ロイにやらせているゲームの種類が少なくて ごめんな
至高の御方々の名前はご想像におまかせします。
VRゲーム全盛期、あらゆるジャンルのゲームをVRで再現するブームが沸き起こった。
そのころにはまだ《ユグドラシル》は発表されていなかったが、
ゲーム業界は人類の長年の夢であり、需要があると見込まれていたVRMMORPGで飽和していた。
そのため、中小企業は激しい競争の隙間をかいくぐろうとしていた。
その頃から、かつて有名であったゲームをVRで再現する「復刻版」商法が流行った。
製作者サイドに広がりつつあった「考える力の欠如」が、その背景にあったのだろう。
そんな時代に生まれた彼は、食傷気味であったVRMMORPGから離れ、さまざまなゲームジャンルを二転三転していた。
ノベルゲームをプレイすれば、
「エクスカリバーかっこいぃぃぃ!!」
「あと腹ペコ王かわいい」
と、臨場感に酔いしれ、
FPSをプレイすれば、
「ゴリラで空飛ぶの楽しいぃぃぃ!!」
「あ、ピーナッツバターは結構です」
と打ち合いをして、
アクションゲームをプレイすれば、
「イヤッフゥゥ(Google)!!」
「あ、わりと土管潜るのこわい」
と、プレイした8割が抱く感想を言って、
かなりのミーハーぶりであった。
そして、とあるゲームと運命の出会いをした。
◆◆◆
「復刻版」商法が流行り、さまざまなジャンルのゲームが日の目を浴びていた時、格闘ゲームだけは敬遠されていた。
全盛期こそあったものの、環境汚染によって外を出歩かなくなると、すでに数少なかったゲームセンターは次々と閉店し、それに比例するように格闘ゲームは姿を消したという歴史から、格闘ゲームが好きな人どころか、知っている人すらいなくなったのだ。
それから50年、このビッグウェーブに乗り、格闘ゲームは復活しようとしていた。
その中で白羽の矢が立ったのは、ストリートファイターシリーズとBLAZBLUEシリーズである。
前者は動きの単調さから受け入れやすいと考え、モデルもすでにあったため、すぐに採用された。
後者はスピード感のある様々な行動ができるため、派手なアクションを好むライトユーザーや、複雑な動きをものにできるコアなファンまで幅広く受け入れられると考えた。
結果としては、どちらもいまいちパッとしなかった。
製作者はほかのジャンルのゲームと同じように、操作するキャラクターを一人称としてカメラを設定し、操作方法は決められた動きをイメージすることで操作できるようにしていたため、ユーザーからは、コックピットでキャラを操縦しているようなもので、「動きの制限された人間の形をしたロボットを操作するゲーム」と比喩されたのだ。
それでも、いくらかのコアなファンが根付いたのが幸運であった。
◆◆◆
それから一年後、超大作VRMMORPG《ユグドラシル》が発売された。
種族と職業を組み合わせ、外観をいじくることでどんなキャラクターも再現できる自由度は大いに受け入れられた。
最新ゲームのアバターがひとつのサーバーに100人集まるのは当たり前、
時には未発売ゲームの主人公を想像でRPする猛者もいた。
だが、大部分のキャラリスペクトはネタビルド、良くてファンレベルであり、公式の大会に出ても一回戦落ちがデフォルトであった。
そんな中、公式の1対1限定PvP大会が開催された。
◆◆◆
彼は自分のやってきた復刻版ゲームの中で一番好きなキャラアバターで1対1限定PvP大会に登録し、見事優勝した。
そこに、帰って来るのを待っていたモモンガが拍手エモーション付きで現れた。
「いやぁーすごいですねロイさん。マイナーで情報が少ないとは言えリスペクトキャラで優勝なんて」
「それほどでも。ファンビルドでも勝つための戦術ができれば勝てるんですよ」
ロイはエモーション付きで返そうとも思ったが、モモンガほど素早く状況にあったエモーションを探すことはできない。
「まあ、それが難しいからファンビルドって呼ばれるんですけどね」
「それをいうならモモンガさんだってすごいでしょ。死霊系ロール縛りで勝率5割越えとか」
ロイの勝率は4割である。1対1の勝率は6割だが、VRMMORPGの対戦のメインは遭遇戦や複数対複数、奇襲戦であり、逃げたのを敗北と考えると、それらの勝率は3割以下だった。
