ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス   作:オリゴデンドロサイト

97 / 218
まね妖怪(後編)

 

 ダフネ視点

 

いつからだろう。一体いつから……私のダリアヘ向ける感情は、こんなにも歪んだものになってしまっていたのだろう。

 

ダリアの前に躍り出た時、私はボガートが昔の自分に変化するものだと思っていた。誇りも信念もない、ただの八つ当たりを根幹とした『純血主義』の信奉者。そんなダリアと出会わなかった『私』こそが、私の最も恐れるものだと考えていた。

 

でも実際に出てきたのは昔の私などではなく……ただの同級生であるはずのハーマイオニー・グレンジャーだった。

 

何故ボガートは彼女の姿なんかに!? 私がグレンジャーの何を怖がっているというの!?

あまりに予想外の姿に私はただ困惑した。何故私がグレンジャーなんかを怖がっていると判断されたのか、私は本当に分からなかったのだ。

しかし、私の疑問はすぐに氷解することになる。

 

何故なら……驚く私に向かって、グレンジャーの姿をしたボガートが囁き始めたから。

                                                                                                          

『グリーングラスさん。もう、()()()には近づかないで』

 

体が硬直したような気がした。

昨日私がグレンジャーに放った言葉をそのままに、彼女はまるで私を嘲笑うような表情で言葉を続ける。

 

「な、何を言って……」

 

『ダリアの友達は()()()。ダリアはずっと前から貴女ではなく、()()惹かれていた。貴女も分かっていたはずよ。いつかこんな日が来るかもしれないって。ダリアが友達になりたかったのは貴女ではなく、私だってことを。ダリアが貴女と仲良くなったのは、貴女がしつこく付きまとったから。そうでなくては、貴女とダリアが友達になることなんてなかった。だからもう……』

 

これ以上こいつの言葉を聞いてはいけない。こいつの言っていることは根拠のない戯言だ。そもそもこいつはボガートであって、本物のグレンジャーでも何でもない。私が話を真剣に必要なんてどこにもありはしない。

 

それなのに……私は全く動くことが出来なくなっていた。

戯言だと分かっているのに、どうしても目を逸らすことが出来ない。周りの生徒、それこそダリアや当のグレンジャーだって後ろでボガートの話を聞いているのに、私は何の反応も示すことが出来なかった。

 

何故なら……私はどうしようもなく、ボガートの発する言葉に恐怖を覚えていたから。

ただの戯言でしかない言葉に、私はどうしようもなく心をかき乱されていたから。

 

そして、否定の言葉すら口に出来ずにいる私に、

 

『貴女は用済みなの。貴女はもう、ダリアにとっての()()でも、()()でもなくなったのよ』

 

グレンジャーは決定的な言葉を発するのだった。

杖を持つ手にすら力が入らなくなり、私は杖を取り落としながらその場にへたり込む。

ボガートは私に確かな恐怖感を与えていることが御満悦なのか、グレンジャーの嘲笑うような表情をさらに嫌らしく歪めている。そして私にさらに恐怖を与えるために近づこうとして、

 

「こっちだ!」

 

今まで洋箪笥の横にいたルーピン先生に遮られたのだった。

ダリアの時と同じくボガートへの対応に苦慮していたけど、流石にもう傍観を決め込んでいる場合ではないと判断したのだろう。

先生は私とボガートの間に割り込むことによって、ボガートを別の物に変化させる。

 

バチン!

 

銀白色をした何か丸いものに。

私を含めた全員が訝気に宙に浮いた球体を見つめる中、先生は面倒くさそうに呪文を唱えた。

 

「リディクラス!」

 

そして球体を風船に変え、洋箪笥の中に押し込んだ後叫ぶ。

 

「よ、よ~し、皆よくやった! ダリアも、君も、本当によくやった! 君達の年でこいつと向き合うのは、それだけでとても勇気がいることだ。そうだね……ボガートと対決した子には、一人につき5点ずつ上げよう」

 

