ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス   作:オリゴデンドロサイト

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新任教師(前編)

 

 ハリー視点

 

二年目のホグワーツ初日の朝は最悪の目覚めだった。

 

「おはよう、ハーマイオニー」

 

大広間に朝食を取りに来ると、すでにハーマイオニーが『バンパイアとバッチリ船旅』というロックハートの本を片手に朝食を取っていた。

ハーマイオニーは僕とロンの方を一瞬ちらりと見て、

 

「おはよう」

 

なんだかつっけんどんな声で返事をした。

僕とロンは昨日、ウィーズリーおじさんの空飛ぶ車でホグワーツに来た。というのも、キングスクロス駅についたものの、僕とロン以外のメンバーが9¾番線に入ったあと、僕らもそれに続こうとした。でも、何故か入口の柵が閉じていて、本来なら通り抜けられる柵を通ることができなかった。柵に激突してまき散らされた荷物を回収し、何とか中に入ろうと柵を調べるも、努力空しく汽車は行ってしまった。

 

急に閉じてしまった入口、そして汽車に乗り遅れてしまったという事態に僕らは動転した。そこでなんとかホグワーツにたどり着く手段として思いついたのが、ウィーズリーおじさんの車だった。

僕らは気が動転し視野が狭くなっていたとはいえ、こんな前代未聞の方法で登校することに興奮していなかったかといえば嘘になる。

 

でも、僕たちの冒険の代償は非常に高くついた。

 

僕たちはなんとかホグワーツにたどり着けたものの、最後にはガス欠をおこしてしまった車はあえなく墜落。しかも、近づくものをその棍棒のような枝で襲う、凶暴な『暴れ柳』の上にだ。

振り降ろされる枝から何とか命からがら逃げ延びたものの、ロンの杖はへし折られ、車は逃げ出してどこかに行ってしまった。さらに大広間に行こうとするも、入口の前にスネイプが待ち構えているわと最悪なことは続いた。

結局、ホグワーツが始まる前ということで減点こそなかったものの、僕らのことをウィーズリー家に知らされ、なおかつ罰則を受けなければならないことになっていた。

 

そしてホグワーツ初日の朝。

僕らの登校方法がよほどお気に召さなかったのか、ハーマイオニーは僕らに冷たかった。

 

「ハーマイオニー、そろそろ機嫌なおせよ」

 

「……別に機嫌は悪くないわよ。ただ本を読むのが忙しいだけ」

 

そう言いながらもこちらをチラリとも見ようとしないハーマイオニーに肩をすくめながら、僕らは昼食の席に着く。

 

「おはよう。ネビル」

 

「おはよう、ハリー、ロン。もうすぐフクロウ郵便の届く時間だよ。僕、きっと忘れ物してるだろうから、おばあちゃんが届けてくれると思う」

 

いつもドジばっかり踏むネビルの話を聞いていると、彼の言う通り、丁度フクロウ達が頭上を飛び回り始めていた。

大量のフクロウの中から、ウィーズリー家のフクロウであるエロールが飛び出し……僕らの近くにあった水差しにダイブした。

 

「エロール!」

 

ロンがエロールを水差しから救い出す。するとエロールが赤い封筒を銜えていることに気が付いた。

 

「まさか!」

 

ロンはぐったりしているエロールを放り出し、その赤い封筒に飛びつく。

 

「その手紙がどうしたの?」

 

僕はピクピクと動くエロールを介抱しながらロンに尋ねる。

すると、

 

「ママが……。ママが『吼えメール』を送ってきた」

 

どうやら僕の最悪はまだまだ続くらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダリア視点

 

お兄様達と大広間に行くと、グリフィンドールの席にポッターとウィーズリーが座っている姿が見えた。

 

「どうやら、ポッターもウィーズリーも退学にはならなかったようですね」

 

「ああ、全く、あの爺やっぱり依怙贔屓しているに違いない!」

 

お兄様はやはりあの二人が退学になることを期待していたらしく、顔をしかめて憤っておられる。

ウィーズリーはともかく、ポッターは魔法界においての英雄だ。いくら空飛ぶ車を目撃されたとはいえ、そう簡単に退学にはならないだろう。

でも、

 

「退学にはならなかったようですが、どうやら全くの無事というわけではなさそうですよ」

 

私はグリフィンドールの方を眺めながら言った。

 

「どういうことだ?」

 

「たった今、彼らに『吼えメール』が届いたようです」

 

私の位置からは、ウィーズリーの目の前に真っ赤な手紙が落とされるのが見えていた。

 

「へえ! そうなのか!? これは面白いことになりそうだな!」

 

