ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス   作:オリゴデンドロサイト

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 ダリア視点

 

箒を買い終え、私達は今回最後の目的である『フローリシュ・アンド・ブロッツ書店』に来ていた。

……のだが、

 

「何事だ、この人だかりは?」

 

店の前にはすさまじい数の人だかりができており、容易に店に入ることも出来ない有様だった。その上私達が呆然と眺めてる間も、その人だかりは増え続けていた。

 

「お母様はいらっしゃらなくて正解でしたね。しかし、何でしょうね、この人だかりは?」

 

「多分、あれだろうな」

 

お兄様の指差した先には、

 

サイン会

ギルデロイ・ロックハート

自伝『私はマジックだ』

 

そう書かれていた。

 

「成程……。そういえばこの人だかり、皆女性の方ですね」

 

最近魔女にやたらと人気のある男のサイン会だ。それならば、この人の山にも納得ができる。

 

「しかし、この人だかりです。もしかして、この中に噂の新任教師もいらっしゃるかもしれませんね」

 

「……ああ、いるだろうな。確実に」

 

何か含みのある言い方だった。新任教師がどなたか知らないが、お父様があれだけ嫌っているのだ。お父様をあの中に連れていくわけにはいかない。

 

「お父様、ここでお待ちになっていて下さいますか? 私とお兄様は目的の本を買ってまいります」

 

サイン会であるということを知ってから、とても苦い表情をされているお父様に提案する。

 

「いや、私も行こう。本屋で()()()()()()()()()があるのでな」

 

しかしお父様はきっぱりと私の提案を却下した。その瞳は何故か、何かを決意したような輝きを持っていた。

 

「分かりました。では、手早く本を買ってまいります。お兄様、行きましょう」

 

「ああ」

 

私はさしていた日傘をたたみ、人だかりをかき分け店に突入すると、お父様といったん別れ、お兄様と目的の本を探す。本はすぐに見つかった。なぜなら今回著者が来ているということで、どの本もうず高く積まれていたのだ。

 

「お兄様、さっさと会計を済ませてしまいましょう」

 

「ああ。全く、なんでこんな本にこれだけ人が集まるんだ?」

 

ぶつぶつ文句をおっしゃっているお兄様と会計に並ぶ。今回の人だかりはサイン会目的であり、会計の方にはそれほど人は並んではいなかった。

 

「これならすぐに出られそうだな」

 

「ええ、そうですね」

 

しかし、そううまくはいかなかった。

 

「もしやハリー・ポッターでは!?」

 

人だかりの向こうから、突然そんな声が私たちの耳に届いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルシウス視点

 

辺りを見回し、手頃なホグワーツ生がいないか探す。

今回ここに来たのには三つの目的があった。

一つは、我が家に隠されている闇の魔法具を売ること。

二つ目は、ダリア達の学用品を買いそろえること。

 

そして三つめは……

 

懐に忍ばせた一冊の本を触る。

三つめの目的は、この本を誰かホグワーツ生の学用品に紛れ込ませることだった。

この本は鍵だ。サラザール・スリザリンが穢れた血を一掃することを目的に作った、『秘密の部屋』を開けるための鍵。

 

秘密の部屋は神話にのみ存在する、ただの噂話とされている。だが実際には違う。

秘密の部屋は、本当に存在しているのだ。

 

今から50年前、一度だけ秘密の部屋が開かれたことがある。

 

その時には一人だけだが生徒が実際に殺され、秘密の部屋を開いた()()()()()()()者まで捕まっている。

 

その禁断の扉を再び開くのだ。

 

ホグワーツにはびこる穢れた血を一掃するという、秘密の部屋本来の目的がないわけではない。

だが、実際私が今回扉を開く理由は違う。

 

私は、()()()()()()()()()開くのだ。

 

ダリアは今、あの老いぼれに不当に監視されている。あの老いぼれは無駄に優れた頭脳を持っている。あ奴が校長である以上、ダリアは無駄な緊張を強いられることになるだろう。

それに……何かは分からないが、クリスマス休暇に入る直前、ダリアは校長に何かされたのだ。

ダリアは何も言わないが、ドラコから何かあったことだけは聞いていた。ダリアが口を開かないため、何があったかということまでは分からないが……。

 

