舞巫女の転生譚 作:ジャック
第二訓練場には、かなりの人が集まっていた。当然だ。世界最高の魔力を持つAランク騎士、ステラ・ヴァーミリオン。その彼女が試合をするともなれば噂を聞きつけた人は全員やってくる。
「では、模擬試合を始める。双方幻想形態で固有霊装を展開しろ」
「来てくれ。陰鉄」
「傅きなさい。
『お姫様の対戦相手の奴って誰?』
『自分去年同じクラスだったんですけど、あいつ水準に達して無くて実技授業が受けられなかったんすよ。それで単位が足りて無いから留年したんすよ』
『は?そんな奴がお姫様に勝てるわけが無いだろ!相手は10年に1人の逸材だぞ?』
「聞けば聞く程酷いわね。アンタの成績。やっぱりやめといた方がいいんじゃない?」
「でも勝負はやってみないと分からないからさ」
「まさかアンタ勝てるつもり?」
「少なくとも、その為の努力はして来たつもりさ」
飄々と、観客の言葉を全く気にせずに一輝は言う。
(努力ね……)
ステラは、自分より努力で下回っているのに、『努力しても天才には勝てなかった』と言う人間が大嫌いだった。まるでこっちが努力して無いみたいに……天才は努力に対しての見返りが多いと言うだけで、努力しなくていいわけでは無い。行き過ぎた才は己の体をも蝕む。事実ステラは、幼い頃は自分の異能を扱い切れず、その炎で自分を焼いた。それも何度も。周りからは魔導騎士になるのは無理だと言われた。それでも諦めず何度も火傷してようやく使いこなせるようになったのだ。天才だからといって万能では無い。だから。
(才能とか言う安っぽい言葉だけで語られたら堪らないのよっ!)
自分よりも努力をしていないだろう?死に物狂いで努力をしたのか?そう言ってやりたい。ステラの闘志は、十分に燃え上がっていた。
だが、それは一輝だって同じだ。あの日、彼の笑顔を見てから。あの日、彼女の言葉と、微笑みを受けてから。一輝が目指す道はいつも一つだった。何度も酷い目に遭った。それでも。祖父黒鉄龍馬と、美雪の言葉があったから。笑顔があったから。何度でも立ち上がれた。それは今も同じだ。ただ、才能が無いからというだけて終わらせられてはたまらない。彼女は努力も才能だと言ってくれた。ならばそれを信じよう。
(この試合が僕の
「では、
こうして、『
2人が斬り合っている最中。
「黒鉄。この勝負、どっちが勝つと思う?」
「それを聞きます?ハッキリ言うと、一輝が勝つでしょうね」
美雪は当たり前のように落第騎士が、天才騎士に勝つと言ってのける。
「ふむ。理由は?」
「まず、おそらくステラは一輝の事を完全に格下だと思っています。それに対して一輝は格上だとわかって油断無く戦っている。このアドバンテージはでかいでしょう」
ステラは油断していて、一輝は油断していない。この差はでかいだろう。
「ステラがどのくらいの強さなのかはイマイチわかりませんが今見ている限りだと、もともと油断して無くても一輝とステラだと一輝の方が強い。ですがステラが戦いの最中に進化することもあるでしょう。一輝を自分と同等かそれ以上だとわかっているならば。ですが」
「まあ。そんなところだろうな」
「そして、最後に」
「なんだ?」
美雪がとても楽しそうな、嬉しそうな表情を浮かべる。
「一輝は、こんな所で終わるような人じゃ無い」
「成る程な。黒鉄にベタ惚れだな」
「んなっ///もー!直ぐそうやって人をいじるのやめて下さいよ!///」
「私からしたら兄妹で恋愛するのはやめて欲しいんだかな」
「血は繋がって無いから大丈夫ですー!」
「いやそういう問題でも……おっ。決着がついたようだな」
「やっぱり一輝が勝ちましたね」
因みに2人は、ふざけた会話をしながらもちゃんと魔力障壁を張って観客を守っていた。
「そこまで。勝者。黒鉄一輝!」
「ふうー。これで下僕は免れた……」
「お疲れ一輝。はいこれタオル」
「ありがとう」
「もう疲れたでしょ?横になりなよ。ティティに部屋まで運んでもらうから」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
『世話のかかる奴だな』
「そう言いつつも尻尾ブンブンじゃん」
