D.C.Ⅱー風に舞う茜の花ー   作:エス氏

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Episode-01 運命の出会い(前編)

 枯れない桜……その恩恵が消えていくと共に、影響下にあった初音島は少しずつ微睡から目覚め始めていった……

 

 しかし、それと共に桜の授けた奇跡もまた、目覚めの如く消え去っていく―――――――――

 

 

 ある者は他者の心を読む能力を、ある者は決して衰えない記憶力を、またある者は、『奇跡』と共に産み落とされた自身の存在そのものを――――――

 

 

 そして、長きを共に過ごしてきた「半身」を喪失した者もまた、その事実を直視できず彷徨い続けていた――――――

 

 

 

 

「――――――(あい)ちゃん」

 夕暮れの光が舞う教室で、花咲 茜はその名を呟いていた。

 

 既に世を去って久しい双子の妹……しかし、『枯れない桜』の恩恵で再び自分の中に戻ってきた、掛け替えの無い存在……

 

 

 しかし、その妹はもう何処にもいない――――――

 

 

 枯れない桜の恩恵が消失したのと同じくして、彼女もまた茜の中から去って行ってしまったから――――――――――

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 その日の朝――――私は、藍ちゃんの夢を見た………

 

 

 

 まだ生きていた頃と変わらない姿恰好のまま、ニコッと笑って駆け出していく……

 

 

 

―藍ちゃん……!―

 私は藍ちゃんを追い掛けようとするけど体が金縛りにあったかのように動かない。

 

 待って!っと言いたかったが、声もだすことが出来なかった。

 

 そうこうしていく内に藍ちゃんはどんどん私から遠ざかっていく。

 

 

 

 

 バッ!!

 

 

「ハァ……ハァ……」

 

 

  目を覚ますとそこはいつもと変わらない私の部屋。自分の喉から放たれる荒い呼吸が、自分の耳に木霊しているだけだった………

 

 

 

「………うぅぅ――――――藍ちゃん。」

 

 

 

 その瞬間私の中で抑えられていた何かが溢れ出た…そんな気がしたんだ―――――――

 

 

 

 

 

  藍ちゃんが私の中にもういないのは勿論分かっている。

 

 

 だけど、会いたくて仕方がなかったの。

 

 

  姿は見れなくてもいい……ただ、あの声をもう一度だけ聞きたかったんだ―――――――――それが永遠に叶わないって分かっていたとしても………  

 

 

 

 

*

 

 

 

「花咲先輩……?」

 ぼんやりしていた茜の耳朶を討ったのは、ドアの付近から掛けられた声だった。

「……あれ、ゆ、由夢(ゆめ)ちゃん??」

 

 カラカラと扉を引いたのは、自分の知り合いの1人。1学年年下の少女、朝倉 由夢(あさくら ゆめ)だった。

「茜……こんな所で何やってたんだ?」

 その隣で佇む小柄な少女は、茜のクラスメートである男子中学生、桜内 義之(さくらい よしゆき)。隣には、心配そうに茜を見据える小恋とななか、それに同じく友人である小柄な少女、雪村 杏(ゆきむら あんず)の姿もあった。

 

「ぁ…ありゃりゃ、皆そろって心配かけちゃったかなぁ~~~?茜さんってば、おっちょこちょいだね~~~」

 知人達に今の姿を見られたのは予想外。慌てて取り繕う茜であったが、5人とも心配そうな表情を崩さなかった。

「そんな顔してりゃ心配するぜ。何か悩みでもあるのか……?」

 

 

 

 普段は異性からの行為に気付かない程の鈍感……なのだが、こんな時に限って義之は勘が鋭い。茜が今、惑いの渦中にいる事など即座に看破してしまう。

 しかし、茜の願いは永劫に叶う事がない。分かっていても無意識にそれを求めてしまう、そんな悲劇的な自己矛盾が茜の心にズンとのしかかっていた………

 