だが、それがダリアにとって良くないことだということだけはわかった。

何故なら……ダリアはクリスマス以降、度々夜うなされるのだ。

汗だくになりながらうなされ、夜跳ね起きる。そしてたまたまそこにいた家族にしがみつくのだ。

確かに、いつもしっかりし過ぎているダリアから甘えられるのは、私もシシーもうれしくないと言えば嘘になる。

だが、私達の望んでいたのはこんなことではない。

ダリアは今苦しんでいる。だが、あの子はそれを話そうとはしない。ただ私たちに迷惑をかけまいと、自分の中に隠してしまう。

それが悲しく、そしてダリアを苦しめるダンブルドアが憎くて仕方がないのだ。

 

そのダンブルドアを今年こそホグワーツから追放する。

あの老いぼれは、何故か私以外の理事からは人気だ。世間でも奴を最も偉大な魔法使いとする風潮がある。追放するにはあまりに厄介な相手だった。

 

だがこの本さえあれば、ホグワーツで問題を起こすことができる。そしてそれを解決できなかったとして、奴を追い出すことが出来るやもしれない。

 

私は再び懐の本を触れた。

この本は所有者の命を吸い取ることで実体化し、再び部屋を開くのだと、この本自身が()()()()()

この本を誰か適当なホグワーツ生に持たせなければならない。欲を言えば生贄はウィーズリーの者が良いのだが、それは高望みかもしれない。今日ここに来ているという保証もない。それにこの人だかりだ。奴らがいたとしても、気づかないかもしれないのだ。

 

私は人だかりの中、生贄にふさわしい生徒を探す。

全ては我が愛する娘のために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダリア視点

 

人垣の向こうでギルデロイ・ロックハートがたまたま居合わせたのだろうポッターを捕まえ、何か演説しているのを遠くで聞きながら会計に並ぶ。そんな私達をしり目に、向こうは向こうで大盛り上がりしているようだった。声から察するに、ロックハート氏は偶然居合わせた有名人であるポッターに、自分の本を無料でプレゼントすることにしたらしい。

自分の宣伝のために。

 

「ロックハート氏はよほど自己顕示欲の強い方のようですね」

 

「ああ。全く、ポッターもそうだが、有名な奴にはろくな奴がいないな」

 

「そうですね」

 

こんなあからさまな方なのに、こんなにファンが多いのは余程彼の本が面白いからだろうか。それとも、単純に彼の顔がいいだけなのかもしれない。何れにせよ、未だにロックハート氏の顔も、彼の本も見たことがないので判断できない。そんな益体のないことを考えているうちに、私達の会計は終わった。

 

「さあ、お父様も待っておられます。この人だかりの中探すのは骨ですが急ぎま、」

 

だが、私が言い終わらないうちに、とんでもない発言が私たちの耳に届いた。

 

「彼は非常に運がいい。なぜなら、彼は私の本『私はマジックだ』だけではなく、本物のマジックを手にする機会を得るのです。ここに私は、大いなる喜びと共に発表します! 私はこの九月より、ホグワーツ魔法魔術学校にて、『闇の魔術に対する防衛術』担当教師を引き受けることになりました!」

 

魔女達が一斉に沸き立つ中、私の脳裏には、お父様の苦々しい表情が浮かんでいた。

 

『……ダリア。これだけは言っておく。今回の教師は私が選んだわけではない。奴以外に立候補する者がいなかったとはいえ、あの老いぼれが選んできたのだ。断じて、私ではない』

 

まさか、お父様がああまでおっしゃっていた人物が、ギルデロイ・ロックハート氏自身だったとは……

 

「ダリア……。残念だが、今年もまともな授業を期待できないかもな」

 

私の新任教師への不安は、留まるところを知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハリー視点

 

何とかロックハートから逃げ出し、僕は会計の近くにいたジニーの元に来た。

 

「これ、あげる」

 

僕は先ほど受け取った本の山をジニーに押し付ける。ロックハートの有名になる手段に使われるのが嫌だったのだ。僕は有名になりたくて有名になったわけじゃない。

それに、ウィーズリー家はこんなこと考えたくないが、家族のいない僕よりはるかにお金がない。だからお世話になったウィーズリー家の負担を少しでも減らしてあげたかったのだ。

 

「僕のは自分で、」

 

