ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス   作:オリゴデンドロサイト

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ボージン・アンド・バークス

 

 ダリア視点

 

家族で朝食の席を囲んでいる時、

 

「お嬢様、お坊ちゃま。ホグワーツよりお手紙が届きましたです」

 

「ありがとう、ドビー」

 

ドビーから手紙を受け取り開くが、ドビーがまだ私の方をじっと見つめていることに気が付いた。まるで私に何か訴えるような眼をしてこちらを見ていたが、

 

「ドビー。私の目から見て、お前がここに留まる理由はないと思うが?」

 

ドビーがお嫌いなお父様が、ドビーにぴしゃりと告げた。

 

「はいです……。ご主人様……」

 

ドビーは未だに何か迷うような態度をしていたが、お父様の目がさらに厳しくなったので、バチンという音を立てて持ち場に戻っていった。

 

「まったく。忌々しい屋敷しもべ妖精だ」

 

お父様はそうおっしゃるが、別に彼に危害を加えようとはされない。ドビーを気に入っている私に配慮してくださっているのだろう。

後でドビーの様子を見に行こうと思いながら、先程受け取った手紙を読む。

それは今年使う教科書のリストだった。

 

基本呪文集(二年生用)     

ミランダ・ゴズホーク著

 

泣き妖怪バンジーとのナウな休日

ギルデロイ・ロックハート著

 

グールお化けとのクールな散策

ギルデロイ・ロックハート著

 

バンパイアとバッチリ船旅

ギルデロイ・ロックハート著

 

etcetra

ギルデロイ・ロックハート著

 

 

合計()()がギルデロイ・ロックハートという人物の本だった。

 

「新しい先生は、このギルデロイ・ロックハートという人物のファンか何かです?」

 

「ギルデロイ・ロックハートって言ったら、最近魔女の間でチヤホヤされている奴だろ?」

 

同じく教科書のリストを読んでいたお兄様と共に首をかしげる。

確かに最近、ギルデロイ・ロックハートなる人物の名前を日刊予言者新聞で目にすることがある。ただ、それはミーハーな低俗な記事ばかりだったので、真面目に読んだことはなかったのだ。

 

「おそらく、今回の新任教師は魔女だな。しかもこいつの重度のファンだ」

 

「まあ、どんな人物にせよ、去年の教師よりはましだと思います。少なくとも今年は臭いに悩まされることはないでしょう」

 

「そうだな。臭いもそうだが、何を言っているのかもよく分からなかったしな。父上は新任のことをご存じですか?」

 

お父様はホグワーツ理事の一人だ。新しい先生がどんな方か知っていてもおかしくはない。そう思い、お兄様が聞いたのだが……。

お父様は、特大の苦虫でも噛み潰したような表情をしていた。

 

「お父様?」

 

「あ、ああ。知っているとも……」

 

随分と歯切れの悪い答えだった。

 

「どうかなされたのですか? 新任に何か問題でも?」

 

「……ダリア。これだけは言っておく。今回の教師は私が選んだわけではない。奴以外に立候補する者がいなかったとはいえ、あの老いぼれが選んできたのだ。断じて、私ではない」

 

何故かそうおっしゃったきり、その人物のことを口にも出したくないと言わんばかりに黙ってしまった。

い、一体どんな人物が新任なのでしょう……。

私は言いしれない不安を抱いていた。

 

マルフォイ家にギルデロイ・ロックハート氏の本は一冊もない。教科書になるのだから家に一冊でもないものかとお父様に尋ねたところ、本来教科書になるような本なのではなく、三文小説のような内容だという回答だった。

 

何故そんなものが教科書に?

 

さらに不安は強くなったが、教科書に指定されている以上、これらを買いに行く以外の選択肢はない。私達は手紙が来たその日のうちに、教科書類を買いに行くことにした。後日でも良かったのだが、丁度お父様もノクターン横丁に出かける用事があったので、ついでに今日買い物を終わらせることになったのだ。

去年はお母様も買い物にいらっしゃったが、今年はもう二年生ということと、私達の買い物の前にお父様のご用事を済ますということで、お母様は今回家で待っておられることとなった。

 

「お母様、行ってまいります」

 

「ええ、いってらっしゃい。日光には気を付けるのよ」

 

