「……そう。彼を呼んでおいてくれ。これからの戦いに必要な男だ。……ああ、頼むよ。それじゃ」
ボンドはスマートフォンから公安調査局にいるタイガーに朝一番の電話をかけ終えると、愛用のオメガの腕時計を一瞥した。時計は〇六四六時を指している。執務室までちょっと急ぐか。シャワーを浴び終えたシャツ姿のボンドは、そのまま歩みを速めた。
執務室に入ったボンドは、そのまま書斎の前まで行き、扉を開けた。そんなボンドを出迎えたのは、コーヒーカップの乗った小皿を手にした叢雲だった。
「おはよう。どうしたの?今朝は遅いじゃない」
「まあ、野暮用があってね……それは君のか?」
カップの中には、熱々のコーヒーがひとすじの湯気を立てている。どうやら今しがた淹れたばかりのようだ。
「……あんなにも飲みたい飲みたいってうるさいから、作ってあげたわよ。感謝しなさい」
「これはどうも。でも、この格好じゃ君は許しちゃくれないだろ?」
シャツを引っ張り、叢雲に見せるボンド。
「ほら、早く飲みなさい。冷めるわよ」
そう急かされ、ボンドは椅子に座る。いつもより少し時間は早いが、たまには早めの一杯も乙と言うものだろう。ボンドは叢雲からコーヒーを受け取ると、すぐに口をつける。叢雲はそんなボンドをじっと見ている。
「うん、美味しいよ。でも、こいつは……」
「インスタントよ。やっぱり舌は馬鹿なのね、ボンド」
「いや、誰かに淹れてもらったコーヒーっていうのは、それだけで美味しいものさ。ありがとう」
「……!」
人前ではドライに振る舞おうとするボンドでも、してくれたことに対して無下に扱うような野暮はしない。しかし叢雲は思いがけないボンドのその一言にドキリとしてしまい、一瞬言葉を失ってしまった。
「そっ、そうよ!そうやってもっと……もっと素直に感謝すればいいのよっ!」
叢雲はぎこちなくそう言うと、そのまま逃げるように執務室を後にした。そんな叢雲を見送りながら、ボンドはコーヒーにこめられた叢雲のさりげない優しさをゆっくり味わっていた。これからあの娘には、何度か励まされることもあるだろう。
それからボンドは今日するべきことをぼんやりと考えた。書類の確認と艦娘たちの様子の確認、それが終わればさっきの件でタイガーから連絡が来るだろう。あと報告書も書かないと。今日は忙しくなりそうだ。
コーヒーを飲み干すと、ボンドは制服に着替えるために、そして叢雲が戻ってきたときに備えて、エスプレッソのカップを温めるためのお湯を沸かしに書斎へと入っていった。
《JAMES BOND WILL RETURN...》