ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス 作:オリゴデンドロサイト
ダリア視点
十月、空気が次第に冷たくなり、今年もハロウィーンの季節がやってきた。
去年はパーティーの途中でトロールが忍び込んだりと散々なものであったが、そんな重大事件など早々あるものではない。きっと今年は平穏無事にハロウィーンを過ごすことが出来るだろう。
そしてハロウィーン当日。
「今年も盛大にかぼちゃの匂いがしていますね」
そう少し不満をにじませながら、隣を歩くダフネに話しかける。
去年もそうであったが、談話室を一歩出た途端何処に行ってもパンプキンの匂いが辺りを漂っていた。別にニンニクのような嫌な臭いというわけではないが、ここまでパンプキンの匂いが充満しているのも考えものだ。
「今年も夜のご馳走はパンプキン尽くしだろうからね。朝から準備しているんじゃないかな」
おそらく今日は朝からホグワーツの屋敷しもべ達が、必死になって夜のご馳走のためにパンプキンの下処理をしてくれているのだろう。まったく本当に彼らには頭が上がらない。彼ら屋敷しもべのおかげで私たちは何の不自由なくここで過ごすことが出来る。まだここのしもべ妖精に一人もあったことはないけど、会った時は感謝の言葉を伝えよう。
そう屋敷しもべ妖精のことを考えていると、ふとマルフォイ家にいるドビーのことを思い出した。
家を出る前、彼の様子がどこかおかしかったので、どうしたのかと尋ねてみたのだが、
『な、何もございませんです、お嬢様』
彼はそう言ってただ頭を横に振るだけだった。
彼は何でもないと言うけど、やはり明らかに様子がおかしかったと思う。彼が悩むとすれば、私が思いつく限りではお父様達が何かしたかということくらいだ。けど、どうやらお父様達が彼をいじめているということは無さそうだった。
今頃ドビーはどうしているのだろうか。ちゃんと元気にやっているだろうか。
そんな風にもやもやした気持ちで家にいるドビーのことを心配していると、
「ダリア!」
突然ダフネが大声を上げた。突然の大声にそちらを見ると、彼女は満面の笑みで何故かこちらに両手を差し出していた。
「どうしましたか、ダフネ?」
私がこの子は何をしているのだろうかと訝しみながら問いかけると、
「トリックオアトリート!」
相変わらず満面の笑みでダフネが言う。
「えっと……」
突然の出来事に戸惑っていると、
「お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうぞ!」
おそらく、私が去年この手のイベントに興味を持っていたことを覚えていたのだろう。
結局去年はスリザリンどころか他の寮においても、
「その言葉。仮装をして言わなくては意味ないのでは?」
「……仮装は無理かな。ウィーズリーの双子はともかく、私がやったら凄く目立ちそうだし。それにその姿をもしスネイプ先生に見られたらと思うとね……」
スリザリンにとことん甘い所があるスネイプ先生も、寮から減点はしないだろうが、おそらく以後六年間生ゴミでも見るような視線を送ってくるだろうことは想像に難くなかった。
「と、とにかく! ダリア! お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうぞ!」
気を取り直したのか、ダフネが再び言う。どうあっても続けるつもりらしい。仮装はしていないけど……。
「そう言われましても……確か」
全く予想していなかったことに若干うろたえながらポケットを探る。
「おや~。ダリア、お菓子がないの? じゃあ悪戯するしか、」
「ありました。はい、どうぞ」
悪戯っぽい笑みを浮かべて何故か勝ち誇るダフネに、私はたまたまポケットに入っていたお菓子を渡した。
先日家から大量のお菓子と
そのお菓子の最後の一個がたまたままだポケットに入っていたので、それをダフネに渡しす。けど、
