運命の歯車は廻っている   作:ヲリア

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ラウンド・ワン

「始まりますわね」

アルベドはモモンガを信じて見送ったものの、内心その安否が心配な様子だ。だが、多かれ少なかれ守護者たちもその気持ちを持っていても、顔に出すことは主の言うことを信じない不敬であると考えていた。

 

「モモンガ様ノ戦イ、学バセテイタダキマス」

コキュートスは武人として成長の機会を見逃すまいと、主人たちの一挙一動則を観察する。

 

ナザリックでは、モモンガとロイの戦いが中継されていた。

《ラウンド・コール》は両者が設定した範囲に応じて戦いを配信することができる。

自身のビルドは機密情報であるため配信NGにする人は規制レベルを上げ、一般動画投稿者やプロゲーマーのように配信することに意味のある人は規制レベルを下げている。

今回ロイはプロゲーマーとして《ラウンド・コール》の設定を緩めており、配信に問題は無かったため、モモンガは特定の人にのみ配信可能な設定にしギルド所属のみ閲覧可能にすることで、戦いを通じてNPCの成長を促すことにした。

 

「お二方とも魔法詠唱者(マジックキャスター)である関係上、行動の選択肢が広い。ならばゲームメイク力の差が勝敗の分かれ目になるだろうね」

デミウルゴスは自分なりに戦いの流れを考察していた。

 

「ゲームメイク力とはなんでありんしょうか?」

 

「シャルティア、ゲームメイク力とは言い換えれば試合の流れをどれだけ支配できるかです。相手のやりたいことを妨害し、自分がもっとも得意とする戦術を通すことです。ただ、同じ魔法詠唱者(マジックキャスター)と言えど、アラクネ様は蟲の大量召喚を主軸とすると聞いております。さらに、全ての蟲には接触することで召喚した蟲モンスターの攻撃力と追尾性能が上がる《フェロモン・ターゲティング/蟲香標的》が付与されており、当たるほど不利になるという寸法でしょう」

 

ロイはゲームでの『アラクネ』をなるべく再現するようにしていた。

本来はドライブ技「クリムゾン」をヒットさせ「烙印」状態にすることで初めて蟲を大量召喚できる性能だったが、「烙印」状態というバッドステータスは存在しない上、大量召喚に発動条件をつける意味もなかったため、このような形になった。

 

「つまり、避けて攻撃すればいいってことでありんすね」

 

「おそらくそう思わせた相手を倒すのがアラクネ様の戦術でしょうが」

 

 

《ラウンド・コール》の効力による硬直が解け、試合が始まる。

 

 

 

『《サモン・インセクト・8th/第8位階蟲召喚》』

ロイが極小の蟲が集まって霧状になった蟲モンスターを召喚する。

本来は相手の上空を追尾するもの、相手の位置をそのまま追跡するもの、自分の周りを覆うものを同時に展開するものだが

 

『《グラスプ・ハート/心臓掌握》』

モモンガの十八番である死霊魔法によって途中で蟲の召喚がキャンセルされ、相手を追尾するものだけが残る。

 

『グッ・・・《サモン・インセクト・8th/第8位階蟲召喚》』

ロイはもう一度上空を停滞する蟲を召喚し、確実にモモンガの動きを制限していく。

 

『まだまだ!《チェイン・ドラゴン・ライトニング/連鎖する龍雷》』

追尾する蟲を避けながら出の早い雷の魔法で召喚をキャンセルし、確実にロイの体力を奪っていく。

 

 

「先手はモモンガ様ですね。始めに動きを阻害するための蟲の召喚を読んでペースをつかんでいます。ですがアラクネ様も召喚を通しているため互角と言ったところでしょうか」

 

「なぜモモンガ様はすでに召喚された蟲を潰さないのでありんすか?」

 

「それは蟲を潰すための攻撃中に攻撃されて《フェロモン・ターゲティング/蟲香標的》を付与されたくないからでしょうね。リスクを避けたといったところでしょう」

 

 

『《サモン・インセクト・7th/第7位階蟲召喚》』

ここでロイが弾丸のように素早い蟲を召喚し、モモンガの足元にめがけて発射した。

 

『(ここまでか・・・)《グレーター・デクスタリティ/上級敏捷力増大》』

モモンガはスピードを上げ、飛んでくる蟲を回避する。

 

『ク ク!《サモン・インセクト・8th/第8位階蟲召喚》』

上空に蜘蛛型の蟲を召喚し、急降下させる。さらに先ほど発射した蟲が地中からモモンガを攻撃してくる。

 

