ガールズ&フリート   作:栄人

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思いはちゃんと伝えましょう!……だけど宇佐マリーンでピンチ!

 晴風とホノルルが審判艦「八丈」と合流したころには、あたりはすっかり夕焼けに包まれていた。双方は八丈にに接舷し、乗員たちが下りてくる。

「ごわがっだよぉぉぉぉぉぉぉ。ごごぢゃぁぁぁんっ!!!」

「見事な回避運動でしたよ、知床さん」

「見た? 見た? あたしの見事な魚雷斉射っ! やっぱ本物の魚雷って最高だぜぇぇ!」

「よかった……」

 勝利に酔う晴風乗員とは対照的に、

「「「…………」」」

 ホノルルの乗員は、葬式会場にでもいるような空気だった。

 

 

「おー。ま、しょーがないよ。キャプテン」

 ハリウッドがもえかの肩をバンとたたく。

「あたしも一緒に怒られに行くからさ。ミス・プレシデントも悪魔じゃないわよ」

「ハリウッド……」

「それよりさ、讃えてあげな。私らに勝ったあいつらをさ。そんで次は絶対叩き潰してやりましょう」

 もえかは涙をたたえた瞳でハリウッドを見上げた。

「うん、ありがとう」

 ハリウッドは笑った。

「いいってことよっ!」

 もえかはまっすぐ正面を、晴風の乗員に囲まれている明乃を見据え、足を踏み出した。

 

 もえかが近づいていることに気付き、晴風クルーたちは自然と静かになった。

 ましろが顔を引き締め、明乃の一歩前に出る。

「……お疲れ様です、知名艦長。何かご用ですか?」

「お疲れさまです。宗谷副長」

 ましろから向けられる不信感や敵意のこもった視線に、萌香の体は自然と固くなる。だが、その表情は、医師と反してとても穏やかだった。

「晴風の戦い、とても見事でした。全国大会でも頑張ってくださいね。それと、……岬艦長と、少しお話してもよろしいですか?」

 ましろはちらりと後ろを振り返った。しかしましろが何かを言う前に、明乃はもえかのまえに進み出る。

「もかちゃん……」

「おめでとう、ミケちゃん。本当に、ミケちゃんはすごいよ」

 素直な賞賛が自然と口から出てきた。

「ありがとう、もかちゃん」

「本当に頑張ってね! 全国には、中学とは比べ物にならないぐらい強豪がそろってるから!」

「わかってる。でも、絶対に勝つよ」

 ここで会話が途切れた。

 何かが挟まったようなやり取り。言いようのない気持ち悪さをもえかは感じていた。

 自分はこれから先、大親友だった明乃と話すときに、いつもこんな思いをしなくてはいけないのだろうか? そう思った時、もえかの体は勝手に動いた。

「ミケちゃんっ!!」

 もえかは明乃の腕をつかんだ。

「あの、ね……。私、なんて言ったらいいかわからないの。でも、・・・・・・もう、いや……」

「もかちゃん?」

 もえかの体が震え、目から大粒の涙があふれてきた。

「ごめんね!! 本当にごめんねっ!! 謝って済むような話じゃないのは分かってる!! でもごめんね! ごめんねミケちゃん!!」

「も、もかちゃん!?」

「私がばかだったの! 全部私が悪いの! でも、もう耐えられない!!! ミケちゃんと、こんな関係のまま終わっちゃうなんて絶対に嫌なのっ!!私のせいなのに! 自業自得なのに! でもいやっ!!」

「私も……、私だって嫌だよ、もかちゃんっ!」

 明乃はもえかを抱き寄せた。

 八丈の甲板に、二人の少女の泣き声が響き渡った。

 

 試合から一日が立った。

 横須賀宇佐マリーン学園。学園艦艦橋、軍艦道部部室(パールハーバー)

 もえかとハリウッドは直立不動でこの部屋の真ん中にいた。目の前には執務机に座るプレシデントと横に立つマンハッタン。二人とも険しい顔で、もえかたちを見つめていた。

「まずこれ、今朝のnews paper」

 マンハッタンが投げたスポーツ新聞。見出しには、「宇佐、まさかの敗北!? 横須賀女子奇跡の一勝!」とあった。

「……本当に、申し訳ありませんでした」

 もえかは頭を下げる。

「OG会からはどういうことだって電話がすごくてさ。腹立って、回線引き抜いちゃったぐらいだよ」

 ここで初めて、マンハッタンが笑った。プレシデントも顔を緩めた。

「顔をあげなさい、ロッキー。私は勝敗に関してあなたたちを責める気はないわ。マンハッタンもね」

「え?」

「勝負というのは、その字にあるように必ず勝者と敗者が存在する。関東で私たちが敗者に回ったことがなかったのは、単に私たち上回る相手がいなかっただけのこと。今回横須賀女子が勝ち上がったことは、軍艦道界全体から見ればとても喜ぶべきことよ」

 マンハッタンも机の上に座って言った。

「ま、今回負けて、関東の出場枠総なめ記録は終わっちゃったけどさ。うちらはそんな小さなことにはこだわらない! ってことよ、二人とも」

「……ありがとうございます。ミス・プレシデント、ミス・マンハッタン」

「ありがとうございます!」

 もえかとハリウッドの二人は再び頭を下げた。

 プレシデントは満足げに頷く。

「もちろん、体裁上おとがめなしというわけにもいかないわ。まずロッキー、あなたは艦長の職務を解任します。また一兵卒として、一から学び直しなさい」

「わかりました」

「それから……」

 プレシデントがハリウッドへの処分を言い渡そうとした時、

「失礼します」

 執務室のドアが乱暴に開かれた。

「……何かしら、プレーリー。大事な用の最中だったのだけれでも」

 プレシデントは顔をしかめて、闖入してきた少女の名を呼ぶ。

「今日は、軍艦道部のプレーリーではなく、生徒会副会長、布田奈留として参りました!」

 プレーリーはそう名乗ると、複雑な編み込みがなされた長髪をなびかせてプレシデントの前まで歩み出る。

「先ほど、生徒総会にて、軍艦道部所属知名もえかの退部決議がなされたため、部長たるあなたに勧告に参った次第であります」

 




<登場人物の紹介>
プレーリー・・・・・・本名、布田奈留。一年生ながら生徒会副会長にして軍艦道部でもエースの一人として君臨する。扇動がうまい。ちなみにプレーリーとはアメリカ東部の大平原のこと。彼女の体型を言い表したものではないかと陰でささやかれている。
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