となりの相模さん   作:ぶーちゃん☆

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え!?こっちΣ(゚□゚;)!?






【特別編】バレンタインと相模さん 上

 

 二月半ば。世間ではなぜかキリスト教の聖人ヴァレンティヌス(英語読みバレンタイン)が時のローマ皇帝に処刑された日を、天にチョコレートを掲げキャッキャウフフと祝っているという、そんなカオス溢れる季節。

 

 とまぁ、大抵そういう捻くれたこと言うヤツって、ただ羨まけしからんってだけの負け組なんだよね。

 『クリスマス? ハッ、俺んち仏教だし! (涙目)』的なやつとほぼほぼ同義。

 

 そこへ行くと俺なんかは圧倒的な勝ち組といえる。だって小町にチョコ貰えるから大好きな日だし。

 フハハハハ! 圧倒的じゃないか、我が妹は!

 

 

 だがつい先日の生徒会主導バレンタインイベント、あれはいかん。

 なんで三浦が葉山にチョコ渡したいってだけで、あそこまで大々的なイベントを催さねばならんのか……

 まぁ俺の何気ない提案から発展しちゃったんだけどね、てへ!

 

 おかげであの日は偉い目にあってしまった。なんで最近奉仕部周りはあんなに殺伐としてんですかね。

 なにが殺伐としてるって、なんか雪ノ下と由比ヶ浜と一色がギラギラしてるんだよね。最近ってか、三学期が始まってちょっとしてからくらい。

 

 三浦が葉山にチョコ渡す為に開かれたイベントだってのに、なぜ俺があの三人から執拗にチョコの味見をさせられなければならんのか……。あ、三人にプラスして川……川……川サキサキも交ざってきてたわ。

 あいつら俺が涙目になってんのに、お互い張り合うように牽制するように、次から次へとチョコを口の中に押し込んできやがんの。

 てかその押し込んでくるチョコの中に、たまにチョコに似せて錬成されたダークマターが混じってくるからタチが悪い……

 

 あれで、元々誰も呼んでないのに勝手に来ちゃう予定だったらしい陽乃さんが病欠してなかったら、たぶん俺今ごろICUで、川の対岸の爺ちゃんに手を振ってるとこだったわ。あ、爺ちゃん父方も母方も健在だった。じゃあここはひとまず戸部で。

 

「……うぷっ……あぁ、思い出しただけでも気持ちわりぃわ……」

 

 これは暫らくチョコとかダークマターとか食えねぇな。ダークマターは元々食い物じゃなかった。

 

 と、そんな事を思ってうなだれていると……

 

「ねぇ、どうかした……? 体調とか、悪いの……?」

 

 今日も今日とて絶賛教科書貸し出し中のお隣さんから心配のお声が掛かりました。

 

「……いや、ただの思い出し吐き気だから気にすんな」

 

「ぷっ、なによ思い出し吐き気って。思い出し笑いならともかくさ。まっ、あんたが授業中に思い出し笑いとかしてニヤついてたら、それはそれでヤバいけどー」

 

 授業中ゆえに小声でそう言って、口元を押さえてクスクスと笑うお隣さん。

 相模南は今日も元気です。

 

 

 

 

 あの千葉県民憩いの場での一件から二週間弱。幸いな事に俺の悪い噂はおろか、相模の悪い噂も広まらずにいてくれている。

 

 なにせ相模があの遥とゆっこに啖呵を切ったのだ。だから俺はてっきり、その翌日くらいからは嫌〜な噂……それこそ文化祭の真実やら体育祭の相模の泣き喚き騒動の顛末。最悪「相模さんってあのヒキタニと付き合ってるらしいよ〜プークスクス」なんて、有ること無いことエトセトラの下賤な噂が流れてしまうのかもしれないと、ある種の覚悟をしていた。それはもちろん相模も同様だろう。

 だが蓋を開けてみれば、相模や俺の噂などは一切流れてはいない。これには些か肩透かし状態ではあるが嬉しい誤算だ。

 