「長年の経験ってやつですよ」
モモンガはドヤ顔のエモーション付きで返してきた。これは汎用性が高いからあとでショートカットに登録しておこう。
ロイの元ネタのキャラクター"アラクネ"は、世界の「真理」を追い求め過ぎた結果、肉体が「境界」と繋がり、化物と化してしまい、知識を求めるという行動理念のもと、
さらに言えば、怪物になり理性を失った影響で、言葉が途切れ途切れになり、時折発狂して叫び声をあげる、というなんとも奇天烈なキャラであった。
それを踏まえたロイがギルド:アインズ・ウール・ゴウンに所属する前は、
聞き取りづらいし、なによりロイ自身がやってて面倒臭くなったため、ギルドホーム内やチームプレイ中は普通にしゃべるようにしている。
「それにしても優勝商品とは別のあれはすごかったですね」
「うん、一ゲーマーとしては本当に感動ものでしたわ」
◆◆◆
「優勝はギルド:アインズ・ウール・ゴウン所属のロイ選手ぅぅぅぅ!」
会場は拍手に包まれ、ロイは表彰台にあがった。
「優勝商品はワールドアイテムの《永劫の蛇の腕輪/ウロボロス》が進呈されます。これを使用することで、われわれ運営に対して直接仕様変更を提出できます!」
「すげぇ!なんでもお願いできるのか!」
「俺の嫁(シャルティア)にボイス入れてもらうお願いもできるじゃん!」
「黙れ弟、それにしても」
「ええ、運営自らの手で運営に仕様変更を申し出るアイテムを進呈するとは皮肉が効いている」
「今直接お願いすればいいんじゃ」
と、いろいろツッコミ所があった。
「さて突然ですが、ここでロイ選手に優勝商品とは別に特別賞の進呈です」
「え、俺? 誰から?」
「ではどうぞ、Arcシステムワークス株式会社代表の林プロデューサーさんです!」
黄色いしゃもじ型のなんともいえないコミカルな異形種アバターが出てきた。
GMアカウントだからか、文字が赤色に染まっている。
「うそ、BLAZBLUEシリーズ復刻版プロデューサーの!? なんで!? 運営に呼ばれたの!?」
自分がファンになったゲームを作ってくれた人の登場にロイは驚愕した。
「ロット=カーマイン選手、いや今大会ではロイで登録しているからロイ選手か、まずは優勝おめでとう」
感謝のエモーションを出して林はロイに握手した。
「あ、ありがとうございます」
混乱しながらも、もちろん握手に応じた。
「さて、今回私がここにきたのは、ロイ選手に感謝しているからだ。というのも、この大会が始まったのは3ヶ月前だよね?」
「はい、そうです。」
「実は1ヶ月前からわが社のHPにアクセスする人が急増してね。何かと思えば、わが社のキャラクターをイメージした人が大会で活躍しているという話を聞いたんだ」
「えっ、もしかしてそれで私のことを知ってアカウントBANしにきたとかですか!?」
基本的に黙認されているが、本来他社のキャラクターを模倣するのはグレーゾーンだ。
それによって不利益な行動をとった場合、元ネタのほうが被害を受けるからだ。
「とんでもない! むしろもっとやってほしいんだ! わが社の宣伝になるからね。」
「えっ?」
「きみのキャラ対策をするためなのか、きみが活躍するたびにBLAZBLUEが売れるようになったんだ。これはその感謝状だ」
そう言うと、ロイにあるデータを渡した。
「これって本物の「アラクネ」の外装データじゃないですか! ・・・ということは」
「ぜひ、受け取って使ってほしい。」
「ありがとうございます!」
さっそくロイは外装データを適用する。
すると、彼手製のどこかいびつだった白い仮面は整った埴輪顔になり、
ぎこちなく流動する不定形の体はまるで中を蟲が這い回るようにおぞましいものに換わった。
「では、これからもがんばってくれ。」
「あの~、すみません、もし良かったらですけども、他にもBLAZBLUEシリーズの外装データを譲っていただければなーと」
「はっはっは、そういうことならいくらでも。もし次の機会に他の外装データを使って大会に出るなら、喜んでわが社がスポンサーになろう」
◆◆◆
そのころ、観客席のモモンガたちは
「もしかしてあれってプロゲーマーとしてのお誘いってやつですか、すごいですね!」
