ヒトナナマルマル。
楽しいひと時、充実した時間というものは過ぎるのも早く、
夕張とCUBEはオーパーツ見学兼デートを終え、
摩耶達は特訓を終えてピスケスの部屋に戻ってきた。
いい香りがする。入ってきた皆が最初に思ったことはそれだ。そして…
「あら、丁度いいわね。ちょっと手伝」
「似合わねぇ!!!!」
エプロン姿のガタイの良いオネェがオタマを持って振り返っている姿。
それを見た朝霜の第一声はこれであった。まぁ、確かに似合わない。正直こわい。
「しょーじきで宜しい。でも摩耶の件もそうだけど、
すぐ口に出すのはヤメたほうが良いかもねぇ」
「うぇっ!?あ、あぁ…スマン…」
「まぁ良いわ。それよりそれとそれ、テーブルに運んどいて」
指差したのは、既に煮えた具材がたっぷり入った大きな鍋。それと追加用の肉や野菜だ。
仲間を迎え入れる時、取り敢えず円となって皆で囲えるものを食に出したい。
それに適したものはこういったシンプルな鍋とピスケスは考えている。
「…おいし、そうだな」
「うぉお~すっごいなぁ!はやく!早く食べようぜ!」
「焦んなさんな。食は逃げたりしないわよ」
配膳も終わり、全員テーブルを囲うように座る。
醤油ベースの良い香り。丁度食べ頃になったであろう色とりどりの野菜と肉。
こうして鍋を囲むと、その香りと見た目が五感を刺激し、食欲をそそる。
「…あー、この場はかたっ苦しいことはなしにしましょう。
今日はあたしの提督復帰と、新たな仲間の歓迎とを祝って、
好きに飲んで食っちゃおうじゃない」
今にもお手つきしそうな朝霜を見て、ピスケスは手短に挨拶を締める。
腹を空かせてるであろう者を待たすのは酷なものだ。
ピスケスの乾杯の掛け声と共に、皆思い思いに鍋をつつき始める
「久しぶりに提督のお料理を食べたわ。うん、何ら変わってない。優しい味」
「…うまいな、上手く言えんが
。鍋などシンプルに具材を入れただけだの料理だと思ったのだが…」
「味は単純に醤油ベースだけどさ、
出汁のとり方とか色々あんのよ。どんな料理も奥が深いものよ?」
「…うむ、感心した」
「ったりめーだろ!ピスキーの料理はこの国一だぜ!!」
「なんで摩耶が偉そうなのよ」
料理についての知識はそこまでないのか、その味に感心する磯風と得意げな摩耶。
「またこうして摩耶や提督と食を共に出来るなんて、嬉しいわ」
「なぁにを大げさに…」
「大げさでも何でもないわ。一時期は私達の仲、どうなるかと思ってたもの」
雲龍はこうして、共に皆と一緒に過ごせることに何よりも幸せを感じている。
暫くの間三人は一つの理想の為に、それぞれ散り散りになってしまっていて、
もしかしたらもう、ずっとあのまま離れ離れだったかもしれなかったのだから。
「…悪かったわね雲龍。それに摩耶も」
「しょうがないわ。提督も、私も。あれは必要な事だった」
全ては、勝つために。散っていった同志に報いるために。
「…なぁに辛気臭ェ話してんだお前ら!鍋が冷めちまうだろぉ!」
…それもそうだ、と。二人は軽く笑みを浮かべ、食の続きを楽しむことにした。
「美味しいねー!CUBE!」
「文句なしです」
「もぉあじこふぉにくふぉかやわらくぁいなぁふぉい!」
何言ってるのかわからないくらい口に詰め込んでる朝霜と、
それを見て苦笑いを浮かべる夕張。
CUBEも淡々としているが、その口調からは想像できないほどに箸の進め方が早い。
「お!ラストのエビ団子もーら」
「遅すぎますね(ヒョイパクー」
「あぁ!?あたいのエビ団子がぁあああああ!!!」
「意外に大人気無い!!」
なんか微妙なところで大人気ないCUBEであったが、
夕張に注意されて以降は朝霜の取りたいものの横取りはしなくなった。
「なるほど。過保護すぎますね。このまな板は」
「うっさいわ!ちゃんとあるわよ!」
騒々しい宴は、夜が更けるまで続いた…
ーーーーーーーーーーー
『あたしは摩耶様だ!あんたが、あたしの提督かよ?』
『あーそうよ。短い付き合いにならないよう精々生き残りましょ』