 これはあくまでも単なる想像にしか過ぎないのだが、あの遥とゆっこにも、なにかしら思うところがあったのではないだろうか。

 確かにあの場では相模に対する不満を口にしてはいたが、ヘタレで狡猾で薄っぺらくてどうしようも無かったはずのあの相模の涙まじりの真っ直ぐな訴えに、あの二人もなにか感じるところがあったのだろう。

 

 相模がこうして善くも悪くも変わったように、あの二人だって善くも悪くも変わっていく。

 別にあいつらだって根っからの悪人なんかではないのだ。相模にしてもあいつらにしても、たまたま意見が食い違ったってだけの、どこにでもいる普通の女子高生なのだから。

 

 

 と、ここまでで話が終われば単なるイイハナシダナーで済むのだが、別に遥とゆっこの件は、あの日から約二週間の間に起こった事例のほんの一例に過ぎず、むしろ一番の問題はここからなんだよなぁ……

 

 一番の問題。それは、こうして今日も今日とて机を寄せ合って、一冊の教科書を二人で見ているというこの状況。

 こないだなんてあれだからね。相模が「忘れたから見せてくんない?」って言ってきた教科書を、たまたま俺も忘れちゃってた日があってね。そしたらこいつ……

 

『……あ、ごめん比企谷。忘れたって勘違いしてたみたい。持ってきてたから、今日はウチが見せたげる』

 

 などと言って、結局机を寄せ合って一冊の教科書を二人で見た日があったからね。

 

 なんなの? 俺のこと好きなの? 教科書なんてただの口実で、実はただ俺と机を寄せ合って一緒に授業受けたいだけなのん? なんて、危うく勘違いして告白してHRで発表されちゃうとこだったわ。発表されちゃうのかよ。

 

 

 さらにはあの雨の日限定の弁当。

 憩いの場の翌日、雨でもないのに弁当を作ってきてくれたと思ったら、なんかそれから毎日弁当持ってくる気だったからね、この子。

 

 3日目で気付いて流石にそれは勘弁してくれって止めたら、

 

『……だ、だよね。……ウチのお弁当、あんま美味しくない……もんね』

 

 と、弱々しい笑顔でこう来ましたよ(白目)

 ええ、もちろん言ってやりましたよ。美味いから。美味いに決まってんだろ、と。

 俺を自殺に追い込む事が目的なのかな?

 

 でもこの弁当はあくまでも教科書を見せる代わりの対価。そういう約束のはず。

 なのにたかだか教科書見せるだけで毎日弁当貰うのは割りに合わない。等価交換にならないただの施しだ。それでも作ってきてくれるというのであれば、あまりにも申し訳ないから、お前がなんと言おうと金払うからな、って言ったら、ようやく……よ、う、や、く渋々折れて、毎日ではなく週一プラス雨の日で、との約束を取り付けられました。

 やったね八幡! ……やったのか……?

 

 

 ……そりゃね。いくら俺が相模の卑怯なウルウル涙目攻撃に弱いとはいえ、こっちだって必死にもなりますよ。

 教科書にしても弁当にしても、まだ以前は良かった。

 クラスメイトの連中には大して気にもされていないはずだと、無理やり自分に言い聞かせていたから。言い聞かせていられたから。

 

 しかし今では他でもない当の本人、相模の口から聞いてしまったのだ。

 

『相模と比企谷が最近仲が良いらしいと噂になっている』

 

 と。

 

 

 

 …………そんなん無理に決まってんだろうが!

 アホか! そんなん聞いちゃった後に、毎日毎日何時間も一緒に教科書見るとか一緒に弁当食うとか、一体どんな拷問だよ!

 ねぇ、俺を辱めたいの? 恥ずか死めたいの?

 

 

 そんなこんなで、今日もとなりの相模さんと生暖かい視線を送ってくれるクラスメイト達に精神をごりごり削られながらも、俺 比企谷八幡もなんとか元気です。

 

 

 

 

 しかしそんなお隣さんだが、今日は朝から様子がおかしい。……またかよ。

 

 ここ最近の相模は、なんだかんだで俺との隣人関係にも慣れてきていたようで、たまにもじもじはするものの、基本的には結構普通に接しられていると思う。

 まぁ今まで他人と接した事がほとんど無い人生を送ってきたから、なにが普通かなんて知りませんけどね!

