ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス   作:オリゴデンドロサイト

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失われた家族(中編)

ルシウス視点

 

「……ダンブルドア。本来ここにいるはずのない貴様に言いたいことは山ほどあるわけだが……私が今聞きたいことは一つだけだ。ダリアは……私の娘はどこにいる?」

 

怒りの炎を燃やすダンブルドアを睨み返しながら、私はそれ以上の怒りを言葉に乗せて言い放った。

娘が()()()()父親としては、実に極々当たり前の質問だ。ダリアの父親として、他に何を尋ねればよいというのか。

だが、どうやら()鹿()()()はそうとは思わなかったらしい。

実に愚かしいことだが、私の第一声がダリアの()()に対する言い訳だとでも思っていたのだろう。目の前の老害以外の人間は一瞬驚愕の表情を浮かべた後、

 

「ルシウス・マルフォイ! 貴様!」

 

等といきり立ち始めた。アーサー・ウィーズリーなど、副校長の制止がなければこちらに飛び掛かっていたことだろう。余程私がダリアの犯行とやらを認めなかったのがお気に召さないらしい。

無論、私はそれらを完全に無視してただ一人を睨み続ける。馬鹿どもの反応など、どうでもいいことだ。私にはただの()()風情に付き合っている余裕はないのだ。

喧騒の中、私はただダンブルドア一人を睨みつけながら繰り返す。

 

「黙っていないで答えたまえ。お前は手紙にダリアが『消えた』と書いていたな。それはどういう意味だ?」

 

「……」

 

しかし一向に返答はない。この老害は周りの喧騒を気にすることなく、ただ静かに私を睨みつけるだけで一向に私の質問に答えようとしないのだ。

じっと……まるで私が焦ってボロを出すのを待つかのように。私自身にダリアの犯行を裏付けさせようとするかのように。

 

本当に……忌々しい爺だ。こんな時に、私を揺さぶっているつもりか!? 

 

この耄碌した爺に付き合っているだけで、刻一刻と時間が無為に過ぎ去ってしまう。ダリアが危険な目に遭っている可能性があるというのにだ!

一切私の質問に答えようとしないダンブルドアに、私が自分を抑え込んでおけたのはここまでだった。

 

「黙ってないで……何か答えたらどうなのだ、ダンブルドア!」

 

私は杖に手を伸ばしながら、今度こそ答えを引き出そうと怒鳴りつける。次何も答えないようであれば、この老害に『磔の呪文』すら放ってやろうと考え始めていたところ、

 

「……ルシウス。言葉通りの意味じゃよ。ダリアは『秘密の部屋』に『消えた』のじゃ。ジネブラ・ウィーズリーが()()()()のと同時にのう」

 

ダンブルドアがようやく口を開いた。しかし、それはただ含みのある言い方でしかなく……私が知りたい情報は一切含まれてなどいなかった。

ダリアがどこにいるのか、一体何故攫われたのか、今無事でいるのかどうかなど一切分からない。

分かったことは、明らかにこの老害がダリアを疑っているという、最初から()()()()()()()()事実のみだった。

 

私は貴重な時間を無駄にしてしまったのだ。

 

「なんだ、それは。……ふざけるな」

 

この期に及んでまだこの爺は……。まだ……ダリアが攫われても尚まだ、ダリアを追い詰めようというのか……。

怒りに震える私を気にした風もなく、ダンブルドアが言葉を続ける。

 

「君はダリアがどこにおるかと尋ねたのう。それについて、残念ながらワシは何の答えも持ち合わせてはおらんのじゃよ。じゃが、」

 

「呆れたものだ。それでも曲りなりに『今世紀最も偉大な魔法使い』と()()()()()()()()のだろう? それが何の答えも持ち合わせておらんだと!? ふざけているのか貴様!」

 

ダンブルドアがさらに何か続けようとしていたが、私はそれに構うことなく大声を上げた。

腸が煮えくり返るような思いだった。この老害は散々ダリアを苦しめておきながら、最後の最後に何の役にも立たないのだ。今なお『継承者』とは無関係なダリアを疑い続けている。

 

こんな男が今世紀最も偉大な魔法使いであるはずがない! ただの老人であるというのなら、私はここで得るものは何もない! 

