1.前世も今世もブラック企業
「おーい、清水あとやっとけな」
ニヤニヤとした笑みを浮かべ、ドアを閉める上司。しかし、それを一瞥する暇は無くただひたすらに片目片手を書類の山とパソコンで格闘する俺。気にしたら負けだと分かっているので相手にはしない。
「あークソッ、こんなに残して行きやがって……」
書類の山を睨みながら今はいない憎たらしい上司の顔を浮かべながらそう悪態を吐く。上司は何故か優先的に仕事を俺に回す。さっきの様に。
断ればいいだって?それをすると如何いったからくりかわからないが俺の給料が極端に減る。それこそ生活していけない程に。
まぁずっと会社にいる見たいなもんだからあまり関係はないかも知れないが。
「そういや喉乾いたな、気分転換に何か買ってくるか」
唐突に喉の渇きを覚え、そう言って自動販売機に向かおうと立ち上がった時だった。
「……あれ?」
ガタンッ
何故か視界が横に傾く。足を踏み外したと思い、「疲れているんだなぁ」と苦笑しながら立ち上がろうとするが体はピクリとも動かすことが出来なかった。
代わりにあるのは段々とぼやけて行く視界と強烈な眠気だった。
抗おうにも瞼が重く、俺は目を閉じた。
あの時を思い返すと俺の身体は不眠不休で働かされて相当ガタが来ていたのだろう。
こうして俺の人生は終焉を迎えた。死因は急性心筋梗塞、典型的な過労死だった。
自分が死んだのかもわからない、曖昧な死であった。
チクショウ、もっと生きたかった……………とあの世が有ったのならば言っていただろう
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「ーーー様、ーーーじゅ様、ーーー李儒様」
「ん?…………ああ悪い、寝てしまった」
如何やら居眠りをしてしまった様だ。しかしまぁ、懐かしい夢を見た。あの頃は大変だったな、今も大変だけど
「お疲れの所済みません」
「いいや、お前さんは悪くねぇよ。ありがとな起こしてくれて、さてとっ」
起こしてくれた兵士に礼を言いガシガシと頭を掻きながら仕事の山に手をつける。
結果からいうと俺は李儒 文優と言う人物に転生した。それはいい。
転生したのが三国志と呼ばれる時代だったのだ。(たぶん)
俺の前世は二次元をちょっと嗜むアラサーのサラリーマン。そして職場はブラック企業。朝から晩まで書類の山と格闘し、酷い時は二徹くらい当たり前の労働基本法も真っ青な所だ。何度も辞めようと思ったが辞表は上司の手によってことごとく破かれ、労働組合に相談しようもはぐらかされた。
そんな感じで約3年ブラック企業に勤めた俺は死んだ。正直、輪廻転生なんて信じてなかったがいざ、なってみると簡単に信じる事ができる。前世が過労死だから頑張らないように程々で生きてたら、ある日ウチのジジイが劉備に助けられたって事で家を追い出され劉備軍に突っ込まれた。
ジジイ曰く『恩はどんな手を使っても返す』らしい。それでもやりようがあっただろと言いたい。ついでに言うとお前が行けよ。
当然、抗議したが肉体言語で論破(物理)でボコボコにされ、ロープで縛られ無理矢理放り込まれた。ジジイの癖に良くやる
しかし今思えばアレには別の意味があった気がする。やはり地元で有名になり過ぎたか……いや確証は持てないし俺の考えすぎかもしれない。まぁ、それについてはまた話そう。
勿論、お世辞にも強くない俺は文官として勤めた。まあまあ頭は良かったのである程度上の地位につけた。元々劉備軍では文官不足が問題だったらしかったのでそれもあるだろう。
もっと言うと当時の劉備軍は一介の義勇軍であったが劉璋というその地の支配者が急病で亡くなった為それを同じ劉の血を持ち劉璋と関わりが深かった劉備が領地を受け継いで現在に至るらしい。
女性の奸雄達が多いことで女尊男卑の風潮がある世なので驚いたが、実力主義ってことでオーケーらしい。
まぁ、劉備軍も第二の職場になるが前とは比べものにならないほど快適だった。可愛い子多いしちゃんと夜は寝れる、優秀な部下達は言うこと聞いてくれるし、運のいい時はサボって街へ行く事もある(だいたいその時は部下か関羽に拳骨を食らうが)
後ろ盾や政治など問題は有るが、そこは頭脳担当の俺が変えていけば何とかなるし、かねがね満足だった。少なくともその時は、そんな俺からしたら天国の職場が崩れたのは御使い様と言う天の使いとやらがきてからだ。
関羽と張飛が連れてきたのだがあの服装から察するに地球の学生だ。一瞬俺も同郷の出身と言おうと思ったがだとしても俺は一度死んだ身、信じては貰えそうだが言うべきでは無い、何より説明が面倒くさい。それに前世の記憶はブラック企業に勤めた3年間しか覚えてないので口には出さなかった。
そう言えば俺の所に来て挨拶した時に名乗ったら鳩が豆鉄砲を食ったような顔していた。そんなに珍しい名前だったか?とその時は気にしなかったがあの時なんか呟いてた気がする。
確か『なんで李儒がここに?』だったか。俺っていちゃいけないの?
