ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス   作:オリゴデンドロサイト

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閑話 私の友達(後編)

 ダフネ視点

 

「スリザリン!!」

 

あの衝撃的な出会いから早数年。私は今ホグワーツの入学式にいる。

そしてたった今、私はスリザリンに組み分けされた。

 

「スリザリンにようこそおいで下さいました、グリーングラスさん」

 

「ありがとうございます、先輩」

 

スリザリンは純血であることに重点をおく人が集まりやすい寮だ。だから聖28一族である私はそれが当たり前であるかのように、先輩にすらうやうやしい態度をされる。

お茶会の後、私はそれまで持っていた排他的な純血主義を捨てた。勿論グリーングラス家として、自分が純血であることに誇りを持っている。この血は、何千年と続いてきた魔法界の歴史そのものなのだ。

でも、そのことで周りを蔑んでしまったら、それだけで純血の品位を貶めていると気付いたのだ。

それに……あのダリア・マルフォイさんを見た後、純血だろうが純血ではなかろうが、そんなものは彼女の前では意味をなさないと分かってしまい、何だか今までの自分が馬鹿らしくなったのだ。

 

私はあの後、ダリア・マルフォイさんと今度こそ話をするべく、何度もお茶会に足を運んだ。

でもあれ以降、彼女がお茶会に出席することはなかった。

行ってもあるのは彼女の噂ばかり。本人の姿はどこにもない。尤も噂に関しては、当初の彼女の容姿についての憶測は微塵もなかった。けど、その代わりに存在していたのは、彼女を褒め称えるものばかりだった。

なぜなら噂の発信源が他ならぬ彼女の父親だったからだ。

 

曰く、ダリアは天才で、なんでもどん欲に吸収する。

曰く、ダリアは世界一天才で、できないことなど一つもない。

曰く、ダリアは宇宙一天才で、かのダンブルドアさえ超えることが出来るだろう。

 

あまりにも褒め称えてばかりなので、皆話半分にしか聞いていなかったが、それくらいしか情報源がないのも確かだった。

彼女と交流がある人物は後4人存在してはいたが、彼女の母と兄は基本的に父親と同じようなことしか言わない。残りの二人にいたっては、あまりの頭のお粗末具合に信憑性を感じられなかった。

大人たちはそれをただの親馬鹿発言だと思ったようであったけど、当時の私はそれらの話を信じていた。あの時見た彼女なら、ルシウス氏達が言っているようなことが出来てもおかしくないと思ったのだ。

私はそれまで勉強などしたことがなかった。が、彼女の話を聞いてからは必死に勉強した。彼女と会った時、勉強が好きだという彼女と話ができるように、彼女に呆れられないようにしたかったのだ。

 

でも、彼女ととうとう会うことはなかった。

 

次こそは、次こそはと思いお茶会に参加しても、彼女と会うことはなかった。勉強をしているうちに、なんだか楽しくなってきて、勉強が苦ではなくなってきた。けど会えないうちに、だんだん私も彼女がもうお茶会に来ることはないのではないかと思い始めていた。

 

そして、彼女の新しい噂を聞いた時、ついに私もお茶会に行くのをやめた。

 

ルシウス氏が彼女を、

 

「外に出したくないほどに、可愛い私の娘」

 

と言ったことから、悪い虫がつかないように、ルシウス氏が彼女を出席させないのでは、という噂が広がったのだ。

彼女の容姿を思えば納得できる話だった。当時あれだけの美人だったのだ。今はどうなっているか想像も出来ない。

その噂を聞き納得した時、私はお茶会に参加する意味を失った。

純血主義ではなくなった私には、お茶会に集まっているパンジーたちも含めた人たちとあまり馬が合わなくなっていたのだ。お茶会に参加する理由は、もはや彼女と会うことだけだったのだ。

 

上級生たちの挨拶を一通り聞いた後、私は組み分けに目を向ける。ちょうど縮れ毛の女の子がグリフィンドールに組み分けされている場面だった。私は待ち望んだ瞬間を待つ。

そして、ついに、彼女の組み分けが始まった。

彼女の組み分けは非常に長かった。今のところ今日一番の長さだ。

少しざわつきだした周囲の中、私は内心非常に焦っていた。

なぜなら私は彼女と会うためだけに、このスリザリンに入ったのだから。

 

遡ること少し前、

 

「ふむ、君は頭もいいようだ。狡猾さもある。そして忍耐力もある。だが一番あるのは勇気のようだな……。まだ開花しきってはおらんようだが、確かにそれは君の中に存在している。それでは、」