『マジかよ…こんな冗談みたいな奴が提督とか、先が思いやられるわ…』
『魚座クラッシュ!!!!』
『ぐえぇええ!背中!背中折れるって!!!』
『提督業慣れたかよ?ルーキー』
『さっぱりね。やっぱあたしは直接戦場に突っ込みたいわぁ』
『そんなんじゃ何時まで経っても指揮官っぽくなれないぜピスキー』
『…なによ、そのピスキーって』
『ルーキーと提督の名前を掛けてみたんだけどよぉ、意外としっくりくるな』
『変なあだ名つけんのやめなさいよ』
『あぁ?…んじゃまぁ提督として立派になったらやめてやるよ』
『作戦完了。お疲れ様みんな』
『へっへ!どーだ!摩耶様の第二改装の力はさぁ!』
『そうねぇ、中々様になってたわよ。あんた』
『へへ…ピスキーも、提督としての板がついてきたんじゃないか?』
『あらそう?じゃあピスキーってのやめない?それルーキーって意味入ってるでしょ』
『えぇ~良いじゃんかよ?なんかこの呼び方慣れちまった』
『…それも、そうねぇ』
『ピスキー…この指輪…』
『んー?あぁ、それ?なんかつけるとさらに強くなるらしいからさ、あんたにあげるわ』
『…なぁ…こういう指輪の交換相手ってよ、その…ずっと一緒っていうか…ケ…ケッコ…』
『ちょ、何言ってんのよ。冗談は嬉しいけどさ、
あたしみたいな奴とあんたみたいな整った娘、合うわけ無いでしょ』
『え』
『あんたはちゃんと戦いが終わったらしっかりとした彼氏でも作…聞いてるの?摩耶』
『馬鹿!知るか!アホピスキー!』
『ちょ、こら!指輪受けとんなさいよ!!!』
ーーーーーーーーーーー
「なぁ、ちょっと良いか」
マルマルマルマル。良い子も駆逐艦も寝静まる頃。
既に宴はお開きとなり、
夕張達も各々の部屋に戻った中、摩耶はピスケスの部屋に再度訪問していた。
特に断る理由も無く、ピスケスは彼女を迎え入れる。
「どうしたのよ、こんな時間にさ」
「いやさ…ほら、あたしあの出撃の際、酷い事言っちまったから、謝ろうと思って…」
「…良いわよ別に。堕ちるところまで堕ちたのは事実よ。
そうしてでもあたしは欲しかった。勝つための戦略、力をさ」
「ピスキーがそうしてくれたのは、何よりもあたし達の為だったんだろ?
それなのに…あたしは馬鹿で、気づいてやれなかった」
摩耶は少し俯向いた後、言葉を続ける。
「あたしさ、恐かったんだ。
最初にあんたが提督をやめて、あんな研究に手を出したことが。
見捨てられたと思ったんだ。あたしは弱いからさ。
…だから、あたしは雇われた先で、色々と無茶をした。
死んでも、良いと思ってた。
結果的にあたしはさ、生き残って、あの時よりもずっと強くなれた。
だけど、だけど、さ…もうあんな思いは、嫌なんだ」
自分でも、何を言っているのかわからない。
謝れてもいないし、責めてもいない。ただ、心境をぶちまけたかった。
雲龍は自分の弱さを受け止め、自身を鍛えてもらうように自ら志願した。
摩耶はそうではなかった。流されるままに、自暴自棄で戦いに挑んでいた。
見捨てられたと勝手に思い込み、死んでもいいと無茶な戦いを続け、
それでも死にきれず、結果的に生きる術を、力を身につけた。
それがどれほど、酷であっただろうか。
「頼むよ、ピスキー。もう、離れないでくれよ…なぁ」
ピスキーをほっておけない。
気丈に振る舞ってはいたが、そんなものは言ってしまえば建前だ。
本当は、摩耶にとっての心の支えこそが彼であり、無くてはならないものなのだ。
そこまで聞いたピスケスは、優しく摩耶を抱きしめる。
「ごめんね摩耶。アタシも馬鹿だった。ここまで堕ちたあたしから
離れさせることが、あんたにとって一番いいことだと、勝手に思い込んでた」
でも、そうではない。お互いにすれ違ったままで、今日まで来ていた。
「大丈夫。もう離さないからさ」
安心したのか、摩耶は大人気もなく、ピスケスの胸の中で泣き続ける。
外にその声は漏れることはなく、夜は変わらぬ静寂を保ち続けていた。
摩耶様好き。機銃テコ入れ有能。