ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス 作:オリゴデンドロサイト
ダリア視点
家族で誕生日パーティーをした数日後。
「そろそろドラコとダリアの友達を選ばなくてはいけないな」
お父様が夕食の席で突然そのようなことを仰い始めた。
「そうね、二人とも六歳になって、『お茶会』を開かないといけない年ですものね」
お母様がはそう納得されているが、私にはなんのことだか分からなかった。
「母上、お茶会とは?」
お兄様も私と同じで理解できなかったのかお母様に尋ねる。
それにお母様が丁寧な説明を始める。
「お茶会っていうのはね、六歳になった純血貴族の魔法族を、パーティーで他の純血貴族にお披露目することなのよ。そこで同年代の純血の子と知り合って、
「お前達は純血の中でも、さらに尊い聖28一族筆頭なのだからな。やはりそれにふさわしい友達を選ばねばならない」
「なるほど、わかりました。『じゅんけつ』ですものね」
お兄様が隣でそううなずいているが、おそらく意味はよく分かっていないだろう。
純血。私の両親がよく仰る、魔法族の中で最も偉大な存在。純血かそうでないかで、魔法族は偉大かどうかが決まる。
わたしの大好きな両親はよくそうおっしゃっている。
だが、ふと私は思う。
本当に私は純血なのだろうか?……と。
それは私が4歳半の時。私はいつものように書庫に行き、魔法の本を読んでいた時のこと。
はじめはお父様に何が何だかわからず魔法を教えてもらっていたのだが、最近は魔法の勉強が楽しくて仕方がない。特に
この分野の勉強をするとお父様が大変ほめてくださることもあるが、心のどこかからか……闇の魔法を
だが、闇の魔法を勉強していても、お父様から、
『危ないから、わたしのいないときに魔法を使おうとしてはいけないよ』
と常々言われていたので、本を読むだけで今は実践することはできない。
それに会ったことはないが、ひいおじい様から受け継いだという杖を、自分の部屋に置いてきてしまっていた。
魔法族は11歳の時、自らの杖を買うのだというが、お父様が、
「それではダリアの場合遅すぎる……」
とおっしゃって、練習用の杖をくださっていたのだ。
だから闇の魔法を今実践することができない。
お父様のおかえりを待とうかなとも思ったが、今朝、お母様に帰りが遅くなるとおっしゃっていたのを思い出す。
ここ最近お父様は大変忙しそうにされている。なんでも、まだ嗅ぎまわっている連中がどうとか。
お父様になかなかお会いできないのは寂しいが、我儘をいうわけにはいかない。
むしろ、お父様がいない間にしっかり勉強して、お父様にうんとほめていただこう。
そう思い、闇の魔法の本に再び目をおろすが、使ってみたいと思いが邪魔するのか、なんだかいつもより頭に入ってきづらい。
であれば他の本でも読もうかなと思い立ち、ふと目についたのが、
『闇の魔法生物』
という本だった。
この本だったら写真もついている上、今の集中しきれない状態でも読めると思い本をひらく。
そこには恐ろしい闇の生物たちの生態が書いてあった。
ピクシー、ドクシーといったあまり恐くないものから、狼男、鬼婆など、もっと恐ろしい生き物のことまで書いてあった。
私は喜々として読み進めていると、ふとあるページで手が止まった。
『吸血鬼……その生き物は、強靭な肉体を持ち、再生能力などといった特殊能力をもつが、日光、銀、ニンニクが弱点であり、特に日光と銀は、その体を焼くことができる』
と書いてあった。
……私はいつも疑問に思っていることがあった。
まず力。
私の力は、今では大の大人にさえ負けないくらいになっていた。走るのも大人に負けないくらいのスピードで走ることができる。
以前はそれが自慢であったのだが、お父様にそれではいけないと言われ、以後今つけている手袋をはめることを義務付けられた。
この手袋はなんでも闇の魔法がかけられており、つけたものの力を、つけている間は奪うことができるそうだった。
