ある日、プロデューサーを名乗る男に出会った双葉杏は、その男にアイドルにならないかと誘われ、『印税』という甘い言葉に釣られてしまうのだった!!
そんな訳で、問題なく、オーディションに受かり、アイドルになってしまった。
そして、私は今、事務所のソファーでゴロゴロしている。
……もちろんサボっている訳では無い。ちゃんとレッスンを終えて、堂々と休んでいるのだ。
ちなみに、私のレッスン時間は他の娘たちと比べると大分短い。
アイドルになる為のレッスンは、正直、今まで経験した事が無いことばかりで……楽しかった。
楽しかったんだけど……。
つい、癖で『疲れたー。杏はもう充電切れだよー。』みたいな事をレッスン中に毎回言ってたら、プロデューサーに
『……双葉さんは体力があまり無いみたいですから、今後は無理にならない程度のレッスン時間にしましょうか。』
って言われちゃった。それからは、ずっと短時間のレッスンしかしてない。
まぁ、確かに体力が無いのは事実なんだけどさ。それで良いのかって話よ。
……そりゃさ、レッスンする度に疲れた。疲れた言ってたのは私だけどさ、それは、所謂お約束って奴で、内心は真面目にレッスンに取り組みたいと思ってるんだよ。
ただ……人に見られてると、つい甘えたくなるだけで、本当にレッスンがしたく無い訳じゃないんだ!
……疲れたのも、面倒くさいのも本当だけど。これからアイドルデビューして、仕事をするってのに、今みたいに甘えたままじゃ駄目じゃん。
それに変われるかもしれないと思ってアイドルになったんだ。がんばるべきだろ。
早速、プロデューサーにレッスン時間を元に戻してもらいに行こうかなー。
………………とりあえず明日でいっか。別にあわてる事ないもんね。
「プロデューサー。杏、疲れたよ~。なんで、こんなに沢山レッスンしなきゃなんないのさ~!
杏はレッスンがしたくてアイドルになったんじゃ無いんだぞ~!」
……嗚呼、哀しい哉、私はまたプロデューサーに甘えていた。長い時間をかけて私に染み付いた甘えたい精神は、簡単に無くなるものではなかったのだ。
将来の自分の為にも努力は欠かさずしましょうね。みたいな事をよく聞くけれど、私はそういう面倒そうな事からずっと逃げてきた。
ずっと目を逸らして寝てきた。
今更、自分の為に頑張るなんて無理なのかな……。それは、いやだなー……。
「……双葉さん。この飴をあげますので……もう少しレッスンを頑張りませんか?」
また、プロデューサーに気を遣わせちゃったよ。どうしようもねーな。私。……ていうか、頑張らせる為のアイテムが飴ってどうよ。確かに飴が好物とは言ったけどさ。
私、女子高生だぞ。そんな……そんな美味しそうな飴に釣られる歳じゃないんだぞ。舐めんな。飴は舐めたいけど。
……そうだ。思いついた。杏、飴の為に頑張ればいいんだ。レッスンの度に飴を要求して、貰ったらちゃんと頑張って、
プロデューサーに、杏は飴を食べさせておけば言う事を聞いてくれる子って認識してもらえばいいんだよ。
そうすれば、プロデューサーは杏を扱いやすくなったと思うだろうし、杏は飴を理由に頑張ることが出来る。良い事尽くめじゃないか!
「飴くれるの?まぁ、くれるなら貰うけど……。ふふん♪
もぐ……は~、あま~い。うま~い!疲れた時の飴は最高だねー♪」
ああ、飴の甘さが身体中に染み渡っていくよ……。本当にもう少し頑張れる気分になってきたかも。
「それじゃあ、もう少し、レッスンする気になろうかな……。あ、べ、別にやる気になった訳じゃないよっ!?印税生活の為だからっ!!」
……まぁ、余計な一言を付け足しちゃうのは、ご愛敬って事で。
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「ふわぁ……眠い。あ、プロデューサー……。杏、眠いよー。今日はもう、帰ってもいーい?」
「もちろん駄目です。」
いつものお約束を繰り広げる私とプロデューサー。お互い、大分この流れに慣れて来た。
「ですよねー。今日は宣材写真の撮影だっけー?衣装に着替えなきゃいけないし。
はー……めんどいなー。杏、この格好のままでも良いー?
だって、杏が本気出せば、顔だけで天使にも負けない可愛さを出せると思うんだよねー。」
ちなみに今日の杏の服装は初めて会った日と同じ、だらしなく伸びた『働いたら負け』Tシャツとスパッツである。
「今日は大事な宣材写真なので、もう少し頑張って下さい。撮影後の飴も用意してありますからね。」
これも、今となっては、いつものお約束である。……そう、杏の飴ちょーだい作戦は見事成功したのだ。
事あるごとに飴を要求していたら、今では、事務所に来ただけでも飴が貰えるようになった。レッスンに至っては、レッスン参加で一個、休憩で一個、レッスン終了で一個。
最低で三個、レッスンを頑張るだけで飴が貰えるようになっていた。
それに、プロデューサーも杏の好みを把握したのか、プロデューサーがくれる飴はいつも美味しい。
最高に甘やかされてるな私。甘すぎるくらいに……。あー……なんか………
「それと、双葉さんの可愛さは勿論、私も分かっています。双葉さんなら間違いなく天使にも勝てますよ。」
「うぇえっ……!?」
急にプロデューサーが真剣な眼差しで見つめながら褒めてきたせいで、変な声出ちゃったじゃん。
ていうか、なんか凄く恥ずかしいんだけど。
「ま、まぁね。杏は可愛いからね。プロデューサーも褒めがいがあるでしょ……。
あ、褒められて嬉しいとかじゃないからねっ!杏の目標はあくまで、印税生活だからっ!」
くそう……動揺してる。褒められるのって、こんなに恥ずかしかったっけ……?
なんかプロデューサー笑顔だし。これは落ち着かせる為にもさっさと衣装に着替えて来よう……。
「……ま、プロデューサーがどーしても可愛い杏を見たいって言うなら、仕方ないなー。……んじゃー着替えて、撮影に行ってくるよ。」
「別に真面目に仕事をする気になったんじゃないぞ。これは戦略的撤退なんだ。本当だからなー!」
プロデューサーからしたら意味不明でしかない台詞を残して、私は仕事に向かうのだった。……あ、飴貰い損ねた。