ティティの尻尾は左右にブンブンと激しく揺れていた。
『嫌だとは言ってな無いだろ!』
「くくくく、相変わらずお前達は面白いな。普通ありえないんだがな。固有霊装と言葉を交わすなど。私はヴァーミリオンを運ぼう。二人とも部屋で休ませれば問題無いだろう」
「そうですね。じゃあお願いします。先に行ってますね」
数十分後。
「んー」
ステラがベッドから起き上がる。
「起きたか」
ベッドの側には黒乃がいた。
「そっか。アタシは負けたのね。久しく忘れていたわ。負けるって……こういう気持ちだったのね」
「ここは?」
「お前達の部屋だぞ。二人とも怪我をしたわけでは無かったのでな。寮のベッドに寝かせて休養させるということになった」
「理事長先生。あの男は無事なの?」
本来、生物が無意識にかけている
「ああ。無事だぞ。と言ってもしばらくは目覚めんだろがな」
「そう。よかったわ。ミユキは?」
「あいつは一輝が疲れてるだろうからって言ってうどんを買いに行ったぞ。そろそろ帰って来るんじゃないか?私はこれで帰るぞ。ではな」
そう言い黒乃は去って行った。
ステラは一輝が寝ている二段ベッドの上まで上った。
「……」
(これが……あの男の弟……)
兄弟だからなのか、顔付きがやはり似ている。
「えーっと……何してるのかなステラさん?」
一輝が目覚めたらいきなりステラに真上から見つめられてたのだ。先程のように取り乱さなかっただけでも少し進歩しているのかもしれない。
「ただいまー……って何この状況?不倫?」
勿論そんなことないと分かっているからこそ言える冗談なのだが、美雪にもこの状況は全くもって謎だった。
「違うよっ!?」
一輝も恐らく冗談だろうとは思ってはいるが、そういう状況に見れないこともないので食い気味に否定する。
「〜〜っ!!」
羞恥心からか、ステラがガバッ!と立ち上がる。だが、ここは二段ベッドの上だ。当然人が1人立ち上がるスペースなどある筈も無く……
ゴンッ!という音と共に、ステラは天井に頭をぶつけ、その反動で床まで落ちてしまった。
「えっ!?ちょっとステラさん大丈夫!?」
「今かなりまずい落としたよねっ!?」
一輝と美雪は慌ててステラに駆け寄る。
「大丈夫よこのくらい。ちょっと床に額をぶつけてトマトジュースが出来ちゃっただけだから」
「「全然大丈夫じゃないっ!?」」
2人の悲鳴のような叫び声が上がる。
「とりあえず救急箱!」
「わかった!」
2人は慣れた手付きで、ステラの額とたんこぶのできた後頭部を処置して行く。
「2人とも手馴れてるのね」
ステラの処置はもう終わっていた。
「僕は一人暮らしが長いからね。自然といろいろ覚えたよ」
「ボクは父さんに花嫁修行でいろいろと覚えさせられたよ……」
美雪はそんなにやらなくてもいいと言ったのだが、その度に厳がそんなことでは将来結婚した時にいろいろと困るぞと言ってくるのだ。そう言われてしまっては美雪も弱い。
「まあ2人ともまだ疲れてるだろうからゆっくり休んでてよ。ボクはうどん作ってくるから」
「お言葉に甘えさせてもらうよ」
「ありがとね。ミユキ」
2人がベッドで寝て10数分ほど待っていると、だんだんと出汁の良い匂いが漂ってきた。
「出来たよー」
見れば、テーブルの上に土鍋が乗っていてその中にネギ、卵、かまぼこが入れられた簡素な物だった。
「「いただきまーす」」
「召し上がれ。いただきます」
そうして3人共食べ始める。
「んー!美味しいわねこれ!」
「そうだね。疲れてても食べ易いよ」
「それは良かった。ボク達まだ自己紹介とか部屋のルール決めあんまりして無かったよね。今しちゃおっか」
「そうだね」
「良いわよ」
「じゃあまずボクから。ボクは黒鉄家の長女だよ!不本意ながら。基本的に家事は何でもできるよ」
「じゃあ次は僕ね。僕は黒鉄家の次男で、美雪と同じく家事は基本何でもできるかな」
「知ってると思うけどアタシはヴァーミリオン皇国第二皇女。アタシも家事は基本何でもできるわ」
「それで。どうしよっか?とりあえず洗濯は2人とも異性の下着とか服を洗うのは抵抗あるだろうから僕がやろっか」
「あはは……そうだね。お願いするよ」
「じゃあ私は掃除をやるわ!熱で殺菌までバッチリよ!」
