ガールズ&フリート   作:栄人

10 / 18
いよいよ試合です!……だけどホノルルでピンチ!

「さあ! 始まりました、軍艦道全国大会単艦戦関東地区予選大会! 今日の対戦カードはなんと!! 横須賀女子海洋学校と、横須賀宇佐マリーン学園っ! 10年ぶりに復活した名門横須賀女子と、創部以来負けなしの宇佐マリーンの対決!! 実況は私! 宇佐マリーン放送部の、美野里響子が務めさせていただきます!! 現在両チーム共最後のミーティングの最中だそうです! 試合開始までしばらくお待ちください!」

メガフロートをベースに海上に設置された特別観覧席には、多くの観客が詰め掛けていた。と言ってもほとんどが宇佐マリーンの生徒だ。

「「「USA! USA! USA!」」」

彼らは校名を連呼し、校旗を掲げて興奮状態にあるようだ。

観客が見つめる先には、審判艦「八丈」を挟むようにして、晴風、そしてその二倍近くある宇佐マリーンの軍艦が接舷していた。

 

晴風の教室。晴風乗員達は、緊張した面持ちでブリーディングを行っていた。

「ココちゃん、宇佐が出してきた艦は?」

明乃が尋ねると、幸子はすでに用意していたらしい資料をプロジェクターに映し出す。

「今回対決するのは、アメリカ海軍が使用したブルックリン級軽巡洋艦「ホノルル」です」

「巡洋艦……」

「はい。全長185.4メートル。最大速力33.6ノット。15.2センチ3連装砲5基15門。12.7センチ単装砲8門。さらに4センチ4連装機関砲が4基16門。ついでに、舷側装甲127ミリに甲板装甲が51ミリです」

「何それエゲツなっ!?」

芽衣が首を絞められたような声を出した。

「え? 晴風って確か……」

「全長118.5メートル。武装は12.7センチ連装砲3基に、4連装魚雷発射器が2つね」

「少なっ!! そして小さっ!!」

そんな声が室内から上がる。

「うちが優っているのは、アレを除けば速力と機動力ぐらいか……」

ましろも険しい顔で目を伏せた。

「今回、宇佐が単艦戦で登録したのは全て巡洋艦以上ですね。宇佐の基本ドクトリンは『相手の10倍の戦力をぶつける』ですから」

幸子の説明に、みな諦めたようなため息をついた。

「みんな、ちょっとだけいいかな?」

この中で声をあげたのは、やはり艦長の明乃だった。

「実は作戦があるの」

 

 明乃による作戦の説明が終わると、

「なるほどね~」

「なんか勝てそうな気がしてきた」

「これならいけるぞなっ!」

 急に雰囲気が盛り上がってきた。

 ただましろは1人頭を抱えていた。

「なんて単純な……。こんなにうまくいくわけないのに」 

「違うよ、シロちゃん」

 明乃が笑う。

「勝手にうまくいくんじゃない。私たちがうまくいかせられるように頑張るんだよっ!」

「私たちが、頑張る?」

「そう。勝利はそれを求める人にだけやってくるの。だから、そのために全力で戦わなくちゃ!」

「艦長……」

 ましろは尊敬の目で明乃を見つめる。

「あ、ちょっとクサかったかな?」

 明乃は照れ臭そうにほほ笑んだ。

「それで、作戦名はどうするの?」

 芽衣が尋ねた。

「え、作戦名?」

 明乃が戸惑っていると、麻侖も声を上げる。

「おう! なんか景気いいの一発頼むぜ!」

「作戦名か……。考えたことなかったな」

 明乃はしばらく考え込み、

「シロちゃん、なんかいいのある?」

「私ですかっ!?」

 突然降られたましろは大声を上げた。そして、

「そうですね……。横須賀女子の復活を願って……。『横一号作戦』は?」

「「「…………」」」

「え、あれ?」

「ダサい」

「古臭い」

「なんかいやー」

 ましろ発案「横一号作戦」ボロックソにぶった切られたのだった。

「いいとおもうのにな……。やっぱ私古いのかな……」

 メンタルをやられたましろは影をしょって机に伏してしまった。周りはそんなことまるで気にせず話し合いを進めていく。

「はいっ!! 私から提案があります!」

「なあに? ココちゃん」

 元気良く手を上げた幸子はすくっと立ち上がる。

「この作戦、私は少し聞いただけで思いついてしまいました……。もはやこれ以外にふさわしい名前はない、そう、確信しとるんじゃ……」

「ええっと、それは?」

 呉方言が混じりつつある幸子に、若干慄きつつ明乃が先を促すと、幸子は拳を握りしめた。

「『仁義なき作戦』じゃいっ!!」

「仁義なき作戦?」

「おうっ!