「ええ。おそらくウィーズリーの両親のどちらかからでしょう」

 

吼えメールは送り主の声を何十倍も増幅する魔法具だ。ここからでも十分聞き取ることは可能だろう。

 

「……()()()()()()情報も聞けるかもしれませんね」

 

そうこうしているうちに手紙が開かれたらしく、大広間に女性の声が響き渡る。

 

「車を盗み出すなんて、退校処分になっても当たり前です!! 車がなくなっているのを見て私とお父様がどんな思いだったか! お前はちょっとでも考えたんですか!!」

 

吼えメールが来たことに気が付いていた私たちはよかったが、周りの生徒たちは突然響いてきた怒鳴り声に驚いている様子だ。しきりに誰が吼えメールを送られたのか探していた。

 

「昨夜ダンブルドアからの手紙が来て、お父様は恥ずかしさのあまり死んでしまうのではと心配しました!! お前もハリーもまかり間違えば死ぬ所だったのですよ!!」

 

ウィーズリーは既に椅子に縮こまっていたが、名前が出たことでポッターも小さくなっている。

 

「全く愛想が尽きました! お父様は役所で尋問を受けたのですよ!! 今度ちょっとでも規則を破ってご覧なさい!! 私たちがお前をすぐ家に引っ張って帰りますからね!!」

 

私の表情筋が、少し緩んだ気がした。

 

「それとジニー。グリフィンドール入寮おめでとう。ママもパパも鼻が高いわ」

 

最後にやわらかい口調で娘のグリフィンドール入りを祝うと、ようやく役目を終えたのか、手紙がグリフィンドールのテーブルの上で燃え尽きているのが見えた。

 

「どうやら、ウィーズリー氏は尋問を受けたようですね」

 

「そのようだな。ふん、純血の面汚しにはいい気味だ」

 

自ら作った法律を自分の息子が破り、さらに大勢のマグルにそれを見られてしまったのだ。尋問まで受けたところを見ると、相当に魔法省における立場は悪くなったことだろう。

 

「これでクリスマスの立ち入り調査がなくなればよいのですが……」

 

しかし、立場が弱くなったとはいえ、立ち入り調査がなくなるかは五分と言ったところだろう。魔法省において、ウィーズリー家よりはるかに高官であるマルフォイ家に立ち入るのだ。おそらくあちらも並大抵の努力ではなかっただろう。それをようやく行えるところまでこぎ着けたのだ。これだけで消えるものなら最初から消えている。

 

「まったく、余計な努力を……。私の家族との時間をつぶすなど……。虫けらは虫けららしくしていればいいのに」

 

「ダリア?」

 

お兄様の声を聞きながら、先程の吼えメール最後の言葉を思い出す。

厳しい声から一転し、優しく娘に話しかける母親の声を。

 

「ウィーズリーでも、娘は可愛いものなのでしょうね……」

 

ウィーズリー家。

お父様達に迷惑をかける愚かな一族。

私の家族との時間を邪魔する忌々しい一族。

そんな一族の愛娘を……ればさぞ、

 

「ダリア! どうかしたのか?」

 

「え?」

 

お兄様の呼び声に意識が浮上する。

あれ? 私は今()()()()()()()()()()()()()()

 

「ダリア、どうかしたのか?」

 

心配げに私の顔を覗き込んでおられるお兄様。

 

「いえ、お兄様、少し考え事をしていただけです」

 

私は心配させまいと、かぶりを振ってこたえた。

クリスマスのこととか、色々ショックだったことがあったせいで少し疲れているのかもしれない。おそらく、昨日の汽車の疲れもまだ残っているのだろう。まだホグワーツ初日だ。一年間これから長いのだ。気をしっかり持たないと。

私は気を引き締めなおし、途中で止まっていた朝食の続きをとるのだった。

 

 

 

 

そんな私を、ダフネはずっと心配そうに見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハリー視点

 

「ごめん、ロン。僕、夏休みの間あんなに君の家でお世話になったのに……」

 

「ハリー、僕こそごめん。僕があの時車に乗ろうなんて言わなければ……」

 

ウィーズリーおばさんからの怒鳴り声が終わり、ようやく大広間に皆の声が戻り始めた時、僕らは後悔の念に襲われていた。

あの時冷静になっていれば。僕はフクロウを持っていたのだ。ホグワーツに手紙を送ることだってできた。なのに僕はそれをしなかった。冒険への甘い誘惑に負け、車でホグワーツに来るという愚行を行ってしまったのだ。

 