本来であれば、この手袋をつけた段階で、自力では手袋を外すことすらできないほど力を奪われるのだそうだが……私の場合、それが程よい程度に力を抑える働きになっているらしい。丁度お兄様くらいの力しか出すことが出来なくなる。
そして食器。
家族の食器だけ銀食器なのだが、私のだけ木製だ。一度家族の食器に触ったことがあったのだが、触ったところに一時的に火膨れができてしまった。
その時、それを見てしまったお母様から、
「触ってはだめといったでしょ!」
と厳しく怒られてしまった。傷自体はお説教が開始されたときにはもう消えていた。
最後に日光
お母さまとお外に出かけることが時々あるのだが、必ず日傘をさすようにいつも言われている。
私の肌は非常に日光に弱いらしく、日にあたるとすぐに火傷してしまうのだそうだ。
そのためか、お母様はあまり私を外に出したがらない。
そのことを思い出していると、やはりこの本に書いてある吸血鬼の特性と、あまりにも酷似しているように思えてならなかった。
そう思いながら、部屋の窓をみやる。そこには銀髪、白い肌、薄い金色の瞳をした無表情の少女が反射していた。
常々疑問に思っていた。
あまり私の容姿は両親に似ていないのだ。
両親ともに、こんな瞳の色をしていない。
私はそんな疑問で、心が不安に満たされてしまった。
そうなるといてもたってもいられず、すぐお母様のところに向かう。
幸いにも、すぐにお母さまを見つけることができた。
「お母様。すこしよろしいでしょうか?」
「どうしたのダリア? そんなに怖い顔をして」
お母様は、かすかに浮かんだ私の表情をよんだのかそうおっしゃった。
そんなお母様に、私は黙って吸血鬼のページが開いた本をさしだす。
お母様は一瞬ぎょっとした表情を浮かべられたのち、私の顔を悲しそうな顔をしてのぞき込まれた。
「わたしは……吸血鬼なのでしょうか? お母様達は由緒ある純血貴族です。私はお母様達の子供ではないのですか……?」
「馬鹿なこと言わないで!! あなたは誰がなんと言おうと私とルシウスの子供よ!!」
そう怒られてたのだが、一瞬はっとして、また少し悲しそうな顔にもどられた。
「ごめんなさい、どなったりして……。ダリア……あなたも不安でしょうがないのに……」
そして、
「本当ならばもう少ししてから話そうと思っていたのだけど……」
そうお母様は話し出す。私の真実を。
「確かにあなたは吸血鬼の特性をもっているわ、だけどあなたは完全に吸血鬼というわけじゃない。あなたの半分には私たち以上に尊い血が流れているの。その尊いお方から、あなたが赤ん坊の時、私たちの娘としていただいたの。確かにあなたは私がおなかを痛めて産んだ子ではないかもしれない。でもわかって。あなたはそれでも私たちの愛しい子供なの」
これだけは分かってほしいと、お母様は私にそうつぶやく。
わたしはそんな悲しそうに話すお母様の顔を見ているうちに、自分が恥ずかしくなった。
私は、大好きなお母様を、こんな風な表情にしたかったのではない。
私は愛するお母様に、こんなことを言わせたかったのではない
そうだ、私がたとえ吸血鬼だろうと、たとえお母様達の子供ではなかろうと、お母様たちと過ごしたこの日常は本物なのだ。私はお母様が愛していると言ってくださった以上、お母様の子供なのだ。
私は疑問を心の奥に押し込み、お母様を安心させるべく、笑顔を浮かべるのであった。
でも、ほとんど顔は動かなかった。
その夜。
夜遅くに私はお父様の書斎に呼び出される。
眠気眼でたどり着き、書斎のドアをノックすると、
「入りなさい」
そうお父様が中から声をかけられたので、そっと中に入る。
「悪いな、こんな夜遅くに」
「いえ、それでお父様、どうして私をお呼びに?」
そう言う私に、躊躇れているような表情をしながら、
「シシーに聞いたよ。吸血鬼のことに気付いたんだそうだな?」
お父様はそんなことを話し始めたのだった。
眠気は一気に吹っ飛んだ。
「はい……」