先生としては私やダリアの件を有耶無耶にしてしまいたかったのだろう。しかし、正直教室は微妙な空気に包まれていた。授業始めにあった高揚感は消え、皆どこか怪訝な表情をしてダリアと私を見つめている。先生もそれは感じ取れたのか、困ったように咳払いをしてから再度宣言する。

 

「今日はここまでとしようか。もう一度言うが、皆よくやった! 宿題はボガートに関するレポートを自分なりにまとめて提出すること! 以上、解散!」

 

先生の言葉と同時にチャイムが鳴ったことで、皆一斉に部屋の外に出て行く。

皆各々好き勝手なことを話しており、ボガートを倒した時の自らの勇姿や、ボガートと対決した時自分なら何に変化していたかなどを頻りに話し合っている。でも一番多い話題はやはり、

 

「結局、ダリア・マルフォイはなんで自分を怖がってたんだ? そりゃ、無表情のあいつは怖いし、ボガートが化けた笑顔のあいつなんてもっと怖かったけどさ……普通自分のことを怖がるか?」

 

「次からあいつに襲われそうになったら、鏡を用意しておけばいいってことなのかな?」

 

「ダリア・マルフォイのこともよく分からなかったが、ダフネ・グリーングラスもよく分からなかったな。あいつがハーマイオニーのことを怖がっていたなんて驚きだよ」

 

私とダリアについての話題だった。私達がまだ近くにいるため大きな声では話していないが、それでも耳に入るものは入ってしまう。皆一様に訝しみ、議論を交わし合っていた。

でも……やはり、私とダリアのボガートの意味を正確に理解している人間は一人もいない様子だった。いるはずもない。

理解できるとすれば、

 

「ダフネ……ごめんなさい。わ、私は、貴女の友達でありながら……」

 

「……」

 

無表情を僅かに歪ませているダリア当人と、そんな彼女を必死に抑え込んでいたドラコだけだ。

いや、正確にはドラコだけかもしれない。ダリアにも、私の悩みを正確に理解することは出来ないだろう。

だってダリアは……優しすぎるから。私みたいに、心が汚れた人間ではないから。

 

まだ立てずにいる私に近づくダリアは、その綺麗な瞳を潤ませながら続ける。

 

「私は……貴女の悩みに気が付いてあげられていなかった。私は散々貴女に救われたというのに……。それどころか、貴女が目の前で苦しんでいるというのに、私はボガートを()()()()()()ことも出来なかった。……ダフネ、何も心配する必要なんてないのですよ。私がどんな状態になろうとも、()()貴女を友達でないと思うことはあり得ない。貴女にどう思われようと、決して()()貴女を切り捨てることなんてない。だから……貴女が恐れる必要なんてないのです」

 

ああ、やはり……ダリアは半分しか理解していないのだろう。

そうでなければ、こんなにも無邪気に私と接してくれるはずがない。自分を独占しようとしている人間など、普通なら恐怖でしかないのだから。

 

ダリアはボガートの言葉から、私がダリアに見捨てられることに対する恐れを抱いているのだと理解した。私は勿論、ダリアを失うことも恐れている。それは間違ってはいない。半分は正解だ。ダリアに説明されるまで、彼女が吸血鬼であるということしか知らなかったように。

でも、彼女の理解は()()でしかない。

私が真に恐れていたのは、ダリアを失うことと同時に……ダリアに()()()()()()()()()()()だったのだ。

 

「こんな感情……気づきたくなかった」

 

一体いつから私のダリアヘ向ける感情は、こんなにも歪んだものになってしまっていたのだろう。

 

私がグレンジャーに対して嫉妬していることは、流石に昔から気が付いていた。ダリアと彼女は、おそらく出会ったその瞬間から惹かれ合っていた。お互いの好奇心の強さと才能の高さに、彼女達はすぐに気が付いていたのだろう。確かに、私から見ても彼女達はいい友達になれると思った。彼女が『ポリジュース薬』を作るまでは、嫉妬しながらもそのことを嬉しく思ってさえいた。

 

