となりの相模さん   作:ぶーちゃん☆

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まさかの更新です。

名前は出しませんが、とあるアニメを観てむしゃくしゃしてやった。後悔はしていない(`・ω・')キリッ



西片くん爆発しろ。





からかい上手の相模さん【攻撃編】

 

 

 

 ぽよん、と。それは不意に肘に当たった。

 とてもとても柔らかな感触のそれは、言うなれば、アンパンマンの唯一の友達でもある愛と勇気を、男の子に魂に深く刻み込んでくれる素晴らしき宝物。

 

 不意にとは言ったが、正確には不意とは呼べないのかもしれない。

 なぜなら先ほどからそれがずっと当たりそう当たっちゃいそう当たっちゃったらマズいよね? と気を遣っていたからだ。気を遣っていたにも関わらず当たってしまった以上、それは不意にあらず。

 一応先ほどから当たらないように気をつけていたのだが、こちらが一方的に気をつけていようとも、お隣さんが俺の気遣いに気付かず距離を詰めてくれば、当たってしまうのは致し方のない事なのだ。むしろ必然である。

 いやまぁ、当たらないように無理な体勢のまま固まってたから腕がつりそうになっちゃって、力を抜いた途端にぽよんとむにょんと当たっちゃったんですけどね。

 

「……ちょっ? い、いま比企谷、ウチの胸肘でつついたでしょ!? し、信じらんない! ウチらって友達なんだけど! こ、こういう異性的なスキンシップとか、まだ許してなくない……!?」

 

「おいふざけんな、お前が近いんだよお前が。つついたとか人聞きの悪いこと言うな」

 

 あとまだってなんだよまだって。いつかスキンシップ許してくれる予定なのん?

 

「だ、だってしょうがないじゃん! 近寄んないと教科書見えないんだから」

 

「……つかお前、いま授業中なんだからもうちょいボリューム下げろよ。マジで勘弁してくんない……?」

 

「……あ。……あ、あんたが悪いんじゃん! 人の胸触るから」

 

「おいさらに人聞き悪い言い方になってるぞ、ホント勘弁してください」

 

 すみませんクラスの皆さん、お隣さんが騒がしくて。平身低頭土下座しますんで、お願いだからこっち見ないでください!

 特に平塚先生と由比ヶ浜さん、目に、目に光をォ! そんな目で見られたら、俺なんて簡単に死ねるからね?

 

 

 

 ──あの体感時間約一年前のバレンタインから約二週間が経ち、俺は今日も変わらぬぼっちライフを満喫している。だがしかし、そんな悠々自適なぼっちライフを送れているはずの俺の毎日は、隣の席に鎮座する鬱陶しい隣人によって、今日も簡単にブチ壊されているのである。

 なんというか、あれから相模との距離がやたらと近くなったのだ。いや、近くなったというよりは、相模が一方的に距離を詰めまくってきていると言った方が正解なのかもしれない。

 

 あのバレンタインで俺と相模は友達になった。てかこの時点でぼっちライフを満喫とか言ってたら、全国のぼっち達を敵に回し兼ねないので、もうぼっちを気取る事はやめておこうね!

 

 ……そう。俺と相模は友達になったのだ。だからその翌日から相模との距離が妙に近くなったのは、それが友達の距離、という事なのだろう。

 教科書見せれば腕と腕がくっつくとか日常茶飯事だし、それが見辛いページとかだと今みたいに相模がぐいぐいと身を寄せてきて、ふにょふにょバストを肘でつんつんしちゃったりする事もある。

 いや、胸触っちゃったのは今日が初めてだよ? 嘘です、実は二回目でしたありがとうございます。

 

 成る程これが友達の距離感なのか。なに? こんなに近いものなのん? 友達の距離感って。

 いや待て、俺ってば戸塚とこんなに近かったことないんだけど。やはり俺と戸塚は友達では無かったのかッ……!