そう答える私にお父様もやはり一瞬悲しそうな顔をされる。
「そうか……。ならば真実をそろそろ話さなければならないな。だが、シシーも言ったそうだが、どんなことがあろうと、お前は私たちの子供だ。それだけは忘れないように」
「はい」
そう私が頷くと、お父様が語りだす。
「お前は闇の帝王が造りだした子供だ」
私はお父様がおっしゃっていることが一瞬理解できなかった。
「闇の帝王が……造り……だしたですか?」
闇の帝王。かつて魔法界を恐怖のどん底に突き落とした闇の魔法使い。そしてかつては、お父様の主であったお方。
「そうだ、闇の帝王はご自分の血と、吸血鬼の血でお前を造りだしたとおっしゃっていた。私たち死喰い人の上に立つ存在として」
「死喰い人?」
「帝王に従い、この世からマグルや穢れた血を一掃する使命を帯びた者たちのことだ。かつて私もそうだった。そして、そうなるようにお前を育てなければならない義務があった」
私がこの世に産み落とされた理由。
誰かがお互いを愛し合った末、私が生まれたのではない。
はじめから道具として、
「でしたら、私は……その死喰い人となるため
そう、私はただの死喰い人、マグルたちを殺すために造られた道具ということなのか?
正直、私は『この世からマグルや穢れた血を一掃する使命』などどうでもよかった。
両親はことあるごとにマグルや穢れた血について悪口をおっしゃるが、そもそもそれらがどんな存在であるかが、まだよくわからなかった。
それに自分の半分の血が吸血鬼である以上、自分のことを純粋に純血だと言い切れなくなってしまったのもある。
「闇の帝王はそうお考えだった。だが、もう闇の帝王はいない。どこかに逝かれてしまった。お前はもう自由だ。勿論、マルフォイ家として立派な死喰い人となってほしいとは思っている。だが、今は自分の好きなことをゆっくりとやっていけばいいのだよ」
そうお父様はおっしゃっているが、私はその言葉でよけいに不安でいっぱいになった。
造りだされた動機はなんであれ、確かに私には確固たる心があると思う。それは別に死喰い人になりたいという願望ではない。その点で、完全には、闇の帝王が造ろうとした道具にはなりきっているわけでは、ないのだろうと思いたい。
だが、それならば
何故、私が今一番好きなことは闇の魔術の勉強なのだろう。
闇の魔術とは結局のところ、人を傷つけるための魔法のことだ。
ときに人を服従させ、苦しめ、そして殺す。長い魔法界の歴史の中で、数え切れない不幸を作り上げてきた魔法だ。
そんなことわかっているのに。
誰かを傷つけたいという欲求があるわけではないのに。
何故、私はこんなにも闇の魔術に惹かれているのだろう。
別に闇の魔術以外の魔法が苦手というわけではない。むしろよくお父様にほめられるほど優秀なほうだ。
でも、やはり闇の魔術の方がうまく使いこなせられるのだ。
闇の魔術を使うとき、心が確かに浮き立つのだ。
そんな存在をはたして、本当に人を殺すための道具ではないと言えるのだろうか?
この私の心は本物なのだろうか?
結局私は、私を造りだした闇の帝王の敷いたレールから逃げきれていないのではないか?
両親は私を家族として見てくれているのに、私は闇の帝王の道具でしかないのではないだろうか?
死喰い人となるように造られた私が、結局その機能のまま、最適な行動をとっているだけではないのか?
私の中に、そんな疑問が浮かんでは消えていく。
「……やはり早すぎたのかもしれないな。今日はもう寝なさい。今日はいろんなことがあったせいで、お前は少し疲れているのだよ。今晩はしっかり寝て、明日ゆっくり考えなさい。だが、忘れないでくれ。お前は誰が何と言おうと私たちの子供だし、私たち家族がお前を愛していることに変わりはない」
「はい……お父様」
私は若干おぼつかない足取りで寝室に向かう。
ベットに入り、目をつむっても、やはりなかなか寝付けない。
数多くの考えが浮かぶ中、結局わたしを苦しめている疑問は一つだった。
わたしは、本当に