いつものようにお母様に日光対策を注意され、お父様、そしてお兄様につづき暖炉に入る。

去年はダイアゴン横丁に用があったため漏れ鍋に飛ぶ必要があったが、今回はお父様の用事の都合で、私がいつも行くノクターン横丁に飛んだ。

暖炉から出ると、そこはマルフォイ家がノクターン横丁に持っている一室だった。本来であれば煙突飛行は魔法省に厳重に監視されているが、そこは純血のマルフォイ家。このように権力でもみ消した、秘密の暖炉を隠し持っていた。

 

「行くぞ、ダリア、ドラコ」

 

「はい、お父様」

 

お父様につづきノクターン横丁に出る。私は勿論お父様もこの通りは来慣れている場所なので、迷うことなくすいすいと目的地に歩いてゆく。お兄様はそこまで来たことのある場所ではないので、すこし遅れるように私たちの後ろを歩いておられる。途中怪しげな格好をした、見るからに人攫いの類の魔法使いがいたりしたが、私達がマルフォイ家であることは分かっているので特に何かされるということはない。むしろ敬意がこもった視線を送られていた。

しばらく歩くと、この通りでは一番大きな店である『ボージン・アンド・バークス』という店にたどり着く。こここそが今回の目的地だった。

扉を開けると、扉にかけられたベルがガラガラと鳴り、店主に来客を知らせる。

奥に引っ込んでいるのか、店主のいないカウンターにお父様が近づいていくのを横目に見ながら私は告げる。

 

「お兄様、何にも触らない方が賢明ですよ」

 

初めて来た店であるため、お兄様は興味津々といった様子で周りの商品を見ておられるが、ここのものに決して触れさせるわけにはいかない。

ここにあるものは、全て闇の魔術のかかった品物なのだから。

 

「ダリアの言う通りだ。ドラコ、一切手を触れるなよ」

 

お父様も私に加勢しそうおっしゃるが、お兄様は不思議そうな顔をしている。

 

「ここで何かプレゼントを買ってくれると思ったのに」

 

お兄様は今年、成績が()()()()()()ということで、お父様からプレゼントを買ってもらうことになっていた。初めはマグル生まれに負けたということで叱られていたが、私の口添えもあったことから、なんだかんだ言ってお兄様にもご褒美が与えられることになったのだ。やはりお父様は優しい。

そういうことで、いつも私が来ているという店に連れてきてもらったのだから何か買ってもらえると思われたのだろう。でも残念ながら、ここにお兄様のプレゼントになるようなものは売っていない。私もプレゼントというより、どちらかというと趣味と、私の生活に必要な必需品といったものを買うだけだ。

 

「ここではダリアに必要なものを買うだけだ。今回は違うがな。お前には新しい競技用の箒を買ってやる予定だ」

 

私に必要なものという言葉で、ここで何を買っているのか理解したのだろう。一瞬申し訳なさそうな視線を私に送っておられたが、新しい箒という言葉にすぐにうれしそうな表情になられた。

しかし、その喜びも長くは続かず、今度は競技用という言葉で落ち込んでいる様子だった。

 

「競技用なんて……。寮の選手に選ばれなければ意味ないじゃないですか……」

 

今年私たちは二年生になり、クィディッチチームに入る試験を受ける資格を得る。

ただ、スリザリンがいかに純血に重きを置いている寮であるとはいえ、それはクィディッチには通用しないルールだった。どんなに位の高い純血だろうと、実力のないものはチームに入れない。入ってもクィディッチの間は、キャプテンの方が高い地位を占めることになる暗黙の了解であった。そちらの方が普通であるのだが、スリザリンにおいてはクィディッチの時だけがそんな治外法権扱いなのだった。だからいくら純血であろうと、新しい箒を買ってもらおうと、お兄様がクィディッチのチームに入れるという絶対の保証はどこにもないのだ。

 

だからこそ、嫉妬してしまうのだろう。あのポッターに。

 

「ポッターはそれなのに、去年ニンバス2000なんてもらってチームに入ったんだ。ダンブルドアが特別許可まで出して。単に有名だというだけで。ただ頭に傷があるというだけで。本当はそんなにうまくないのに」

 

お兄様もわかっているのだ。去年の飛行訓練で見せつけられた実力差に。

まぐれだと思いたくても、試合で証明され続ける才能の差に。

 