「なるほど、別ゲームのキャラアバターを再現した上で優勝したことが評価されたんだな」
「これモモちゃんもねらってみたらー?モモちゃんユグドラシル大好きっしょ、24時間遊びながら仕事できるぜぃ」
「いやいや、ユグドラシルは大好きですけど、プロゲーマーになったらユグドラシルで自由な遊び方ができなくなっちゃいますし・・・それに」
「それに?」
「それに、今のギルド、アインズ・ウール・ゴウンのみんなが大好きですから」
◆◆◆
ロイは揺れていた。
プロゲーマーとしてのお誘い、ということはなんとなくわかった。
とても魅力的に思えた。
だが、今までの仕事や、ギルドのことを考えるとすぐに決められることでもないので、とりあえず今は保留にしておく。
「考えておきます。 ・・・それと、もうひとつ」
ロイは、林プロデューサーに対して、お願い事をすることにした
「なにかね?」
「《永劫の蛇の腕輪/ウロボロス》を今使いたいと思います。これは、御社にも関係することです」
「そうか、もしよければ消費する前に願い事を知っておきたいのだが」
「はい、かつてゲームセンターにあったというBLAZBLUEのゲーム筐体をユグドラシルに設置してほしいのです。一応、仕様変更という形になるので、《永劫の蛇の腕輪/ウロボロス》を使わないといけないかなーって」
それを聞いた林プロデューサーは顔に出ているわけではないが、唖然としたようにも思えた。
「ち、ちなみにその理由は」
「はい、格闘ゲームはコミュニケーションツールだと思うので、見知ったギルドメンバーの人たちと一緒に遊びたいですし、知らない人ともBLAZBLUEを通じて知り合いたいと思いました」
そうすると、林プロデューサーはしばらく考え込み
「わかった。だが、その《永劫の蛇の腕輪/ウロボロス》は使わなくていい。私がユグドラシルの運営さんに直接要請する」
◆◆◆
結局《永劫の蛇の腕輪/ウロボロス》はその時使用されず、ギルドに寄付される形になった。
1ヵ月後、ロイの元に本来の性能と変わらないプロトタイプの筐体が数台届く。
この筐体の機能として、5本指の腕を持たないアバターは任意で仮想腕に置き換わるようになっている。
筐体はナザリック地下大墳墓の地下9層、ロイヤルスイートに設置され、雰囲気を出すための小道具にすぎなかった設備の中で唯一"本物"になった。
ロイやモモンガ、他のギルドメンバーたちはこの筐体に満足し、イベントがないときには大会を開くこともあった。
最初は経験者であるロイが優勢だったが、次第にうまくなったギルドメンバーと接戦になることもあった。
さらに1ヵ月後、少量の課金で1プレイできる"ゲームセンター"と、大量の課金でギルドメンバーと無制限台が遊べるようになる"家庭(ギルド)用筐体"が発表された。
初めにゲームセンターで遊んだ人だけではなく、後ろから見ていた人で面白いと思った人が家庭用を買っていく。
家庭用はギルドで共有されるため、プレイ人口は爆発的に増えた。
さらに家庭用を買った中の一部が初心者に布教用にゲームセンターに連れて行くスパイラルが生まれ、ユグドラシルでの売り上げが本来のルートの売り上げをはるかに超えるようになった。
◆◆◆
「あれから5年。ロイさんはうまくやって行けてるかなぁ」
そこにはNPCを連れつつも、一人玉座の間に佇む骸骨がいた。
その功績を称えられ、一躍有名人となったロイは迷いながらもプロゲーマーとしての道を歩む事にしていった。
その時から、ロイのアインズ・ウール・ゴウンでの活動は日に日に短くなっていき、引退宣言をすることもなく、自然消滅していった。
「もう一度、来て欲しかった」
そう口では諦めていても、その手は一週間前に送った招待メールをまた一斉送信していた。
「楽しかったんだ」
ロイさんが不慣れなGvGのための調整を手伝った思い出も
9階層でみんなとBLAZBLUEをした思い出も
対策行動を練習してロイさんといい勝負をし始めた思い出も
まだまだ負けないと思っていたみんなが自分を打ち負かした思い出も
モモンガのユグドラシルでの青春も
「もう一度会いたかったんだ」
終わってしまう。
だが、切に願ったこの想いは
『蒼 アオ クケケケケ!!』
いびつな形で叶えられるのであった。
行間など不満があればご指摘ください。