ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス   作:オリゴデンドロサイト

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ポリジュース薬(中編)

 ドラコ視点

 

マルフォイ家では、クリスマスに小さなパーティーを開く。

パーティーと言っても、家族だけしかいないものだ。父上としては、クリスマスに純血貴族を集めて盛大なものをやりたかったらしいのだが、母上とダリアがあまり大規模なものに出たがらないために、内輪だけのものに切り替えたのだそうだ。

 

マルフォイ家にとって、クリスマスとは家族で過ごす日だった。

だからこそ、ダリアはクリスマスを本当に大切な日だと考えている。

 

そしてそれはホグワーツに入学してより顕著なものになった。

ホグワーツに入学してから経験したクリスマスは一度だけだが、そこでしか父上と母上に会うことが出来ないということで、ダリアはより一層クリスマスを待ち遠しく思っていたのだろう。

 

だが、そのクリスマスが唐突に奪われてしまった。あの忌々しい『血を裏切るもの』のウィーズリーに。

僕達は、クリスマスに家に帰れなくなってしまった。

 

ホグワーツにいても家族からのプレゼントは届く。実際今日僕のベッドの横にもプレゼントの山ができていた。しかし、ダリアにとってクリスマスはプレゼントをもらう日ではなく、大切な人と過ごす日なのだ。クリスマスを奪われるということは、ダリアにとって家族との時間を奪われることと同義だった。

だからこそ、今年のクリスマスに帰れないと知って、ダリアは柄にもなく取り乱した。父上に説得されても、やはり落ち込んだ雰囲気を醸し出していた上、特急の中でダフネが来なければ、おそらくホグワーツに着くまでずっとダリアは落ち込んでいたことだろう。

 

それが曲がりなりにも元気を取り戻したのは、ダフネのお蔭だ。

 

他者と関りを持つべきではないと考えているダリアは絶対に認めないことだろうが、ダリアはその実ダフネのことを非常に気に入っている。一年しか一緒にいないが、自分自身を純粋に慕ってくれる同年代というのはダリアにとって新鮮かつ、非常に居心地がいいものだったのだろう。

そんなダフネが一緒にクリスマスを過ごしてくれると知って、家族と過ごせない悲しみはまだ残っていただろうが、ダリアの表情は多少明るいものに変わっていた。

 

確かに今年のクリスマスを家族と過ごすことが出来なくなってしまったのは、未だに残念に思う気持ちはある。だが、そんな状況でも多少今年のクリスマスを楽しみに思える気持ちを持っていたのは確かだった。僕とダフネ、そしてダリアにとっておまけではあるが、クラッブとゴイルと共に談話室でクリスマスを過ごすことに、かすかな喜びを感じていたことだろう。

 

家族と一緒ではなくても、それでも楽しいクリスマスを送ることは出来る。

たまにはこんなクリスマスがあってもいいではないか。

 

そう僕は、おそらくダリアも思っていただろう。

 

それなのに……今ここにダリアはいない。

後悔だけが頭に浮かんでは消えていく。

楽しいクリスマスはもはや幻想でしかなく、ダリアのいないクリスマスはただただ空虚なものに感じられた。

 

一体どうしてこんなことになってしまったのだろう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハリー視点

 

マルフォイ達の対面の席に出来るだけ慣れた風を装いながら座る。これまで入ったこともないスリザリンの談話室を見回したい気持ちはあったが、ここでそんな不審な行動をとることは出来ない。僕達はダリア・マルフォイのことを聞き出すきっかけを探るために、目の前のソファーに座るドラコとグリーングラスを見つめた。

マルフォイは少しの間心ここにあらずと言った様子で虚空を見つめていたが、ふと、

 

「……なんでミリセントがいるんだ?」

 

ようやく僕たちの存在に気が付いたと言った様子で、ミリセントに扮するハーマイオニーに訝し気に尋ねてきた。

 

「い、家の事情よ」

 