 

「組み分け帽子さん、待ってください。私はどこにでも行ける可能性があるのですよね?」

 

私は帽子の言葉をさえぎった。

 

「……宣言を遮られるのは初めてのことだよ。そうだ。君には様々な可能性がある」

 

どこか驚いた様子の帽子が私に答える。

 

「だったら……私を、スリザリンに入れてください」

 

「ほう? スリザリンかね? だが君は果たしてその寮で満足するかね? 君は確かに狡猾さを持ち合わせているが、かの寮の者と合うかどうかわからぬよ?」

 

「それでも構わない。だって私が欲しいのは勇気なんかじゃない。私が欲しいのは、あなたの歌にあった、()()()()()なのだから!」

 

「……なるほど。確かに君はスリザリンにふさわしいようだ。君が真の友情を手に入れることを祈っておるよ」

 

帽子は言葉を切り、宣言した。

 

「スリザリン!」

 

ダリア・マルフォイさんの組み分けはまだ続いている。彼女がスリザリンに来てくれなくては困る。

彼女の話をする時、普段は厳格そうなルシウス氏が、どこか親ばかな空気を醸し出していた。そして彼女が自分に何をしてくれたかといった、さらに親馬鹿な話をするのだ。

あんなにも家族に愛され、そして愛しているだろう彼女が、スリザリンを選ばないとは思えなかった。その打算もあって、私はここスリザリンを選んだのだ。もし、私がグリフィンドールにでも選ばれようものなら、パパの権力を最大限利用して彼女のいる寮に行くつもりだった。

 

彼女を初めて見た時、彼女を一目で好きになった。彼女には私が変わるきっかけを与えてもらった。

彼女と話したいと思った。彼女の見ている世界を私も見たいと思った。彼女のそばにいたいと思った。

 

これは恋ではないけど、私は確かに彼女に一目ぼれしていたのだ。

 

彼女の組み分けを祈るような気持ちで見つめていると、ついにその時がやってきた。

 

「スリザリン!」

 

彼女と交流を持つ、最大のチャンスがやってきた。

 

「ホグワーツの新入生、おめでとう! 歓迎会を始める前に、二言、三言、言わせていただきたい。では、いきますぞ。そーれ! わっしょい! こらしょい! どっこらしょい! 以上!」

 

家でも中々みられない豪華な食事が皿の上に現れる。一年生たちはその素晴らしい食事だけでなく、辺りを飛び回り始めたゴーストや、本物の空と見間違わんばかりの天井を興味深そうに眺めている。ただ、スリザリン生だけは、純血の者が多いためか豪華な食事など見慣れている上、ゴーストの存在も知っている。そして魔法のことも勿論知っているため比較的冷静な態度だった。かくいう私も表面上は冷静を装っている。でもそれは他のスリザリン生のような理由ではない。私は好奇心が旺盛な方らしく、ホグワーツで初めてみるものを見回したくて仕方がなかった。でも、今はそれより重要なことがあるために、それをしないだけだ。

 

私の前には、あの会いたくて仕方がなかったダリア・マルフォイその人が座っているのだ。

 

緊張しながら彼女をそっとうかがう。

やはり美人だ。しかも想像を絶するほどの。私が最後に見たときよりも遥かに美しくなっている。周りのスリザリン生どころか、他の寮生すら彼女をチラチラ見ているのが見えた。

 

今彼女は()()()()()()()ステーキを無表情ながらおいしそうに食べている。

何をしても美人は絵になる。

 

私は彼女に聞かれないように、そっと深呼吸をする。

彼女にいよいよ話しかけるのだ。この時をどれだけ待ったか。

ただ、話しかけるにあたって、私は二つのことを決めていた。

 

彼女を今まで見たことないふりをするのだ。

 

初めてマルフォイさんを見たとき、私は()()()純血主義者だった。しかも主義ともいえないほど軽薄な。

だから、彼女との出会いをリセットしたかったのだ。彼女とのファーストコンタクトは、今の私でありたかった。

 

そしてもう一つ。

彼女は純血貴族筆頭であるマルフォイ家だ。屋敷しもべ妖精とあんな風に話していた以上、彼女が私のような愚かな純血主義者だいうことはないだろうが、彼女にも世間体というものがある。ここはスリザリン。家柄に重きをおいているのは当然のことだった。

