ナザリック地下大墳墓第九階層ー
ロイヤルスイートであるこの階層の中でギルドメンバーのPOP地点である円卓。そこには座る主のいなくなった椅子が並んでいた。ここ最近、座られることのなかったそれらだが、現在41個のうち2個が埋まっていた。そのうちの1つの椅子には死を体現したーThe 骸骨とでも言うべき姿のオーバーロード。もう一方には、凶悪な酸能力を有しているスライム種最強の存在、エルダー・ブラック・ウーズ。当然、スライム種と言っても、100年以上前に大ヒットした某有名RPGのような可愛らしいマスコット的な要素は皆無である。
異業種であり見るからに悪役なオーバーロードが声をかける。
「おひさしぶりです。ヘロヘロさん」
「こちらこそ、おひさーです。モモンガさん」
「それにしてもナザリックがまだ残っているなんて思いませんでしたよ。」
「えっ」
「モモンガさんがギルド長として維持してくださったんですね。ありがとうございます。」
「...いえいえ。みんなで創りあげた大切な場所ですからね。当然ですよ。」
「そういえば、今日はお客さんがいるんでしたっけ?」
「ええ。最終日にまでここに来るなんて嫌われたものですね。」
「意外と憧れられているのかもしれませんよ。」
「そうだといいんですが。」
そんなことを言いながら旧交を温めたあと、話は仕事の愚痴へと発展していく。お互いの会社のブラック企業ぶりを確認し苦笑いを浮かべながら、次第にモモンガは一方的に聞く側へと回っていたが久しぶりの会話をとても楽しんでいた。しかし、そんな時間もあっという間に過ぎーー
「それじゃあ、これで」
「...ええ。」
「モモンガさん。本当にありがとうございました。次にお会いするのがユグドラシル2だといいですね。」
ヘロヘロは最後にそう言い残し姿を消した。
モモンガは空席の40の椅子を眺めたあと、ゆっくりと立ち上がった。
向かった先には1本のスタッフが飾られていた。
誰が見ても一級品であり、本来ギルド長であるモモンガが持つべきそれは作られてから一度もその場所から移動したことはなかった。それはこれがギルドの象徴であり、壊されればギルドが崩壊するからである。
ギルドメンバーがリアルでの生活を差し置いて、世界の端から端まで走り回って作りあげた杖ースタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン。
モモンガはそんな最も大事なものを手に取り、初めてその場所を移動させた。
部屋を出て幾度か角を曲がり階段を降りると、1人の執事と6人のメイドがいた。執事はオーソドックスな執事服に白く染まった髪と髭が生えた老人。まさに執事の鑑のような姿であったが、メイドの方は違った。ここに来るまでにすれ違ったメイドとも違う、異様な姿であった。俗に言うメイド戦士といった姿であり6人全員が違った装備をしていた。
「付き従え。」
全員の名前を確認したあと、執事ーセバスー達に向かってそう言い放つ。
モモンガは後ろにセバス達を連れ、ある場所に来ていた。そここそモモンガが最後の瞬間に選んだ場所、ナザリック地下大墳墓最奥部にして最重要箇所ー"玉座の間"ーである。
モモンガはその部屋の壮観さに驚きながらも部屋の奥にある玉座へと向かう。そこには1人の美の結晶とでも言うべき人-否、悪魔がいた。
セバス達を特定のコマンドを用いて待機させ、玉座に腰かける。
セバス達の名前は忘れていたモモンガだが、最も重要な場所を守り守護者統括という立場にあるこのNPCの名前ははっきりと記憶していた。
アルベド。
不意に彼女がどんな設定だったのか気になったアインズは設定を確認する。
「ながっ!」
そのあまりの設定の長さに驚きながらも、アルベドを制作したのが設定魔のタブラ・スマラグディナさんだったことを思い出し納得する。しかし、最後の一文を見たときの驚きは直前のものを上回り、冷静になっていたはずが思わず固まってしまった。
「ちなみにビッチである。」
タブラさんはギャップ萌えでもあったっけなどと思いながらも納得はしていなかった。仲間の暴走を正すためなどと内心で言い訳をしながら書き換える。
「モモンガを愛している。」
「...グハッ」
余りの恥ずかしさに顔を覆う。これまた、文字数がぴったりだからと言い訳をしつつ最後の時を待つことにした。
サーバー停止が0:00。終わりの時は刻一刻と迫っている。
当然だ。空想はあくまでも空想。現実ではないのだ。
モモンガはため息を1つ吐き、時間を確認する。
23:59:35、36、37...
明日も4:00起きだ。このサーバーが落ちたら直ぐに寝なくてはならない。
23:59:44、45、46...
モモンガは目を閉じ、カウントダウンを行う。
23:59:58、59ーー
終止符をうつ、最高の思い出にーーー
ブラックアウトしーーー
00:00.....01、02、03
「....ん?」
目を開ける。自分の部屋ではない。玉座の間である。
「サーバーダウンが延期した?」
もしそうならGMからなんらかの連絡があると思いコンソールを開こうとする。が、コンソールが開かない。
コンソールだけではない、全ての機能が使えない。
「どうなっているんだっ!」
あまりの異常事態に怒りを露にする。
本来ならば、反応する者はなく消えていく声ーそう本来ならば。
「どうなさいましたか?モモンガ様」
初めて聞く女性の美しい声。
モモンガは声が聞こえた方向を向く。
それは心配そうに首を傾げたアルベドのものだった。