今考えると、ミリセント・ブルストロードの髪を使うのはあまりにも杜撰な計画な気がした。いくら途中で本物が来る心配がないとはいえ、一度特急で帰った人間がその場にいるのはどう考えても無理がある。合言葉の件もそうだが、ハーマイオニーはどこか詰めの甘い所があるような気がした。ハーマイオニーの応えにどうかドラコが違和感を持たないでくれと心の中で祈っていると、

 

「……そうか」

 

聞いたものの、ミリセントがここにいる理由事自体にあまり興味はなかったのか、はたまた他にもっと気になることでもあるのか、再び疲れ果てた表情でソファーにのめりこんでいた。グリーングラスにいたっては、こちらの話を聞いているのかも怪しく、じっと虚空を見つめ続けている。どうやらミリセントの件では難を逃れたらしい。

奇妙な空気が談話室に満ちている。ドラコとダフネ・グリーングラスは相変わらず心ここにあらずといった様子でソファーに座っているし、僕達は僕達でどうダリア・マルフォイについて聞きだせばいいか考えあぐねていた。しかしポリジュース薬を使っている以上時間は有限だ。時間を気にしたのか、ハーマイオニーが意を決したように沈黙を破った。

 

「そ、そういえば、マルフォイさんはどこに?」

 

当たり障りのない質問だった。これならダリア・マルフォイについてそれとなく質問を続けることが出来る。僕もロンもハーマイオニーの行動に称賛の目線を送るが、

 

「……マルフォイさん?」

 

どうやらいきなり失敗しているみたいだった。ハーマイオニーはいつもの癖で『マルフォイさん』と呼んでしまっていた。ドラコは訝し気な表情を浮かべている。グリーングラスも、流石に違和感を感じたのかドラコ同様の表情でこちらを見ていた。

 

「い、いえ、その、ダリアはどこに?」

 

「……それを知ってたら苦労はしない。寧ろ僕が聞きたいくらいだ」

 

「そ、そう」

 

慌ててハーマイオニーが言い直すと、ドラコは未だに訝し気にしているが、僕達が偽物だとは気づいていないようだ。

どうやらバレなかったらしいが、再び会話のきっかけを失ってしまい、部屋はまた奇妙な沈黙に満たされる。

ミリセント顔のハーマイオニーは立て続けの失敗に焦った表情をしているし、僕とロンはどう切り出せばいいのか分からない上に、そもそもクラッブとゴイルらしい会話というものが一切思いうかばなかった。しかし、この沈黙はドラコによって破られる。

 

「……ああ、そうだ。今朝父上が送ってきたんだが……。見るか?」

 

「う、うん。見たいわ!」

 

行き詰った状況で、これぞ天啓と言わんばかりにハーマイオニーが頷く。なんでもいいから会話のきっかけが欲しかったのだろう。

僕とロンもそれが分かったので、なるべくクラッブとゴイルらしく愚鈍に見えるように頷いた。

 

しかしドラコがポケットから差し出したのは、僕たちの高揚感を一瞬で壊すには十分な、あまりにも不快な内容だった。

 

それは、『日刊予言者新聞』の切り抜きだった。

そこには、僕らが飛ばした空飛ぶ車の件でウィーズリーおじさんが尋問にあったこと。そして金貨50ガリオン程の罰金を言い渡されたことが書いてあったのだ。

 

「面白いだろう?」

 

ドラコは弱弱しく笑いながら言った。

ハーマイオニーは何とか乾いた笑いを絞り出した。僕はというと、今にも殴り掛かりそうなロンを手で抑えるのに必死だった。気持ちは分かるけど、こんな所でドラコに殴り掛かれば一瞬でばれてしまう。

 

それに、ハーマイオニーが『マルフォイさん』と言ってから、グリーングラスがじっと僕達を見つめているのだ。正確にはミリセント顔のハーマイオニーを疲れた表情ながらずっと見つめている。

何も言ってこないからバレてはいないと思うのだが……。

 

そんな僕たちの様子に気が付かないのか、

 

「まったく。こんな下らない一族の記事が報道されるのに、どうして今城で起きてることは報道されないのか疑問で仕方がないよ」

 

マルフォイは相変わらず沈んだ声でつづける。

 