「いい気持だったかい、ポッター」

 

正直聞きたくもない声だったが、僕にはすぐにその声の正体が分かった。

振り向くと、そこには薄ら笑いを浮かべたドラコ・マルフォイ。そしてその後ろには、先程僕を窮地に追い込んだダリア・マルフォイがたっていた。でも、ドラコと違い彼女からはどことなく疲れた雰囲気を感じたが、おそらく気のせいだろう。彼女はいつもの無表情だった。二人とも脇にロックハートの本を抱えており、ちょうど会計を終わらせたタイミングで僕に鉢合わせたのだろう。

まったく、今日は本当についてない。

 

「有名人は大変だな。書店に行くだけでこれだ」

 

「放っておいてよ! ハリーの望んだことじゃないわ!」

 

僕が近くに来たことで、いつものように赤くなっていたのだけど、今は毅然としたようにマルフォイに対面していた。ただそれも一瞬のことで、後ろにいる無表情のダリア・マルフォイと目があうと、怯えたように目を伏せてしまった。

それに対してマルフォイが何か言おうとしたが、その前に、

 

「ハリー。どうしたの?」

 

ロンとハーマイオニーが人ごみをかき分けこちらにやってきた。

 

「なんだ、お前らか」

 

ゴミでも見るようなロン。そして、

 

「マルフォイさん! お久しぶり! あなたも来ていたのね!? あなたもロックハート様の本を!?」

 

ハーマイオニーはドラコを華麗に無視して、ダリア・マルフォイに興奮したように話しかけていた。

 

「……グレンジャーさん、お久しぶりです。そうです。教科書になっていましたから仕方なく。……ん? ロックハート()?」

 

どこか疑問符だらけな様子のダリア・マルフォイと、そんな彼女に果敢に話しかけるハーマイオニーを放っておいて、僕とロン、そしてマルフォイは言い合いをする。

 

「それで、お前はハリーがここにいてびっくりしたわけだ」

 

「ウィーズリー、僕はそれよりもっと驚いたよ。そんなに買い込んで大丈夫かい? 両親が飲まず食わずになったりはしないかい?」

 

ロンはジニーの鍋に本を入れ、マルフォイに殴りかかろうとする。それを僕はロンの上着を掴んでとめる。僕一人だけしか止めないので、ハーマイオニーはどうしたのかと辺りを見回すが、何故かダリア・マルフォイを残してどこかに消えていた。

 

「ロン! ハリー!」

 

ウィーズリーおじさんが、フレッドとジョージと共にこちらに来た。

 

「何をしているんだ? 早くここを出よう」

 

「これは、これは。アーサー・ウィーズリー。今日来ていたのかね? しかも息子たちと共に。今日君に会えたことが本当に()()()()()

 

ドラコの後ろから突然、ドラコそっくりの顔立ちと笑い方をした男、ルシウス・マルフォイが現れた。彼の目は、まるで探していた獲物をようやく見つけたような、不穏な色をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハーマイオニー視点

 

久しぶりに会ったマルフォイさんは、夏休み前に比べて一段と綺麗になっていた。そんな彼女に私は興奮して話しかける。

 

「マルフォイさん! 私、あなたに勝つために、夏休みの間ずっと勉強していたの! ここで会えて本当にうれしいわ! ねえ、マルフォイさんは勉強していた!? 勿論していたんでしょうね! だってあなたは私のライバルなんだもの! それとダフネ・グリーングラスさんもいたわね! 彼女もあの口ぶりだからしっかり勉強しているわよね!? 彼女にも絶対に負けないわ! 今年こそ私が主席になってみせるんだから!」

 

「……そうですか、まあ、頑張ってください」

 

勢いよく話しかける私に、マルフォイさんは若干戸惑っているようだった。

 

「ごめんなさい、私、」

 

「それよりグレンジャーさん。あそこにおられるのは、あなたのご両親ですか?」

 

マルフォイさんの見ている方向に顔を向けると、確かにそこには私の両親が立っていた。

二人とも初めての魔法界に戸惑ったように立ち尽くしており、周りの魔法使いたちもそんな彼らを物珍し気に見ている。

 

「そうよ。でも、よくわかったわね」

 

「グレンジャーさんに似ておられますし。それに、ここに()()()()()()()()様子なので」

 

