ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス   作:オリゴデンドロサイト

7 / 218
幸せな家庭

闇の帝王が赤ん坊によって敗北してから五年。

マルフォイ家にとってこの五年間は非常に慌ただしいものだった。

闇の帝王が消えてすぐ。ルシウスは真っ先に魔法省に出頭し、自分は服従の呪文に掛けられていたと訴えた。

無論、そんな戯言を信じた人間は皆無であっただろう。が、結局彼は無罪として放免された。

 

何故か。

理由の一つは、他にも服従の呪文に実際にかけられた人間が大勢いたことだ。

服従の呪文の恐ろしさは、一見その人間が操られているのかそうでないのか、ほとんど見分けがつきにくいということがあげられる。そのため、ルシウスやその他の裏切った死喰い人が、本当に呪文をかけられたかどうかは証明できなかったのだ。

 

2つ目の理由は、ルシウスの死喰い人としての役割だ。彼はその純血貴族としてのアドバンテージを使い、魔法省を闇の帝王の傀儡にしていくのが主な役割だった。そのため、死喰い人として、闇祓いと戦ったことが数える程しかないのだ。そのため彼を死喰い人として証明しきれる程、証人がいなかった。

 

そして何より最大の理由は、その影響力だった。彼は死喰い人として疑われているとはいえ、その影響力は未だ衰えず魔法省内に有している。そのアドバンテージを最大限利用して、その闇の帝王から与えられた役割を全うしていたのだが……皮肉なことに、彼がいなくなってしまうと、この闇の帝王がいなくなったばかりの混乱期に魔法省が機能しなくなってしまう恐れがあったのだ。

 

そんな政治的理由と、数多くの裁判官にガリオン金貨を渡すことで、彼は晴れて無罪放免となったのである。

結局、逮捕されアズカバンに送られたのは、死喰い人として動かぬ証拠がある者と、未だ闇の帝王に忠義を貫くものだけであった。

 

だが、無罪放免となったとしても、その疑いの視線が消え去ったわけではない。

インタビューをしようと押しかけて来る記者や、何とか彼の死喰い人としての証拠をつかもうとする闇祓いなど。

裁判が終わってからもしばらくは混乱が収まることはなかった。

 

 

 

 

そんな状態がようやく完全におさまった五年後。

1986年7月31日

 

マルフォイ家の一室、月明かりが入ってくる書庫に彼女……ダリア・マルフォイはいた。

 

月明かりに照らされる少女は流れる様な白銀の髪を持ち、その肌は髪に溶け込むような、おしろいのように白い肌だった。薄い金色の瞳をしたその目は釣り目をしており、六歳ながらどこか可愛らしいというより、美しいと思わせるような顔立ちをしていた。このままいけば、さぞ絶世の美女として将来期待がもてるだろう。

 

しかし、この少女はどこまでも()()()だった。

それでも美人と言えるのは、なぜかこの少女の場合、その無表情すらその美貌を引き立てるものになっているからだろう。

少女は六歳とは思えぬ気品を醸し出しながら、その手に持つ本をめくる。無表情ながらもその光景は実に絵になることだろう。

 

手に真っ黒な、()()()()のかけられた手袋をしていなければ。

そしてその手に持っている本が、おぞましい闇の魔術の本でさえなければ。

 

コンコンと部屋の入口の方からノックの音がする。

 

「またここにいたのね、ダリア」

 

すらっとしていて色白の、ブロンドの髪をした美女が部屋に入ってくる。

 

「また本を読んでいたの? あなたは本当に勉強熱心ね。ドラコにもちょっとは見習ってほしいわ。貴女のお兄さんなのに」

 

そう微笑みながら話かけてくる女性こそ、彼女の母親のナルシッサであった。

余談だが、別にドラコは特別勉強から逃げているというわけではない。むしろ彼はその年の子供としては大変勉強熱心であった上、勉学も優秀な部類だった。だが、ダリアと比べるとどうしても見劣りしてしまう。

闇の帝王が消え、急いで死喰い人として完成させなくてもよくなったとはいえ……元死喰い人としてはやはり、闇の帝王から預かったダリアを死喰い人として育てないというのはルシウスには一抹の不安があった。だからこそ、彼は3歳の頃より彼女にちょっとした魔法などをかなり早めに教えていたのだが、彼女のずば抜けた秀才ぶりが発揮され、今ではホグワーツ高学年程の知識を頭に自主的に詰め込むようになっている。

 

「いえ、お母様。お兄様も頑張っておいでですよ。この前もお父様に勉強をおしえてくれと自分でせがんでいましたし。それに私はただ魔法の本を読むのが好きなだけです」

 

そう母に苦笑しながらかえす。しかし、はた目には彼女はどこまでも無表情だった。その表情が苦笑を浮かべているように見えるのは、おそらくマルフォイ家の人間のみだろう。

 

「ところでお母様? どのようなご用事でこちらに?」

 

「もう、忘れたの。今パーティーの二時間前よ? それでパーティーの準備をしてるか確認しに来たのよ。貴女の誕生日なのだから、しっかりおめかししないと」

 

ダリアはパーティーの二時間前に一緒に準備しましょうと言われていたのを思い出した。本を読んでいるうちにすっかり夢中になってしまい、そのことを忘れていたのだ。

 

「ああ、もうそんなお時間なのですね」

 

そう言って本を書棚に戻し、娘は母とドレスルームにむかうのであった。

 

 

 

 

パーティーといっても今日のものは内輪のみのものだ。

公式には彼女の誕生日は6月5日と、ドラコと同じ日ということになっている。

だが、実際は今日7月31日のため、こうして家族4人のみであるがささやかに誕生日パーティーを開くのである。

 

「おまたせしました」

 

母と娘がマルフォイ家の豪華な食堂に顔をみせる。あらかじめそこで待っていた父と息子が二人を出迎える。

 

「ああ、二人とも非常にその服が似合っている」

 

ナルシッサは上品な薄い黄色のドレスを、そしてダリアは肌の色とは真逆の黒色のドレスを着ていた。ダリアの手には相変わらず黒い手袋がされている。

 

「はい、そうですね父上。ダリアとてもきれいだ」

 

ドラコが父の真似をして紳士ぶる。たった六歳の彼にはまだ紳士のふるまいというものを理解しきれてはいなかったが、純血貴族として父親に厳しくしこまれたためか、ある程度それらしく振舞うことができていた。

 

「ありがとうございます、お父様、お兄様」

 

六年も一緒にすごしているからか、ドラコだけでなく、もうルシウスにもその表情が微妙にはにかんでいるように見えていた。

 

「さあ、では始めようか」

 

それぞれが自分の定位置に座っていく。ダリアの食器だけ木製だ。

 

「ではダリア、誕生日おめでとう」

 

「おめでとう、ダリア」

 

「おめでとう」

 

家族の祝福を受け、

 

「ありがとうございます」

 

他の人にはわからぬが、かすかに、心底嬉しそうな微笑みを浮かべるダリアがそこにはいた。

 

 

 

 

愛する家族に囲まれた、幸せな家庭の一場面がそこにはあった。

 




ダリアはまだこの段階ではまだ結構明るい子です。闇の魔術にひかれたりしてますが。
まあ、無表情なんで、他の家の人がみたら、
「超かわいいこだけど、こいつはやべー」と思われます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。