となりの相模さん   作:ぶーちゃん☆

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席替えと相模さん

冬休みが終わると、学校生活の新たな1年の始まりであると同時に、2年生としての最後の学期でもある3学期が始まる。

てかなんで日本て年度の始まり4月なの?ややこしくない?

 

そんな、残すところあと僅か3ヶ月弱の高校2年生生活だというのにも関わらず、うちのクラスは席替えを行う模様である。

いや本当に意味が分からない。今それを行う意味ってなに?

 

ご存知の方も多いかもしれないが、この席替えというイベント、我々のようなスクールカーストの日陰者にとっては、クラス替え初日に並ぶほどの残虐イベントである。

 

もうこれは本当やめた方がいいと八幡思うの。幸せになるのは極々一部のリア充共だけで、ほとんどの人間にとってはロクなイベントじゃないからねコレ。

 

 

「うっわー、マジ席替えとかやだわー!マジ勘弁して欲しいっしょー」

「それな」

「ホントそれ」

 

ああやって嫌だ嫌だと言いながらもどこか楽しげにしてる連中(主に戸部周辺)だけだよ喜んでんの。

 

あとはああやって口には出さなくても、秘かに思いを寄せてる相手の隣の席になれたら…なんて微かな望みを抱いている青春謳歌な恋愛脳な奴らだけ。

でもそいつらこそが俺らのような日陰者にとっては一番の加害者だったりするから手に負えない。

だってそいつら、いざ隣の席が俺だと分かると露骨に嫌な顔すんだもん。どれくらい露骨かといえば、新しいラジコンを買ってもらったスネ夫が、初めて遊び始めた直後にジャイアンに遭遇しちゃった時くらいの露骨さ。

あれって、ある意味ジャイアンの鋼メンタルを尊敬しちゃうよね。

 

そんな、ジャイアンの大物ぶりに感動しちゃってる俺の思いとは裏腹に、席替えイベントは着々と遂行されていく。

教卓の上に置かれた担任お手製のボックスから、クジ引き方式で新たな席へと充てがわれていくか弱い俺たちは、さながら出荷を前に仕分けされていくだけの家畜のようだ。

 

「うわー!俺、お前の隣かよー」

「えー……?あんたが隣なのぉ?」

 

などとそこかしこでテンプレのように行われるやりとりをしているお前らは、なんでぶつくさ文句を言いながらもそんなに楽しそうにしてるのん?

そりゃそうだ。お前らはまだ知らない。真に嫌がる時ってのは、そんな風にバカみたいに騒げはしないものなのだ。

 

真に嫌がる時、それはMU・GO・N。人って、本当に嫌な時って絶句しちゃうのよね。

八幡知ってるよ?だって、数えきれないくらいの経験談だもの。

 

しかしそんな俺にも唯一の望みがあるのは言うまでもない。

なにって?そんなの決まっているだろう。この席替えイベント発表と同時に、キラキラした目を俺に真っ直ぐ向けてきた天使のそばに、毎日居られるかもしれないという望みだよ!

 

そんな天使が今まさに担任お手製ボックスからクジを引く。

天使は引き当てたクジの数字を一瞥すると、クルリと俺が居る方向に身を翻し、両手で持ったクジを胸元にかざして頬を染めて恥ずかしそうにはにかむ。

やだもう可愛すぎじゃないかしら戸塚たんったら!わざわざ俺に数字を見せてくれたんですけど!

 

「はちまーん!僕は1番だからねっ」

 

って声が聞こえてくるようだ。

よし、2番、もしくは隣の席を引き当てたら戸塚に結婚を申し込もう。俺、この戦いが終わったらあいつと結婚するんだ!

 

そして遂に俺にクジ引きの順番が回ってきた。

神よ、俺の残りの寿命を全て捧げてもいいから、どうか戸塚のそばへ!神じゃなくて悪魔に祈っちゃった。

しかし引き当てた数字を目の当たりにした俺は力なく崩れ落ちる。なぜなら、戸塚の引き当てた数字とは真逆。そう、このクラスの総人口の数と同じ数字だったのだから…。

 

俺は生涯忘れる事はないだろう。遠目から俺の数字を確認した戸塚のシュンとした哀しげな顔を。俺の戸塚にあんな顔させるとは、神も悪魔も絶対に許すまじ。

 

 