それは、私の両親がここにはいないはずのマグルであるから分かった、そう言っていた。

私は彼女の冷たい声を聴いて不安になった。彼女はスリザリンでマルフォイの人間だ。彼女は以前、自分は純血主義ではないと言っていた。

でも、実際は私のことをマグル生まれという理由で嫌っていたらどうしよう。

彼女を信じたいのに、どうしてもそう疑ってしまう自分がたまらなく嫌だった。

彼女は私の憧れだ。彼女は私の人生で初めてできた目標だった。

 

そんな彼女と私は……。

 

そこまで考え、疑問に思う。

 

あれ? 私は彼女とどうしたいのだろう……?

 

私の感情が何か分からず訝しがっていると、

 

「とりあえず、ご両親をここからお連れした方がよろしいですよ」

 

マルフォイさんが、兄のドラコ・マルフォイの方を見ながらそう言った。

ドラコ・マルフォイは今、彼を殴ろうともがくロンに薄ら笑いを向けているようだった。その後ろから、ドラコとそっくりの男が近づいてきているのが見えた。

 

「え? どうして?」

 

「我がマルフォイ家は純血主義の家系です。うっかり鉢合わせれば、お互いに不愉快なことになってしまうでしょう。幸いまだお兄様も、そしてこちらに近づいてきていらっしゃるお父様も気が付いておられません。ですから今のうちに。両親に不快な思いをさせたくはないでしょう?」

 

どうやら私の両親の心配をしてくれたようだった。

純血主義。私が魔法界に来て最初に体験し、そして今も私を苦しめる差別的な考え方。そんなものに屈したくはないし、そんなもの間違っていると純血主義の連中に言ってやりたいが、それを両親にやらせるわけにはいかない。

パパ達はここでは非常に無力な存在なのだ。だからここで両親を巻き込むわけにはいかない。

だからこそ、マルフォイさんは両親を今のうちに逃がせと言ってくれたのだ。

 

「マルフォイさん! ありがとう!」

 

こんなことを考えてくれる彼女が純血主義なはずがない。彼女を一瞬でも疑った自分が馬鹿馬鹿しかった。これでは夏休み前と少しも変わっていない。

でも、彼女は礼を言う私にいつものようににべもなく応えるだけだった。

 

「……いえ、ただお父様を不快な思いをさせたくなかっただけです」

 

彼女はいつもそうだ。ハロウィンの時、クィディッチの時、そして夏休み前のプラットホームでの時。いつも彼女は私をどこか拒絶していた。私は毎回彼女に助けられているのに、それに対して何も返せていない。

 

冷たい印象を人に与える彼女が、本当は優しい人間であることに私は気が付いている。でも、彼女は私が近づくと、必ず私を拒絶した。

 

それが何故か分からないけど、私は彼女と……。

 

再び先ほどの疑問が浮かぶ。

両親を書店から連れ出しながら、答えのどうしても出ない問題を、私は考え続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハリー視点

 

「ルシウス。珍しいこともあるものだね。君がそんなことを私に言うなんて」

 

突然現れたルシウス・マルフォイに、ウィーズリーおじさんはそっけなく挨拶する。

 

「いやいや、君は最近非常に忙しいと聞いていたものだからね。まさかこんな所で会えるとは思っていなかったものだからね。あれほど抜き打ち検査を行っているのだ、しっかり残業代はもらっているのかね?」

 

マルフォイ氏は、比較的彼の近くに立っていたジニーの大鍋に手を突っ込み、使い古した変身術の教科書を引っ張り出した。それを見たウィーズリーおじさんの顔は真っ赤になっており、もはや堪忍袋が切れる寸前に見えた。ふと視線を外すと、その様子をダリア・マルフォイがいつもの冷たい視線でじっと見つめていた。冷たくおじさんを観察する彼女から、とてつもなく嫌な予感がした。

 

「……どうもそうではないらしいな。まったく。どこまで落ちぶれたら気が済むのかね? 君の家族は。マグルのような下等なものを相手にするから、君らはこんなことに、」

 

ぶちん

 

そんな音が聞こえた気がした直後、ウィーズリーおじさんはこぶしを振りかぶり、ルシウス・マルフォイに飛びかかろうとした。

 

そう、飛びかかろうと()()

