プレーリーは一枚の紙を机にたたきつけた。
『退部勧告 航海科一年B組 知名もえかに対し、軍艦道部からの退部を勧告する。本勧告より七日以内に退部がなされない場合、知名もえか、軍艦道部両者に対し追加制裁を下すものとする。横須賀宇佐マリーン学園生徒会』
「プレーリー!!! これはどういうことだよ!」
マンハッタンはプレーリーの胸ぐらをつかみ上げた。
「ごらんのとおり、退部勧告書です」
プレーリーは顔色一つ変えずに言った。
「プレーリー。私も生徒会長、尾浜場楽として言うわ。なぜ生徒会長のサイン欄のところにあなたのサインがあるのかしら? 少なくともこの件、私は何も聞いていなかったのだけれども」
プレシデントはあくまで冷静に問う。プレーリーもまた、淡々と説明した。
「昨日の試合の後、我が校の輝かしい記録に泥を塗った知名に対し処分を求める声が全校的に高まりました。そこで、生徒会規約第二十七条に基づき学級委員長会が臨時招集されたのです。その時点で会長は軍艦道部長としての職務が多忙であったため、規約十二条の規定にある通り、私が会長職務を代行させていただきました」
「なるほど、それで?」
「学級委員長会は知名への退部勧告を全会一致で発議。すぐに規約第二十一条により臨時生徒総会が開催されました。といっても、電子上でのことですが。そして、出席人数の過半数が本決議に賛成したため、退部勧告が正式に決議され、ここに報告に参った次第であります」
「Sit!! こんなことが許されると思ってんの!? 会長と副会長が一切知らされないまま総会を開くなんて!」
「おや? 電子投票システムと連絡システムに不備があったみたいですね。システム科に伝えておきましょう」
「……了解したわ。下がりなさい、プレーリー」
「何言ってんのさ! プレちゃん! こんなこと認める気なの!?」
「……総会で過半数を得たのならば、私は従わざるを得ないわ。会長といえども、部長といえどもね」
「賢明です。では、ここにサインを」
プレシデントは書類にペンを走らせた。プレーリーはどれを確認し、もえかの方を振り返る。
「残念ねぇ、ロッキー。あんたはもう、二度とこの学校で軍艦道をできないのよぉ」
勝ち誇ったかのように、プレーリーは笑った。
「お前……」
ハリウッドは今にも飛びかからん勢いだが、その手首を、もえかが握りしめていた。
「まったく。軽巡洋艦を与えられておきながら駆逐艦にやられるなんて、情けなくて宇佐マリーン生の風上にも置けないわねぇ。昨年あなたに負けた私がなさけなくって嫌になるわ」
「お前! まだ去年の決勝引きずってんの!? 試合終われば敵も皆仲間ってのがうちの伝統でしょっ!」
ハリウッドが吠えた。
「黙れハリウッド。中学からの外部生であるあんたに言われなくないわ」
プレーリーがハリウッドをにらみつける。
「とにかく、サインは頂きました。それでは私はこれで。そして知名さん、『
高らかに笑いながらそういって、プレーリーは優雅に一礼をしてから部屋を出ていった。
「ガッデムっ!!」
マンハッタンは叫びながら執務机を思い切り蹴り飛ばした。
「やめなさい、マンハッタン」
「プレちゃん!! なんであんな奴放っておくのさ! 今すぐ首に!」
「無理よ。彼女の背後には、この学校の生徒たちの意思がある。私たちの考えが甘かったようね。思いのほか、この学校は勝利になれ過ぎていた」
「バカだ。バカばっかだよ……。負けたぐらいで辞めさせられるんだったら、誰も勝負をしなくなる。保身に走れば、その先にあるのは組織の弱体化だけ……。どうする? ロッキー。姉妹高のサンダース大付属校にでも転校しちゃう? 多少融通は効くよ? あそこは軍艦道やってないけど、ロッキーなら新しく創部してやってけそうだし」
そうつぶやきながら、マンハッタンはその場にへたり込んだ。
「寄られた期待の分だけ、失望もまた大きくなる、ね。どうやら私は、逸材を潰した人間としてこの部に名前を刻みそうだわ」
プレシデントも苦笑しながら深く椅子に倒れ込んだ。
もえかの顔がゆがむ。
「本当に、申し訳ありません……。私が負けなければ……」
「ロッキーだけのせいじゃないわ! 艦の敗北は乗員全員の責任よ! あたしこそ、油断してしまったんだし……」
「何度でも言ってあげるわ、ロッキー、ハリウッド。私は勝敗であなたたちを責めるような真似は絶対にしない」
プレシデントは少し怒ったように言った。
「大丈夫。何とかするわ。せっかく苦労してスカウトしたあなただもの。またここで軍艦道ができるように計らって見せるわ。だから、それまで。……はい、これ」
プレシデントが机の引き出しから取り出したのは、一枚の茶封筒だった。
「これは……」
「オー、マイガット」
それを見たもえかとハリウッドは目を見開く。
「これを受けるか受けないかはあなた次第よ。でも、そういう手段もある、という事を頭に入れておいて」
もえかはまっすぐプレシデントを見つめた。
「お願いします」
「キャップっ!?」
驚くハリウッドをしり目に、プレシデントも不敵にほほ笑んだ。
「そう言うと思ったわ」
「By the way,プレちゃん」
もえかとハリウッドが去った後、マンハッタンが口を開いた。
「何? あとプレちゃんはよして」
「いや、なんでプレちゃんてあんなにロッキーのこと気にかけるのかなって思ってさ」
「……二年後、何があるかは知ってる?」
「……Would cup。たしか、イギリス開催だったよね?」
「ええ。長らく低迷してる日本軍艦道復活がかかった、大切な大会よ。彼女は、知名もえかはこの先日本を率いる重要な逸材となる可能性がある。私の勘がそう言ってるのよ。ごめんなさいね、適当で」
「……ううん。プレシデントの勘なら当たるでしょ。でも、なんであそこに?」
「あそこなら、変なしがらみにとらわれずにあの子の自由にできる。信頼できる友人と環境に囲まれた最適な学校だもの」
そう言いながら、プレシデントは生徒会長の決済印を書類に押した。
それはもえかの、横須賀女子海洋学校への短期転校に関する手続きだった。