「あんたが何を悩んでるのか、今の私達にはわからないわ……でも、話すだけでも少しは気が楽になると思う。笑ったりしないから、ちょっと聞かせてみなさいな」

 そんな時口を開いたのは、この中で最も付き合いの長い友人である杏。いつもと同じ寡黙な表情ではあったが、その目には真剣な輝きが僅かに感じ取れた。

 

 

 

 

 

 「ぁ……あのね、聞いて欲しいんだ………夢物語って言われるかもしれないけどさ、でも……聞いてて欲しいって思うの――――――」

 

 気付いた時―――――茜は知らず知らずのうちに、口を開いていた。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 今までずっと……ママにだって話したことが無い、藍ちゃんとの思い出……2人で1つの身体になってからの事、その時急に話したくなっちゃった……

 例え信じてくれないって分かっていても、何でかな……皆には聞いて欲しい。この時の私は、そんな思いに駆られていたんだ………

 

 

 

 7年前……

 後に『紀伊半島大津波』って言われる海難事故で私と藍ちゃんは一緒に溺れてしまい……そして、私だけが生き残ってしまった。でも、藍ちゃんが目覚める事は無かった。

 あの頃の私は引っ込み思案でオドオドしていて、活発な藍ちゃんの影でいつも大人しくしてる……そんな感じの子だった。なのに、今までずっと一緒だと思っていた姉妹がいなくなっちゃったこと……それは、私にとって、世界が真っ暗になるほど悲しい事だった……

   

 

 だから、私は手を出してしまった………枯れない桜に願ってしまったんだ………

 

 

 

 そこまで話し終わった後……皆の間には沈黙が流れていた。

 

 

「そうだったのか……すまなかったな、気付けなくて」

 義之くんは、そう言って申し訳なさそうに頭を垂れる。

「ずっと背負い続けてきたんだね………茜………」

 小恋ちゃんも、何だか悲しそうに目を伏せていた。

 

「……もう遅いわ、帰りましょう。これ以上此処に居たって、きっと何も解決なんてしないわ」

 暫くして、杏ちゃんがそう言うのが聞こえた。それを合図に、皆で帰り支度をして教室から出ていった………

 

 

 

*

 

 

「あの、花咲先輩……みんな……こんなこと、今言っていいのか分かんないけど………でも、私達からも聞いて欲しいの」

 由夢ちゃんが重い口を開いたのは、私達が薄暗い昇降口に着いた時だった。

「由夢ちゃん?」

 

 由夢ちゃんは、さっきよりも悲痛な面持ちで、ぽつり、ぽつり、話し始めた………

 

 

 そして、私達は全てを知ってしまった。

  義之君が、枯れない桜の魔法で召喚された存在・・・本来なら、この世界に存在することさえ叶わなかった存在だということ・・・そして、音姫先輩が魔法使いで、義之君を救うために尽力していたということも・・・

 

「そんな・・・」

 小恋ちゃんが、口元を押さえて立ちすくむ。その藍色の瞳から、大粒の涙が零れ落ちていくのが見えた……

「そうだったのね…だから、義之は―――――」

 杏ちゃんも、痛々しい顔で由夢ちゃんの言葉を聞いていた。

「そんな…こんなの、あんまりだよ。最初からいなかったことになるなんて…しかも、みんなの記憶から消えちゃうなんて…」

 いつもはポジティブな白河さんも、スカートの裾を握り締めて俯いている…

 

「そ、そんな顔すんなって」

 義之くんは悲痛な面持ちの私を励ましたいのか、真剣な表情で私を見つめている。

「由夢が茜に言いたいのは、妹さんの事を忘れないで欲しいって事だと思うんだ……忘れないって事は、それだけでも凄い事だって俺は思う。だから茜も、妹さんの事を覚えていてほしい………そう言う事だと思うんだ」

 

 

 