「お菓子、持ってたのね……」
何故かダフネは少し残念そうな顔をしていた。あなたが言い出したことでしょうに。
「はい、お菓子です。それにしても突然どうしたんですか?」
そう私が尋ねると、ダフネはどこか不満そうな顔で私の渡したお菓子を頬張りながら続ける。
「……だって、ダリア、
どうやらダフネは私を心配して、こんなことを言ってきたみたいだった。想像していたものとは大分違っていたけれど。でも私のことを心配して、彼女なりに私を元気づけようとしてくれているのはうれしくもあり、
本当にダフネは優しい子だ。やはり私なんかには勿体ない。
私はダフネをどう扱えばいいか時々分からなくなる。
だって、私は決して、彼女の優しさに応えることなどできないのだから。
「心配されなくても大丈夫ですよ。それに今考えていたことは、おそらくダフネの考えているようなことではありません。家の屋敷しもべがどうしているかなと思っただけです」
だから私はダフネにあたりさわりない返答をした。事実、おそらくダフネが考えていること違ったことを考えていたからというのもある。まったく、あの時忘れてくださいと言ったのに……。
「屋敷しもべ? マルフォイ家の屋敷しもべがどうかしたの?」
「何か最近様子がおかしくて。本人に聞いてみても何も言いませんが、明らかに何か悩み事がある様子なんです……」
「そっか……。ダリアは屋敷しもべ妖精を大切に
「ええ……」
そう言って授業に向かう私は、今の会話での違和感に気が付くことはなかった。
私はダフネの前で屋敷しもべと話していたことすらないのに、どうして、私が屋敷しもべを大切に扱っていることを知っていたのだろう?
ハリー視点
僕とロン、そしてハーマイオニーは、ハロウィーンパーティーが
どうしてこんなことになったのだろうか。振り返ってみれば、大体僕のせいな気がした。
スリザリンチームが手に入れた最新型の箒の存在で、ウッドは前にもまして練習が厳しいものになった。彼はどんな時間であろうと、そして外がどんな天気であってもチーム練習を決行した。それがたとえどんな土砂降りな雨の中であろうとも……。
その日僕はずぶ濡れになったユニフォームのまま、競技場からホグワーツ城に帰っていた。
しかし、そこを運悪く管理人のフィルチに見つかってしまった。いつも一緒にいるミセス・ノリスという猫を従えて現れた彼は、丁度機嫌が悪かったらしく、
「ポッター! こんなに汚い格好でうろつきやがって! 床をこするこっちの身にもなってみろ! 余計な仕事ばかり増やしやがって! もうたくさんだ! 罰を与えてやる! ついてこい!」
僕の床につけた
「見せしめにしてやる! お前のような屑生徒は痛い目を見ないと学ばん!」
そう言って部屋中にある拷問器具をあさっているのを、息をひそめて見守っていると、何か大きなものが落ちる音が上の階からして、フィルチは事務室から走り去ってしまった。
結局帰ってきたフィルチが、彼のいない間に僕が
一体あの手紙はなんだったのだろうか。
『クイックスペル』と書かれたその手紙には、ただ魔法の簡単な使い方といった内容しか書かれていなかった。なのに、どうして僕がそれを見ていたことで、彼はあんなに怯えたのだろうか。
そう不思議に思いながら階段を上がると、
「ハリー! 無事でしたか!?」
グリフィンドールのゴーストである『ほとんど首なしニック』が声をかけてきた。話を聞くと、先程の大きな音はどうやら彼がフィルチに捕まった僕を助けるために、ピーブズをたきつけて起こした音だったらしい。音のおかげでフィルチの気が僕からそれていたこともあるので、僕は感謝と共に何かできることはないかと尋ねるとニックは言った。
「ハリー! そう言っていただけてありがたいです! それでは厚かましいかもしれませんが、どうか私の『絶命日』パーティーに参加してはもらえないでしょうか!?」