それが箒に何度も乗ったことのある魔法族なら納得できたのだろう。でも、相手は箒を見たことすらないだろう、マグルの世界で育った男の子だった。小さい頃からクィディッチが好きで、一生懸命箒に乗っていたお兄様には到底認められることではないのだろう。

 

「どいつもこいつもポッターがかっこいいって思ってる。額に傷、手には箒の、」

 

「その話は何回も聞いた。それにハリー・ポッターのことを悪く言うのは賢明ではない。何せ大多数の者が彼を闇の帝王を消した英雄だと思っているのだからな」

 

お父様はぴしゃりとお兄様の話を遮り、私に後は任せると言わんばかりの視線を一瞬投げかけた後、カウンターの方に行ってしまった。夏休み初めはそれなりに真面目に聞いておられたが、もう何回も聞いた話なのでここでお聞きになる気はないらしい。

お兄様はポッターに対する嫉妬で俯いている。そんなお兄様に私はいつものように優しく声をかける。

 

「お兄様。お兄様ならスリザリンのチームに入れます。お兄様の実力は小さい頃からずっと私が見てきたのですから」

 

そう、私はお兄様の実力を昔から知っている。確かに、ポッターのように特別な才能があるわけではない。でも、決してヘタではないし、寧ろ同年代の中ではかなり上手い方なのだ。

それに……。

 

「だけど、」

 

いつもだったらここでもうお兄様の機嫌は直っていた。でも、今日はどうやらまだ治らないらしい。

 

「それにお兄様。どんなに皆がポッターがかっこいいと言っていても、私にとって一番かっこいいのはお兄様です」

 

だから私は、いつもは言わない、この話の続きを言った。

私はお兄様がクィディッチをしているのを見るのが好きだ。確かに危ないスポーツだし、本当はハラハラしながら見ていることも多いのだけど、いつもは私の前で必死に大人になろうとしているお兄様が、ふと年相応の少年に戻られている姿を見るのはたまらなくかっこよく、愛おしかった。

 

「そ、そうか……。なら、いい」

 

お兄様は、私の言葉で頬を赤らめながらそっぽを向いてしまった。

 

お兄様と商品を眺めていると、ようやくここの主であるボージンが店の奥から現れた。猫背で脂っこい髪をした男は、

 

「マルフォイ様、そしてなんとお嬢様まで! お嬢様、いつも御贔屓にしていただき誠にありがとうございます。本日は若様までおいでになっておられるのですね。何かご入用の物でもございましたか? いつもの()()でございましょうか?」

 

髪と同じく脂っこい声で媚びを売ってくる。特に私はここで様々なものを、そして時々ではあるが、我が家はとある()()()をここで買う。普段はお父様やお母様のものをいただいているが、どうしてもという時に、魔法薬の材料という名目でここで購入するのだ。だから今日も何か私が買いに来たとでも思ったのだろう。

だが、お父様は、

 

「ボージン君。今日は買いに来たのではない。売りに来たのだ」

 

「へ? 売りにでございますか?」

 

ボージン氏の張り付いた笑いが少し引っ込んだ。

 

「そうだ。最近魔法省の抜き打ち立ち入り調査が激しくなってきている。我がマルフォイ家にはまだ踏み込んできていないが、時間の問題だろう。おそらくアーサー・ウィーズリーが裏で糸を引いている。奴め、マグル保護法などと馬鹿な法案の制定だけでは飽き足らず、このようなことまで。まったく魔法界の面汚しだ」

 

お父様のおっしゃるように、未だマルフォイ家に本格的な立ち入り調査は実施されていない。だが、他の家に対する抜き打ち検査の頻度がここ数年で跳ね上がっていた。まだマルフォイ家に実施されていないのは、ひとえにお父様の権力によるものだった。お父様の()()()()立ち入り調査を踏みとどまらせてくれているからだった。

でも、ここのところどうやら旗色が悪いらしい。もういつ実施されてもおかしくないと、お父様は夏休み中愚痴を言っておられた。

 

「奴らが探しているのは危険な、毒物になりかねない魔法具だ。無論、そんなものは我が家に存在しない。だが、我が家にも、そう、なんだね、()()()()()()()()()()()()()ものも確かにあるのでね」

 

「成程。万事心得ておりますとも、マルフォイ様」

 

「では、このリストを、」

 