夏休みの間、僕はウィーズリー家の皆にあんなによくしてもらった。あんなに温かい家庭にいたのは、多分僕が覚えている限りでは初めてのことだったのに。

 

僕は、そんなウィーズリー家に迷惑をかけてしまったのだ。

 

「ま、貴方達が何を予想していたかは知りませんけど、ロン、ハリー、貴方達、」

 

「当然の報いだっていいたいんだろう、ハーマイオニー!」

 

本を閉じ、僕たちに機嫌よさげに話しかけてくるハーマイオニーにロンが噛みつく。

でも、二人が喧嘩を始める前に、寮監のマクゴナガル先生が新しい時間割を配りだしたので、彼らの喧嘩は未遂に終わった。

 

どうやら先ほどの吼えメールで、僕らが十分な罰を受けたと思った様子のハーマイオニーは、以前のように親しく僕らに話しかけてくれるようになっていた。

 

「まったく、汽車にあなたたちがいなくて心配したのよ。グリフィンドールの皆に、後マルフォイさんにも聞いたけど知らないみたいだったから、」

 

「おい、ちょっと待って、ハーマイオニー! あいつにも聞いたのかい!?」

 

二年生最初の授業である『薬草学』が行われる温室に向かっていると、ハーマイオニーが聞き捨てならないことを言い出した。

 

「そうよ。それに関してはごめんなさい。ドラコにもあなたたちがいないことを知られてしまった……」

 

「いや、それもそうなんだけどさ!? ハーマイオニー、どうしてダリア・マルフォイなんかに聞くかな~」

 

呆れた様子のロンに僕もうなずいて同意する。

ダリア・マルフォイはドラコの妹でスリザリン、そしてダンブルドアも警戒するような危険な奴だ。なんでそんな奴をハーマイオニーが信頼するのか、僕には分からなかった。

 

「何よ! 去年あんなに助けてもらったのよ! まだ貴方たちはマルフォイさんを警戒してるの!?」

 

「あいつはスリザリンでマルフォイ家だぞ!」

 

「彼女は他のスリザリン生とは違うわ!」

 

「いいや、違わないね! だってそうだろう! その証拠に、あいつは闇の魔法具を持ってる! ハリーが言ってたじゃないか! あいつはノクターン横丁で何か買ってたって! そうだろ、ハリー?」

 

「う、うん。僕がノクターン横丁に迷い込んだとき、確かにそう言ってたよ。何を買ってるかまでは言わなかったけど」

 

「そ、それは」

 

さっきまで強気だったハーマイオニーも、この点においては反論できないのか目が泳いでいる。

 

「ハーマイオニー、いい加減目を覚ませよ。まあ、でもなんにせよ、あいつも今年こそ化けの皮が剥がれるよ」

 

「どういうこと?」

 

首をかしげている僕とハーマイオニーに、ロンは辺りを見回し、近くに誰もいないことを確認すると小声で話し始めた。

 

「ここだけの話、ようやくパパがマルフォイの家に立ち入れ調査できることになったんだ。これは秘密だけどね。ダリア・マルフォイもいるだろうクリスマスを狙ったって言ってたから、これであいつらも終わりだよ!」

 

とっておきの秘密を話したことで興奮するロンを、やはりハーマイオニーは複雑そうな表情で見つめていた。

 

温室までくると、先に来ていたグリフィンドール生の何人かと共に、今回魔法薬学を一緒に受けるハッフルパフの生徒が立っていた。

僕たちが着いた直後、芝生の向こうから薬草学の先生であるスプラウト先生がやってくるのが見えた。

何故か、後ろにギルデロイ・ロックハートを連れながら。

 

「やぁ、皆さん!」

 

何だかすごく不機嫌そうなスプラウト先生の後ろから、ロックハートは皆に笑いかける。

 

「実はスプラウト先生に『暴れ柳』の治療法を教えていましてね! でも、皆さん、私がスプラウト先生より薬草学が優れていると思ってはいけませんよ? たまたま、昔『暴れ柳』に出会ったことがあるだけ、」

 

「みんな! 三号温室へ!」

 

ロックハートの世迷言を遮って、スプラウト先生が指示する。

女子はまだ名残惜しそうにしている生徒が数人いたが、男子は先を争うように温室に入っていく。残ろうとする数人の中に、何故かハーマイオニーがいたが、彼女を残して僕も温室に入ろうとしたのだけど、

 

「ああ、ハリー! 実は君と少し話したかったんだよ! スプラウト先生、少し彼をお借りしますね!」

 

非常に迷惑そうな先生の返事を聞くことなく、ロックハートは僕の腕を掴んで引きずっていった。

 

