ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス   作:オリゴデンドロサイト

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閑話 謝罪

 ハーマイオニー視点

 

一年が終わり、皆ホグワーツから自宅に帰ろうと、ホグワーツ特急に乗りこんでいく。

私はプラットホームで目的の人物がいないか探していた。探し人はすぐに見つかった。当然のことだ。だって彼女は、あんなにも目立つ容姿をしているのだから。

 

「あっ! いたわ! ほら、ハリー、ロンも!」

 

「なぁ。やっぱり止めないか? だってあいつは、」

 

未だに渋った様子の二人を無視して、私は彼らを引きずるように連れ、今まさに汽車に乗り込もうとしている少女の元に向かう。

 

「マルフォイさん!」

 

日傘を片手にさし、汽車に乗ろうとしていたダリア・マルフォイさんがこちらに振り向いた。

私はその姿を見て、一瞬時が止まったような気がした。

彼女は非常に美人だ。白銀の髪に真っ白な肌。薄い金色の瞳は冷たく輝いているけど、その冷たい色すら彼女の美貌を引き立てている。そんな彼女が日傘を片手に汽車の前で振り返る。その光景は非常に絵になっており、まるで昔、両親に連れられて行った美術館の絵画のようだったのだ。

 

「どうかなさいましたか? グレンジャーさん」

 

「え、ええ。私達、あなたに謝らないといけないことがあって……」

 

マルフォイさんの問いかけで我に返る。今は見とれている場合ではない。彼女を日が当たる可能性のある場所に、長時間拘束し続けるわけにはいかない。汽車の中でもよかったのだけど、その場合、彼女はもっと多くのスリザリン生と共にいることになる。それはなんとか避けたかった。幸い今彼女が立っている場所は汽車で日陰になっているところだし、一緒にいるのは彼女の兄と、彼女の友人と思しき女の子だけだった。

ドラコ・マルフォイは非常に鬱陶しいといった表情を浮かべている。

女の子の方、たしか……ダフネ・グリーングラスも訝し気な表情を浮かべている。

マルフォイさんだけは、いつもの無表情だった。

ただ三人とも、なぜ私が話しかけたのか分からないという点においては共通している様子だった。

 

「ダリア、行こう。そんな奴等の話を聞く必要はない」

 

「なんだとマルフォイ!」

 

ロンが私を無視しようとするドラコ・マルフォイに喰ってかかろうとするが、

 

「ま、待って! すぐ! すぐに終わるから!」

 

私はロンを押しのけ、彼女に訴える。ここを逃すと、夏休みが終わるまで彼女に会うことができない。それはできない。いや、してはいけない。これをしなければ、私は彼女と決して対等にはなれない。これを逃せば、私はずっと彼女に対して負い目をもつような気がした。それでは彼女に追いつけない。

 

「マルフォイさん、ごめんなさい」

 

「突然どうしたのですか? 特に謝られるようなことをされた覚えはないのですが?」

 

彼女は突然の私の謝罪に驚いたような雰囲気を醸し出している。表情は変わってないけど。

 

「私達、実はあなたを疑っていたの」

 

「……何を疑っていたのですか?」

 

その瞬間、彼女から発せられる空気が変わった気がした。ただでさえ冷たかったものが、さらに冷たく、まるで本当に周りの温度が下がったような気がした。

彼女の薄い金色の目が、まるで私の次に言う言葉を探ろうとしているかのように真剣な色をしている。よく見れば横にいるドラコ・マルフォイも、そしてダフネ・グリーングラスも同じような瞳をしていた。

 

な、何か変なことを言ってしまったのかな?

 

私は突然変わった空気に気おされながらも続ける。

 

「あ、あの、実は私たち、あなたも賢者の石を盗もうとしてると疑っていたの。あなたにクリスマスの後、話を聞いていたんだけど、どうしても信じ切ることができなくて……。だから、ごめんなさい!」

 

後ろの二人はまだ彼女に謝罪することに納得していないのか、不満そうな顔を未だにして突っ立っているので、

 

「ほら、あなたたちも!」

 

そう怒ると、渋々といった様子で、

 

「ご、ごめん」

 

もごもごと小声で謝罪の言葉を口にした。マルフォイさん、つまりドラコ・マルフォイの妹に謝罪するというのがよっぽど癪だったのだろう。まったく、本当に子供なんだから……

 

「え? それだけですか? そんなことでわざわざ謝りに?」

 

先程まであった空気は霧散し、マルフォイさんは意味が解らないといった表情を浮かべている。ただ、彼女の横にいる二人は未だに怒ったような表情をしている。

 

「そ、それだけだけど」

 

「……そうですか」

 

どこか安堵したような様子だった。

少しすると気を取り直したのか、またいつものどこかこちらを拒絶したような空気になる。

 

「別にそんなことで謝らないでよろしいですよ? 前にも言いましたが、別にポッターを助けようとしたわけではありません。それに、私はあなた方が私にどんな感情を抱こうと、あなた方そのものに興味もありませんので」

 

ハロウィーンの時と同じだった。彼女はいつものように、わざと私達に嫌われようとしているかのような言動をした。でも、私にはそれがあの時と同じで、彼女の本心ではないような気がしていた。

しかし、そう感じたのは私だけだったみたいで、

 

「ふん! そんなとこだろうと思ったよ!」

 

ロンがマルフォイさんの言動にいきり立つ。

 

「ハーマイオニー! やっぱりこいつに謝る必要なんてないぜ! だってこいつは、」

 

「ウィーズリー、なんだその態度は? そもそも、何をどう考えたらダリアが石を盗もうと思うのか不思議で仕方がないよ。やっぱり貧乏だと発想まで貧困になるんだな」

 