そんなお父様達の商談を後ろ目に、私とお兄様は商品を眺めていた。入学前はよくここに来ていたが、ここ一年は一切ここにきていなかったので、久しぶりに来たここの商品を眺めたかったということもあるが、お兄様が何か触れてしまわないか心配だったのもある。

それとは別に、もう一つ理由があったが……。

 

「ダリア、これは何だと思う?」

 

お兄様の指さした先には、しなびた手のようなものが置いてあった。

 

「これは『輝きの手』ですね。蝋燭を差し込むと、持っているものにしか見えない灯りが灯る魔法具です」

 

「流石はお嬢様。よくご存じでいらっしゃる。その通りです、若様。これは強盗には最高の味方でございます。いや若様はお目が高い、」

 

「ボージン氏。あなたはお兄様をこそ泥呼ばわりなさるおつもりですか?」

 

得にならない商談から逃げたいのか、私達の会話に横からボージン氏が入り込もうとしたが、私の冷たい視線を受けて、慌てて商談に戻っていった。

少し言い過ぎたかな、と思いながら視線を戻すと、お兄様はその隣に置いてあったネックレスを見つめていた。

 

「お兄様? そのネックレスがいかがなさいました?」

 

「い、いや、ダリア! 特に何もない! ああ、そうだ! あれは一体なんだ、ダリア?」

 

何故か慌てたように、まるで私にネックレスを見せたくないような態度だったが、別段ネックレスに興味があったわけではないので、お兄様が指さしたものの解説を始めた。

 

「決まりだ」

 

お父様の商談もようやく終わったのか、カウンターからこちらの方に歩いてくる。

 

「ダリア、ドラコ。行くぞ。ボージン君、お邪魔したな。では打ち合わせ通り、明日、我が家の方に物を取りに来てくれ」

 

お父様はそう言って、お兄様を連れて店を足早に出て行ってしまった。

私も足早に店を出る前に、後ろにいるボージン氏の方に向き直る。

 

「お、お嬢様、先程は……」

 

お得意様である以上に、どうも彼はマルフォイ家よりも、私個人を恐れ敬っている節があった。そんな私の機嫌を損ねてしまったかもと思ったのか、少し顔を青ざめながら謝罪してくるが、

 

「かまいません。私こそ少し言い過ぎました。どうかお許しください。それより……」

 

私はカウンター横に置いてある、黒く大きなキャビネットを見ながら、ボージン氏に告げた。

 

「戸締りはきちんとされた方がよろしいですよ。()()()()()()()()()()()()

 

店を入ったときから、何故かこの店の人間以外の視線を、あのキャビネットの中から感じていた。一体誰なのかは分からないが、ここの横丁の住人だ、決してまともな目的ではないだろう。ただここの住人が私達マルフォイ家に何かしてくるとは思えないので、指摘して藪蛇になるのは避けたかった上、お父様も無難なことしか話していなかったので放っておいた。が、やはり私がよく来る店に泥棒の類が入るのは気分が悪いので、最後に忠告することにしたのだ。

 

私の言葉を聞き、ボージン氏は侵入者の存在に怒り、慌てたように……カウンターの方に走っていった。

 

どうやら私の視線をそちらだと勘違いしてしまったようだ。

まあ、私が指摘したことで、キャビネットの中から動揺したような雰囲気を感じた。私が帰ればこの隙に侵入者もどこかに逃げ去るだろう。

別に積極的に捕まえるつもりもなかったので、私はそのまま踵を返し、お父様達の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハリー視点

 

窓には鉄格子をはめられ、ドアにも鍵をかけられるという本格的な監禁生活は、思いのほかすぐに終わりを告げた。ロンと、ロンのお兄さんであるフレッドとジョージが空飛ぶ車を使って、僕を助けに来てくれたのだ。

そして僕は、夏休みの間ウィーズリー家のある『隠れ穴』でご厄介になることになった。ウィーズリー家はロン曰く、ぼろいし、小汚いし、フレッドとジョージに加え屋根裏お化けまでいるので騒がしいらしかった。でも僕には、ダーズリー家なんかよりよっぽど温かく、居心地がいい空間だった。僕はすぐにこの家のことが好きになった。

 