「多分ダンブルドアが口止めしているに違いない。……あの老いぼれ。本当に余計なことしかしない」

 

僕のロンを止める手が止まってしまった。ロンは突然硬直した僕をゴイル顔で見上げた。

 

「父上はダンブルドアがいること自体が学校を最悪にしていると常々おっしゃっていた。まったくその通りだ! あの老いぼれはもう耄碌しきっている。あんな奴が偉大であるはずがあるものか! あんな奴がいるから、」

 

「それは違う!」

 

ロンではなく、今度は僕が抑えきれなくなってしまった。僕を『継承者』ではないと信じてくれた、僕が最も尊敬している校長を馬鹿にされて思わず叫んでしまっていた。

マルフォイなんかが馬鹿にしていいような人ではない! 僕をいつも導いてくれたし、そしていつも助けてくれる先生をこんな奴が馬鹿にするのを僕は許せなかったのだ。

 

しかし当然のことながら……それはハーマイオニー以上の大失敗だった。

 

頭に血が上ってしまったが、一瞬遅れて我に返る。

慌ててマルフォイを見ると、まさか反論されるとは思っていなかったのか、唖然とした表情でこちろを見つめている。それはそうだろう。彼にとって置物同然だった存在が、突然自分に異を唱えてきたのだから。しかもスリザリンの生徒がダンブルドアを庇うという前代未聞の行動付きで。

やってしまったと冷や汗をかいているうちに、マルフォイの表情はみるみる怒っているものに変わっていく。

そしてマルフォイが何か言おうとした時、意外な人物から声がかかった。それは部屋に入ってからというもの、ずっと疲れた表情で黙りこくっていたダフネ・グリーングラスだった。

 

「……へえ、クラッブ。教えてよ」

 

グリーングラスの方を見ると、今までの疲れ果てた表情と打って変わり、その瞳には怒りが満ちていた。静かな口調ではあったが、それがなんだか非常に恐ろしいものに感じられた。

 

「ダリアをあそこまで追い詰めている人間が、どうして最悪じゃないと言えるのか教えてよ。あなたはダリアの味方だと思ってたんだけど、まさか違ったの? それとも他に最悪な人間がいるのかな? ダリアを追い詰める人間以上に最悪な人間が……。ねえ、クラッブ、どうなの?」

 

憎しみすら感じる様な表情に、僕は何も言えなかった。単純に自分の失敗で頭が真っ白になっていたのもあるが、それ以上に、なんでここまでグリーングラスが怒るのか分からなかったのだ。

蛇に睨まれたカエルのようになっている僕を見かねたのか、

 

「ハ、ハリー・ポッターよ!」

 

ハーマイオニーが慌てて助け船を出してくれた。僕はすぐにハーマイオニーに同意するように頷く。僕をやり玉に挙げるのはどうかと思ったが、ここは仕方がない。

でも、それはどうも逆効果だったらしい。

 

「はぁ? ハリー・ポッター? 彼がなんでダンブルドアより最悪なの? 確かにいつもダリアに鬱陶しい視線を向けてるけど、それは忌々しいことに今のこの学校では普通でしょう? 彼はただ誘導されてるだけ。それを誘導したのがあいつ、ダンブルドアよ? なんでそんな奴よりポッターが最悪なの? ミリセント、もしかしてあなた、ダリアが『継承者』だからそれも当然って言いたい、」

 

怒りの方向を僕からハーマイオニーに移したグリーングラスは、まるで今までためてきたものが噴出してしまったようにまくし立て始めた。しかし、同じく怒った表情をしているものの、グリーングラスのあまりの剣幕に逆に冷静になったのか、

 

「ダフネ! 落ち着け!」

 

途中でマルフォイが止めに入った。

グリーングラスはマルフォイの静止で我に返ったようで、少しの間気まずげな表情をしていたが、最後にポツリと、

 

「ごめんね……。ちょっと疲れてて……」

 

「こ、こちらこそごめんなさい」

 

突然矛先の変わった怒りに唖然としていたハーマイオニーだったが、グリーングラスが誤ったことで慌てて謝り返していた。

 