彼女の交友関係は、私と同じく純血であるかで決められている可能性が高い。

だから、私は聖28一族という立場を最大限利用するつもりだった。

一つ目の決め事と矛盾するようだけど、彼女と仲良くなるのに手段を選ぶつもりなどない。

私は意を決し、冷静を装いながら、彼女に話しかける。

 

「ねえ、さっきすごい雰囲気出してたけど、あなたがあの有名なダリア・マルフォイ?」

 

ホグワーツに入って一週間。私は何とかダリアのルームメイトという地位を手に入れている。もし、彼女と同じ部屋でなかったら、彼女と同じ部屋だった人間に()()()()()()()()()()()()()()()、その必要はなく無事に彼女と同じ部屋になった。

だけど、思ったように彼女と仲良くなることはできていなかった。

ダリアは私が思っていた以上にいい子であったし、彼女に対してなんら不満があるわけではないのだけど……。

 

彼女が、私を拒絶していたのである。

 

私だけ、というわけではない。彼女は自分の兄以外の全ての人間を拒絶していた。

別に私たちを無視するとかそういうことではない。話しかければ丁寧に受け答えする。ただ、その眼だけは憂いを帯び、そして彼女の冷たいオーラが、何故か私たちを必要以上に近づけないようにしているようだった。

 

私はもっと彼女に近づきたいのに……。どうすればいいのだろうか。

 

そう思いながらダリアが目当ての本を持ってくるのを待つ。

今、私達はホグワーツの図書室に初めて来ていた。図書室に行きたがっていたダリアに付き添い、私とドラコ、そしてセオドールにブレーズが来ていた。

私は『闇の魔術に対する防衛術の本』を探すと言っていたけれど、なんのことはない。実際はダリアと一緒にいるために来ていた。勿論、私は勉強が好きだから、世界一の魔法に関する蔵書を誇るホグワーツの図書室に来たかった。でも、最大の理由はダリアと少しでも一緒にいるためだ。

闇の魔術に対する防衛術の本を開きながら、うんうん別のことに悩んでいると、ダリアより先にドラコが目的の本を見つけて帰ってきた。

 

「ダリアは?」

 

「まだみたいだよ。そっちの二人は?」

 

「あいつらもまだみたいだな。まだ目当ての本は見つからないらしい」

 

「そっか」

 

「まあ、そっちの方が都合もいい」

 

唐突にそう言いだしたドラコを見ると、彼はいつになく真剣な目でこちらを見つめていた。

 

「お前はダリアにやたらと近づこうとしているな? 目的はなんだ? マルフォイ家とつながりを持つためか?」

 

私の一挙手一投足も逃すまいと、ドラコはこちらを見つめている。そこにはただ純粋に妹を守りたいと思っている色があった。

私はここで真剣に答える必要があることを悟った。

 

「……私はね、ドラコ。ただ純粋にダリアと友達になりたいの。まだ短い時間しか彼女と一緒にいないけど、彼女がいい子だってことはわかる。いつも無表情だけど、私にはわかる。彼女が本当に優しい子だってことくらい。マルフォイ家だからとか関係ない。彼女だから私は、彼女と友達になりたいの」

 

私は真剣にドラコに訴える。しばらく私をじっと見つめていたが、ふっとドラコは表情を緩めて言った。

 

「そうか。それなら、いい」

 

その表情を見ていると、顔立ちが似ているせいなのか、ルシウス氏と初めて会った時を思い出した。あの時は認めてもらえなかったけど、今回は認めてもらえたかな。そう何となく思った。

 

しばらく二人で本を読みながら皆を待つ。だけど、ふと、ドラコがどこか思い切ったように口火を開いた。

 

「ダリアには秘密がある」

 

突然ドラコは話し始めた。私は何を言い出したのだと当惑したけど、ドラコが先ほどと同じ表情をしているため、最後まで聞くことにした。

 

「勿論、僕の口からその内容は言えない。僕の口から言ってはいけないのもあるし、そもそも僕自身が全てを知っているわけではないから言えないのもある。それを知りたいなら、お前自身で知ることだ」

 

「……ダリアが何か隠していることは何となく知ってたよ。でも、それを詮索したら、ダリアは、」

 

「ああ、おそらくお前を拒絶するかもしれない。でもな、知らなければあいつとは本当の友達にはなれない。あいつがそれを隠すのは、自分のためというより、()()()()()()()()だ」

 

「だったら、なおさら、」

 

「だからこそ、ダリアは一人になろうとしているんだ。僕たち家族だけは例外だけどな。でも、あいつは本当は心のどこかでは友達を……自分を認めて、許してくれる存在を求めている。あいつをそんな一人ぼっちの状態になんてしたくないんだ……」