聞けばハロウィーンパーティーと同じ日だったが、彼のあまりの勢いに負けてしまい、僕はそのパーティーに参加することになってしまった。ロンとハーマイオニーも一緒に……。
そしてその帰り道。
「まったく。ゴーストだらけで寒いわ、食べ物は全部腐ってるわで散々だったよ」
「……ごめん。僕が安請け合いしちゃったから」
「いや、ハリーのせいじゃないよ……」
そう言ってくれるロンの顔も空腹は隠しきれないようだった。ハーマイオニーも同じように空腹そうだ。
「ほら、行こう。まだ大広間ではご飯が食べられるパーティーがやっているはずだよ。もうすぐ終わる時間だけど、デザートくらいはまだ残っているかもしれない」
ロンの祈るような言葉に促されながら、僕らが階段を上がっている時。
その
『引き裂いてやる……八つ裂きにしてやる……殺してやる……』
それは以前、『暴れ柳』に突っ込んだことに対する罰則を受けたときに聞いた声だった。この聞いたこともない程冷たく残忍な声は、僕にしか聞こえなかったらしく、その時一緒にいたロックハートには聞こえていない様子だったのだ。慌てて壁の向こうからする声を追いかけても、その声の主をついぞ見つけることは出来なかった。
そしてその声が再び聞こえた僕は驚き足を止める。
「ハリー、どうしたの? 早く行きましょうよ」
「ハ、ハーマイオニー? 今の聞こえた!?」
「聞こえたって何を?」
ハーマイオニーは訝し気に僕を見ている。ロンも同様の表情を浮かべている。どうやら彼らにも聞こえなかったらしい。この声が聞こえたのは、やはり僕だけだった。
「どうしたんだい、ハリー?」
「今、変な声が、」
『殺してやる……殺す時が来た……』
僕が何か言う前に、再び声が聞こえた。
どうやら壁の向こうからしているだろう声に耳を澄ませると、だんだんと上の方に移動している気がした。
「こっちだ!」
声を追って走り出す僕を、二人は不思議そうな顔をしながら追う。
「ハリー、一体君は何を?」
「ロン、ちょっと静かにしてて!」
二階まで駆け上がり、再び耳をそばだてる。
『血の匂いがする……血の匂いがするぞ! ……ようやく殺せる』
僕の背筋を冷たいものが流れ落ちる。それは紛れもなく、今から誰かを殺そうとしているものだった。
「誰かを殺すつもりだ!」
先程から僕に当惑している二人を無視して、僕は急いで三階に駆け上がる。
廊下を走り抜け、何故か水浸しになっている廊下の一角にたどり着いた時、
「ハリー! 見て!」
ハーマイオニーが突然大声をあげる。そして彼女の指差す先を見れば、壁に真っ赤なペンキか何かで、
秘密の部屋はひらかれたり
継承者の敵よ、気をつけよ
そう書かれていた。
そしてその横にある松明には、
カッと目を見開いてかたまる、ミセス・ノリスがぶら下がっていた。
ダリア視点
パーティーは何事もなく終わった。やはり去年が異常だっただけで、トロールが侵入するなんて事態はそうそうないらしい。あとは寮に戻ってゆっくり休むだけだ。
「お腹いっぱい食べたね!」
「ええ。しばらくパンプキンは見たくもないですけど……」
去年と同じように、見事なまでにパンプキンづくしの御馳走だった。おかげでまだ口の中がパンプキンの甘い味がする。あと数日は甘味をとりたくはなかった。
「お兄様、大丈夫ですか?」
「あ、ああ」
私の横にいたお兄様は若干げんなりとした顔をしていた。単調な味付けの晩餐だったのもあるが、お兄様の場合、目の前で起こった
言わずもがな、原因はクラッブとゴイルだ。
まるで顔を突っ込むように食事を貪る彼らを見ていたら、それはさぞ気が滅入ることだろう。私とダフネは目をそらしていたからよかったが、彼らの目の前にいたお兄様はそうもいかない。目をそらしても、目に入るものは入る。
「お兄様、とりあえず寮に早く戻ってしまいましょう」
「ああ」
お疲れのお兄様を早く休ませるべく、私達三人は足早に階段を上がっていたのだが、それは突然聞こえた。
『殺してやる……
突然私の耳に、今まで聞いたことがない程冷たい声が入ってきた。