でも、今は違う。

彼女がダリアを貶める一助を為した時、私は彼女に激しい怒りを覚えた。そして時が経ち、私はダリアと友達になり、その怒りが弱まった時……私の中にはもう、いつの間にか彼女に対する仲間意識などなくなっていた。

あったのは彼女に対する強烈な嫉妬。

 

そして……ダリアに対する強烈な()()()だけだった。

 

私はそんな感情の名を、ボガートに見せつけられるまで気が付きもしなかった。でも、気が付いてしまった今なら分かる。

 

『私はただマルフォイさんや貴女と友達になりた、』

 

『マグル学』の授業前。私に遮られたグレンジャーの叫び声。私はあの時、グレンジャーがダリアの友達になる可能性が未だに存在することにたまらなく恐怖感を覚えたのだ。そしてこの醜い感情のままに怒鳴り散らし、無責任にも罪悪感まで抱いてしまっていたのだ。

 

なんて醜い人間なのだろう。

これでは昔の自分と何も変わらない。純血の代わりに、ダリアを信奉の対象にしているだけ。誰かを排除する理由にしているのが、純血主義か親友であるかの違いでしかない。親友である分尚悪い。

でも、それが分かっているというのに……

 

「……ダリア、私は大丈夫だよ。少し驚いただけ。ダリアがそう言ってくれて、私は心底安心できたよ。私は貴女の言う通り……貴女を失うのが怖い。貴女と折角友達になれたのに、貴女と友達でなくなることが、貴女に捨てられてしまうことが怖い。だからダリア……これからもずっと、私()()の友達でいて」

 

「はい! 勿論です!」

 

私は自分の醜い感情を押し隠し、ダリアを騙すように言葉を吐き続ける。

ダリアが人の少なくなった教室で、私にしがみつくように抱き着いてくる。私がそっと彼女の肩を抱くと、ダリアが僅かに身を離して小さな笑顔を見せてくれた。無表情の上に浮かぶ、私とドラコにしか分からない小さな、でもダリアにとっては大きな笑顔。

そんな彼女の笑顔にどうしようもない罪悪感を覚えながら私は思う。

 

あぁ……私の友達はこんなにも素晴らしい人間なのに、私はなんて醜い心を持っているのだろう。

だって……私は今この瞬間もダリアに対する独占欲を抱いている。ダリアを独り占めしたくて仕方がなくなっている。彼女の時間を、私だけのものにしたがっている。彼女の意志や尊厳に見向きもせず、私は私だけのためにダリアを独占したがっている。

 

その証拠に……私は先程残念に思ってしまったのだ。

 

グレンジャーに変身したボガートに、ダリアが『死の呪文』を放たなかったことに。

 

ボガートに怯えている間、私の横眼にはダリアが私の危機に怒り狂い、その瞳を僅かに赤く染め上げているのが見えていた。ダリアは私が貶められることに、ドラコが傷つけられた時同様に怒りを見せてくれていたのだ。

でも、彼女はボガートに……グレンジャーに呪いを放つことはなかった。『死の呪文』を放とうとしていると考えたのだろうドラコが必死に抑え込んでいたこともあるけど、彼女は決して杖を構えたとしても、呪いをかけることはなかっただろう。

 

ボガートがグレンジャーの姿をしているから。

ダリアはまだ、口では何と言おうともグレンジャーに惹かれてしまっているから。

 

私はその事実がどうしようもなく、嫌なことだと思ってしまっていたのだ。

 

 

 

 

まだ視線があるというのに、私とダリアは互いに互いを離すまいとするように抱き合い続ける。

そんな私達にドラコは複雑な表情を、ルーピン先生は戸惑ったような表情を、そして……唯一部屋に残っていたグリフィンドール生、ハーマイオニー・グレンジャーは、とても悲しそうな表情を浮かべながら静かに見つめていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハーマイオニー視点

 

「あの帽子をかぶったスネイプ! 傑作だったよな!」

 

「僕がバンシーと対決するところ見たか!?」

 

「ミイラと私が対決しているところも見たでしょう!?」

 

