「モモンガ様が行かれる必要はありません、ここは私どもが!」
唯一残ってくれた創造主がいなくなることを危惧したアルベドは進言するが
「駄目だ。ロイさんは1対1でしか戦わないし、お前たちが一人ずつ戦ったところでロイさんに勝てると私は思っていない」
それをモモンガは切って捨てる。
「それは・・・以前、人間共がこのナザリックに攻め込んできたときに我々が対処できなかったことでありんしょうか? 我々が信頼できないと」
その経験からか、シャルティアは申し訳なさそうな顔をしている。
ユグドラシル時代、2ch連合軍らによる1500人ナザリック襲撃事件のとき、ギルドメンバー総勢で蹴散らしたときのことだ。
このときギルドメンバーは設備が壊されることによる損害を恐れてシャルティアを下がらせたので、決してNPCを信頼していないというわけではない。
ただ、この時はどれだけ精巧に組んだとしても所詮AIであり、ユグドラシル時代でNPCだけでプレイヤーといい戦いができる道理はない。
(まてよ・・・それでも今は異世界に来て、NPCたちが意思を持って考えて行動できるから、以前ほどプレイヤーとNPCに差はないとも考えられる。ガチビルドのシャルティアが戦えば・・・いや、駄目だ!NPCたちが戦ったとして、俺はギルドメンバーのみんなが丹精こめて作り上げたNPCが負けて死ぬ姿なんて見たくない!)
ユグドラシル時代の常識から、NPCはプレイヤーに勝てないと思い込んでつい自分が出ると言い出したが、今考えるとNPCが勝つ可能性は十分ある。ただ、負けて死ぬのがいやだと言うのは支配者として示しがつかない。
なによりNPCたちを信用していないと言っているようなものだ。これが悪い方向に行くのは避けたい。
「・・・お前たちのことは信頼しているとも。だがな、お前たちには足りないものがある」
(うまいぞ俺、自分が考え付かなかったら相手から考えてもらえばいいんだ)
「足リナイモノ、ソレハ私タチノ戦闘経験、デショウカ?」
武人としてその心は戦いの中にあるであろうコキュートス。だが、彼は想像の中でしか戦うことができない。
「(それだ!)ああ。私はロイさんと何度かPvPをしてきた。その経験があれば、必ず勝てるとは言い切れないが、少なくともお前たちよりも勝つ見込みはあると思う」
「ならば、その経験とアラクネ様の戦術をご教授いただければ、私どもも戦えると思います」
デミウルゴスの頭の良さならば、決まっている戦術に対して最適解を導き出せるであろう。
「ロイさんは蟲を召喚して戦うプレイスタイルを貫いているが、自身や召喚した蟲の耐性や使用するバフ・デバフの種類、HP狙いやMP狙いなどの戦術は毎回巧妙に変えてきている。それら全ての対策を見抜いて対応できるのか?」
戦術が決まっているならば、ユグドラシル時代なら即座にメタを張られるだろう。
「できます、やってみせます!」
・・・いや、できない。俺が勝率5割を達成するための努力を、「頭がいい」という設定、それだけで上回られてたまるか。
俺はユグドラシル時代、アバターの表情は変化しないことから、常に相手の一挙一動足を見つめ、罠にはめようとする相手の言葉を聞き、矛盾を見つけるための基礎情報としてあらゆる魔法のMP消費量を覚え、スキルの最大発動回数を記憶してきたんだ。
十回も経験すれば、相手との差が読み取れる。
センスがあれば百回の経験で凡人の千回の努力を上回ることもできよう。
だが、一度も実際に戦ったことのない奴に、万回の努力を見破ることなんて絶対にできない。
「現場での対策、対応力というのは何百回、何千回と戦って定石を覚える努力、表情を読まずともひとつの言葉と反応から嘘を見破る才能、そしてそれらを駆使した勝利があって初めて身につくものだ。シャルティアはガチビルドの力がある。だが、ロイさんはガチビルド相手にも勝利を重ねてきたのだ。アルベド、デミウルゴスの頭脳も信頼している。それでも、ロイさんのついた嘘を見破ることはできるのか?」
もしもアルベドやデミウルゴスが俺の心の中まで見通せるような頭脳を持っているなら、今俺が支配者ロールをしていることもない。
ギルドメンバーとNPCという違いがなければ、あるいは俺の想いを理解したのかもしれない。だが、ある種の信仰心が俺にとって、あるいは自分にとって信じられないと思うその心が、俺のちっぽけな嘘を見破れなくしているのだろう。
そのNPCたちが、戦いという極限状態の中で本気で嘘をつくロイさんを理解し、倒すための対策ができるとは思えない。