 

 なのだけれども……今日の相模は朝から久しぶりにおかしいのだ。なんていうか、すっごく落ち着かない。

 チラチラそわそわチラチラそわそわ俺を見てくるこの様子は、まるで初めて教科書閲覧を要求してきた日や初めて弁当を作ってきた日、そして初めて一緒に帰って一緒に道草食った日を思い起こしちゃうかのようなチラそわっぷり。

 

 

 ──あ、これめんどくさいやつだ。それもかなりの高レベルで。

 

 

 それに気付いた時、途端に俺は早く帰りたくなった。どれくらい早く帰りたいかというと、金曜の夜に残業させられているサラリーマンくらい早く帰りたい。

 最近はただでさえクラスメイト達からの生暖かい視線が痛くて堪らないというのに、ここへ来てのこの面倒臭そうっぷりは明らかに死活問題だ。よせ、その術は俺に効く。

 

 

 そしてこの日1日、俺は相模からのチラそわ攻撃をなんとか耐え切り、帰りのHR終了と共に部室に逃げ込もうと即座に立ち上が…………ろうとしたら、なんかブレザーの袖を摘まれててちょいちょい引っ張られてたんで立ち上がれませんでした。

 

 なん……だと? 俺の動きを予想して先回りしていただと……?

 くっそ、こうも簡単に捕まってしまうとは。仕方ないな、これは八幡検定3級を贈呈せねばなるまい。

 

「なんだよ……」

 

「あ、あの……さ」

 

 おいやめろ。俺の袖を可愛く摘んだままもじもじすんな。

 目がぁ! 周りの目がぁ! ……あ、ガハマさん、教室でその顔はマズイですって……

 

「お、おう」

 

「きょ、今日……部活終わったら……ウ、ウチんち来ない……?」

 

「」

 

 

 

 

 ウチんちってなんだろう? 初めて聞く単語ですね。ウチ+んち。んち? なにそれ下ネタ? アラレちゃんが大好きなアレかな?

 

「ちょ、ねぇ……ひ、比企谷……?」

 

 ウチんちについて深く深く思考を沈めてしたら、そんな不安そうな声と袖をちょいちょい引っ張られる感覚に、現実へと引き戻されました。

 

 ウチんち……凄まじい破壊力だ……俺は一体どれだけの時間、この謎めいた単語に時を止められていたんだ。

 

「お、おうスマン。なんでもない……で、なんでいきなりお前んちに行かなきゃならんの……?」

 

 やだ! 俺ってばウチんち超理解してるじゃない!

 なんかアレだよね。ウチ呼び女子って、自分の家に人を誘うの難儀だよね。ウチのウチ来ない? とか言われても「え、なに言ってんの?」ってなっちゃう。特に字面にしちゃうと、もうなんだかよく分からん。

 

「あ、いや……だ、だって」

 

 俺の質問に、相模はびくんと肩を震わせた。だからその弱々しい表情はやめて!

 

「ほ、ほら……明日って学校休みじゃん……?」

 

「まぁ、……だな」

 

 そう。明日2月14日は我が愛妹の入試がある為、平日にもかかわらず学校が休みなのである。まるで小町の為に休校になるみたいな言い方をしてしまったが、あながち間違いではないのでオッケーだろう。

 

「だ、だから、ほら。……前に約束した、熱々トロトロの手作りドリアとか……食べにくればいいんじゃん……? とか……?」

 

「……は? いや、だってアレはまた今度って」

 

「? ……だから今日がその今度なんだけど」

 

「?」

 

「?」

 

 ……あっれー? なんか認識に隔たりがあるようだよ?

 “今度”って、決して訪れる事のない幻の未来の約束の言葉なんじゃないのん?