「っ!?」
「ダリア、どうかしたか?」
突然の声に驚き辺りを見回す私に、お兄様が訝し気に声をかける。
「お兄様。先ほどの声が聞こえましたか?」
「どんな声だ?」
どうやらお兄様には聞こえていなかったようだ。いや、お兄様だけではない。隣を歩くダフネも、そして周りにいる他の生徒にも誰にも聞こえていない様子だった。皆、パーティーの余韻を味わっているのか一様に笑いあっている。先ほどの声が聞こえれば、こんな風に笑いあっていることなどないだろう。それ程までにぞっとするような声だった。
あの冷たい声が聞こえたのは、どうやら私だけの様子だった。
「ダリア? どうしたの?」
「いえ……なんでもありません。それより、はやく帰りましょう」
ダフネが立ち止まった私に声をかけてきたが、私はそれに答えることなく足を進めた。
私だけに聞こえた声。きっと勘違いであろうが、そうでなかったとしても、ここでそれについて話すのは望ましくない。
何せ魔法界では聞こえるはずのない声を聞くことは、狂った証拠として扱われるのだから。
私は
突然聞こえた謎の声に微かな不安を感じながら寮を目指す。でも、そのまま私が寮に行けることはなかった。
再び足を進めるも、今度は三階に差し掛かったところで立ち往生となった。
急に人波が動かなくなってしまったのだ。どうやら前方にいる人間が全く動かなくなってしまったようだった。
「こんな所でどうしたんだろうね?」
ダフネと共に首をかしげる。いつもならピーブズの仕業かなくらいにしか思わないのだが、前の人だかりは動かなくなっただけではなく、急に静かになっていたのだ。ピーブズの仕業なら、こんなに静かなはずはない。
沈黙は前の方から急速に広がり、先ほどまではガヤガヤと音が立っていた廊下は何故か痛いほどの静けさに満ちている。そして一様に皆前の方をよく見ようと背伸びを始めていた。残念ながら私たちの位置からは、前で何があったのか見えなかった。
これではらちがあかない。
訝しみながら私は前にいた生徒に話しかける。
「前で何かあったのですか?」
前にいた男子生徒は振り返り、後ろから話しかけた人間が私だと気が付くと、
「ダ、ダリア・マルフォイ!?」
何故か顔を真っ青にして、まるで私を避けるように道の端にずれた。
いやそれは彼だけではなかった。
何故か前にいた生徒は、私を振り返り、最初の生徒と同じように顔を青くすると、皆私に道を開けるように端にずれた。それはまるで、
「なんだこいつら……」
突然の出来事に横でお兄様が不快そうな、そしてどこか困惑したような声を上げておられる。
スリザリンでも、私が掲示板を見ようとすると同様に皆が道を開けることはあった。でも、こんな風に全寮生が、しかもこんな風に怯えたような顔をして道を譲るようなことは今まで一度もなかった。
不可解な反応ではあったが、こうして怯えたような生徒達とにらめっこしているわけにもいかず、生徒が作った道を歩いていく。
少しでも私から離れようと壁にへばりつく生徒たちを横目に、何かが起こっている最前列にたどり着く。
そこには、
秘密の部屋はひらかれたり
継承者の敵よ、気をつけよ
と書かれた壁、松明にぶら下げられた猫。
そして、こちらを呆然と見つめるポッター、ウィーズリー、そしてグレンジャーさんの姿があった。
ハーマイオニー視点
松明にぶら下げられたミセス・ノリスを見つけた私は、すぐにハリーに言った。
「ハリー! すぐにここを離れましょう!」
こんな場面を見られない方がいい。今生徒は皆、普通であればハロウィーンパーティーに出席しているはずだ。そんな中、私達だけはこんな所にいる。
この場面を見られれば、私達がこれを行った犯人だと疑われるのは想像に難くなかった。
しかし、すでに遅かった。