 

 驚愕の真相に胸がグイグイ締め付けられていると、不意にくいくい引っ張られる制服の腕。見ると、真っ赤な顔した相模が厭らしく口元を綻ばせ、俺だけに聞こえるようぽしょぽしょとこう囁いた。

 

「……ほんっと比企谷って油断なんないよねー。もう肘でつつかれたの三回目なんだけど。つかまだなんかニヤついてるし。キモっ。まーたなんかやらしい事でも考えてたんじゃないのー?」

 

「……アホか、そりゃお前が無駄に教科書忘れる回数と無駄に近すぎる回数だろ。お前が教科書忘れなければ起き得ない事故だ。むしろお前から当たってきてるだろこれ」

 

 つかお前、いい加減教科書持ってこいよ。なんなら教科書一式もうひとセット揃えて、片方を学校に常備しといてもいいレベル。それと、どうやらパイタッチは三回目だったみたいですありがとうございました。

 

「はぁ? 女子の胸触っといて普通そういうこと言う? マジ信っじらんないこいつ」

 

「だから触った触った言うんじゃねぇよ……」

 

 もうなんなんだよこいつ……、死ぬほどうぜぇ……

 

 

 隣の席になってからのしおらしい態度にすっかり忘れてしまっていたが、この相模南という女、元来とても調子に乗りやすい女だ。

 勘違いして調子に乗ってやらかして痛い目に合う。こいつはそうやって文化祭や体育祭ですこぶる痛い目に合ってきたという、輝くような実績の持ち主である。

 

 あのサイゼやバレンタインで話を聞いてみたところ、やはりこいつは今まで俺に対して何かしら思うところがあったらしい。罪悪感やら後ろめたさ、あとは友達でもなんでもない、隣の席同士ってだけの妙な関係性。

 

 そういった負の感情やらなんやらが遠慮という形を成し、今まで俺に対しては相模南らしからぬ態度となっていたのだろう。

 だが、そこへ来ての友達宣言である。それも今までの溜まった感情を全て吐ききってからの。要はもう相模の中からは『比企谷に遠慮しなきゃ』という文字が取り払われた、という事なのではないだろうか。つまり今この女、かなり調子に乗っていてとってもウザイ。

 まぁ、こうやってニヤニヤとムカつく笑顔を向けてきているウザイ姿こそが、相模南が相模南である証とも言える本来の姿なのだろうし、ようやく俺にも本来の姿を晒すようになったのだと喜ぶべき事なのかもしれない。

 ……それは理解しているのだが、ホント鬱陶しくてたまらないんだよぅ……

 

 それもただのムカつくニヤニヤではない。なんとも照れ臭そうに瞳を潤ませ頬をポッと染めながら、こちらの反応を窺うようにチラチラと視線を向けてくるのだ。なんだろうか、このからかわれている感は。ホントドキドキしちゃうんでやめてもらえないでしょうかね。

 

「やっぱ比企谷って、ウチの事やらしい目とかで見てんじゃないのー?」

 

「……うぜぇ」

 

 

 ──ああ、そういや鬱陶しいからかいと言えば、ちょっと前にこんなこともあったっけ……

 

 

× × ×

 

 

 俺はあの日もいつもと同じように、四限目のチャイムと共に昼飯の準備を始めた。ちなみに準備と言っても、自分の席で飲み物を用意するだけである。

 

『はい、今日の』

 

『おう、さんきゅ』

 

 なぜならこうしてお隣さんから仕出し弁当が配給されるから。

 なんだよこの熟年夫婦みたいなやりとり。これをいつもの光景のように語っちゃってる時点でちょっとアレだよね。

 でもこれがここ最近の俺と相模の普通のやり取りなのだから仕方ない。だから、クラスのあちらこちらから注がれてる生暖かい視線なんて、俺は知らない見えない気付かない。

 

 

 その日のさがみん弁当はメインが肉じゃがだった。なんともあざといメニューチョイスではあるのだが、相模の肉じゃがは結構美味いので、弁当が肉じゃがの日は秘かにテンションが上がっているのは内緒だ。

 俺に合わせてくれているのであろうかなり甘め濃い目の味付けで、ごはんがごはんがとってもススム君である。

 

 その日も当然のように美味かったのだが、そこは流石に芋である。芋な以上は食べ進めていけば喉が詰まるのは仕方のないこと。さらに冷めきった芋であれば尚更だ。

 もちろんいつか出来たてホカホカをこいつん家で食わせてもらいたいなぁとか思った事なんて、一度きりだってないんだからね!