俺は自分が充てがわれた席へと向かいつつ途方にくれていた。

この席は窓側最後列。常であれば誰しもが歓喜するであろう特別席である。

だがしかしそれはあくまでもリア充限定での話。なぜならこの席は、そのリア充の溜まり場になりやすい席だからである。

つまりは2学期まで、休み時間や昼休みにいつも三浦達が騒いでいた場所なのよね、ここ…。

 

これでもし隣やその周辺に三浦、もしくは前に葉山でも来ようものなら、この場所は間違いなくトップカーストの社交場と化すであろう。ちなみに由比ヶ浜だと逆に気を使っちゃいそうだからマジ勘弁。

いや、なにも三浦や葉山、由比ヶ浜だけではない。たとえ戸部や大岡たちであろうとも、この(リア充限定で)居心地の良い場所ならば、わざわざ女王ご一行様が遠征してくる可能性さえありうる。

そのさい下民はただ遠くへと追いやられるのみ。

 

昼休みはどうせベストプレイスだろうって?

馬鹿を言っちゃいけない。さすがの俺も、雨の日は自分の席で食うんですよ。どんなに居心地が悪かろうとも、雨の日ばかりは自分の席しか居場所が無いんですよ。

つまり雨の日はトップカーストに囲まれながらメシを食うしかないという地獄。ていうか、購買から帰ってきた時に俺の席って残ってるんだろうか…?

 

頼む!戸塚と真逆の席になってしまうという憂き目にあったんだから、せめて隣の席に来るのがトップカーストグループではありませんように!

その願いが叶うのであれば、新たな隣人女子からの露骨なガッカリ視線などいくらでも我慢しますから!

 

そんな願いを、今度こそ神か悪魔が聞き入れてくださったのであろう。

幸いにして俺の隣の席にやってきたのは、トップカースト女子[では]無かった。

隣の席で、俺の存在を確認して愕然と佇むそのトップカースト[では]ない女子。

そこには、トップでは無く序列2番目のカーストグループの中心人物たる相模南が、顔を真っ赤に紅潮させて俺を見下ろしていたのだった。

あかん、これもう終わりのやつや…。

 

 

相模南。俺とこいつには浅からぬ因縁がある。

因縁もなにも俺が一方的に忌み嫌われてるだけだけど。

 

ぶっちゃけ俺は相模に対して、特にこれといった感情を持ち合わせてはいない。ただ、役立たずで使えない相模を罵倒して嫌われたってだけの、単なる他人という関係性だ。

ただしそれは俺から見た場合である。相模から見たら、俺は間違いなく忌むべき相手。

自分よりも遥かに下の地位の分際で、クラスで上位の自分を罵倒して人前でみっともなく大泣きさせた憎むべき相手に他ならない。

 

つまりなにが言いたいのかと言うと、俺の新学期は早くも終了しました。

 

だってそうだろう。この窓際最後列の席はトップカーストないし高カーストグループの溜まり場であり社交場。

相模がこの席に着くということは、つまり休み時間や昼休みに、こいつの取り巻き共がこの場に集合するという事なのだ。

 

うっわ…想像しただけでも息が詰まりそうだわ。文化祭直後、俺の悪口を学校中に垂れ流したグループが隣の席に集まるとか、それなんて拷問?これから俺は休み時間の度に、これだけの至近距離からどんだけの蔑みの視線と嘲笑を受けて過ごさなきゃならないの?

 

ハァ…これは昼休みに限らず、休み時間の度にどっか行かなきゃならないのかもな…。

俺は未だ隣で真っ赤になって憤怒の表情を浮かべている相模の熱のこもった視線をヒシヒシと感じつつ、頭を抱えて机に突っ伏すのだった。

 

 

あの悪夢の席替えから数日。結果から言えば、俺はかなりの肩透かしを食らっている。

なぜかといえば、隣の相模さんが休み時間の度に自ら取り巻き共の席へと向かうからだ。それ故にこの席は休み時間になると不可侵の空間となる。つまりは誰も近寄らない俺のボッチプレイス。席替え前と変わらないでやんの。

まあそこは俺が死ぬほど嫌いな相模である。極力俺の近くには居たくないのであろう。

 

授業中とかは隣からちょくちょく視線を感じるものの、基本的に一切関わることなく、予想に反して快適な毎日を送れている毎日に、俺はすっかり油断していた。

 

その日も授業はつつがなく進んでいき、次は数学の時間。

数学ということは、すなわち睡眠時間とイコールで繋がる俺である。

当然ながら俺は授業開始と同時に惰眠の体勢を取ったのだが、そこで事件は起きた。

 

不意に弱々しくクイクイと引っ張られたブレザーの袖。

はて?授業中だと言うのに、戸塚が愛らしく俺を呼んでいるのだろうか?

