アサシンが参る!   作:雨の日の河童

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じいじ風味のザイード。
今回は戦闘です。


三獣士が参る!

帝都近郊

 

はらはらと雪舞い落ちる雪原地帯。

普通の人間ならば耐寒装備でなければとてもじゃないが動くこともままならない極寒の地。

 

そこに黒で統一された三人の獣が歩いていた。

 

「なぁ、リヴァまだ着かねぇのか?」

 

背に斧を担ぐ大柄の男。名をダイダラという。

帝具は二挺大斧ベルヴァーク。

並み外れた膂力を持つ人間にしか扱えない分凄まじい攻撃力を持つ。

ダイダラを例えるならば力の獣。自身が最強となるため闘争を求める。

 

「焦るな、ダイダラ。獲物が逃げているわけじゃないんだ」

 

落ち着きを感じる男。名をリヴァという。

帝具はブラックマリン。

指輪の形をした帝具であり水棲危険種が水を操作する器官を素材としており装着者は触れた事のある液体なら自在に操れる。

リヴァを例えるなら知の獣。

知勇兼備の彼は主の命の為あらゆる知識を発揮する。

 

「でもリヴァ。仕事は早く片づけた方が後々楽じゃない?少しペースあげよ?」

 

愛らしい顔をした青年。名をニャウという。

帝具はスクリーム。

聞いた者の感情を自在に操作する笛の帝具。

戦場の士気高揚として知られているが操れる感情は数十種類に及ぶ。

ニャウを例えるなら技の獣。

狂気的な趣味を持つ彼は他者を傷つけ壊す術を持つ。

 

彼等、エスデス直属の部下。三獣士である。

 

彼等は主であるエスデスの命により暗殺任務を任されていた。

それは邪魔な文官の殺害である。

かつてオネスト大臣と互角に争った政敵であるチョウリ元大臣を殺すのだ。

だが・・・・・・。

 

(・・・おかしい。なぜこれだけ歩いても目的の村まで到達しない?景色は確かに変わっている。そして、我らの速度も落ちていない。地図の不備?いや、確かにいい加減な仕事をする者がいたかもしれないが距離だけは正確なはず)

 

リヴァは違和感を覚えていた。

どれだけ進めども全く着かぬ目的地。

まるで蜃気楼の様だと。

 

「!」

 

そう、蜃気楼だ。

此処は砂漠ではないがその例えがしっくりきた。

 

「ダイダラ、ニャウ。構え・・・!」

「な!?」

「はぁ!?」

 

何もない空間から突如、無数の刃物が飛んでくる。

突然の事態に思わず驚くがそこは三獣士。

迫りくる刃物を弾き、躱し、叩き落す。

 

「くそっ!いったい何処から!?」

「固まれ!敵を視認するまで死角を作るな!!」

「ああもう!何なんだよ、一体!」

 

互いに背を庇い三角形を作る。

四方に気配を感じるが姿は見えず。また景色も変わらず。

ただ、地面に落ちた黒いダークだけが落ちているのみ。

 

「・・・・・・・・・」

 

極限の集中。

それはアスリートでいうゾーンと同じ。

僅かな動き、音ですら見逃さない。・・・はずだった。

 

 

 

「シャ!!」

「「「!?」」」

 

突然の殺気。

それは信頼できる同僚に任せた背中から現れた。

 

三角形の中心に敵はいたのだ。

 

(いったいどうやって近づいた!?)

 

自身に迫る投擲物。

それは白い布を巻かれた幾つもの鋭い針。大小さまざまな針を回避する。

 

「貴様・・・!」

「・・・帝国。三獣士、その命貰い受ける」

 

それは死神だった。

身体を隠す黒い布。

相対しているはずなのに気を抜けば消えそうな気配。

そして、感情を隠す不気味な髑髏の面。

 

「晩鐘は貴様らを指し示した」

 

ぞくり。

心臓を掴まれたかのような感覚。

だが、折れない。折れるわけがない。

既に一度、死んだリヴァに死の宣告は通じない。

 

「やるぞ!ニャウ、ダイダラ!!」

「はっ!経験値にしてやる!」

「気持ち悪いんだよ、お前!」

 

三人の獣に囲まれた死神がポツリと告げる。

 

 

「妄想幻影。やれ、ドーヤ」

 

 

甲高い銃声が雪原に血ノ花を咲かせる。

 

「あ」

「「ニャウ!?」」

 

ガクリと膝から崩れ落ちるは三獣士の技の獣。

ニャウはまるで信じられないという顔をしている。

 

「ダイダラ!!」

「オウ!!」

 

死神の相手をダイダラに任せリヴァはニャウの血液を操る。

 

「は、あはは・・・。ごめんね、リヴァ」

「喋るな、ニャウ」

 

銃弾は腹部を貫通。

手早く応急処置を済ませ、二発目の銃声が響く。

 

「ッチ!まだかリヴァ!!」

「あと少しだ!」

「戦闘中に余裕だな」

「く!」

 

死神は巧みな槍捌きでダイダラを追い詰めていく。

 

「貴様は何故戦う?」

「はっ!そんなもん俺が最強になるためだ!!」

 