 そしてその日、今までにないくらい思い切り詰まった。それはもう盛大に。芋ってマジ恐い。死という物を簡単にイメージ出来ちゃうくらい命を取りにきたもん。

 

『ガハッ! ゲホゴホ……ッ!』

 

『ちょ!? だ、大丈夫!? ほら、お茶、お茶飲んで!』

 

 ガハゲホ咳き込んでいる俺に、お隣さんは優しくペットボトルのお茶を差し出してくれたっけ。あまりの優しさに、危うく求婚して振られちゃうとこだった。

 

『あ、あぶねぇ……、死ぬかと思った』

 

『ちょっとやめてよね、マジでこっちがビビるから。いくらウチの肉じゃがが美味しいからって、慌てて食べ過ぎだっての』

 

 と、こういうところも自己アピールがウザかったりする。

 いやまぁ確かに美味いんだけど、目の前で喉詰まらせて死にそうになってる俺を見て、なんでちょっと自慢気で嬉しそうなんだよ。

 

『……別に慌てて食ってたわけじゃないんだが……。まぁとにかくお茶さんきゅな。助かった……わ?』

 

 そして俺は、そこまで言ってようやく現状がおかしいことに気が付いた。なぜ今俺の命を救ってくれた飲み物がお茶なのだろうか、と。

 なぜなら俺が用意しておいた飲み物は、当然マッ缶なのだ。

 

 余談ではあるが、弁当をマッ缶で流し込むとか、素人さんから見たら正気の沙汰ではないように見えるかもしれない。が、よく考えてみてほしい。

 ほんの数年前までは、どんな物を食べるにしろ常に牛乳で流し込んでいたのだから、牛乳がマッ缶に変わっただけのお話である。そうおかしな事ではないではないか。むしろおかしいのは、給食に付いてくる飲み物が牛乳、という部分だろう。

 今からでも遅くはない。全国の教育委員会の皆さん、給食に牛乳ってどう考えてもおかしいでしょ? 今すぐマッ缶に変更するべきです。

 

 おっと、マッ缶愛の強さ故つい話が逸れてしまったが、今はマッ缶か牛乳かについて議論している場合ではなかった。

 

 そう、俺を死の淵から救い出したのはマッ缶ではなくお茶。缶ではなくペットボトル。

 不思議な事もあるもんだと思ったね。なにせ俺の身の回りにお茶のペットボトルなど無いはずだったのに、なぜか俺を救ってくれたのが、どこからともなく現れたペットボトルのお茶だったのだから。

 

 ……俺は恐る恐るお隣さんに目をやった。すると呆れたような、それでいて心配するような眼差しで俺を覗きこんでいたお隣さんの両手には、今まさに世間で話題沸騰中のペットボトルのお茶が握られていたのだった。

 

『……あ。……えと、そのお茶って、相模のか』

 

『え? そうだけど。あれ? なんか問題あった?』

 

『…………特には』

 

 ま、まぁ不測の事態ではありましたし不測の致すところでございますので、この件に関しては特に問題は生じなかったという事で有耶無耶のまま流してしまおうそうしよう……、そもそも高二にもなってこの程度の事でドキドキしちゃうとかキモいしねっ! と、当時の俺はそう思っていました。

 それなのにこの女、気まずそうに頬を熱くして、相模から目を逸らしたりペットボトルの飲み口をチラ見したりという俺の挙動不審な態度に気が付いてしまったらしく、頬をカァッと染め上げながらも、途端にニヤァと笑みを浮かべたのだ。とても厭らしく、とても陰湿に。

 

『……あ、そういえば、このお茶さっきウチが飲んだばっかだったっけ』

 

『……』

 

『あれ? どうかした? 比企谷。なんか顔赤いけどぉ』

 

『……』

 

『え? まさか高二にもなって、間 接 キ ス とか意識しちゃってないよねぇ?』

 

『は? ば、ばっかじゃにぇ〜にょ……?』

 

『うっわ、マジで!? 間 接 キ ス だよ? 間 接 キ ス !』

 

 なんでそんなに間接キスを強調するのん……?

 

『ちょ、マジ!? もー、比企谷ってさー、ウチのこと異性として意識しすぎなんじゃないのー? ウチら友達なんだし、あんま異性として意識されちゃってもねー。……と、友達って肩書きが邪魔なら、べ、別に取ってあげても、いいけどぉ?』

 

 

『……う、うぜぇ』

 

 

× × ×

 

 

 思い出しただけでもウザイ。とにかくウザイ。このクソ女、あの時も今とおんなじように、厭らしく口元を歪ませてやがったんですよ、ええ。

 三学期始まった直後のしおらしいさがみんを返して! いやまぁしおらしい頃はしおらしい頃でちょくちょくウザかったけどね。

 結論、相模はどう転んでもウザイ。

 

 そしてこういう調子に乗ったからかい癖みたいのが始まると、大抵こいつは決まって発する台詞がある。例えば、そう。ニヤニヤした口から今まさに出てくる、こんな鬱陶しい台詞。

 