 

ここに来たことが完全な無駄足だったと悟った私は、時間をこれ以上無駄にしないためにも即座に行動を開始することにした。

 

「貴様が何の役にも立たないなら、私がここにいる理由はない! わざわざ呼び出して貴重な時間を潰しよって! ここにいても無駄なら、私はここを出させてもらうぞ! 私は私でダリアを助けに行く! 来い、ドビー!」

 

「は、はい、ご主人様!」

 

ここに許可なく舞い戻っている理由も含めて、この老害を怒鳴り散らしたいという思いもあるにはあるが……今はそんなことをしている暇はない。

私は急ぎドビーを連れ、副校長室を出ようとした。『継承者』の正体が分かっていても、『秘密の部屋』の所在が分かっているわけではない。私に何ができるかは分からんが、ここにいるよりかは遥かにマシだ。

だが、私が部屋を出ようと背を向けたその時、再びダンブルドアの声が私の背中にかけられることになる。

 

私の怒りを無視したようなその言葉は、案の定酷く不愉快なものであると同時に……酷く心をえぐるものでもあった。

 

「そうじゃよ、ルシウス。君の言う通り、ワシは情けないことに何の答えも持ち合わせてはおらん。どんなに偉大だと持ち上げられようと、ワシは今回の事件について何の手がかりも得てはおらんのじゃ。じゃが……」

 

下らない言を無視しそのまま部屋を出ようとするも、老害はしかしと続けた。

 

「お主は知っておるのではないのか? ダリアが『秘密の部屋』に『消えた』理由を……。君こそが、本当は知っておるのではないのかね? ダリアが何をなしたか。そして……今年の『秘密の部屋』に関する事件が、一体どのようにして起こされたのかを。ダリアを()()ことが出来る方法を、君こそが知っているのではないのかね?」

 

「……どういう意味だ?」

 

その言葉に……私は何故か思わず振り返ってしまっていた。

老人の言葉が、今まで私の心に一切響くことはなかった。今まで老人が吐き続けてきた、ダリアを疑うような言葉の数々。それらが事件の()()を知る私の心に響くはずがない。

 

……だが今の言葉だけは、どうしてか私の心に響き渡ってしまっていた。

ダンブルドアの何気なく言い放った、

 

『ダリアを救うことが出来る』

 

本来なら何の意味も感じず、私の心には決して響くことのないだろう戯言。実際老害の意味するところは、

 

『犯罪を犯したダリアを止めることが出来る』

 

という今まで通りの馬鹿な見解に基づくものだろう。額面だけなら相変わらずダリアを疑ってはいないというスタンスを崩してはいないが、こちらにはダリアへの疑心がハッキリと感じさせるものだった。

だが私には一瞬……ダンブルドアの戯言が、

 

『今年の事件の全てを知っているお前なら、ダリアに何が起こったか分かるはずだ』

 

そう言われた様に感じられたのだ。老人の戯言が、何故か心の奥からの木霊のように、私の心の声として耳に響き渡っていた。

何気ない一言に、私の心の中がざわつく。それは紛れもなく……心の中に押し込めていた()()()から来るものだった。

 

今年の事件の全ては、ダリアをダンブルドアから守るために始めたものだ。ダンブルドアの脅威にさらされ続け、日に日に消耗していく我が愛する娘。私は父親として、どんな手を使ってでもダリアを救う義務があった。

だから実行した。愛する娘を守るために、わざわざ『闇の帝王』から預かったものまで投じた。全てはダンブルドアを追放するために……。()()()間違ってなどいなかった。ダリアが攫われた今でも、己のやろうとしたことに間違いはなかったという確信がある。

 

だが現実は……私の引き起こした事件はダリアを守るどころか、逆にダリアをさらに追い詰めるものでしかなかった。目的が間違ってはいなくとも……私の選んだ()()()、絶望的なまでに間違っていたのかもしれなかった。

 

事件が進むにつれ、本来の『継承者』であるはずのジネブラ・ウィーズリーではなく、守られるべきダリアが『継承者』だと疑われた。ダリアは疑われ、追い詰められ……挙句の果てに『秘密の部屋』に攫われたどころか、それでも尚『継承者』として処理されようとしている。ダンブルドアを追放するという目的を果たしたとしても、決してダリアの辛い状況が覆ることはなかった。寧ろダンブルドアがいた時よりも、ダリアは孤独な生活を強いられているくらいだった。

 

