古鷹が重巡夏姫に400近くダメ出して見事に屠ってくれました。はい。
対深海棲艦用兵器開発部、アスピナ機関。
当然のことながら、この施設にもトップと言える人間は存在する。
ピスケスは皆と別れた後、その人物に会うために機関の所長室へと足を運んでいた。
「入るわよ。アートマン」
「かまわんよ」
軽く確認をとった後、とくに畏まった態度も取らずに部屋へと入るピスケス。
ピスケスと所長…『アートマン』と名乗る男の間に、これといった上下関係は存在しない。
提督から一研究員としてアスピナに入った、所謂立場上ピスケスは新人社員なのだが、
それ以前にピスケスとアートマンには傭兵時代から腐れ縁があり、
立場が変わってもこのような関係が続いている。
「…あら、あんたもいたの」
「いやいやいや、僕も一応君の上司だよ?もう少し敬って欲しいものだけどね」
「あんたムカつくから嫌いなのよ。てか何しに来たのよ大本営」
アートマンは、対面に座るもう一人の男と酒を嗜んでいた。
ピスケスが『大本営』と呼ぶ男。ピスケスやアートマン等と比べると若く、
身に着けているものも二人と比べて高価な物が目につく。
文字通りこの男は大本営の上層部の人間であり、
何処と無く人を食ったような物言いが癪に障る癖、
何かと交流する機会が多いのでピスケス他提督にはすこぶる評判が悪い。
と言っても、ここまで無礼な態度で接する提督はあまりいないのだが。
「これだから傭兵あがりは困るねぇ…まぁ、僕が今日ここに来たのは、
君が昨日、深海棲艦から巻き上げた特殊ACを一目見たくてね。直接来てみた訳だ」
「相変わらず無駄に行動力があるのねぇ」
「褒め言葉として受け取っておくよ。
それに、わざわざ足を運んだのはそれだけの為じゃないよ?
今や上層部は君らの成果の話題で持ち切りだ。
妖精を介さず、人を繋げた艦娘用の兵装の運用、その実用性…これらにも興味があってねぇ?」
「言っとくけど渡さないわよ」
「その点については安心していいよ。僕らが持っても宝の持ち腐れだ。
あくまでも今回、足を運んだのはそれらを直接見たかっただけのことさ。
君らが好きに運用し、これからも僕らのために尽くしてくれればいい。
この調子で先の大戦の敗北で、失った信頼を取り返してくれないとねぇ?」
人を小馬鹿にしたような笑みを作りつつ、『あの大戦』の事を口にする。
「それにしても、良く君もこの戦いに固執するねぇ?
君は昔、国家直属の傭兵集団『ゾディアック』として、国に貢献した功績がある。
もう隠居しても、誰も文句は言わないだろう。
あの大敗は、君にとって丁度いい引き際じゃなかったのかな?」
大本営は立ち上がり、煽るようにピスケスへと近づいていく。
それを、ピスケスは黙って聞き続ける。
「何が君を、他を犠牲にしてまで彼女達の助けになろうと動かす?
残った艦娘に対して罪滅ぼしかい?それとも、大戦での責任を負って司令官を
辞退させられた『アンジェリカ』に対してなのかな?…いやいやそれとも彼女…『比叡』の」
「そろそろ黙りなさい大本営」
冷たい目付きで、財団に対しそう言い放つ。落ち着いた口調だが、
今にも手が出そうな程の怒りを感じさせる雰囲気があった。
「おっとと、恐いねぇ。まぁ何でも構わないよ?奴らを滅茶苦茶にしてもらえるならさ。
…じゃあそろそろ失礼するとしようか。もう一度、アレを一目見てから帰るとしようかな」
臆することも、悪びれる事も無くピスケスの脇を通り、出口へと向かう。
「あぁ、そうだピスケス。僕らはまた、近々大規模な作戦を決行しようと思っていてね?