 

実際にウィーズリーおじさんが、ルシウス氏に飛びかかることはなかった。

いや、出来なかった。

 

何故なら……飛びかかる前に、ダリア・マルフォイがウィーズリーおじさんの()()()蹴り上げたのだ。

 

「ォォォ」

 

「身の程を知りなさい。一体誰に手を上げようとしているのですか?」

 

「パパ、大丈夫!? ダリア・マルフォイ! お前!」

 

声にならないうめき声を上げるおじさんに、ウィーズリー兄弟が駆け寄る。周りの人たちは突然の出来事に後ずさり、痛々しそうにおじさんを眺めている。未だ地面に倒れ伏しているおじさんの背中を撫でながら、ロンがダリア・マルフォイに噛みつく。

 

「ただの口喧嘩で、先に手を出そうとしたのはそちらです。それに寧ろ感謝して頂きたいものです。これでこれ以上兄弟が増えることがなくなったかもしれないのですから」

 

そんな風にこちらを揶揄するダリア・マルフォイの隣で、ルシウス氏は先ほど以上の薄ら笑いを浮かべてこちらを見ている。

 

「こらこらダリア。レディーが品のないことを言うものではない。だが、お前の言う通りだ、ダリア。アーサー、君には今の姿がよく似合っているよ」

 

そんな親子に、今度はウィーズリー兄弟が飛びかかろうとするも、

 

「おっさん! どうしたんだ!」

 

辺りに大声が響き、人垣をかき分けてハグリッドがやってきた。ハグリッドは、倒れ伏しているウィーズリーおじさんを確認すると、

 

「アーサーじゃないか。どうしたんだ、そんなところで呻いて! おい! マルフォイ! さてはお前達か!」

 

「ふん。そちらの自業自得だ」

 

そう吐き捨て、ルシウス氏は未だに握っていたジニーの教科書を鍋に入れる。

 

「ほら、君の教科書だ。君の両親には高い買い物だろう。()()()()()()()使()()()()()

 

今度はハグリッドがつかみかかりそうなのを察したのか、ルシウス氏は捨て台詞を吐いて、ドラコとダリアを連れて店を出て行った。

ただ、店を出ていく直前、

 

「これで、……を守ることができる」

 

そんなルシウス氏の声が聞こえた気がした。

 

「アーサー、大丈夫か?」

 

「あ、ああ。大分落ち着いたよ」

 

まだ多少息が荒いけど、おじさんも大分回復してきたようだ。

 

「そりゃよかった。だがな、アーサー。あいつらのことは放っておかんかい」

 

ハグリッドはおじさんの息が整うのを待ってから言った。

 

「骨の髄まで腐っとるんだ。家族全員がだ。そんなこと皆知っとるんだから、お前があいつらの話など聞く必要などなかろう」

 

ハグリッドと共に店を出ると、ウィーズリーおばさん、ハーマイオニーの両親。そして先ほどから見当たらなかったハーマイオニーが立っていた。

 

「中で何かあったようだけど、どうしたの?」

 

どうやら中でのことを知らないらしいおばさん達に、

 

「い、いや、何もなかったよ、モリー」

 

まさか宿敵の家の娘にコテンパンにやられたとは言えなかったのだろう。

そんなおじさん達を横目に、僕とロンはハーマイオニーに話しかける。

 

「ハーマイオニー、一体どこにいたのさ?」

 

「マルフォイさんが、パパとママを本屋から避難させるよう言ってくれたのよ」

 

先程の出来事を知らないのか、あっけらかんと言うハーマイオニーに僕らは眉をひそめる。

 

「なんで避難なんかさせる必要があるんだよ」

 

「マルフォイさんのお父さんと鉢合わせしたら、まずいことになるからでしょう?」

 

「ああ、そうだね。その代わり、君の両親とは鉢合わさなかったけど、僕のパパとは鉢合わせたけどね」

 

未だに事態が呑み込めていないハーマイオニーに、先程あったことをロンと共に話す。

 

 

 

 

僕たちは気付かなかった。

皆がウィーズリーおじさんに注目している間に、僕たち、そして自分の子供たちにも気づかれず、ルシウス氏がジニーの教科書と()()を入れ替えていたことに。

僕たちは、最後まで気付くことはなかった。


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