「間違って部屋ごと燃やさないでよ……?」
「だ、大丈夫よ!」
「うーん……じゃあ僕はお風呂洗いとか食器洗いとか、水周りをするよ。あとは風呂の順番だよね」
「ねえ。そういえば忘れてたけどステラって一輝の下僕なんだよね」
「「えっ?」」
「え?」
「……何よ。良いわよ!何でも命令すれば良いじゃない!エッチなことでも鬼畜なことでも……何でも命令すれば良いじゃない!!」
ステラはガルルルルと擬音が付いていそうな、吠えるような叫ぶような感じでヤケクソ気味に言った。
「いやそんな事しないんだけど……じゃあさ、ステラさん。僕とルームメイトになってよ」
「ステラ……ステラで良いわよ。イッキ。友達ならさん呼びはおかしいでしょ」
「わかった。ステラ」
「お二人さーん。話がまとまったところで。話を戻そうか」
話をずらした張本人は悪びれもせずにそう言ってくる。
「あ。そういえばイッキとミユキはクロガネなのよね?なら、オウマっていう名前を知らない?」
「!知ってるも何もボク達の兄さんだよ。もしかして何かやらかした?」
「ええ。2年前、私の前に来て私をボコボコにして行った後に、「お前はまだまだ強くなれる。ステラ・ヴァーミリオン。俺はお前に惚れた。俺は黒鉄王馬。次会った時にでも返事を聞く。急ぎはせん。ゆっくり考えろ」って言って消えてったわよ……でも悔しいけど……オウマは強かったし、カッコよかったわ……」
当時のステラにとって、自分より圧倒的に強い存在はとてもカッコよく見えたのだ。
「うわあ……ごめんねステラ。家の男共こんなんばっかで」
「サラッと僕もディスられてるよね」
「まあ良いのよ。でもお父様がそれはもう怒って怒って……大変だったわ。指名手配されそうになってたのよ」
「兄さんは何をやってるんだ……まあでも、兄さんは不器用だけど嘘は言わない人だと思うから。その告白は本当だよ思うよ」
「そうだね。王馬兄さんはどこまでもストイックで真っ直ぐな人だ。ただひたすらに強くなることを追い求めてる」
「そうね。何となくわかるわ。今度いつ会えるのかしらね……ところで、お風呂はどうする?」
「ボクは最後が良いかな。ティティと一緒に入るから。毛とか汚れはあまり落ちないけど一応ね」
「僕はいつでも良いよ」
「じゃあイッキが一番最初に入って、次にアタシ、最後にミユキね」
「おっけー」
「了解」
『僕も了解したぞ!』
「え?その犬喋れたの!?」
「うん。ティティはボクの固有霊装なんだ。普段は小さくなって喋らずにボクの頭の上に乗ってもらってるけど、本当はもっと大きいし喋れるんだよ」
「そういうのも有るのね……でも固有霊装って展開してて大丈夫なの?それにそのジャパニーズミコ?っぽい服は何よ。スカート短いし、肩の所はちょうど切れてて肩も出てるし……胸元もかなり出てるし……ミコにあるまじき露出度な気がするんだけど……」
「んーっとね。ボクは特別に許可を貰ってるんだ。ティティの能力は攻撃型じゃないし、ティティは話が通じて友好的だからって。この服も僕の固有霊装なんだよ。何でこんなに露出度高いのかは自分でもわかんないや。サラッと聞き流してたかもしれないけど理事長も言ってたよ?ボクは固有霊装を3つ持ってるって」
「えええええ!?アンタも結構変わってるのね!?」
「そーだね。この部屋はみんなちょっと特殊な人を纏めた感じだし。ステラが天才だっていうなら、ボクは異才かな。まあとりあえず今日はこのくらいにして、お風呂はいってもう寝よっか。明日は入学式だし」
「ベッドはどうするのよ?」
「ボクと一輝で一緒に寝るから良いよ」
「はい!?」
「何でよ!!」
「え?」
「だってボクと一輝は婚約者だから。あんまり問題ないでしょ?」
「日本ではそういうものなのかしら……でもアンタ達兄妹なんでしょ?」
「でも血は繋がってないからね。ボクは養子なんだ」
「ふーん。ならあんまり問題ないわね」
「ちょっと待って僕の心の準備が……」
「さあ一輝。さっさとお風呂に入って来るんだ!」
そう押されて一輝は渋々風呂に入って行った。
因みに、一輝が風呂に入った後ステラがうどんを何度もお代わりして美雪が大忙しだったり、夜中一輝がなかなか眠れなかったりしたという。