隠れ穴で生活して一週間、ロンのお父さんであるアーサー・ウィーズリーさんにマグルのことを詳しく聞かれながら朝食を囲んでいる時、学校からの手紙と共に、僕のもう一人の親友であるハーマイオニーからの手紙が来た。

 

そこには、水曜日に一緒にダイアゴン横丁に行かないかと書いてあった。

 

水曜日、僕はウィーズリー一家総出でダイアゴン横丁に行くこととなった。総出と言っても、ビルとチャーリーというお兄さん達はいなかった。二人とももうホグワーツを卒業し、ビルはエジプトで銀行に、チャーリーはルーマニアでドラゴンの研究をしているとのことだった。

だからこの家にいる兄弟は今、パーシー、フレッド、ジョージ、ロン、そして唯一の妹であるジニーだけだ。今年ジニーもホグワーツに入学するということで、今いる一家総出で学用品を買いに行くのだ。

そして、僕らがどうやってダイアゴン横丁に行くかと言うと、

 

「ハリー、発音ははっきりとするのよ。そうじゃないと違う暖炉に出るかもしれませんからね」

 

煙突飛行という方法で移動することになっていた。

初めて行う移動手段なので、すごく緊張する。

おそるおそる暖炉に入る時、僕の緊張を見かねたのか、

 

「ハ、ハリー、が、頑張って」

 

いつもは僕を見ると顔を赤らめて下を向いてしまうジニーが、そんな風に声をかけてくれた。

 

「あ、ありがとう」

 

年下の女の子に励まされて、少し緊張はほぐれたけど僕は、

 

「ダ、ダイア、ゴン横丁」

 

肝心な時に、暖炉の灰を吸い込んでしまいむせてしまった。

 

出た先は、ひどく怪しいものが売っている店内だった。

しなびた手に、血に染まったトランプ、義眼に怪しい仮面。どれを取っても普通の魔法具にはおおよそ見ることが出来ない代物ばかりだ。店の外を見ても、ダイアゴン横丁のような明るい雰囲気はなく、暗く危険な香りのする通りだった。

 

とにかく、ここを一刻も離れなければ。

 

そう思い、出口に向かうも、ガラスの向こうに三人の人影が見えたことでUターンする他なくなった。

人影は、ドラコ・マルフォイ、そして彼とそっくりな顔立ちから父親だと思われる人物、そして僕が最も警戒するダリア・マルフォイだった。

 

今最も会いたくない連中であったので、僕は急いでカウンターの横に置いてある黒くて大きいキャビネットの中に入る。

キャビネットの扉を閉めると同時に、彼らが店内に入ってきた。

 

キャビネットを少しだけ開け、彼らの様子をうかがう。

どうやら彼らは、何かこの店に売りに来たみたいだった。詳しいことはよく分からないが、ウィーズリーおじさんを馬鹿にしたようなことを言っているのが聞こえ非常に腹立たしかった。

父親と店主が交渉を始めたので、僕は二人から目を外し、店の商品を眺めているダリア・マルフォイとドラコ・マルフォイに目を向ける。二人は興味津々と言った様子で商品を眺めていたが、ふとドラコが商品の一つのネックレスを見て、慌ててダリア・マルフォイをそこから引き離したのが少しだけ気になった。

 

「決まりだ」

 

ようやく交渉が終わったのか、父親がドラコを引き連れ店を出ていく。ダリア・マルフォイもそれに少し遅れながら店を出ようとしている。

よかった、これで僕もここから出られる。

僕が安堵しかけた時、

 

「戸締りはきちんとされた方がよろしいですよ。()()()()()()()()()()()()

 

そう、ダリア・マルフォイはこちらをじっと見つめながら言った。

 

バレている!?

 

僕が慌てていると、店主がこちらに走ってくる。

見つかってしまうのか!?