……こんな馬鹿なことがあってたまるものか。ダリアがこんな仕打ちを受けていいはずがない。私は事態が進むたびに、こんな愚かな状況を生み出したダンブルドア、そして学校にいるダンブルドアの信奉者共にさらなる怒りを募らせた。

 

だが同時に……。

ダンブルドアの瞳を今度は直視できず、少し俯き気味に目を逸らしながら私は……心のどこかで、この状況を真に生み出しているのはもしや()()ではないのかと考えていたのだ。

 

ダリアを追い詰めたのは、ダンブルドアであることは間違いない。だが、こうも思った。

私が安易に『秘密の部屋』を開かなければ……。私がダリアを守るためとはいえ、何が起こるか見通せない魔道具に頼ってしまったから……。

 

いやそもそも、私は本当に、()()()()()()()()()()()『秘密の部屋』を開いたのだろうか?

私はダリアを守る目的だけではなく……自分の利益や感情を優先させてしまったのではないのか?

ダリアを真に追い詰めていたのはダンブルドアではなく……。

 

ダリアが責められ、そして攫われたと知ってから、心のどこかで思い続けていることだった。最初は自分でも気づくことはない程小さかった罪悪感は、ダリアが追い詰められるたびに大きなものとなり……

 

そしてダンブルドアの一言で、その思いはもう一つの形をとって心に浮かび上がってしまったのだ。

 

『今真実を話せば、少なくともダリアの無実だけは証明できる。今ダリアに何が起こっているのかを最も理解しているのは、他ならぬ私なのだから』

 

ただの幻聴でしかないことは分かっている。だがどうしても……それを私は無視することが出来なかった。

だから一瞬とも言える時間。だがダンブルドアに、私が何か知っていると悟られるには十分すぎる時間思い悩んでしまった。

しかし罪悪感を感じたところで、

 

「……貴様が何を言いたいのか、私には皆目見当もつかん。私が知るわけがなかろう。私が知っているのは、ダリアが『継承者』であるはずがないということだけだ。純血であるダリアが何故『継承者』に()()()()のか、私に分かるなら苦労はせん」

 

私のすべきことは何一つ変わらない。視線を更に鋭くするダンブルドアから目を逸らしながら、私は絞り出すように呟いた。

もう賽は投げてしまったのだ。もう……後戻りは出来ない。一度始めてしまった以上、私は前に進むことしか出来ない。それはダリアのためでもあるのだ。

それに私が真実を今吐露したことで、状況が改善されるわけではない。ただアーサー・ウィーズリーを喜ばせる結果になるだけだ。私が今なすべきことは、もっと別のことなのだ。

そう私は自分の心の中に生まれた僅かな迷いに蓋をし、こちらを観察するようなダンブルドアの視線から逃げるように扉に向かって歩き出した。

 

しかし……私の歩みは今度も長くは続かなかった。

 

「失礼します」

 

突然扉が開き、7人の人間が部屋になだれ込んできたのだ。

部屋にいた全員が、静まり返ったようになだれ込んできた人間達を見つめる。

 

そしてその中でも最も人目を集めていたのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダリア視点

 

私達が戸口に立った瞬間、部屋の中に沈黙が流れた。

部屋の中にはウィーズリー夫妻、この部屋の本来の主であるマクゴナガル先生、追い出されたはずなのに何故か我が物顔で部屋にいる老いぼれ、そして……私の愛する家族達の姿があった。

それぞれの人間が、それぞれの表情を浮かべて私達を見つめている。

ウィーズリー夫妻は末娘の生存に対する安堵と私への敵意。マクゴナガル先生は信じられない物を見たと言わんばかりの驚愕の表情。表情の一切読めないダンブルドア。

 

でも私にとって、彼らの表情など何の興味もわかないものだった。

私はそれぞれの表情や感情を無視し、ただ愛する家族達だけを見つめ続ける。

 

二人の家族の顔は種族差のせいで似ても似つかないものだけど、でも今は全く同じ表情を浮かべていた。

お父様。そして私のもう一人の家族であるドビーの顔は……二人とも共通して驚愕の後、安堵の表情……私の無事に安心する、ただそれだけの感情に彩られていた。

 

あぁ……やはり、家族は私を待ってくださっていた……。

 

喜びと同時に……後悔や悲しみを抱えて立ち尽くす私に、お父様が静かに声を上げようとする。私が家族に最初に与えられた、私の最も大切にしている名前を。

しかし、

 