私たちがここを離れる前に、廊下の向こうからざわめきが聞こえはじめ、次の瞬間、大勢の生徒が廊下にワッと現れたのだ。楽しそうに談笑していた生徒たちは、壁に書かれた文字とぶら下げられた猫を見た瞬間話すのをやめ、怯えたようにこちらを見ている。後ろの生徒達も首を伸ばしてこちらを見ている。
「ち、違うの! わ、私達は、」
そう私がこちらを見つめる生徒に言い訳する前に、唐突に生徒の群れが割れた。
それはまるで、何かから廊下の端に逃げるような行動だった。
そしてその生徒の間から現れたのは、ドラコ・マルフォイ、ダフネ・グリーングラス。
そして、ダリア・マルフォイだった。
マルフォイさんはいつもの無表情に、少しだけ驚いたような雰囲気で壁の文字と猫を見つめている。横にいるドラコやグリーングラスさんも同じように壁に書かれた文字を見ている。
「これは……。秘密の部屋……本当に存在していたなんて。それに、この猫……。どうして石化して……」
そう困惑したように、動かない猫に近づきながら呟くマルフォイさんに、
「マ、マルフォイさん、わ、私達も、今ここに来たばかりで……」
私は無実を伝えようと話しかけるも、マルフォイさんは、そんなことは分かっているとでも言うように、何でもないように応えた。
「グレンジャーさん、分かっています。貴方がこれをやった犯人ということは
「マ、マルフォイさん! 分かってくれるのね!」
「ええ。むしろ貴女は今後
「え? そ、それはどういうこと?」
突然私にそんなことを言うマルフォイさんに問うも、それに答えたのは彼女ではなかった。
「継承者の敵。つまり、お前みたいな、け……『マグル生まれ』が襲われるってことだよ」
マルフォイさんと最前列にやって来ていたドラコが、私に複雑な表情をしながら言った。以前私を『穢れた血』と言った彼は、私を嘲るように口をゆがめていた。でも、何故かその瞳だけは私をどこか心配しているようだった。私はそんな彼に、
「どういうことよ?」
そう聞こうとしたけど、
「なんだ!? 何事だ!?」
その前に、廊下に立ち込める異常な雰囲気を感じ取ったのか、フィルチが生徒を押しのけてこちらにやってきた。そしてミセス・ノリスを見たとたん、
「わ、私の猫が! ミ、ミセス・ノリスが! 一体何が!?」
自分の愛する猫の状態に、フィルチは二三歩後ずさる。
そして恐怖と怒りで血走った眼であたりを見回した。この場で犯人を断定するためだ。
最初にフィルチが目を付けたのはハリーだった。
「お前か! お前なのか! 私が、
「ち、違います! 僕はたまたまここに居合わせただけです!」
叫び声をあげるハリーをフィルチは憎々しく睨んでいたが、ふと、今気づいたように視線をずらした。
そして、彼は彼女を見つけた。
フィルチの視線の先には、無表情で彼を見つめるマルフォイさんがいた。
目を見開き、恐怖と、そしてそれを上回る殺意を瞳に乗せ、マルフォイさんににじり寄る。
「お前なのか……? お前が私の猫を……? 殺してやる……。殺してやる!」
フィルチはマルフォイさんに叫び声をあげた。
「お前がやったんだな! お前が私の猫を!」
マルフォイさんに飛びつこうとするフィルチ。
彼女は何故か割れた人垣から出てきただけで、この現場には私たちと同じで今やってきただけだ。そんな彼女が疑われていいはずがなかった。
「ち、違います! マルフォイさんは、」
「アーガス!」
私が擁護する前に、ダンブルドアがスネイプ先生とマクゴナガル先生、そしてロックハート先生を従えて到着した。
ダンブルドアは素早く私たちの脇を通り抜け、壁の文字を見て一瞬目を見開き、ミセス・ノリスに駆け寄る。そしてミセス・ノリスを松明の腕木からはずしながら、
「アーガス、一緒に来なさい。ポッター君、ウィーズリー君、グレンジャーさん、君たちもおいで」
どこか優しく私達に話しかけた後、ダンブルドアはクルッと振り向き、
「ダリア、君も一緒に来てくれんかのう」
そう、マルフォイさんに言った。表情こそ優し気であったけど、それは紛れもなく、マルフォイさんを警戒して言ったように、私は感じられた。