談話室は夕食を終えた三年生達で賑やかだった。皆時間が経つにつれて再度興奮を取り戻し、狂ったように自分たちの『闇の魔術に対する防衛術』での武勇伝について話し合っている。対決しなかった生徒も、自分なら何に変身され、そしてどうやって倒したかとまるで実際に行ったかのように勇ましく叫んでいた。

……そして一通り叫び終えた後の話も皆同じものだった。つまり、

 

「それにしても……ダリア・マルフォイとダフネ・グリーングラスはボガートに手も足も出せてなかったな。去年はあれだけ学校を恐怖に陥れておいて、自分はボガートなんかに怯えてるんだからな。しかも怖いのが自分とハーマイオニーって……どういうことだ?」

 

「どちらとも意味不明だよな。まぁ、ダリア・マルフォイ避けに鏡を持とうなんて言っている奴いたが、そんなことしたら石にされるどころですまないことだけは分かるけどな」

 

「ハーマイオニーに化けたボガート、あれは一体なんて言ってたんだ? 友達がどうとか言ってたが……断片的すぎてよく分からなかった」

 

マルフォイさんとグリーングラスさんの話題だった。

教室を出る時もしていたけど、あの時は当人たちもいたため大きな声では出来なかった。それが夕食を終え、一通り自分たちの武勇伝を語ったことで気が多くなっているのだろう。彼女達がここには絶対に入ってこないこともあり、皆()()()な程大きな声で議論を交わし合っていた。

 

どれも的外れすぎて、議論の価値もないものだったけれど。

 

かくいう私の隣にも、彼らと同じ愚か者が一人いる様子だった。

興奮したロンが能天気に、イライラしながら『数占い』の本を読む私に声をかけてきた。

 

「今年の『闇の魔術に対する防衛術』は当たりだな! 今までで一番いい授業だったよな? それに、ダリア・マルフォイとダフネ・グリーングラスがボガートに対処できないなんて! 僕のボガートを見たかい!? あの大きな蜘蛛!足を消して転がしてやったんだ! それなのに、」

 

頭の中で何かが弾ける音がした。

私は気が付いた時には立ち上がり、ほとんど叫び声に近い程の大声を張り上げていた。

 

「ロン! 彼女達がボガートに対処できなかったのは、単に彼女達の怖いものが貴方のちっぽけな対象より複雑だったというだけよ! 実際、マルフォイさんの怖がっているものを、私も含めて誰一人として理解出来ていない! ボガートは貴方でも対処できる程簡単な生き物なのでしょうけど、それに優秀な彼女が対処出来なかったのは何か大きな理由があるからなんだわ! グリーングラスさんの方は少なくともマルフォイさんよりかは分かりやすかったけど……決して単純なものではなかった。彼女は私が怖いわけではないの! 私にされるかもしれない……私が()()()()()()()()()が怖いだけなのよ!」

 

私の大声に静まり返る談話室。叫ばれたロンもまさかここまで劇的な反応をされるとは思っていなかったのか、唖然とした表情でこちらを見上げている。ロンのさらに横で物憂げな表情をしていたハリーも驚いてこちらを見つめている。

私は凍り付いた空気の中、怒りに任せて速足に階段を駆け上り、寝室のドアを勢いよく閉じた。そしてベッドに飛び込むと、枕に顔を埋めて……静かに涙を流すのだった。

 

「どうして……。どうして皆は……私は、彼女達を分かってあげられないの!」

 

ロンに言った通り、私はマルフォイさんのボガートについて何一つ理解出来ていない。マルフォイさんのボガートは私の目から見ても彼女自身にしか見えなかった。いつもの彼女とは違い、目は図書館の時のように真っ赤であったし、口角は見たこともない程残忍に吊り上がっていた。元が美人過ぎる程美人であるが故に、あのボガートの姿は今まで見た何よりも恐ろしいものに見えすらした。でも、それでもあのボガートの姿はやはりマルフォイさんの姿でしかなかった。彼女が自分自身を怖がっていない限り、ボガートがあんなものに変化することはあり得ない。それは私だって理解している。