「……ダフネ。お前は少し休んだ方がいいぞ。お前、あんまり眠れてないだろう?」

 

「うん……。でも、それはドラコも同じでしょう?」

 

「……僕はいいんだ。僕は家族なんだから……」

 

二人はよく分からない会話をしていたが、ドラコはポツリと呟いた。

 

「それにしても、ポッターか……」

 

マルフォイがその名前を口にするのも汚らわしいと言わんばかりに話す。

 

「みんなあいつをダリアの共犯者だとかぬかしてる。そんなわけないだろうに。あいつは()()()パーセルマウスだ。パーセルマウスなだけで闇の魔法使いの証明になるものか。あいつは『継承者』でも、継承者の共犯でもない! あんな愚鈍な奴が『継承者』だったらこんなに苦労などしない! どいつもこいつも馬鹿ばっかりだ!」

 

どうやら僕が『継承者』一味だと思われるのが気に食わないらしい。おそらく自分の家の功績を横取りされたことに腹を立てているのだろう。

僕は息を殺して待ち構えた。ダリア・マルフォイ本人がいないやら僕達は失敗続きだはと一時はどうしようかと思っていたが、どうやら兄が妹の犯行を証明してくれるかもしれない流れだった。このまま兄ともどもダリア・マルフォイを捕まえれるかもしれない。

 

そう思ったが、

 

「まったく、一体どこのどいつなんだろうな『継承者』は……。そいつさえいなければ、ダリアはこんなことにならずに済んだのに……。全く、余計なことをしやがって! そいつが捕まったら父上に言って必ず報いを受けさせてやる!」

 

それは全く予想していなかったことだった。僕はドラコがここでダリア・マルフォイの犯行を証明するものだと信じ切っていた。

でも実際は、ドラコの口ぶりからすると……どうやらダリア・マルフォイが継承者ではないような話し方だった。

ロンもその可能性すら考えていなかったのか、口を大きく開けて驚いている。その反対に、ハーマイオニーはミリセントの嬉々とした表情だった。おそらくこの学校でほとんど唯一ダリア・マルフォイの無実を信じ切っていた彼女は、自分の正しさが証明されて嬉しくて仕方がないのだろう。ハーマイオニーはさらにダリア・マルフォイの無実を確信すべく質問を続ける。

 

「でも、誰が裏で糸を引いてるのか、あなたは知ってるんじゃないの?」

 

「いや、ない」

 

マルフォイの応えはきっぱりとしていた。

 

「父上は今回の件について何も教えてくださらなかった。前回の『部屋』が開かれた時のことすらもだ。50年前のことということもあるのだろうが、おそらく僕達が知りすぎるのは怪しまれると思われたのだろう。ダリアはそんなことなくても疑われているがな……。あの老害のせいで……」

 

マルフォイは長い溜息をついた後続ける。

 

「僕が知っていることと言ったら、前回『部屋』が開かれた時に、『穢れた血』の一人が死んだということだけだ。今回もそうなるだろうな……」

 

そう言い切ったきり、再び思考に埋没しそうなマルフォイに慌てて尋ねる。未だに信じられないことだが、ダリア・マルフォイが犯人である可能性が()()()()なくなってしまった以上、なるべく多くの情報を手に入れたかった。

 

「前に『部屋』を開けた奴は誰だったの?」

 

「ああ……うん……僕は知らない。追放されてはいるらしいけどな。でも、今頃は捕まってアズカバンだろう」

 

「アズカバン?」

 

初めて聞いた単語に、僕はオウム返ししてしまった。しかしどうやらそれは魔法界における常識だったらしく、マルフォイは信じられないものを見る様な目つきで僕を見た。

 

「おいおいクラッブ。お前アズカバンすら忘れたのか? アズカバンは魔法使いの監獄だろ? まったく、お前はどこまでウスノロになれば気が済むんだ」

 

マルフォイは呆れたようにこぼした。

 