『かすったか!《リード・オブ・ヤタガラス/三足烏の先導》』

さらに敏捷力を強化し、蟲の弾幕の中を回避していく。

 

『イツ デ モツカナ!?《サモン・インセクト・9th/第9位階蟲召喚》』

《フェロモン・ターゲティング/蟲香標的》が付与されたモモンガの周囲に大量の蟲を召喚し、一気に追い詰める。

 

『まだまだ!《タイム・ストップ/時間停止》』

周囲の時間と蟲が停止する。ロイ自身は時間停止対策を持っているが、大部分の召喚した蟲にはそのリソースを割いておらず、脱出を許してしまう。

 

『ムダァ!《チン・オブ・シャーク/鮫の顎》!』

ロイはアラクネを作るうえで取得した種族レベルのひとつである《不定形の粘液(ショゴス)》のスキルを使って体を変形させ、《ディメンショナル・ワープ/次元転移》を駆使して瞬時にモモンガの背後から襲い掛かると

 

『《ネガティブバースト/負の爆裂》!』

それを狙い済ましたかのように広範囲魔法が大量に召喚された蟲ごとロイを吹き飛ばす。

 

 

 

「やったぁ!モモンガ様の必殺の一撃がきれいに入ったわ!」

アウラのような女性守護者たちは恐怖公を連想させる蟲の大群が一度に処理されたことに喜ぶ。

 

「これは・・・まずいかもしれませんね」

だが、デミウルゴスは戦況を見て絶妙な表情をしていた。

 

「ドウイウコトダ? デミウルゴス」

 

「なに、もしかしたらだが・・・モモンガ様の予定が狂ってしまったのではないかと思ったのです。戦闘開始直後こそモモンガ様はアラクネ様の召喚を妨害しつつ攻撃魔法によって体力(HP)を削りましたが、それは布石のための挑発にすぎない。モモンガ様は身体能力を上げてアラクネ様の大量召喚を引き出し、回避の限界と見せかけてから一網打尽にし、《フェロモン・ターゲティング/蟲香標的》を成功させるリスクと引き換えに魔力量(MP)でリードを奪うおつもりだったのでしょう」

 

「でも、それにいち早く気がついたアラクネ様はモモンガ様に《フェロモン・ターゲティング/蟲香標的》をつけようと更なる召喚をすることを諦め、背後にも攻撃できるより広範囲な攻撃魔法を出させることで、自身の体力と引き換えに蟲を守り、魔力量(MP)のリードを許さなかった、と言いたいのでしょう?」

 

「その通りですアルベド。現にアラクネ様の召喚した防御力が高い蟲はまだ生きています。これでモモンガ様はノーダメージでアラクネ様の体力(HP)魔力量(MP)を削りましたが、当初の目標である魔力量(MP)でのリードが達成できていない以上、予定通りとはいかなかったと考えられます」

デミウルゴスはリスクを受け入れてなおモモンガの思い通りの展開を読み取り、それを防いだロイの評価をする。

 

「それにしても素晴らしいのはモモンガ様ですわぁ。戦闘中であるのに、自身が使用した身体能力強化魔法と相手の召喚魔法との魔力消費量を計算して有利が取れるようにしつつ回避できるギリギリを選択し、さらに突然の直接攻撃にも方針を変更して難なく対処されるとは、さすがは私の愛する御方・・・」

アルベドは設定の補正もあるが、モモンガの膨大な戦闘経験によって実現可能になった戦術と機転の良さを評価した。

 

「イズレニセヨ流石ハ至高ノ御方々、剣ノ修行ダケデハナクコノヨウナ読ミ会イモ重視シテイカナケレバナルマイ」

 

 

 

『(予定が狂ったな・・・本来は範囲が多少狭い代わりにより強力な《ブラックホール/暗黒孔》によって向かってくる蟲を全滅させるはずだったが・・・まぁ、ここからが本番だ)』

守護者たちの考察はおおよそ当たっていた。

だが序盤が予定通りに進まなかった程度で勝利が揺らぐものではないとモモンガは考えていた。




実況:アウラ、シャルティア他
解説:アルベド、デミウルゴス

リアル経験値の暴力。頭のいい設定のアルベド、デミウルゴスでも戦闘経験皆無でリアルタイムMP計算なんてできないでしょう、という設定。

作者的には守護者たちにポップコーン片手に視聴している姿が見えるけど、さすがに不敬すぎますね。
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