ズンッ!!と腹に響くほどの力で死神を叩き潰す。

死んだとダイダラは確信する。肉が潰れる手ごたえを感じたからだ。

だが。

 

「虚ろな武の道に何を見た?弱者しか倒せぬ最強か?」

「クッソがァァァ!!!!」

 

死神は何事も無く後ろに立っていた。

 

「下がれ、ダイダラ!水塊弾!」

 

リヴァは念のために持っていた水と周りの雪解け水を使い死神を牽制する。

 

「貴様は何故戦う?」

「お前にいう事はない!!」

 

右に左、地面を這うような回避方法はもはや人の動きに見えない。

 

「腐った牙で何を噛み千切った?貧困に喘ぐ人々か?」

「戯言を!!」

 

そんな二人を援護するためニャウはスクリームを手に持とうとし。

 

「僕の腕がぁぁぁ!!!!」

「ニャウ!水龍天征!」

 

未だ姿を見せぬ狙撃者に肘から下を吹き飛ばされた。

 

「貴様には問う価値すらない」

 

死神はそのままダイダラとリヴァの攻撃を避け続ける。

水龍が死神に殺到し、そのわずかな隙間をベルヴァークの投擲による回転する斧で塞ぐ。

 

「先見えぬ暗闇に逝くがいい」

「ダイダラァァァァァ!!」

 

だが、それでも死神は死なない。

 

(今ニャウを失うわけにはいかない!)

 

リヴァの指示にダイダラは迅速に行動する。

撤退だ。

エスデス様から叱責、いや殺されるかもしれないがこの死神の情報だけは届けなければならない。

帝具はすでに回収した。

後は殿を務めながら逃げ延びる!

 

だがそれを許すほど彼等は甘くなかった。

 

「かかれ!!」

「くそ!またかよ!!」

 

また何もない空間から突如敵が現れる。

金髪の槍を持つ女。それに従うのは帝国の鎧をまとう兵士達。

 

(この用意の良さ!まさか罠だったとは!!)

 

「邪魔だ、雑魚ども!」

 

ダイダラはベルヴァーク振り下ろす。

 

「刹那の一刺し」

「ごはっ」

「なん・・・だと!?」

 

ことは出来なかった。

あの死神がいた。

だが、自身の前にも死神がいる。

 

(二人目!一体こいつは何者だ!!)

 

死神の槍はダイダラの巨体を吹き飛ばした。

 

「がふ」

 

そして、四度目。

心臓にその一撃は導かれる様に入る。

口から大量の血を吐き予言通りニャウは四度目の銃声によりその生に幕を閉じた。

 

「舐めた真似を!!」

「あら、何事も勝てばいいのよ。そんなことも知らないの?」

「てめぇ・・・」

 

そして、重症のダイダラに現れたのは銃を持った無駄に自信にあふれた女だった。

 

「じゃあ、死になさい。貴方を殺して私はもっと強くなるから」

「」

 

それは屈辱であった。

今までこそこそと隠れていた臆病者に経験値として殺される。

それがダイダラに最後の火をつけた。

 

「オラァ!!」

 

火事場の馬鹿力。

その一撃はダイダラの人生において最高の一撃。

ベルヴァークも敵を殺せという使い手に答えるが如く唸る様に空気を切り裂く。

 

だが、生涯最高の一撃は女には届かなかった。

 

「ア?」

 

ダイダラは自身の目の前がブツリと暗くなる。

そして、何が起こったのかもわからずそのまま冥府へと誘われたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

神速。そうとしか言えない速度で拳銃を抜き、肘に二発、眉間に一発入れた女。

ベルヴァークの斜めからの斬撃は肘を撃たれたことにより腕が耐え切れず千切れた。

よって、女を切り飛ばすことなく見当違いの場所に飛んでいったのだ。

 

「・・・全滅か」

 

舐めていたわけではなかった。

だが、心のどこかで慢心があったのだろう。

リヴァは自身にドーピングを施し、剣を握る。

 

「・・・・・・・・・」

「悪いがドーピングさせてもらった。もう少し付き合え死神」

「・・・・・・・・・」

 

その顔に表情はない。

だが、応じる様に槍を構える。

 

「いくぞっ!」

「いや、終わりだ」

 

ザクリ。と背後を斬り飛ばす。

 

「ぐ!?」

「やはりな。貴様の帝具は認識を弄る物だな?」

 

死神が膝を付く。

死神の攻撃はいつも死角、もしくは意識の範囲外からの攻撃だった。

なら、此奴は最後に必ず背後から斬り掛かる。

 

「さらばだ」

 

そのまま距離を詰め両断。

仮面は真っ二つに割れ剣は股下まで斬り裂いた。

 

「な・・・に?」

「終わりだと言っただろう?」

 

背中からの衝撃。見れば自身の胸から心臓から槍が生えていた。

黒塗りの槍。

それはたった今斬り裂いた男の獲物だった。

 

「血刀殺!」

 

リヴァは本能に任せての奥の手を使う。

だが、死神は既にいない。それどころか周りには誰もいなかった。

ただ、ただ、暗い世界がリヴァの最後の景色だった。

 

 

 

三獣士。

飢狼のように力を求め、ネコのように残虐で、龍のように襲った。

そして、この雪の大地で獣の様に狩られたのだった。

 




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