半分は吸血鬼の血らしい」
「吸血鬼!?」
とんでもない情報に驚愕する。まさか亜人とは。
帝王は巨人、吸魂鬼など数多くの闇の生き物を従えているが、その中に吸血鬼も確かにいた。だがあまりにも大きな弱点を持つためか、あまり戦いの役に立っているとは聞いていない。
私自身は死喰い人というわけではないのであまり詳しくは知らないが、いつかルシウスが愚痴を溢していたのを思い出した。
そのような存在を帝王がはべらせるとは思えないのだけど……。
私の疑問を感じ取ったのか、ルシウスは続けた。
「いや、吸血鬼との子供というわけではなく、どうも吸血鬼の不死性を入れるためにだとか……」
「でも吸血鬼の血を持っているのは確かなのでしょう? 受け入れるにしても大丈夫なの? うちにはドラコもいるのよ?」
いくら赤ん坊とはいえ、ドラコが血を吸うために襲われたとしたらと思うと不安だ。
「そのあたりは問題ないそうだ。なんでもこの子が生まれて一週間だが、吸血衝動がでたということはないそうだ。少量血を時々与えたら大丈夫と仰せだ」
「そう、ならいいのだけど……」
不安と疑問は尽きることはない。亜人云々はよく分からないというのが正直な感想だったが、それ以上に状況に未だに追い付いているとは言い難かった。
しかし何故か……一通り今思いつく限りの不安と疑問を口にした後、やはり再び先ほどの期待が膨れ上がってきたのだ。
「……やはり受け入れられないか?」
私が不安を強く持っているのかと心配し、ルシウスが声をかけてくる。
闇の帝王の命令である以上従わざるを得ない。そして貴族としてはその命令を粛々と、家族に対しても遂行しなければならないのだろうが、彼の本来持つ家族への優しさが口をついてしまったのだろう。
聞いたとしても変えることの出来ぬ決定なのだから、聞くべきではなかったかと、ルシウスが表情を曇らせ始めた時、
「ねえ、ルシウス……」
私は静かに話し始めていた。……自分自身でも、最初は自分がどうしてこのようなことを言い始めたのかよく分からなかった。本来であればもっと当惑していても、不満を持っていてもおかしくない状況。冷静な時の私であればそう思ったことだろう。
でもそれ以上に、予感がしたのだ。
このチャンスを逃せば……私は後悔することになる。だから気が付けば、私はただ思いのまま語り始めていたのだ。先程まで不満と不安を溢しておきながら、それが半ば否定されたことを言い訳にしながら。
「私、ドラコを生んで、本当にうれしかった。私たちの可愛い我が子。生まれたとき、この子は私たち家族の結晶なんだと思ったわ。だから、もっとほしいと思ったの。でも……」
それは幸福な家庭を築きながらも、小骨の様に心に刺さっていたもの。
私は体が普通の人より少しだけ弱かった。だから、私は一人目を生んだとき体調を大いにくずしてしまった。
そして癒術者に宣告されてしまう。
それが私自身に対する不満。もう一生それが付きまとっていくのだと思っていた。
「私は確かにもうあなたとの子供を産むことはできないでしょう。本当は娘もほしかったのに……」
夫は当時、跡取りの息子がいるのだから十分と言ってくれた。だけど私は知っている。ルシウスも実は娘もほしかったことを。
ルシウスはマルフォイ家のただ一人の跡取りとして誕生した。マルフォイ家の愛情、そして何より財と名誉を一心に集めていたが、結婚したての当時、ようやく愛情がお互いに芽吹きだした時に、私にそっとこぼしていた。
『君みたいに姉か妹がほしかった』
彼には近い親戚に女性はいた。だがそれはあくまで親戚であって、家族ではなかったのだろう。
そんな彼が結婚していざ子供をつくるとなった時、おそらくだけど、跡取りを産むなら息子のそばに妹がいてもいいではないかと、自分にはなかったもの、憧れていたものを持たせてやりたかったのかもしれない。
そんな夫に私は娘を産んでやれなかった。自分自身も娘を、将来一緒に女性として楽しみを共有できる女の子がほしかった。
私はただ家族愛に飢えていた。
幼いころから純血主義の中で、ある程度、純血を保つ道具として見られていた私が心の底では求めていたものだった。
だけど、あきらめざるを得なかった。
夫は息子だけでよいといってくれてはいるが、その優しい嘘が逆に自責の念を奥底に閉じ込め腐らせていた。
そんな中、夫は連れてきてくれたのだ、私たちの娘を。
確かに血はつながっていない。吸血鬼の血も入っている。だけど、偉大なスリザリンの血を受け継ぐ帝王の血を持っている。
それならば我々と同じ純血として見てもよいのではないか?