 

一人ぼっち。確かにそうかもしれない。

だって、ダリアが周りを拒絶する時はいつも、彼女の瞳には憂いが映っているのだから。

 

「……ドラコ、分かった。ダリアにどんな秘密があるのか知らない。でも、これから7年間、私達はずっと一緒にいるんだから、それを知る時が多分来るかもしれない。でも……」

 

そこで私は言葉を切る。

 

「どんなことがあっても、ダリアのそばにいる。ダリアを一人ぼっちになんかしない」

 

ドラコは私の言葉に、うれしいような、悲しいような、そんな複雑な表情をしながら、

 

「そうか……」

 

そう一言だけ返した。

 

 

 

 

ホグワーツの一年も終わり、初めての夏休み。

私は毎日とは言わずとも、相当な頻度でダリアに手紙を書いていた。

本当は毎日でも書きたいのだけど、ダリアに嫌がられては元も子もない。

 

今年一年振り返るといろんなことがあった。

もっと長い時間がかかるかなと思っていたのだけど、意外にすぐにダリアの秘密の一部が見えてきていた。

 

彼女はニンニクの臭いを異常に嫌がった。

普段は無表情なのに、闇の魔術に対する防衛術の時だけは、彼女の表情が嫌悪で満たされていた。

確かに皆臭がってはいたけど、彼女のそれはその中でもトップクラスだった。

 

そして日光に当たれない体。

彼女はいつも過剰とも思えるほどの日光対策を施して外に出ていた。

 

でも、ここまでならそういう人もいるなで終わる。

 

私を確信させたのは、彼女に定期的に届く()()()だった。

ドラコ達には、マルフォイ家から頻繁にお菓子が届いていた。どう考えても彼らだけでは食べられない量のお菓子を、ドラコは他のスリザリンに気前よく配っている。

その中に、時々普段は入っていない、魔法瓶のようなものが入っているのだ。

それだけは早々にダリアが回収しており、それが一体なんであるのかわからなかった。

 

だけど一度だけ、彼女がそれを飲んでいるところを見たことがあった。

 

先に行っていてくださいと、ダリアに言われて教室に向かったのだけど、私自身も忘れ物をしたため寮に戻った時。

彼女がいつもは決して見ることができないような笑顔を浮かべて寝室から出てきた。

驚いている私に、ダリアはどこか機嫌がよさそうに声をかけてきた。

 

「あら、ダフネ。どうしたのですか?」

 

「それがね、私も忘れ物しちゃって……。それよりダリア。何かいいことでもあったの?」

 

そう尋ねたのだけど、ダリアはハっとした雰囲気でまた元の無表情に戻ってしまってた。

 

「いえ、特に」

 

「そ、そう? じゃあ急いで忘れ物取ってくるね」

 

私は急いで部屋に入り、忘れ物を取り、ダリアに合流する。

 

「お待たせ。それじゃ行こう!」

 

「はい」

 

ダリアと一緒に歩きながら思いだす。

先程入った寝室には、微かな鉄の匂いがしており、ダリアのベッドの横には、件の魔法瓶が置かれていた。

 

私はこれらの情報から、彼女の秘密に思い至った。

 

……彼女は、吸血鬼なのだと。

 

そして、思う。

 

それがどうした?

勿論、彼女の秘密はこれだけではないのだろう。何故吸血鬼でもない両親のもとに、吸血鬼の彼女がいるのか。

そして、ハロウィーンで見せたあの笑顔。

まだまだ分からないことも多い。

 

でも、私の答えは変わらない。

 

それがどうしたの?

彼女がどんな存在であれ、私が彼女の味方であることは変わらない。

パパが私を愛してくれる理由と同じ。

ダリアがダリアであるということだけで、私は彼女のことを好きなのだ。

 

ダリアの手紙を書きながら、ありったけの思いを心の中で叫ぶ。

 

ダリアが何者であろうと、私はあなたを一人ぼっちになんてしない。

 

だから……私をあなたの友達にしてください。

 




ダリアのことがばれたのは、ダリアがドジっ子……というわけではなく、今年の環境が悪すぎただけです。
今年に限ってニンニク教師がいる。これが最大の要因です。
そしてダフネ。いつも一緒にいるし、基本ダリアを見つめているのでバレました。
今後数年以内にもう一人ばれる予定ですが、そちらもハイスペックだからバレただけです。

次から秘密の部屋です。
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