「あ~、昨日はお疲れ様だったわね。
色々と言いたいことはあるんだけど、昨日持ち帰った兵装の解析に入りたいからさ。
取り敢えず今後の要点だけさらっと説明しちゃうわね」
頭をボリボリ掻き、大きなあくびをしながらそう言うピスケス。
翌朝の0830。軽く朝食をとったCUBEと艦娘達は、ピスケスの部屋に呼び出されていた。
部屋に飾り気は殆ど無い。パソコンが置かれた机に、ファイルで一杯になった棚が複数。
一息つく用の物か、コーヒーメーカーと小さな洗い場が目につくくらいか。
ピスケスの目元には隈が出来てしまっている。昨日は寝ていないのだろうか?
それも気になるところだが、それ以上に関心を寄せる物があった。
ピスケスの隣に立っている、二人の少女の存在。
摩耶と雲龍は彼女達に見覚えがあった。
昨日発見した、巨人内にいた少女を保護していたのだが、
おそらくこの二人がそうなのだろう。
「あたしが提督業休止してる間、摩耶と雲龍は傭兵として
自由に出て行ってもらうの許可してたけど、今日をもってそれは中止。
これからはまた、あたしが指示出していくからよろしく。
取り敢えずしばらくは休みね。身内での演習とかは自由にやっちゃっていいけど。
回収した兵装の解析の他にも、提督復帰するにあたって色々することもあるからねぇ。
それと、気になってると思うけど紹介させてもらうわ。
あたしの元に、正式に加わる事になった新しい艦娘達よ」
言い終わるとピスケスは、二人に向けて自己紹介を促す。
「駆逐艦磯風だ。皆優秀な戦士と聞いている。
この磯風、遅れを取らないよう精進させていただこう」
黒い方に入っていたのがこの少女、磯風であった。
物言いといい仕草といい、その背丈からは似合わない程の武人肌気質である。
「駆逐艦朝霜さ!まぁこう見えても、
戦場を縦横無尽に駆け巡ったエースなんだぜ!任せときな!」
一方の白い方に入っていた少女、朝霜。舌っ足らずで幼い印象を受けるが、
無い胸を一杯に張ってのその言動から、かなりの自信家であることを匂わせる。
「この磯風の足だけは引っ張るなよ」
「…あぁ!?なんだと磯風!」
「貴様の態度は好かん。大した力も無い癖にな」
「言ってくれるじゃねぇかおい…その減らず口とっちめてやろうか?」
「煩いな。潰すぞ」
「やってみろよ!」
自己紹介を終えるや否や、火花を散らし始めてしまう二人。
「この二人、目が覚めてからこんな調子なのよねぇ」
その様子を眺めながら、溜息をつくピスケス。どうやら色々と世話が焼けたらしい。
「…おらお前ら!喧嘩は止しやがれっ」
そんな様子の二人を見かねたのか、頭を軽く叩いて注意する摩耶。
これからは一緒に戦うこともあるであろう仲だ。あまり険悪なのは良く無い。
「良いかお前ら?一応同期なんだからお互い信頼しあわねぇとな…」
「うっせー!邪魔すんな露出狂メスゴリラ!」
摩耶が言い終わる前に、朝霜のこの物言いである。
凄まじく酷い罵声だ。思ってても中々口に出せるものではない。
先輩に向けてその意気や良し…と、言いたいところではあったが…
言う相手と、その内容がまずかった。
その言葉を聞いていた雲龍は青ざめてしまっている。
朝霜は知らない。その言動は思いっ切り摩耶の地雷を踏抜いてしまっていた事に。
摩耶はかなり筋肉質であることと、衣装がかなり露出の激しい物であることで、
似合わないという程でもないのだが、本人は他人と比べると
太い二の腕や腿が強調されている事を気にしてしまっている。
つまるところ容姿に関しての罵倒は、
摩耶の乙女心を大いに傷つけてしまう結果となるのだ。
「ま、摩耶…相手は駆逐艦よ。許してあげて」
「わかってるさ雲龍。でもな?初対面の相手にこの言い方はな?」
笑顔でそう返す摩耶だったが、どう見ても目が笑っていない。
そんな表情で、朝霜の元へとゆっくり近づいてくるのだ。堪ったものではない。
ただならぬ空気に磯風は怖気づき、朝霜は腰を抜かしてしまう。
そしてさり気なく二人から離れているピスケス。止めてあげてと言いたい。
「教育が必要だよなぁ?朝霜」
「ひっ…あ、あのな!?あたいも言い過ぎたと思うんだ!け、けど…暴力は」
「そんな野蛮な事はしねぇよ。心配すんな。健康には良いもんだからよ」
立てない朝霜の足を掴むと、その足裏に向けて摩耶は右手を突き立てる。
「ま、痛くないかは別としてな?」
「あっ…!ちょ、ヤ、ヤメロッテ!やめ…」
後日、ピスケスの部屋から少女の聞き慣れない悲鳴が聞こえたとか何とかで、
これまでの所業含めてあらぬ噂が立ったというのは、また別の話である。
「摩耶の足裏マッサージ。効き目はあるんだけど、凄く痛いから…」
「…キューブ、あんたもやってもらったら?表情少しゆるくなるかも」
「断固として拒否させていただきます」
傍らでやりきった表情で背伸びしている摩耶を、
遠目で一部始終を眺めながらそんな事を言う雲龍と夕張。
珍しく、強い口調で拒否するCUBEから溢れ出る必死さが何処と無く笑いを誘う。
「おい、生きてるか、朝霜…朝霜?」
涙目になりながら顔を真っ赤にし、
汗だくで呼吸を荒げる朝霜とそれを怯えた様子で突く磯風。
物言いは大人だが、やはり容姿相応で怯え方は子供のそれであった。
「あ~、そういう訳で取り敢えず解散よ。各自好きにしなさい。以上」
ピスケスは呆れながらそう言うと、『夕食はここで皆と食べるから』とだけ言い残し、
手を小さく振りながら部屋を出て行った。
「…さて、あたしはこの二人がどこまで出来るか見たいから、
一緒に演習所まで行くとするか。お前らはどうする?」
「私も摩耶と一緒に行くわ」
「あ、私は昨日回収したって言う兵装を見てみたいなぁ!疲れててまともに見れなかったし」
「CUBEも夕張に同意見です。興味がありますね。その兵装とやらは」
「決まりだな。…おーい、朝霜立てるか?」
各々行き先が決まったところで、摩耶は朝霜の頬を軽く叩く。
「…全く世話のやける」
見かねた磯風が、朝霜を抱え上げる。
神妙な顔つきで、汗だくの朝霜をお姫様抱っこする磯風の姿は、
見る者を何とも言えない気分にさせた。
「おう…お姫様抱っこ。お前ら言うほど仲悪く無さそうじゃんか」
「良いか悪いかは置いとくとしても…こいつとは初対面な気がしなかったからな。
それに、摩耶殿の手を煩わせる訳にもいくまい」
「そっか…あとさ、別に呼び捨てでも良いからな?そっちのがやりやすいしな」
「わかった」
「それじゃ私も行ってくるわ。また後でね。夕張、CUBE」
「うん!いってらっしゃい!」
演習所へと向かっていった4人を軽く見送り、夕張とCUBEは反対方向へと歩き出した。
その未知の発見だという兵器に、胸をときめかせて。
黒い方は磯風ってすぐ決まったんだが、
白い方は叢雲、朝霜、響(ヴェルヌイ)、野分と候補が妙に多くて最後の最後まで悩み、
最終的に改への改装レベルが一緒で、何かと比べやすそうって事で朝霜になりました。