自らの思いを語れば語る程、私は心の中で言い訳を続ける。生まれた時から叩き込まれてきた純血主義に言い訳をする。
それは私は確かに純血主義ではあったが、死喰い人程熱心な純血主義者でもなかったこともあるのだろう。
私の純血主義を、私の中にあった子供がほしい、夫婦の間に娘が欲しいという願望が凌駕していたのだ。
だから内心の思いを出し切った後、私はただ、
「ありがとう、ルシウス。この子を連れてきてくれて。育てて見せます。私たちの新しい家族として」
そっと微笑みながら、そう口にしていたのだった。
ルシウスもどこかほっとした顔をした。命令に背けないとはいえ、できることなら愛する妻に不満のない生活を送ってほしかったのだろう。
ルシウス視点
シシーは喜んで受け入れてくれた。元々これ以上子供を産めないということを気に病んでいることは知っていた。自分も娘が欲しくはなかったかといえば嘘になる。
だからこれはむしろ渡りに船だったのかもしれない。
だが、私はナルシッサ程この状況を喜ぶことができなかった。
シシーは愛情をこめて育てるだろうが、それだけではダメだ。この子は立派な死喰い人として育て上げなければならない。
しかも普通の死喰い人よりも、死喰い人らしくだ。
帝王は自らの血が入っているのだから優秀なのは間違いないとおっしゃっていた。
それはつまり、帝王程優秀でなければ、私たちはそんな当たり前のことすらできない無能ということになってしまう。
妻はおそらくドラコ同様、この子を溺愛していくだろう。それを止めるつもりはないが、私、いや私たちのためにも、この子には強大な死喰い人になってもらわねばならない。
そして何より不安なのは、彼女が人工的につくられた存在だと帝王にうかがっていたが、それがどのような影響をこの子に及ぼしているのか未知数なことだった。
吸血鬼としての特性はどこまで引き継いでいるのか? どの程度の魔力を秘めているのだろうか? 何より、帝王の血を引き継いでいるこの子が、
だが不安な一方期待もあった。亜人の血が入っているとはいえ、帝王の血が入ることで、同じ純血以上として扱える娘が手に入った。そしてもし、彼女が帝王の右腕となれば、我々マルフォイ家も安泰となる。リスクも大きいがリターンも大きいと私はそっとほくそ笑む。
新しい家族を笑顔で抱き抱いて、さっそくつい最近造られたドラコの子供部屋に連れて行こうとする妻の顔を見ながら、私はそっと己のすべきことを決意した。
しかしシシーの次の言葉で、私は重要なことを忘れていたことに気付く。
「そういえば、この子の名前はもう決まっているの?」
いまさらこの子の名前を知らないことに気付く。
「いや、帝王は特に名前をつけておられなかった。我々でつけてもいいのではないか?」
「では、
「ほう、また何故ダリアなのだ?」
「優雅で気品をもった子に育ってほしいもの。この子は女の子なのですよ?」
こうして『ダリア・マルフォイ』はマルフォイ家の一員となった。
ナルシッサが花の名前なので、主人公も花の名前にしようと
ちなみに、ダリアの花言葉は
「華麗」「優雅」「気品」「移り気」「不安定」