「ホント比企谷、ウチの友達になる気あんのー? あんま異性として意識し過ぎてると友達にはなれないかんね? ……か、肩書き邪魔なら、別に友達じゃなくたっていいんだけどぉ……?」

 

「……」

 

 ほらコレですよコレ。こいつは何かって言うと、すぐ友達だの肩書きだのと持ち出して、友達やめてもいいけどぉ? なんて脅してくるのだ。異性として意識、という謎のワードをことさらに強調して。

 そりゃ俺に異性として意識されるのはかなりキモいんだろうし、そうならないようキツく釘を刺しているんだろうというのはわかる。

 でもさ、お前から言い出した友達申請だよね? なんで俺が脅されてるみたいになっちゃってるのん? これじゃまるで俺から友達申請した上、俺が友達じゃなくなってしまう事を恐れてるみたいじゃないですかやだー。

 

 別にいいんだぞ、こっちとしてはお前と無関係になったって。隣同士で会話がゼロになったり教科書見せんのやめたり、飴がもらえなくなったりさがみん弁当が食べられなくなったって、俺は少しも寂しくなんてないんだからね!

 ……ま、まぁ? この照れ臭そうなニヤケ面で言ってる時点で冗談だということくらい分かるし、別にそこまでイラつきはしないから、まだ友達は続けさせてやったっていいけども?

 ただね、とにかくウザイ。ホントムカつく。なにそのこちらの一挙手一投足を見逃すまいと窺うような顔。あれでしょ? ちょっとでも恥ずかしがる素振りでも見せようものなら、途端にぷぷって笑うんでしょ?

 だから俺は相模ごときのからかいになど一切動じた様子を見せず、今日もいつものように適当にこう答えるのだった。

 

「……へいへい。そりゃすいませんでしたね。今後は気を付けまーす」

 

 すると相模がこう返してくるのもまた、いつも通りの光景なのである。

 

「……はぁ〜」

 

 

 ──なんでそこでやれやれ顔の深い溜め息を吐かれなくちゃならないのか、ホント意味わからないです。

 どうすりゃ正解なのん?

 

× × ×

 

 

 しかしである。このからかったあとのしてやったりなニヤケ面といい、先日の間接キスネタといい、なんかとっても既視感あんだよね。ホントここ最近こんな光景よく見んなぁ、ってくらいにはデジャヴ。

 なんなの? この『今日も上手くからかってやったぜ』感いっぱいなドヤ顔。勝ち誇った顔してからかい上手を自称してる感じ。腹立つ。

 

 だが、俺の記憶の向こう側にある光景は、確かに今の現状に酷似してはいるのだが、俺が知っているのはこんなムカつく光景ではなく、むしろ……こう、胸にムズムズきゅんきゅんくるような感じなんだよなぁ。

 ああ、でもその既視感の中の光景にもムカついてたかもしれない。ただしそれは、からかってくる方にではなく、からかわれている方に対して。確か、からかわれている奴に対して『青春を謳歌せし者よ爆発しろ』とか思ってたような……

 

 

 ……からかうのが上手な可愛い女子と、からかわれるのがもはや職人芸な、うらやまけしからん男子。そしてその男に軽く殺意を憶えてしまう程の青春模様……

 

「……あ」

 

 そうかアレか……

 思い出してみればなんの事はない。からかうのが上手なJCとからかわれ上手なうらやまけしからん中坊が、ゲッサンと深夜で絶賛イチャコラしてるじゃねぇか。サンデーGXは読んでてもゲッサンは読んでないから、実はアニメでしか知らんけど。

 そしていま俺の視界に映るこのロケーションはどうだ。現在の俺と相模の教室での位置関係って、正にアレと一緒じゃん。

 

 

 

 ──こいつ、さてはアレ観てやがるな……?

 

 

 

続く

 






というわけで、約1年ぶりのゲリラ更新でしたがありがとうございました!
そして名前と設定パクっただけかと思いきや、まさかのさがみんがアレを視聴した疑惑SS!


なんかもうね、なんのアニメかは言わないから誰も分からないとは思いますが、お前ら早く結婚しちゃえよって思いました(小並み感)
原作のスピンオフかなんかで、結婚してからも相変わらずからかって楽しんでるらしいですけど(・ω・)

なのでむしゃくしゃしたので、せっかく隣に座ってるんだからと、相模さんにもやってもらいましたよ?



次回の後編は相模さんへの反撃回となりますので、ではでは皆さま、後編でまたお会いしましょうノシノシ



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