「・・・わかりました、モモンガ様のお気持ちは堅いようですね。ですが、私たちはモモンガ様のためならばこの命いつでも使いつぶす覚悟があります」
「わかってくれてありがとう。だが、ロイさんとの戦いの中でお前たちにそんなことは絶対にさせない」
モモンガはそう言うと、戦いの準備のために立ち上がる。
「アインズ・ウール・ゴウン、ギルドリーダーの名に懸けて、ロイさんに勝利する」
◆◆◆
守護者たちの手前、自信のない様子を出すわけにはいかず大見得を切ってしまったが、100%の勝利を約束できるわけではない。
(そもそも、もし100%勝利できる状態で戦おうとするなら、今までのロイさんの経験が残っているなら確実に逃げる。60レベル以下の攻撃を無効化するスキル持ちに対して60レベルで挑むような戦いはゲームじゃないと言い張っているからな)
格闘ゲームではどれだけキャラ相性があっても、プレイヤースキルがあれば巻き返すことができる。そういうバランスのゲームであるべきだからだ。
もしも人間の反応速度で実現可能な必勝パターンがあるなら、それはもはやゲームではなくなる。
(だが、ロイさんは勝ちの目があるならどれだけ格上の相手でも戦ってきた)
どれだけうまいプレイヤーも、最初は負けることがあるだろう。
自分が成長するためには、今日負けても明日勝つ気概が必要だった。
(心苦しいけど、今はその気持ちに感謝しています)
モモンガはアイテムの力で、ロイよりも格上の存在になろうとしていた。
プレイヤースキルでロイに負けているとは考えていないが、今は確実な勝利のため、ロイにとって反則にならない程度にアイテムパワーに頼ることにした。
露骨なメタは控えつつ、相手が戦いにくい装備を整える。
「狙うのは、99%の勝利。1%の敗北を演出し、その狭い勝利への活路をつぶす」
◆◆◆
そして戦いのときはやってきた。
モモンガとロイはとある湿地帯で向き合っていた。
「ク ク ク ! モモ ガァ タタ エ! タ カエェ!」
ロイは好戦的な様子を見せている。
「(よし、
「ソレガドウ タ? オレヲ タオシ キタ ダロウ!」
ロイは挑発をしているが、両者とも武器を構えておらず、さらに自身に対するバフを掛けていない。
ユグドラシルの野良のPvPならば、襲撃側が戦う前にバフをかけるはずだ。
だが、大会などにおける1対1のPvPでは、自身に掛けられるバフの種類が少ない戦士職が著しく不利になるとして、戦闘前のバフが禁止されている。
そこで、野良でも大会ルールで戦いたい人が一定数いたので、そのためのアイテムが配布された。
システムアイテム《ラウンド・コール》
このアイテムに拘束力は存在せず、大会ルールで戦いたい人同士が近付いたときに通知し、互いに同意することで発動し、場所のセッティングや開始の合図などを行ってくれるアイテムだ。
この開始の合図はプレイヤーが任意に設定できるため、グレーゾーンだがほかのゲームから音を持ってくることもできる。
このアイテムの実装にはロイも多少かかわっており、いわく「格闘ゲームのような手軽で公平なゲームプレイを楽しみたい人のために」とのことだ。
課金してアイテムを手に入れるMMORPGは、いかに相手より金と時間を掛けるかという勝負になりやすい。
また、勝利のために幾重にも罠を仕掛けること、それを突破することの楽しさがあるが、正面からぶつかり合う真剣勝負の中で得られる快感を知ってほしいとして、あえてMMORPGとしての戦い方を縛るアイテムがほしいとした。
本来は手軽さを求め、「消費型アイテムは1000円以下」ルールを追加できるようにしたかったが、それは運営としても利益が減る可能性から実装されなかった。
モモンガが戦闘準備を整えていたとき、久しぶりにこのアイテムの存在に気づき、通知をONにした。
もしかしたらこれもロイさんが逃げなくなる条件のひとつになるかと思ったが、正解だったようだ。
「ロイさんのラウンドコールはブレイブルーのものか、懐かしいなぁ」
戦闘開始まで30秒をきった。
「ロイさんを無力化してナザリックに連れ戻し、ライチに触れてもらって人間状態になれば、ロイさんも元に戻ってくれるはずだ」
残り10秒。
「必ず勝利する」
モモンガ様の自覚がない有能行動と守護者たちの反応がオーバーロードの面白さだと思うけど、これが なかなか 難しいねんな。
守護者とのタイマンも考えていましたが、余計に完結が遠のきそうなので控えて起きます。
入れるとしたら、モモンガ様の完全な勝利のための戦力調査という名目になるでしょう。
第一試合と銘打っていますが、当SSはラウンド制を採用していません。