ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス   作:オリゴデンドロサイト

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運命の日(後編)……挿絵あり

 闇の帝王が去り、ルシウスとセブルスのみが残される。

 

 帝王が去ったからにはもう時間が残されてはいない。

 約束されたとはいえ、スネイプにとって最愛の女性が、己が手に入れられぬだろう女性となったとしても、子供の頃より愛してやまぬ女性が……自らの過ちのせいで死ぬかもしれないのだ。

 この情報を一刻も早くダンブルドア、そして何よりリリーに伝えなければ!

 

「では吾輩も失礼する」

 

セブルスはどこか焦ったように姿くらましする。

 

 一人残されたルシウスはそんなセブルスに違和感を覚えながらも、自らも帝王に与えられた使命を果たすべく行動を開始する。

 

まず全死喰い人に、今夜帝王からの呼び出しがあるだろうと連絡する。

そして命じられていた()()だが、この建物の地下につい最近入れられたものがいたなと思い出す。

帝王から命令されたことが意外に早く終わってしまった。

そういえば、ここ3日、ポッター家の捜索などで忙しかったため帰れてなかったことに思いいたる。

帝王から連絡があるまでは、自分の屋敷で待機しようと思い、ルシウスは屋敷に姿現しをするのだった。

 

 

 

 

 ルシウス視点

 

「おかえりなさい、あなた。今日はもう行かなくていいの?」

 

「いや、おそらく今夜帝王から呼び出しがまたある」

 

そう言って玄関に出迎えに来ていた妻をみやる。

 

「おかえり~。ちちうえ~」

 

「……」

 

そんな妻の横には、母に連れられて父を出迎え、父親にじゃれつこうとする息子と、母に手を握られながら無言無表情で父親を見つめる娘がいた。

 

「ほら、ダリア。お父様におかえりは?」

 

「おかぁえり……。おとうさま」

 

無表情にしか見えないが、おかえりと舌足らずにダリアが言った。

シシーがうれしそうにダリアを撫でていることから、あれでも笑顔で迎えてくれているのだろう。

私には無表情にしか見えなかったが……。

 

「あなた、ダリアもあなたが久しぶりに帰ってきてくれて、とってもうれしそうよ」

 

どうやら私の予想は間違っていなかったらしい。

 

「それでどうして今夜呼び出されるとわかるの?」

 

「ああ、今夜は帝王自ら()()をなされるらしい。その後死喰い人全員をお集めになるようだ」

 

「全員を? よほど重大なことなのかしら……」

 

「さあ、私ごときには我が君の深淵なお考えはわからんよ。だが、まあ、呼び出されるまでにはまだ時間があるだろうからそれまでは家にいることにする」

 

そう言って、母の手から離れ、ドラコと一緒に自分にしがみつこうとする無表情の娘を抱き上げる。

 

「この子たちは特に何もなかったか?」

 

「はい、特に変わったこともなく元気にしておりましたよ。ただ、ここ3日間あなたに会えなくて寂しそうにしていましたが」

 

「そうか……」

 

「ちちうえ~」と言いながら彼の手にうれしそうにじゃれつくドラコと、その横で無表情ながら同じようにじゃれつこうとしているダリアを見やる。

たった3日とはいえ、我が家はやはり落ち着く。純血貴族として、そして死喰い人として誇りをもっている。が、如何せん常に死ととなり合わせの状態というのはやはり心が休まらない。私自身はそれほど戦場には出ないのだが、その分帝王の近くにいなければならない時が多い。帝王は気まぐれで部下を殺すことがあるので、気を抜くことができないのだ。

ひどく久しぶりに帰ってきたと感じながら、呼び出されるまでは精一杯この子たちと付き合ってやろうと思う。

 

しばらく遊んでやっていると、遊び疲れてしまったのかドラコとダリアは二人とも船をこぎだす。それを見たナルシッサが二人に子供部屋に戻るようにいう。

二人とも眠そうにうなずくと、部屋に帰って行った。二人が出て行くのを見届けた後、私は感慨深くシシーに話しかけた。

 

「ドラコもダリアも大きくなってきたな」

 

「ええ、この前まであんなに小さかったのにね。一年ははやいものね」

 

二人とも健康に育っていっている。だが喜んでばかりいられないのもまた事実だ。

 

「だが、ダリアはそろそろ例のことを調べないといけないのではないか? 大きくなってから分かったのでは、その時対応できないかもしれないだろう? 学校でもずっと傍にいるわけではないのだから」

 

「ええ、わかってはいるのだけど……」

 

やはり少し彼女はためらってしまう。

今わかっているダリアの吸血鬼特性は4つだ。

一つは吸血鬼特有の力の強さ。

先程のじゃれつきでも分かっていたことだったが、ダリアは相当に力が強い。おそらくすでに、10代くらいの男の子がだせる力は出せるのだろう。ルシウスやナルシッサが相手だったらまだ大丈夫だが、普段おとなしい子とはいえ、ドラコにじゃれつかれるとどうなるかわからない。そのためドラコには常に屋敷妖精の一匹を見えないように張り付かせている。何かありそうであればすぐに盾として対応させるようにだ。

まあ、普段は大変おとなしい子だ。今までドラコの方からじゃれついたことはあっても、ダリアはおとなしくじっとしているらしいから大丈夫だろう。

 