なんだよ戸塚〜、今はまだ授業中だぞ〜?仕方ないな、結婚するか…なんて無益な妄想をしながら引っ張られている方に視線を向けると、そこには…。

 

「……は?」

 

そこには、林檎のように顔を赤々と染め上げた我が隣人相模南が、もじもじと俺の袖をクイクイ引っ張っていたのだった。

 

 

「…なんだよ」

「…あ、や」

 

まさか相模から話し掛けられる日がこようとは夢にも思わなかった上に、なんだか遠慮がちなこの態度。

なんなの?同じ空気吸うのそろそろ限界だから、ちょっと5時間くらい息止めててくんない?とか言うつもりなのかな?

訝しげな視線で相模を見ていると、相模は相変わらずもじもじしたままスカートをギュッと握り、分かりやすいくらいにゴクンと喉を鳴らした。

 

「あ、あの…ウ、ウチ、その…きょ、教科書忘れちゃって……ちょっと見せて欲しいな、と…」

「は?」

 

まさかの青春イベント『教科書見せて』である。

嘘だろ?あの相模が、俺に教科書を要求してくる…だと?

 

「…あ、ご、ごめん…無理なら、いい…です」

 

えっと…………誰?なんか俺の知ってる相模じゃないんだけど。なんでそんなに見るからにシュンとしちゃってんの?

あまりにも予想外な相模の応対に、軽く呆気にとられて固まる俺ではありますが、こういう態度をとられちゃうと、悲しいかな小町に訓練されたお兄ちゃんスキルが自動的に発動してしまうのですよ。

 

「……チッ、ほらよ」

 

ポイッと相模の机に数学の教科書を放ってやると、相模は俺の顔をポカンと見つめる。

 

「…え、い、いいの…?」

「あ?お前が見せろって言ってきたんだろうが」

「そうだけど……ホ、ホントに…?」

「…いらねぇんなら返せ」

「いやいやいや、いるいるいる!あ、ありがと」

「おう…」

 

なんだよこれ、すっげぇ調子狂うんだけど…ホントこの子どちらの相模さん?

嬉しそうに照れ臭そうにホッと胸を撫で下ろしてる相模の姿は、あの文化祭での蛇を思わせる狡猾さとか一切感じない。

 

「あ、でも比企谷は…?い、一緒に見ないの…?」

「ああ、俺は数学捨ててるから気にすんな。授業が終わったら、適当に机に置いといてくれりゃあいい」

「そ、そっか、その…ありがと…」

 

あまりにも調子の狂う相模の素直さに、俺はそのまま無視して机に突っ伏す。

てか、こいつヒキタニじゃなくて比企谷って言ったか…?

 

ハァ…本当によく分からん。

こういうよく分からん時はとっとと寝るに限るな。

俺はいくら考えても無駄だと悟ると、即座に意識を放棄するのだった。

 

 

――目が覚めるとすでに授業は終わっていた。

机には、遠慮がちに置かれた数学の教科書が一冊。どうやら相模は休み時間に入ったと同時に教科書を俺の机に置いて、取り巻きの所に向かったようだ。

 

あ、これあれかな?もしかして酷い落書きとかされてるやつかな?まぁ数学の教科書を使うことがない俺には大した痛手にはならんからいいけども。

 

何の気なしにペラペラと捲った教科書には、落書きではなく一枚のメモ用紙が挟まれていた。

はて?俺の教科書に見覚えのないメモ用紙?なんだこれ?

 

そのメモ用紙には、とても女の子らしいカラフルな色で書かれた可愛い文字と顔文字が。その書かれた内容を確認した俺は、さらなる思考の迷宮に足を踏み入れざるを得ないのだった。

 

 

[ありがとっ(*^▽^*)]

 




思い付きを見切り発車で書いてしまっただけなので、続くかどうかはまだ分かりません
でも可能であれば続けてみたいと思っております

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