 

「……ウチ、今日の為に何度か練習してみて、ようやく結構美味しく作れるようになったんだよね」

 

 そう言って、チラチラと横目で窺うように覗きこんでくるお隣さんではあるが、俺としては「はいそうですか」と安請け合い出来るような簡単な案件では無いのである。

 いやいや普通に無理でしょ……女子の家に手料理食いに行くとか、それどこのリア充なんですかね。

 

 だから俺は、引きつってしまった顔でその申し出を……

 

「…………そ、そか、やっぱ無理……だよね」

 

「やべ……! なんか俺超ドリア食いたいわ。なんなら今日はドリア以外ノドを通らないまである」

 

 即座の降伏宣言。もう無理ゲー。バンゲリングベイくらいクリア不可だよこれ。

 

「っ……!! ……ホ、ホント比企谷ってムカつくー……食べたいんなら、最初っからそう言えっての……っ」

 

 

 

 ──ほんの一、二ヵ月前までならば、相模南という人物とこういうシチュエーションが重なった場合、まず確実に疑ってかかっていただろう。

 あの悲しげな笑顔も弱々しく遠慮する姿も全て計算づく。狡猾に回りくどく相手を陥れる為の、嘘まみれの狡賢い三文芝居に過ぎない、と。

 

 でも今はこれが本気なのか芝居なのかもう分からん。完全なお手上げだ。

 ……だって、ムカつくだのなんだのと悪態を吐きながらも、俺の隣でパァッと花が咲いたような笑顔を浮かべつつ、心底ホッとしたように胸を撫で下ろしているこいつの姿を見てしまったら、これが嘘だの芝居だのなんて、軽々しく言えなくなってしまうから。

 

 

「じゃ、じゃあさ、比企谷が部活終わるまで教室で待ってっから、ウチんちまで一緒に行かない……?」

 

「……まぁ、お前んち知んねーし、しゃあねーな……」

 

「でしょ! てか……ぷっ、あはは、これで家知ってるとか言われたらめっちゃキモいけどー。さ、ウチそれまで友達と話してよーっと。……ん、んじゃ、さ」

 

 すると相模は頬を染めてニカッとはにかむと、胸の高さくらいで小さく手を振り、

 

「……ま、またあとでね、比企谷……っ」

 

 一言そう口にするとニヤニヤしている取り巻き達の下へとタタッと走っていってしまった。

 

「……お、おおう」

 

 果して相模の耳に、このどうしようもないくらいキモい返事が届いただろうか?

 だってさ、またあとでね、って、なんかすげぇ照れくさくない?

 

 

 

 

 ──比企谷八幡。齢17歳にして、初めて女子の家に手料理を食べに行く事が決定しました。

 

 

 

続く

 






このあと八幡は部室でエラい目に合いました☆
ちなみにこの作品は八幡とさがみんの二人のやり取り特化型SSなので、そんな部室での地獄のやり取りはオールカットです♪




というわけで、全国一千人のさがみんフリークの皆様ご無沙汰しておりますm(__)m久しぶりに帰って参りました、となりの相模さんでございます!

他で書いているさがみんSSの自宅訪問編がようやく一段落したので、以前お約束していたこちらの【自宅訪問編・手作りドリアの章】も書いちゃおうかな?と(^皿^)
だったらついでにバレンタインもやっちまえ〜ってなわけで、久しぶりの更新と相成りました!
(やべぇよ今年さがみんしか書いてねーよ。注・作者は別にさがみん好きではありません)



次回の下はバレンタイン付近での更新になると思いますのでよろしくですノシ



※一人称についての補足です

さがみんの一人称は、さがみん大好きな皆さんなら当然のようにご存知の“うち”ですよね。
じゃあなぜこの作品は“ウチ”なのかというと、コレは元々匿名で書いてた作品なので、少しでも身元がバレないようにと小細工として“ウチ”でスタートさせました。

匿名解除したんだから“うち”に戻せばいいだけの話なんですけども、9話分のウチを戻さずに最新話だけ“うち”ってのもなぁ…と思いましたし、9話分のウチを訂正するのはあまりにも面倒くさかったので、この作品のみ“ウチ”表記のままで行こうと思っとりますのでヨロシクですっm(__)m


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