「なんだと!」

 

ロンに対して、同じく不機嫌そうなドラコ・マルフォイが揶揄したことで醜い言葉の応酬が始まる。

謝るだけのつもりが、このままだと本格的な喧嘩が始まってしまいそうだった。やっぱり二人を連れてきたのは間違いだったのかな……。

しかも先程まで不満そうに立っているだけだったハリーも参戦しようとしている。

ここは早く退散した方がよさそうだった。

 

「ロン! 喧嘩しないの! 私たちは謝りに来たんだから!」

 

「でもハーマイオニー、」

 

「ほら、行くわよ! ごめんなさいねマルフォイさん」

 

「……先程も言いましたが、謝罪の必要はありません」

 

「ありがとう! じゃあ、またね、マルフォイさん! それと、来年は絶対に勝つから!」

 

謝罪を済ませたことで、私の中にあったつっかえがとれた。するといつもの彼女に対するライバル心がむくむくと盛り上がってきた。私は100点満点のテストで100点以上の結果を出していたけど、マルフォイさんには到底及んでいなかった。私の目標は未だ私のはるか先を進んでいる。でも、絶対いつか追いついてみせるのだ!

マクゴナガル先生も、グリフィンドールが主席をとらなかったのが悔しいのか、来年は勝ちなさいとおっしゃっていた。

 

「そうですか。まあ、頑張ってください」

 

「私も忘れないでよね! 私もあなたを追い抜いて、二位の座を手に入れるんだから!」

 

そうマルフォイさんの横で、先程まで不満そうな顔をしていたダフネ・グリーングラスが私に叫んだ。忘れていたけど、そういえば彼女は成績で三位になっていたのを思い出す。確かに彼女もかなりの点数を出していた。油断すれば私が抜かれてしまうかもしれない。これは追い越すためにも、そして追い越されないためにも夏休みしっかり勉強しなくちゃ!

 

「ええ! 私も負けないわよ! じゃあ、また夏休み明けに!」

 

ロンがまだ何か言いたそうにしているのを、手で背中を押しながらその場を離れる。

歩きながら、そういえば、彼女もスリザリンだというのに、普通に会話できたことに気がついた。彼女からも、他のスリザリン生から感じる様な嫌な感じはしなかったのだ。

 

マルフォイさんと同じように、もしかしたらスリザリン生にも色々な人がいるのかなと思いながら歩く。

しかし、数歩歩いたところで、ロンと同じく不満そうにしていたハリーが付いてきていないことに気が付いた。訝しみながら振り返ると、ハリーはぎょっとした表情で、汽車の中に入っていくマルフォイさんを見つめていた。

 

「ハリー? どうしたの?」

 

「い、いや、なんでもないよ」

 

ハリーは頭を振り、何か余計なことを頭から追い出そうとするような仕草をした後、私たちと共に歩き出した。

 

「私たちも汽車に乗りましょうか。もうそろそろ発車するでしょうし」

 

「そうだね」

 

そうハリーと会話していると、

 

「お~い! ハリ~!」

 

突然大きな声が聞こえてきた。声の方を驚きながら振り向いてみると、そこには一冊の本を抱えたハグリッドが立っていた。

 

「どうしたの、ハグリッド?」

 

「これをお前さんに渡そうと思ってな」

 

突然の登場に訝しがるハリーに、先程から小脇に抱えてた本をハグリッドは手渡す。

それはハリーの両親のアルバムだった。ハリーは本当に嬉しそうな顔をして喜んでいる。

 

そこにはもう、先程見せた不安な様子はなかった。

 

汽車に乗ってもハリーはずっとアルバムを眺めていた。もう、先程感じた不安を忘れてしまったかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハリー視点

 

マルフォイに揶揄されたことで怒ったロンをなだめながら、ハーマイオニーは歩き出す。

僕もロンと同じ意見で、ダリア・マルフォイに謝る必要なんてないと思っていた。彼女はあまりにも怪しかった。たとえ今回のことが勘違いだったとしても、彼女が危険人物であることに変わりはないのだから。

 

僕がクィレルから石を守った後、医務室で目が覚めた僕のもとにダンブルドアが尋ねてきた。僕は今までの顛末を話した。そして、スネイプとダリア・マルフォイを疑っていたことを話した時、スネイプについては信頼していると語った。何故スネイプが僕を助けたのか聞くと、僕のお父さんがスネイプを昔助けたからだと教えてくれた。

でも、ダリア・マルフォイについては、特に何も言わなかった。

 

ハグリッドが以前言っていたことを思い出す。

 

『あの子の家はマルフォイ家だ。純血主義筆頭のな! 根っこからくさっちょる連中だ。それにダンブルドアもあの子を警戒している様子だった』

 

ダンブルドアも態度には出さないだけで、彼女のことを警戒している。そう思えてならなかった。

それに禁じられた森で見たあの残酷な笑顔。おそらくあれこそが彼女の本性であり、ダンブルドアが見抜き、警戒しているものなのだろう。

そんな、おそらくマルフォイと同類の彼女を信用することなど僕にはできなかった。

 

僕も早くこの場から退散しよう。そう思い、スリザリン三人の元から去ろうとした。ここにいても嫌な思いをするだけだ。

しかし、歩き出した僕の後ろから、小さな声で、まるで独り言みたいに

 

()()()()()()()()()()()()()()?」

 

僕にははっきりと聞こえてしまったのだ。

急いで振り返るが、もうそこには誰もいない。ダリア・マルフォイの声だったように思えるのだけど、一体なんだったのだろうか。


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