『アニキぃ、昔の馴染みですやんか、堪忍してくだせぇ』

『いんや、いくらお前さんの頼みでも聞けねぇんじゃ。こりゃ儂のけじめじゃけえの』

『いくら何でもやりすぎじゃぁ。アニキには赤い血ぃがかよおってないんか!』

『おうよ、儂の血はお前さんが儂を獏集会に売った時にぜぇーんぶ抜けてしもうたわ。いまのわしゃ、あんときの恨みを晴らすためならなんじゃってするけえの」

『堪忍じゃぁ! 許してくだせぇ!!』

 みたいな感じの雰囲気の作戦なのでぴったりだと思うんですが」

 幸子迫真の一人芝居にすっかり毒気を抜かれた晴風乗員30人。

「え、そんな雰囲気だっけ?」

「まあ、手段を選ばないってとこはあってるような?」

「えっと……。じゃあこれでいい?」

 明乃が聞くが、特に反論もなかった。

 こうして横須賀女子の作戦名は『仁義なき作戦』に決定したのであった。

 

「ほかに何か言っておきたいことはある?」

「はい! はい! あたしたちから渡したいものがあるっす!」

 勢いよく叫んだのは、ベレー帽をかぶった応急員の青木百々。

さらに、彼女と仲の良い応急長、和住媛萌に電信員、八木鶫、加えて水測員の万理小路楓がともに立ち上がる。

 楓はその腕の中に大きな段ボール箱を抱えていた。

「えーっとっすね。みなさん!」

 教卓の後ろに立つと、百々が口を開く。

「なんと! 今回! 我が横須賀女子の勝利を願って! リストバンドを制作したっす!」

「「「おお~!!」」」

 百々が意気揚々と段ボールから取り出したのは、水色のリストバンドだ。

 一面には太陽と波、海鳥をイメージした晴風の艦章。

 もう一面には深紅を基調とした横須賀女子海洋学校の校章。

「すっごい! 超本格的じゃん!」

「100パー高級そうなんだけどどうしたの!?」

「百々がデザインして、百々んちの洋服屋さんでつくってもらったのよ。まりこーが一部資金提供してくれて。しかもつぐちゃんの祈祷つき!」

 媛萌が高らかに言った。八木鶫の実家は諏訪神社という神社なのだ。青木百々はテーラー青木という服飾店の娘で、万理小路楓の家は、言わずもがなかなりの大金持ちである。

「で、ヒメちゃんは何かしたの?」

誰かが聞くとヒメは明後日の方角を向いて乾いた笑いを浮かべた。

「わ、私は企画立案担当ってことで~」

「何言ってるんっすか? それがなかったら実現しなかったっすよ」

「そうですよ、ヒメさん」

モモと楓がとりなした。

 

「みなさん」

ドアが開いた。 入ってきたのは古庄だ。空気が一瞬凍りつく。

古庄はそれに気づいて、ふふっと吹き出した。

「嫌われたものね、私も」

「そ、そんなことは」

明乃は弁明するが、古庄はそれを笑顔で制した。

「もうすぐ開会式が始まります。準備をしておいてください」

「はい」

「それと、みなさん」

古庄は室内を見回した。

「あそこからここまで変わることができるなんて、正直思ってもみませんでした。あの時の言葉、ここで取り消させてもらうわ」

「教官……」

「精一杯戦ってきなさい。あなた達は栄光ある横須賀女子海洋学校の生徒で、名誉ある軍艦道部員で、誇りある晴風の乗員です。頑張って」

「「「はいっ!!」」」

 

横須賀宇佐マリーン学園、軽巡洋艦ホノルルの内部は、すでに楽勝ムードが漂っていた。

ただ一人、艦長のもえか、ミス・ロッキーだけが、険しい顔をしている。

「キャプテン! 何そんな顔してるのよ?」

ホノルルの副長ハリウッドがヘラヘラともえかに近寄った。

「うちと相手じゃ戦力差は歴然じゃない! そんな顔しなくっても大丈夫よ。シュミレーションじゃ100パーセント私たちの勝利だったじゃない」

「ごめん、ハリウッド。あなたがそう言った瞬間に一気に雲行きが怪しくなっちゃうから」

「キャプテンひどい」

海戦は、お互いの艦の性能が如実に現れる。

砲の強力な方が、装甲の分厚い方が勝利するのだ。戦車道の試合と違い、奇襲や地形を利用した攻撃が行えない分、その差が戦術で覆ることはほとんどない。

その方式を当てはめるなら、ホノルルは当然晴風に勝利できる。

もし負ければ、それはもえかの責任問題に発展するだろう。艦長の資格は確実に剥奪される。

ただもえかの胸を焦がしているのは、そんなことではなかった。

「ミケちゃん……」

試合相手の、晴風艦長にして、幼馴染みにして、裏切ってしまった親友の名が、口から溢れる。

「キャプテン、まだ緊張してるの? オッケーこうしましょう。この試合に勝ったら新しくできたカフェに行きましょ。もちろん貸し切って、みんなで祝勝パーティをするの! 男子も誘ってね。キャプテンならいい奴捕まえられるわよ」

「だからそういうこと言うの止めて」

もえかはハリウッドを黙らせつつ、試合の行く末を案じるのだった。




登場人物の紹介
ハリウッド……ホノルル副長。当然コードネームである。洋画が大好きで喋り方まで影響を受けている。一級フラグ建築士。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。