ダリア・マルフォイも誰がここにいるかまでは分かっていない様子だったけど、それも時間の問題だ。

そう思ったが、店主は彼女の視線の先を勘違いしたのか、キャビネットを素通りし、カウンターの奥に走って行ってしまった。

今がチャンスだと思い、店の出口を見ると、ダリア・マルフォイはもうそこにいなかった。

 

このすきに僕は出口を目指し一目散に、なるべく音を立てないように出口に向かう。

その途中、ふと先ほどドラコが見ていたネックレスが目に入った。

豪華なオパールのネックレスの前には、

 

『呪われたネックレス。これまでに19人の持ち主のマグルの命を奪った』

 

そう書かれていた。

 

店から何とか脱出することが出来ても、やはりここは僕が知るダイアゴン横丁などではなく、看板にはノクターン横丁と書いてあった。ノクターン横丁がどこかなど、当然僕は知らない。

その後人攫いと思しき老婆に声をかけられたりしたが、その場に偶然居合わせたハグリッドに助けられ、ダイアゴン横丁に生還することができた。

まだ他に用事があるらしいハグリッドと別れ、ウィーズリー家、そしてハーマイオニーと合流し、今しがたあったことを話す。

 

「『ボージン・アンド・バークス』って店で、僕、マルフォイの奴等と会ったんだ」

 

「マルフォイって、もしかしてマルフォイさんも?」

 

「うん。ドラコに父親、それとダリア。マルフォイもいたよ」

 

「マルフォイさん! 私、彼女に今年こそ勝つために必死に夏休み中勉強していたのよ! 彼女にも早く会いたいわ!」

 

「うげー。ハーマイオニー、君ってまだあいつにお熱だったのかい?」

 

「ちょっと、ロン! それよりハリー、マルフォイさんは元気そうだった?」

 

「元気だろうね。何せいつもの無表情だったから。おかげで僕は危うく捕まるところだったよ」

 

話がどこか違う所に行きそうなハーマイオニーに返事をしていると、

 

「ルシウス・マルフォイは何か買ったのかね?」

 

後ろで話を聞いていたウィーズリーおじさんが話に入ってきた。

 

「いいえ、いつもはダリア・マルフォイが、何か買っているみたいなことを話してましたが、今日は売りに来たといっていました」

 

「なら心配になってきたというわけだ」

 

おじさんは満足そうな顔をしていたが、

 

「しかし、娘が何か買っているのか……。一体何を買っているのか気になるね。まあ、そんな店で買うのだ、決していいものではないことは確かだろうが……。しかし、娘までとは……」

 

「アーサー、気をつけないと」

 

怪訝そうな顔をしているウィーズリーおじさんに、ウィーズリーおばさんが厳しく言う。

 

「あの家族はやっかいよ。無理をするとやけどするわ」

 

「はん! マルフォイ家などに負けなどしないよ!」

 

おじさんはムっとしたように、

 

「いつかあの一家のしっぽを掴んでやる!」

 

そう高らかに宣言していたが、マグルであるハーマイオニーの両親を見つけると、そちらの興味の方が重要だったのか、今のことを忘れてそちらに走って行ってしまった。

 

そんなおじさんの様子を、ハーマイオニーが複雑な表情で見つめているのに、僕は気づいていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダリア視点

 

ノクターン横丁での用事を終わらせ、私達はダイアゴン横丁に箒を買いに来ていた。

本を買ってからこちらに来るつもりであったが、本と違い、こちらは家に送ってもらうことができるので、こちらを最初に済ませた方が効率的だと気が付いたのだ。

 

「父上! ニンバス2001が発売されています!」

 

「ふむ、最新型か。では、それにしよう」

 

先程感じていた嫉妬など忘れたように、お兄様は最新型の箒を眺めている。そんなお兄様の様子をお父様と共に、私は微笑ましく眺めている。

やはりお兄様の笑顔を眺めると私もうれしくなる。

 

最新型を手に入れたことがうれしくて仕方がない様子のお兄様をしり目に、お父様は会計をしている。

お兄様と色々な箒を眺めていたが、ふと箒一本買うのに時間がかかり過ぎているなと思い、お父様の元に向かう。

 

「お父様。何か問題でもございましたか?」

 

「ダ、ダリア。と、特に問題はないぞ」

 

そうカウンターに置いてあるコインを隠すように体を動かすが、私には見えてしまった。

箒一本買うには多すぎるほど山になった金貨を。

 

「お、お父様。なんですか? その金貨の量は?」

 

「……寮のOBとして、チーム全員分の箒を買ってやろうと思ってな……」

 

おそらく、お父様もお兄様の実力は知っているので、今年チームに入ることが出来ると確信し、そのお祝いにこの最新型の箒を全員分買うことにしたのだろう。

 

「そう、ですか」

 

いつもはお兄様に厳格だが、なんだかんだ言って甘い所があるお父様に、私は少しだけ苦笑した。

 


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