「ダリ、」

 

「ジニー!」

 

ウィーズリー夫人の体と叫び声で、私とお父様の間が遮ぎられてしまった。

 

いつもいつも、この忌々しい赤毛共は……。

 

お父様との時間に水を差され苛立っている私を尻目に、暖炉の前に座り込んでいたウィーズリー夫人が飛び上がり末娘の元に駆け寄る。ウィーズリー氏もすぐ後に続き、二匹は娘に飛びつくように抱き着いた。そして一しきり抱きしめた後、今度は私とダフネの前で突っ立っていたグリフィンドール三人組をも抱きしめ始める。

お父様とドビーを、何故か警戒心を露にした表情で見つめていたポッターが、

 

「ぐえっ」

 

というカエルが潰された時のようなうめき声を漏らしているが、どうやらウィーズリー夫人には聞こえなかったらしくそのまま力いっぱい抱きしめていた。

 

「あぁ、ジニー! よかった! 本当によかった! あなた達()()がこの子を助けてくれたのね! この子の命を! でも、どうやって!? どうやって『継承者』からジニーを!? それにどうして『継承者』がここにいるの!? よくも……よくも私の娘を!」

 

ポッター達を抱きしめたことで少し喜びが落ち着いてきたのだろう。今度は喜びより怒りが勝ってきたのか、敵意に満ちた視線を私とダフネに送ってくる。言葉通り私を『継承者』として、そしてダフネを共犯者として断定していることは想像に難くはなかった。

 

「ち、違います! マルフォイさんは『継承者』ではないんです! グリーングラスさんだって、」

 

必死にウィーズリー夫人に声を上げるグレンジャーさんを眺めながら、私は思う。

……やはりポッター達を連れて帰ってきたのは、私のとれる唯一の選択肢だった。

『不死鳥』共々()()()()することも考えたが、ダフネが疑われた場合の言い逃れが出来なくなってしまう上、私がグレンジャーさんを()()傷つけることが出来ない可能性もある。

 

私には……あの鳥を信じるしか道はなかったのだ。

 

部屋に入った途端ダンブルドアの肩に飛んで行った鳥を私が忌々し気に睨みつけていると、ウィーズリー夫人は私の態度を無視だと()()()()()()()()()()()()()。どうやらグレンジャーさんの言葉は聞き届けられることはなかったらしい。彼女が発する結論だけの言葉では不足なのだろう。

私へ向けるウィーズリー夫人の視線が段々と鋭いものに変わっていく。誰かがちょっとでも余計なことを口走れば、部屋の中が凄惨な現場に変わるだろうことは火を見るより明らかだった。

そんな張り詰めた空気の中、

 

「……ポッター。説明してもらえませんか? 私達全員が、あなた達が何をなしたのかを知りたいと思っています」

 

マクゴナガル先生がポツリと呟いた。

空気を変えようという意味もあるのだろうが、どちらかと言えば、いい加減何故私達がここに何の拘束もなく立っている理由も含めて、『秘密の部屋』で起こったであろう真実を知りたくて仕方がなくなったのだろう。それはウィーズリー夫人も同様なのか、私とダフネに向ける視線は緩めないものの、ポッター達を腕の中から解放する。

そして抱擁から解放されたポッターはデスクまで歩き、『組み分け帽子』と宝石の散りばめられた剣、それに真ん中に大きな穴の開いた日記を置き、話し始める。

 

『秘密の部屋』で起こった、彼の()()()()真実を。彼の体験した、()()()()()()()()彩られた冒険譚を。

 

ハローウィーンに姿なき声を聞き、後にそれが『パーセルタング』だと気が付いたこと。ハローウィーン以降も壁の中から『パーセルタング』が聞こえるようになったことや、森番が追放された50年前の状況を聞いたことで、グレンジャーさんが遂に怪物の正体を突き止めたこと。ウィーズリーの末娘を助けたいという思いで居てもたってもいられず談話室を飛び出し、その際にこれまたグレンジャーさんが『バジリスク』が水道パイプを通って移動していることや、『嘆きのマートル』のいるトイレこそが、『秘密の部屋』の入り口であると突き止めたことを……。

当然のことではあるが、そこに私の抱えていたような絶望や切望はなく、ただ自分たちが成してきた危険だが冒険的な事実だけがあった。

 

「そうでしたか」

 