そんな話は置いておいて俺的にはそんな奴が来たんだーぐらいにしか思ってなかったので特に気にしていなかったが御使い様は武官の職場にいたこともあって中々会うことが無く1ヶ月くらいしたあたりで久し振りに見かけたのでふと見ると、周りにウチの上司劉備や関羽、張飛達を侍らせて『ご主人様』と呼ばせていた。
兵士の間の噂では御使い様が上司達を犯ったようだ。なんとも羨ましいことだ………じゃなくて
引いた。割とガチで。というか劉備さんよぉあんたは曲がりなりにもここの主人《ボス》だろう。そんなんで良いのか?
変化はそれだけではなかった。簡単に言うと仕事をしなくなった。いや本当だよ御使い様とやらに心酔しきってそっちの方優先しやがったんだよ。おかげさまで政務の負担が一部に流れ、家臣達の間で不満が募り始めている。その所為でその仕事がまあまあ地位の高い全部俺に降ってくるのでたまったもんじゃない。
しかも優秀な人材や文官達はこれはたまらないと一目散に辞めていくから俺の負担は増加する一方だ。リュウビ=サン、俺も辞めて良いかな?とツッコむ俺は悪く無い。………本当に言ったら関羽にボコボコにされた………解せぬ。
最近では劉備や関羽、張飛等の上司が俺に冷たい気がする。と言うか嫌悪しているって言った方が正しいかも知れない。
流石に訓練の指導とかはやってくれるがそれ以外には手を付けない。
よって前世であった仕事地獄が再現されてしまった。その時はホントに泣きそうだった。
そして今に至る。居眠りさえも許されない程に仕事は溜まり俺は奇しくも前世で培った書類処理のスキルを発揮する事になった。
そして普通の政務でさえ頭が痛いのに御使い様は現在進行形で俺を苦しめている。俺は『セーラー服製作計画』と書かれた紙を見て深い溜息をつく。
心配そうに見つめてくる兵士に何でもないと返事を返して目元を軽くもみ、書類を見る。
これは御使い様ーーーいや北郷でいいや、が自分の居た世界の服と言うのを上司達に話した所為で実施されたものらしい。
いや分かるよ、制服プレイしてみたいよね?分かるんだけどもうちょっと頭働かそうか?
報告書によると結構な金額を投資した様だ。はぁ、あの人らわかってるのか?その金は豪族の賄賂用の金だったのに………。
劉備には『なんで豪族なんかにお金を渡すの?』と言われたから説明したのに……他の二人にも似たようなことは言った筈。
はぁ。
こんな感じで髪飾りだとか服だとか料理だとかで北郷は金をめっちゃ食う。おまけに上司達が便乗してるからタチが悪い。
指摘すると上司達が逆ギレしてきて、しまいにゃ『謀反か!?』となる。何でだよ、可笑しいのはそっちだよ!北郷は頭が悪くなる催眠でもかけているのだろうか?
だから金が無い時は大概、武器庫や倉庫の要らないものを売ったり少ないが多少の金になるので俺の私物を売る。5日ほど前に武器庫や倉庫の整理して要らないものは売り払ったから、今回は…………
「はぁ、仕方無い、また私物を売るか……」
「何処へ参られるのですか?」
「気分転換に街へ……ね。なに、私物やら売ってくるだけだからすぐ戻るよ。あ、後、星ーーー趙雲を呼んどいてくれ」
「分かりました、護衛は何人連れてきましょう?」
「いらねぇよ、だいたい俺なんかを狙っても意味無いだろ?しかもこんだけみすぼらしい格好してりゃ誰も構わねぇよ」
「然し、それでは…………分かりました、では私がついてきます」
「まったく良いのによぉ、忠義者だねぇ」
「いえ、李儒様一人だと何処で倒れるかわかりませんので」
「ハッハ、違いねぇな」
最近では俺の側近みたいな若い女兵士の言葉に笑いながらふらふらと部屋を出た。
俺の容姿は良いはずなんだが、過度な睡眠不足、過労、食事不足などで髪はぐちゃぐちゃ、肌も荒れ、瘦せこけ、目の下には真っ黒なクマ、足取りもふらふらという最悪の体調にボロボロの服が加わればまるで乞食のようだ。いや、そこいらの乞食の方がまだマシかもしれん。
最近では城内で『幽鬼』と噂されてるらしい。まぁ、所詮噂なのでわからんが聞いた時は地味に傷付いた。この様な噂は前世もあったので慣れているはずなのだが……………。
「…………ったく、前世も今世も変んねぇじゃねぇか」
「?…何かいいましたか?」
「いいや、何でもねぇよ」
そう返事を返し、俺は街へ繰り出すのであった。
side:??
「俺の名前は李儒 文優だ。此処の出身じゃあねぇが宜しくな」
俺は一瞬だけフリーズした。確かに此処は三国志であって三国志でない世界であるが其処までの変化は無いと思っていた。
しかしそれがどうだ。目の前の男は自らを李儒と名乗った。
李儒は有名である演義でも正史でも悪役として名を残している。董卓と組んでたくさんの悪事を助言した、その中でも帝に毒を飲ませて殺した話は有名だ。
そんな悪魔の様な男が何故劉備軍に?普通なら可笑しい。この男は何か企んでいるに違いない
「御使い様?どうかしたの?」
「ああ、実はーーー」
この真実を伝えて劉備達の眼を覚まさせないと。
此処に真実(笑)を伝える男が一人いた。
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