「とにかく、僕は今回の件を何も知らない。父上はダリアが疑われていることに非常にお怒りになっているが、僕にはただもうすぐこの状況も終わるとしか仰らない。ただもう少しだけ『継承者』の好きにさせておけとしか。……まぁ、父上も今はお忙しい時期なのだろう。ダンブルドアはもうすぐ追い出せるからいいとして、他にも立ち入り調査の件もある。今頃我が家にあの忌々しいウィーズリーが上がりこんでいると考えると反吐が出るよ」

 

「……」

 

今はゴイルであるため何も言えないが、ロンがマルフォイの口ぶりに拳を握りしめていた。僕はロンが殴り掛かりやしないかとそちらを見やると、ゴイルの毛が赤くなり始めていた。

 

 

 

 

その様子を、グリーングラスはやはりジッと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハーマイオニー視点

 

階段を駆け上がり、私達は『嘆きのマートル』のトイレに走りこんだ。

 

「な、なんとか帰ってこれたわね」

 

ゼイゼイ息を切らしながら呟くと、同じように地面にへたり込んでいるハリーとロンが無言でうなずいていた。

 

ロンの変身が解けだしたことに気が付いた時、ロンも私とハリーを見て驚愕の表情をしていた。きっとロン同様私達も時間切れだったのだろう。

そしてその推測は正しかった。

適当な言い訳を叫びながら談話室を逃げ出し、廊下を走っている頃には丁度良かった大きさの服が、私達には大きすぎるものに変わっていた。

ダブダブになってしまった服を引きずりながら、私達は廊下を走りつづけた。

 

何とか誰にも会わずにトイレに逃げ帰ることに成功した私達が地面に腰掛けていると、ロンがおもむろに口を開く。

 

「まったく時間の無駄だったよ!」

 

ロンがまだ整い切れていない息でつづける。

 

「絶対にダリア・マルフォイが『継承者』だと思ったのに! しかもあの口ぶり……あいつら今日パパが立ち入り調査することを知ってたぞ!?」

 

「……そうね」

 

腹立たし気に大声を上げるロンとは裏腹に、私の心は非常に晴れ晴れとしていた。ロンには悪いけど、私にとってはこの作戦は大成功なのだ。

 

「でも、これでマルフォイさんが無実だってことは証明できたわ」

 

私の明るい声音に、ロンの苛立った言葉は止まった。恨みがましくこちらを見ているけど、彼にももうマルフォイさんの無実は確実なものとなっているのだろう。唯一ハリーだけが私の言葉に反応せずに考え込んでいるのは気になるが、今の私にはたいして気にならなかった。私はこの後すべきことで頭が一杯だったのだ。

 

「後はこの話をダンブルドアに持っていくだけよ! この話をすれば、きっとダンブルドアもマルフォイさんを信じてくれるわ! さあ、そうと決まればさっそく、」

 

この時、私はこれでマルフォイさんの疑いは晴れると信じていた。

このことをダンブルドアに伝えれば、きっとダンブルドアなら信じてくれる。そしてダンブルドアさえ信じてくれれば、皆だってマルフォイさんのことをもう『継承者』だなんて思わなくなる。

 

そう、無邪気に信じ切っていた。

 

でも、

 

「やっぱり……。あなただったのね、グレンジャー」

 

私はこの日思い知った。

誰かを救うには、決して『思い』だけではいけないのだと。

 

私は今回と同じようにマルフォイさんが疑われたら、きっとまた彼女を助けるために行動するだろう。彼女が疑われるなんて間違っている。その気持ちに嘘はない。

 

でも、それだけではダメなのだ。

 

私はこの日、よかれと思って行ったことであっても、決していい結果になるわけではないことを知った。

 

浮かれた気分に冷や水がかけられるような声音だった。

トイレの入り口から突然かかった声に驚いて振り向く。ハリーとロンも、ここに現れるはずのない第三者の出現に慌てて入り口に顔を向ける。

 

そこには……先程まで談話室にいたはずのダフネ・グリーングラスが、瞳に憎悪をやどらせてこちらを見つめていた。

 

「グレンジャー。あなたは違うと信じていたのに……」

 

 

 

 

私は……一体どこで間違えてしまったのだろう。


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