二つ目は吸血。

これは今のところ何の問題にもなっていない。二か月に一度、欲しがった時に少量与えれば良いだけだ。今はナルシッサと私が少しづつ与えているが、将来的には魔法学校に行かねばならない。少量ではあるが学校に血を時々送らねばならぬし、送ってもその時が欲しい時かまではわからない。何かしらの新鮮な血の保存方法を考えねばならない。現地調達という方法がないではないが、これをするとダリアが吸血鬼であることが周りにばれてしまう可能性が非常に高いので却下となる。

 

三つめは、再生能力

ダリアは非常にけがの治りがはやい。転んで擦りむいた膝も、次の瞬間にはもとに戻っているのだ。だがこれもそこまで問題にはならないだろう。もともと魔法界ではよほどの魔法傷でない限り、すぐに治すことができる。適当な薬を持たせて、これで治したといえばいいことだ。

 

そして4つ目はニンニク

ダリアにニンニクを以前近づけてみたところ、すさまじく嫌な顔をされた。やはり非常に嫌いな匂いらしい。今まで表情を理解できたのが、血を飲んでいるときと、ニンニクの匂いを嗅いだときというのは父親として悲しかった。

ちなみに、吸血鬼はニンニクの匂いも味も嫌いらしいが、ダリアの場合、匂いが分からない程度で料理に入れて少量食べさせてみると、別においしそうに食べていた。

まあ、これもナルシッサの話であって、ルシウスには無表情にしか見えなかったのだが。

 

これらはすでに分かっていることだ。

だが、まだわかっていないこともある。

というより、調べることで一時的とはいえ、ダリアが傷を負ってしまう可能性があるため、ナルシッサが今までずっと嫌がって調べなかったのだ。

 

まず日光

吸血鬼は日光に非常に弱い。日光にあたると肌が焦げだすのだ。日陰に戻ればすぐ再生するとはいえ、日光にあたるたびにそうなればすぐに吸血鬼だと露見してしまう。

やはり赤ん坊に日光をあてて肌が焼けるのをみるのは耐えられなかったのだろう。未だダリアはナルシッサの方針で家から出たことがない。窓のある部屋にも夜以外に入ったことがない。

 

そして銀

吸血鬼は、これも日光と同じで肌にあたると焦げるのだ。マルフォイ家の食器は全部銀食器であったが、ダリアのものだけ現在木製のものを使っている。

ニンニクの時ですら、シシーは相当嫌がっていたのだ。が、この二つもいい加減調べねばならない。

勿論、帝王の望まれた不死性もまだ分かっていないが、これは調べようがない。これに関しては、この先長い時間で見ていくしかないのだ。

 

「ダリアのためですものね……。私もそろそろ覚悟をきめなくてはね……」

 

 

 

 

そんな風にダリア、そしてドラコの話をしていると、すぐ時間が過ぎてしまう。

 

ナルシッサがダリアのことで納得してくれたあと、二人をどこの魔法学校に入れるかという話になった。

私としてはダームストラングに入ってほしかったのだが、ナルシッサがこの時はどうしても譲らず、近くのホグワーツに入学させることになってしまった。

ドラコとダリアが遠くに行ってしまうのが耐えられなかったのだろう。

確かにダリアに関しては、何かあった時に私が理事をしているホグワーツの方が都合がいいかもしれない……

闇の帝王の支配が完成すれば、ホグワーツも今のような愚かな教育方針ではなくなるだろうしな。

 

そうして時間がどんどんたっていくが、一向に帝王からの呼び出しが来ない。

何かあったのだろうかといぶかしがっていたところ、突然慌てた様子で屋敷妖精がやってくる。

その手には何故か新聞が握られていた。

 

「旦那様。日刊予言新聞が今しがた届いてございます」

 

このしもべ妖精は何を言っているのか

 

「こんな時間に新聞が来るわけがなかろう」

 

今の時間は真夜中。もうすぐ日にちが変わるかという時間だ。日刊予言新聞は朝発行される。新聞などがこの時間にくるわけがない。

 

「いえ、それが突然の号外のためみたいでして! その内容が……!」

 

号外? こんな時間にいったい何をといぶかしみながら号外を見やる。

そして心臓が止まったような衝撃を受けた。

 

はじめはそんな馬鹿なと思っていたが、読み進めるうちにそれが本当のことなのではと思い始める。

あまりの衝撃的な内容に思わず号外を取り落としてしまう。

 

「ねえ、あなた? どうしたの? そんな顔をして。いったい何が書いてあったの?」

 

号外の内容に、うれしい表情を必死に隠そうとしている屋敷妖精に気付かず、ナルシッサがルシウスに問う。

私は青い表情でゆっくりと号外の方をふるえる手で指さす。

そこには……

 

『闇の帝王滅ぶ』

 

と書いてあった。

 

「……と、とにかく! 真偽のほどを確かめなくてはならない。私はすぐに他の死喰い人の所にいって情報を集めてくる!!」

 

そう言って私は急いで仲間の元へ姿現しをする。

 

 

 

 

この後、私は闇の帝王の滅亡を確信し、仲間を裏切ることになる。

 

全ては妻と子供たちのために。

帝王への忠誠心より、私は家族愛をとったのだ。

 

この日から造られた少女(わたしのむすめ)は、その決められた人生のレールから、ゆっくりと外れていくことになる。

 

 

【挿絵表示】

 




とりあえず後編も投稿。あとで加筆修正するかもです。
このあと過去話を一個いれて、またプロローグの時間を進めます。

そろそろダリアの一人称に移行していきたい

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