ポッターが15分は話したであろう頃、ポッターの息継ぎのタイミングで、マクゴナガル先生が先を促すように言う。部屋にいる()()全員……私と、いつの間にか私の隣まで移動されているお父様、そして酷くつまらなさそうに欠伸を漏らしているダフネを除いた全員が、ポッター達の冒険譚に夢中になって耳を傾けていた。

私の頭をまるで割れ物でも扱うような優しい手つきで撫でるお父様を横目に、彼らの話は進んでゆく。

 

「そうやって『秘密の部屋』の入り口を見つけたのですね。その間一体何百の校則を破ったのかは知りませんが……。ポッター、しかし一体どうやって、あなた達はここまで生還できたというのですか?」

 

「それは、」

 

さんざん話をしたせいで、ポッターの声は少し枯れ気味だった。しかしそんなことに構わず、彼は話を進めた。

()()()()()()()()()()()()救い出すために、ウィーズリーとグレンジャーさん、そしてロックハート先生と共に『秘密の部屋』に乗り込もうとしたこと。その途中道が崩れてしまい、ポッターだけが先に進まなくてはならなくなったこと。

そして……

 

「僕達はずっと、そこにいるダリア・マルフォイこそが()()()である『継承者』だと思っていました。僕は彼女からジニーを助け出すために、『秘密の部屋』に乗り込もうとした。でも、違ったんです。彼女は『継承者』()()なかった。それを僕は……『秘密の部屋』で知ることになりました。本当の『継承者』自らの口から……」

 

私への疑いが完全に的外れであるということを、彼はやっと口にしたのだった。……当然だ。これを言わせるためだけに、私は彼らを連れて帰らねばならなくなったのだから。

ただ静かに彼の話を聞いていた全員の顔に衝撃が走る。それはジッとこちらを窺うような視線を投げかけていた老害も例外ではない。あの澄み渡りすぎて、逆に何も映していないであろう青い瞳を見開いている。

私の学校での状況を知らなかったのか、こちらを彼らとは別の意味で驚いた様子で見つめるドビー。そして当然のことだと言わんばかりに頷くお父様とダフネだけが、彼らとは全く違う反応を示していた。

 

しかし、どうやらすぐには納得できないらしい。私を散々疑い続けていた面々からさらに詳しい説明を求める声が上がる。

 

「で、では、()()()『継承者』とは一体誰だったのですか? ミス・マルフォイでなく、一体誰が『継承者』だったというのですか?」

 

あまりの驚愕に、私を疑ってはいないという薄っぺらな建前も吹っ飛んでいるのだろう。マクゴナガル先生の明け透けな質問に、ポッターは今まで淀みなく紡がれていた言葉が初めて途切れた。まるで戸惑うように、ジネブラ・ウィーズリーの方をチラリチラリと盗み見ている。

おそらく悩んでいるのだろう。もし真実を話して、誰も彼女が『闇の帝王』に操られていたと証明できなければどうしようか。彼女が純粋な被害者であると、皆に信じてもらえなければどうなってしまうのかと。

彼はなるべく穏便な言葉を探すように、中々口を開こうとしない。

 

()()()()()、私はポッターに助け舟を出してやることにした。勿論、本当にポッターやジネブラ・ウィーズリーを助けるためではない。

早くこの茶番を終わらせてしまうためだ。

私にとってウィーズリーの末娘がどうなろうと知ったことではない。彼女の無実が証明されようが、彼女が疑われたまま退学させられようが私にとってはどうでもいい。そんなことより、ダフネを早く暖かい談話室に返してあげることの方が重要なことなのだから。

 

しかし、ポッターに口を開かせたのは私ではなく……これまで一言も発していなかった老害だった。

私が言葉を紡ぐより早く、奴はいつもの()()()()()()()()()()()()()()声音で先を促す。

 

「ハリー……大丈夫じゃ」

 

それは私に向ける様な疑念や警戒など……これっぽっちも含まれてはいない物だった。

 

「君はジニーのことを心配しておるのじゃろぅ? じゃが、大丈夫じゃ。どんな真実があったにせよ、彼女が悪いことをしておらんことは、ワシだけではなくここにいる()()が分かっておることじゃろぅ。彼女が事件に関わっていたとしても、それはどんな状況でも被害者としての立場じゃ。じゃから、何も不安に思うことはないのじゃよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハリー視点