でも……何故、彼女が自分自身を怖がっているのか皆目見当も出来なかった。彼女があの姿の何を怖がり、あの姿の()()何を見ているのか私には分からなかったのだ。

 

そして……グリーングラスさん。

彼女のことは、私には何となくではあるが理解出来ていた。ボガートの姿、正確にはボガートが変身した私の発言で、私は彼女が何を恐れているのか少しだけ分かったのだ。

 

彼女は……私にマルフォイさんを奪われるかもしれないことを恐れているのだ。

 

マルフォイさんは何度も私を助けてくれた。自惚れでなければ、その理由はマルフォイさんが少しだけでも私に興味を持ってくれているからだろう。あくまで彼女の拒絶の言葉が嘘であればのことだけれど、彼女は私に少なくとも助けてくれるだけの興味は持ってくれている。

でも、それがグリーングラスさんには怖いのだ。彼女には……いいえ、彼女達には、彼女達以外の真の友達がいるようには見えない。マルフォイさんは寮内からすら恐れられ、グリーングラスさんはそんなマルフォイさんを唯一理解するが故に、彼女以外の友達を作ることが出来ない。

兄であるドラコを除けば、彼女達の世界はある意味で二人のみで完結している。完結させられている。

だからこそ、彼女は怖いのだろう。

私という異物が、不用意にマルフォイさんに近づいていることが。マルフォイさんを理解したいと思っている私に、彼女を理解され、奪われることが。

 

酷く歪な感情……なのだろう。もはや友情と言えるのかすら分からない、妄執に近い独占欲。

実際彼女もそう思ったからこそ、ボガートが消えた後も彼女は項垂れていた。そしてマルフォイさんに嘘をついたのだ。彼女は感情を理解して尚、マルフォイさんを独占することを選んだのだ。

 

でも……私にそれを否定する権利があるのだろうか?

 

彼女達が何故二人きりの世界で完結しなくてはならなくなったのか。

それは紛れもなく、私達のせいなのだ。私達が彼女達を追い詰め、陥れ、二人で完結することでしか精神を守れないようにさせてしまった。『継承者』と疑い続けた去年、そして真実をひた隠しにしている今年も、私達はずっと彼女達をせまい世界の中に押し込め続けている。

そんな私には……グリーングラスさんの思いを馬鹿にすることなんて絶対に出来ない。していいはずがない。

 

「ロンには思わず怒鳴ってしまったけど……私にも何も分からない。何も出来ない。去年だって私は結局……」

 

瞳から自然に涙があふれ、顔を埋めた枕が濡れていく。

まだ寝室には誰もおらず、ルームメイトであるラベンダー達はまだ下で話し合っているのだろう。……自身の武勇伝と、マルフォイさんとグリーングラスさんに対しての的外れな議論を。

誰もいない寝室で、私は一人涙を流す。

そんな私を慰めてくれるのは、

 

「にゃー」

 

今年から私のペットになったクルックシャンクスくらいのものだった。

彼は私のベッドに飛び乗ると、まるで私を慰めるようにオレンジ色の尻尾をこすりつけてくる。私は顔を上げ、彼の黄色い目を見つめ返した。

 

「……ありがとう、クルックシャンクス。貴方は本当にお利口さんね。私を慰めてくれるの?」

 

「にゃー」

 

あぁ、この子は私の味方でいてくれる。慰めてくれる。

猫でありながらどこか知性を感じる……それどころか色合いのせいもあり、どこかマルフォイさんの瞳すら連想させる彼の目を見ていると心が落ち着いてくる。

少しだけ落ち着いた気分で、私はクルックシャンクスの頭を撫でながら続けた。

 

「ねぇ、クルックシャンクス。私は……一体どうすればいいのかしら? 私はただ、マルフォイさんやグリーングラスさんと友達になりたいだけなの。それなのに……そんな単純なことが、どうしてこんなにも難しいことなのかしらね」

 

「……にゃー」

 

当然答えはない。

クルックシャンクスはただ一声鳴き、そのどこまでも知性に満ちた瞳で私を見つめ返すだけだった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。