「さ、この話はここまでです。もう遅いですし、帰りましょ!」

 いつもの調子に戻った由夢ちゃんの声に、私の意識は現実に引き戻される。

「茜…?」

  不意に、小恋ちゃんが心配そうに私の顔を覗き込む。

「ど、どしたの?何かぼ~~っとしてたみたいだけど…」

  白河さんも何か気付いたのか、同じ様にこっちを覗き込んでくる。

「あ・ううん、何でもないよ…」

 適当に誤魔化す私。

 

 でも…

「ぁ……、ごめん。ちょっと、用事があるの思い出しちゃって…悪いけど、今日は1人で帰ってもいいかな………?」

 

  返事も聞かず、私は走り出していた。

 

 

 

 

 

  涙が、私の瞳から容赦なく滲み出る。

 用事なんて理由をつけて別れたけど、こんな姿でいたら、またみんなに迷惑をかけちゃうよね……

「…どうしよう……」

 ぽつりと出てきた言葉は、夜空に舞い踊る風の中に消えていく…

 

 

 

  そんな思いで立ちすくんでいた時……

 

 

 

 私は、出会った…出会ってしまった………

 

 

 

月光と桜吹雪の中で佇む、あの子と――――――――――

 

 

 

 

 

 

*

 

「貴女……泣いているのですか?」

 どこを歩いてるのかさえ、分からない……そんな時だった。上の方から声が聞こえたのは………

 

「……?」

ふと見上げると、目の前には石段と鳥居がそびえ立っている。

あぁ、此処は胡ノ宮(このみや)神社だったんだ……と思った時、不意に目の前に何かの影がフワッと舞い降りてきた。

 

 

「……そのような悲しい顔など、似合いません。さぁ……」

 

 

 

 気が付いた時……そこには女の子が1人、柔和な笑みを浮かべて佇んでいた。桜色の着物と桜を模した髪飾りが似合う、銀色の髪の子だった。

 

 貴女は……貴女は一体、誰―――――――?

   

 

 

*

 

 

 

 

―…茜……茜!―――

「ふにゅ?」

 耳元に響く声に、夢見心地だった私の意識は一気に覚醒した。

 あれ、この声は小恋ちゃん?でもさっき別れた筈だよね……?

「あぅ~~~、もう、当てられてるよぅ…茜ってば~~」

 

 

 ……?

 

 

 ぱっちり目を開けると……あれれ?困った顔で私を突いてる小恋ちゃんがいた。

 そして、呆れ顔で私を見てるクラスメートのみんなが……

 

「はわわ!?!?」

 びっくりして私は立ち上がる。それと同時に、小恋ちゃん、杏ちゃん、白河さん、義之くん……1年3組のみんなの大爆笑が響き渡った。

 

 

 

 

 

「いやぁ~~、花咲が睡眠学習とは…中々珍しいこともあるのだな。」

  私の机に腰掛けた杉並(すぎなみ)くんが、面白そうな顔で私を見つめてくる。

「そんなに嬉しそうに言わないで~~~……もう、死ぬほど恥ずかしかったんだから」

  真っ赤な顔で杉並くんを睨むけど、全然効果なし……

 

「そうね……中々新鮮なものを見せてもらったわ。」

「あはは♪義之君の居眠りはよく見てるけど、花咲さんのは初めてだよ~~~」

 しかも杏ちゃんと白河さんにまで突っ込まれる。

「それにしても、小恋じゃなくて茜がいじられ役って、初めてだな」

 そう言ったのは、義之くん。かつて桜の恩恵受けて……その終わりと共に、消えてしまった男の子――――――

 

 義之くんが戻ってきたのは、私達が本校に上がった次の週のことだった。

  今でも一部の人は転校生だと思ってるみたいだけど、私達は・・・私、杏ちゃん、小恋ちゃん、(わたる)くん、杉並くん、白河さんは、彼が現れた途端・・・全てを思い出していた………