 

ああ……やっぱりこの人は偉大な人だ……。僕の心の中にうねるような安堵感が溢れる。

この人なら真実をきちんと判断してくれる。ジニーを疑うようなことは絶対にしないはずだ。彼には最初から、()()()()()()()()であるかなんてお見通しだったのだ。

だから僕は再び口を開く。もう迷いはない。ダンブルドアがジニーの安全を約束してくれたのだから。

 

「ヴォルデモートだったんです。ヴォルデモートこそが今年の、いえ、50年前も含めての『継承者』の正体だったんです。前回は彼が学生の時に開き、そして今回はジニーに魔法をかけて操ることで、『秘密の部屋』を開き、『バジリスク』を使って生徒を襲わせたんです」

 

「な、なんですって? 『あの人』? な、なんで突然『あの人』の話が? そ、それにジニーが魔法で操られていた? でも、ジニーはそんな……ジニーはこれまでそんな……ほ、本当なの?」

 

ヴォルデモートの名前に怯みながらも、ウィーズリーおばさんが必死な形相で尋ねてくる。それも当然だろう。疑われて当然であるダリア・マルフォイが『継承者』ではなく、それどころか自分の娘こそが操られていたとはいえ本物の『継承者』だと言われたのだから。ウィーズリーおばさんにとって、ダリア・マルフォイに襲われたという方が遥かに単純で疑いようのない話だったに違いない。

 

でも、それは単なる杞憂でしかない。だって、

 

「ジニーは悪くありません。彼女はこの日記に操られていたんです」

 

僕はこれ以上ウィーズリーおばさんを心配させないように、急いで日記を指さしながら話した。

ジニーは悪くない。この日記こそが全ての元凶なのだ。彼女には責められるべき点など一点もないのだ。ジニーを責めるなんてことは、絶対に間違っている。

 

それにダリア・マルフォイの件だって……。

 

僕はいつもの無表情で立つダリア・マルフォイと、そして彼女の後ろにまるで僕から()()()()()()立つドビーを盗み見ながら思う。

彼女はやはり疑われて当然の人間だった。ジニーではなく、彼女こそが本来なら罰せられるべき存在なのだ。

僕は燃え滾る怒りを抑えこみながら、一つずつ説明を重ねていく。

 

「トムは16歳の時にこれを書きました。この日記にはあいつの記憶が植え付けられていたんです。これを持った人間に、再び『秘密の部屋』を開かせるために。だからジニーは操られていただけなんです」

 

「で、でも、ジニーが……どうして『あの人』の日記なんかを? なんでうちのジニーが、『あの人』の日記を持っているの?」

 

僕の説明にまだ戸惑いを隠せない様子のウィーズリーおばさんに、

 

「わ、わたし、ずっとその日記に書き込んでいたの! 今学期中ずっと! 書き込んだら、その度に親切に応えてくれたから!」

 

ジニーがしゃっくりを上げながら叫び声をあげた。

 

「パパがいつも、独りで勝手に考えるものは信用しちゃいけない、それは闇の魔術がかかっているものに違いないからって言ってたのは覚えてたよ! でも、彼はいつも親切だったから……私思わずこれに書き込み続けていたの! そ、それに……この本は、ママが準備してくれていた本の中に()()()()あったから……」

 

「な、なんで……どうしてそんなものが?」

 

ジニーの悲痛な叫びを受け、ウィーズリーおばさんは益々戸惑ったような表情を浮かべていた。ウィーズリーおじさんも同様の表情だ。紛れ込むはずのない闇の道具。それが最初からジニーの手元にあったと言われたのだから、彼らの戸惑いも当然だろう。

だけど……それももう終わりだ。僕は、誰がこの一連の事件を引き起こしたのか……そして誰がそれを手引きし、()()()()()()()()()()()に気が付いたのだから。

僕は二人の不安を取り除いてあげるため、そして抑え込んでいた怒りを解放するために、怒りの眼差しを部屋の端に立つ四人に向けながら口を開いた。

 

「おじさん、おばさん。何故ジニーがトムの日記を持っていたか……それを一番知っているだろう人が、この部屋にいます。そうでしょう? マルフォイさん……。あと……」

 

僕の中にあったダリア・マルフォイへの罪悪感は、もうすでに僕の心の中のどこにもありはしなかった。

 

 

 

 

「ダリア・マルフォイ」

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