「先生、僕、授業が、」

 

「ハリー、ハリー、ハリー。すぐだよ、すぐに終わるよ! なんせ、私も授業があってね! すぐに()()()()()()()()()に授業をせねばならないのだよ! 彼らは非常に幸運だね! なんせ、私の授業を今年初めて受けることができるのだからね!」

 

だったら早くそちらに行ってほしい、とは言えなかった。

 

「それで先生、僕に用って?」

 

「そうだね。私も忙しい身の上だからね。手早くすませないとね」

 

何故かそう言ってウインクをした後、殊勝な声音で先生は続ける。

 

「ハリー、私は君に謝らないといけないね」

 

「書店でのことですか?」

 

あの時、僕を観衆の前に引きずり出したことは非常に迷惑だったけど、そのことを反省するような人だっただろうか?

 

「そうだよ、ハリー! ああ、君はきっと相当なショックだったんだね! なんせあんな登校の仕方をしてまで注目を浴びようとしたのだから!」

 

どうやら僕の早とちりだったらしい。

……何を言ってるんだろう、この人は。

 

「そこそこ有名な君は、『チャーミング・スマイル賞』を五回もとってしまっている、有名な私に嫉妬してしまったんだね? でも、いけないよ、ハリー。そういうのはもっと大人になってからね?」

 

「あの、先生、違い、」

 

「ハリー、ハリー、ハリー、分かっていますとも。ええ、分かっていますよ。でもね、君はまだ少し有名な程度なんだから、まずはそれぐらいにしておきなさい。初めはね」

 

もはや何を言っても無駄らしい。

 

「おお! もうこんな時間かい!? そろそろ私はスリザリンの生徒に、私の輝かしい初授業を受ける栄誉を与えてあげなくては!? では、ハリー、グリフィンドールの授業は午後からだったね? そこでまた、ね?」

 

再び僕にウインクをして、ロックハートは城の方に歩いて行った。

 

後に残されたのは、ホグワーツ初日、しかも授業をまだ受けてもいないのに疲れ切ってしまった僕だけだった。

 

「先生は一体何の用だったの?」

 

温室に入り、スプラウト先生の指示のもと、大量に置いてあった耳当てから手頃なもの選びロン達の元に戻ると、ハーマイオニーが開口一番に尋ねてきた。

 

「僕にもよくわからなかった……」

 

「どういうこと?」

 

ハーマイオニーは僕の答えに不思議そうな顔をしているが、僕の方こそロックハートが何をしたかったのか聞きたいくらいだ。

ロックハートに興味津々な様子のハーマイオニーは、まだ何か聞きたそうにしていたがその前に、

 

「全員、前に集まって!」

 

スプラウト先生の号令で授業が開始された。

 

「今日はマンドレイクの植え替えです! マンドレイクの特徴が分かる人は?」

 

ハーマイオニーが勢いよく挙手し、発言を始める。

 

「マンドレイク、別名マンドラゴラ。姿かたちを変えられたり、呪いをかけられた人を元に戻すのに使われます。大抵の解毒剤の主成分になっており、強力な回復薬になります。また、マンドレイクの泣き声は命を奪う力をもっており、非常に危険を伴う作業が要求されます」

 

立て板に水流したような話しぶりに、生徒どころかスプラウト先生も唖然としていたが、生徒たちが思わず拍手を開始すると、先生は満面の笑顔になり、

 

「素晴らしい説明です、ミス・グレンジャー! ()()()()()()()()よりはるかに優秀でしょう! グリフィンドールに20点!」

 

初っ端で与えられた高得点に、グリフィンドール生は皆ご満悦だ。

 

「すごいよ、ハーマイオニー! 君、去年から優秀だったけど、夏休みが明けてから磨きがかかってないかい!?」

 

ロンの褒め言葉に、ハーマイオニーは顔を赤らめながら答える。

 

「だって、夏休みもずっと勉強していたもの。はやくマルフォイさんに追いつきたくて」

 

「追いつくどころか抜かしてやれよ、あんな奴! 今年はハーマイオニーが学年首席だな!」

 

ロンと共に喜んでいると、スプラウト先生が声を張り上げる。

 

「全員静かに! さて、ミス・グレンジャーの言っていたことは全てその通りです。そして付け加えることはありません。あとは実践のみです! 全員耳当てを取って、マンドレイクを鉢から鉢に移し替えてください! まだこのマンドレイクは苗ですから、皆さんが死ぬことはありませんが、それでも数時間は気絶することになりますからね! それでは四人ずつ植木鉢に集まって、私が指示をしたら始めてください!」

 