その作戦、君達にも参加してもらうことにするよ。まだ君は戦場にいるんだ。
断る理由も無いだろう?」
「…そうね」
「じゃあその時は宜しく」
そう言って大本営は、部屋から出て行った。
「別に私は慰めはせんよ」
「そんな事期待してないから、気にしたくていいわよ。
てかあんたに慰めて貰うとか何か気持ち悪いわ」
フフ…君に言われるのは少し癪だが、まぁ、そうだな」
さっきまで大本営が座っていたソファーに、どかりと勢い良く腰を落とすピスケス。
飲むか?と言わんばかりにアートマンは彼に向かって酒瓶を差し出すが、それを断った。
今は、あまり嗜む気分でも無いからだ。
「君の持ってきた、あの特殊兵器。あれは軽く調べただけでも
かなり大昔に作られたものだと推測される…だが、その技術力は
今の我々では到底追いつける物ではない代物だった」
「まさに、オーパーツって奴?」
「ま、そういうことだな」
自身のグラスに酒を注ぎ足し、それを一口飲みながらそう話すアートマン。
「…驚いたのは、我々が夕張に対して作り上げた『AMSシステム』…あの技術が既に、
あの特殊兵器の操作機構に組み込まれていた事が解ったことだ」
「…マジ?」
「うむ。どうやらあれらを作り上げた人類は、我らがやっと辿り着いた所を既に
通り越している程の技術力を持っていたと証明されたことになる」
「艦娘の言う、『大昔の世界』。それにあの兵器…」
「我らの知らない歴史…『旧文明』は、確かに存在していたようだ」
艦娘達が断片的に語る『過去にあったらしい戦争』。
そして磯風や朝霜の言っていた『別の戦争』。
それらは確証が無かった。自分達が生まれた時には、
それらの事実を証明する物が無かったからだ。
だが…実際大昔にあのような兵器が存在したということだ。
艦娘の語る過去も、これで安直に否定できない。
「過去の戦争。未知の技術を持った特殊兵器。艦娘や深海棲艦…そして、その兵器に
乗り込んでいたあの二人の艦娘…この世界は、深い謎に包まれているよ。ピスケス」
「そーね」
「ピスケス…前にも言ったが艦娘とはこの宇宙に蔓延る生命が『輪廻』を通じて巡りに巡り、
そしてこの場に戻ってきていることの生き証明であり、先の兵器はさらにその」
「あーまって、話長くなりそう。パスパス」
アートマンは哲学者だ。この機関を立ち上げたのも、彼自身の価値観を満たす為の手段でもある。
ピスケスはそういう話には興味が無い。なので早めに切り上げて頂いた。気持ち悪いし。
「そーいう話聞きに来たんじゃ無いの。ちょっと『食材』の事で許可とりたくてさ」
「…ほう?」
「実は…」
◇ ◇
「ここが未知の兵器があるハウスね!!ほら!キューブもはやくはやく!!」
「忙しないですね」
「んもう!良いじゃないの少しは昂ぶっても!兵器は浪漫よ!?それが
未知のスーパー兵器ならもう浪漫の浪漫の…」
「良くわかりませんけど、そんなに見たいならほら、早く入りましょう」
「あ゛!!ちゃっかりしてる!」
興奮して手をブンブン振り回す夕張の横をスッと通り抜けて、先に
CUBEが研究室へと入室する。CUBEも何だかんだで早く見たかったのだ。
一応、ピスケスには許可はとってある。入室しても問題は無い筈だ。
「…おやおや」
入室先には、厭味ったらしい笑みを浮かべるあいつ…大本営がいた。
彼もまた、帰る前にあの兵器をもう一度見に来ていたのだ。
「やぁ、おはよう。君が…もしかして夕張への『リンクス』かい?」
「もー!置いてか…し、失礼しました!!」」
夕張は大本営の胸に掛かった勲章を見るや否や、背筋を伸ばして敬礼の姿勢をとる。
提督より偉い大本営の人間に、艦娘である夕張は軽率な態度など取れるはずもない。
「あー畏まらなくてもいいよ。艦娘に対して、僕はフレンドリーなんだ」
さっきのピスケスへの態度とはうって変わり、感じのいい青年といった感じの対応をする。
「夕張…うん、確かにああいったものが好きそうな性格をしてそうだったねぇ。
それで君は…確かあの施設の子供だったか。ならば、あの兵器に興味を持つ事も頷ける」
「知っているのですか」
「これでも博識なんだよ。…さてさて、この子らも一目見れたし、今度こそ帰ろうか。
君らの活躍、これからも期待するよ」
大本営は今度こそ、機関を去るらしい。にこやかに手を振る大本営を夕張は敬礼で見送り、
それを見てCUBEも見よう見まねで、ところどころ違うが同じく敬礼で見送った。
「はぁ~。かっこいい人だったね!ねぇキューブ!…キューブ?」
「…」
その問に、CUBEは答えない。大本営の目を見た時、彼にとって思う所があったからだ。
彼の目は、私達二人を見た時、施設にいた頃…その施設長と同じ目をしていた。
『道具を見る目』。いずれ壊れる物を見るような、冷たい目。
…私は確かに、そんな目で見られても良い。
元々は施設で、『ACの付属品』として育てられた身だ。
自身が成熟する前にAC自体が産廃になってしまい、
一時期その存在意義が無くなってしまったが。
…だが、夕張は…
「ねぇキューブ!大丈夫?」
「!」
夕張の大きな声で我に返り、夕張の方を向く。
「すみません。考えことです」
「んもう。ほら、こんなところで突っ立ってたら仕事してる人の邪魔だよ!
邪魔にならない程度に見学しましょう!」
「…そうですね」
今は余計な事は考えなくていいか…
そう思い、CUBEは気持ちをリセットし、先行する夕張を追いかけて行った。