今まで消え去っていた義之くんとの記憶…何もかもが無に還った筈なのに、私達は鮮明に思い出せた………

 

 あれから1週間。気まずい事になるかと思ったけど、私達と義之くんは元通り「仲の良い友達」に戻った。幸い、関係がぎくしゃくすることもなく、義之くんも私に気さくに話してくれるようになった。

 

教室のドアが勢い良く開いたのは、その時だった。

 

 

 

 

 

「やっほー、みんな久し振りぃーーー!」

 

 

 ハイテンションでやってきた、金髪の小柄な女の子。 

 

 彼女は、芳乃 さくらさん。私達より小さく見えるけど、実はこの風見学園の学園長。

 実を言うと、彼女も魔法使いで……そして、義之くんという存在をこの世に生み出した張本人。

 

 暴走しかけていた「枯れない桜」を抑えるため、自ら桜に取り込まれた…ということだったけど、義之くんが戻ってくるのと同時に彼女も戻ってきた………みたい。

 

「みんな元気で良い返事だねーーー、そんな君達に朗報があります!!!」

 そんなことを考えてると……この学園長はとんでもないことを言っちゃった!

「突然なんだけどね、明日からこのクラスに転校生がやってきまーーす!みんな、仲良くしてあげてねぇ~~~~~♪」

 

 

 

 って、転校生ーーー!?

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

「茜……」

「どしたの、杏ちゃん」

  帰り道、杏ちゃんと一緒にクレープを食べてた私に、杏ちゃんが話しかけてきた。

「茜は、転校生ってどんな子だと思う?」

 うーーん、いきなりそんなこと言われても、どう答えていいのか皆目、見当がつかないよぅ。

「そういう杏ちゃんは、どう思うの?」

 質問を返された杏ちゃんは、

「そうね…少なくとも、只者じゃなさそうね。あの学園長が直々に紹介するんだもの、きっと、何かある……もしかしたら、義之や朝倉先輩みたいな魔法使いかもしれないわね」

 確かに……あんな話を聞いた後だと、有り得ない話じゃないって思えるね。

「かもしれないねぇ………」

 

 そう言いつつ、ちらりと時計を見ると……あ、午後8時を指していた。

 いっけなーーい、もうそろそろ帰らなきゃ!

「杏ちゃん、もう遅いし、早く帰ろうよ……」

 

 そう言いながら、私は何気なく杏ちゃんの方を向いた。

 

 

 

 

 

 

 もしも……

 もしも私達がこの時、桜公園に寄り道してなかったら……

 もしも昨日、あの女の子と出会っていなければ………

 

 きっと、何も知らずに終わってたかもしれない…平穏な日常がずっと続いたかもしれない…

 

 

 

 でも―――――――

 

 

 気付いた時はもう始まり……私達は、知らず知らずのうちに非日常への道を選んでしまってたんだ―――――――――

 

 

 

 

 

*

 

 

 風見学園の屋上で、杉並は1人夕暮れの空を見つめていた。

「やはり始まってしまうのか、“ヨグ・ソトース”………」

 普段からアルカイックスマイルを終始浮かべている彼だったが、今は真剣な表情で夜の帳が降りる空をジッと見据えている。

 

「そうなれば、我等の取る道もおのずと決まってくる……だろう?」

 そんな彼に、背後から見慣れない人影が話しかける。犬の様に尖った顔をした、背格好が丸まった奇妙な男……その異形の人影を一瞥した杉並は、さほど驚いた様子も見せず再び空に向き直った。

「『プレアデス同盟』の使者も、もう既に到着している頃か……“ピックマン”、芳乃 さくらに直ちに現状を報告してくれ」

「了解した」

 ピックマンと呼ばれた異形の人影は、一言そう言うと次の瞬間には屋上から消失していた。

 

 

 

「始まる……人と神の織り成す凄惨なる戦いが………『永劫の探究』が、再び――――――――」

 

 

 

 

 

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