近くにあった植木鉢に僕ら三人が行くと、ハッフルパフの生徒の一人が近づいてきた。

 

「僕はジャスティン・フィンチ-フレッチリーです」

 

ジャスティンは僕ら一人一人と握手しながら話す。

 

「君はハリー・ポッター。有名だから勿論知ってるよ」

 

先程のロックハートの件もあり、僕はあまりうれしくなかった。

 

「君はロン・ウィーズリー。あの空飛ぶ車、君の家のだよね?」

 

ロンは思いっきりしかめっ面をしながら握手した。

 

「それで君は、ハーマイオニー・グレンジャー。さっきは凄かったよ」

 

「ありがとう」

 

ハーマイオニーは、ニッコリしながら握手に応じた。

 

「去年はスリザリンのダリア・マルフォイに主席を持っていかれましたけど、今年は君が主席かもしれませんね」

 

「ええ、そのつもりで頑張っているわ。でも……」

 

ハーマイオニーは先ほどの笑顔から一転、少し悔しそうな表情になった。

 

「私、夏休みも一生懸命勉強したわ。彼女にはやく追いつきたかったから。でも、勉強すればするほど分かってしまうの。彼女と、今の私の差が……。もっと勉強しないと彼女に追いつけない」

 

「そうですか……。できればスリザリンなんかではなく、貴方に勝ってほしかったのですが。ほら、彼女、すっごい美人だけど表情がありませんし、それにすごく冷たい人のようなので」

 

「マルフォイさんは冷たい人なんかじゃないわ!」

 

突然大声を上げたハーマイオニーに、ジャスティンは勿論、近くの植木鉢に集まっていた生徒も何事かとこちらを振り向いていた。

 

「か、彼女は冷たい人なんかじゃないわ! 確かにいつも表情がまったくないから分かりにくいけど、彼女は本当はすごく優しい人なんだから!」

 

周りに注目され少し恥ずかしそうなハーマイオニーの話を聞きながら、ジャスティンは僕らに助けを求めるように視線を送ってきた。

ハーマイオニーの、ダリア・マルフォイに対しての謎の信頼感は今に始まったことではないので、僕らはジャスティンに肩をすくめて答えるしかなかった。

 

それからしばらくは、僕らの中に少し気まずい空気が流れていたが、この空気に耐えられなくなったのか、ジャスティンが再び話し始める。

 

「そ、そういえば、新しく入った先生って、あの有名なロックハートなんですよね。彼ってものすごく勇敢な人ですよね。彼の本読みましたか? あれって全部彼が()()()()()()()()()()()()()()()()! 本当に偉大な人です! 実は僕、マグル出身なんですけど、最初は母が僕のホグワーツ行に反対だったんですよ。でも、彼の本を読ませたら、母もわかってくれたみたいでして。つまり、魔法を学べば、いずれ彼のように偉大な、」

 

「では、皆さん、耳当てをつけて! では、マンドレイクを引き抜いて!」

 

全員が準備完了したのを確認したのか、スプラウト先生の指示が飛んできたため、僕らがこれ以上話す機会はなくなった。

 

午前の授業が終わり、僕らは昼食をとり中庭に出る。

ハーマイオニーが朝と同じように『ヴァンパイアとバッチリ船旅』を読んでいる横で、僕とロンがクィディッチの話をしていると、

 

「ハ、ハリー。ぼ、ぼく、コリン・クリービーと言います」

 

カメラを持った、薄茶色の髪をした少年が話しかけてきた。

 

「ぼ、僕もグリフィンドールなんだけど、そ、その、もしよかったら、写真をとってもいいですか?」

 

「写真?」

 

突然の申し出に、僕は思わずオウム返しにこたえてしまった。

 

「僕、あなたのことを皆に聞きました。僕、マグルの出身なんですけど、あなたがどんなに偉大な人か、皆に聞いて知ったんです! だからそんなあなたと出会ったことを証明したいんです! それに、ここでは写真が動くんですよね!? そんなすごいことをパパにも教えたくて! だから、もしあなたが撮れたらうれしいのだけど……。あと、できればサインももらってもいい?」

 

「サインだって!? ポッター、君はサイン入り写真を配っているのかい!?」

 

コリンの声にかぶせるように、ドラコ・マルフォイの声が響き渡った。

 

「マルフォイ!」

 

僕らが声がした方向に顔を向けると、そこには僕の大っ嫌いなドラコ・マルフォイがこちらに歩いてくる姿が見えた。その横にはクラッブとゴイルがいた。

 

が、いつも一緒にいるダリア・マルフォイの姿はなかった。

 


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