「おぉ摩耶。その様子だと、ピスケスとは仲直りできたみたいじゃの?」
「ま、まぁな」
「ふっふっふ、緩みきった面しおって。なんじゃ?反動で昨晩に一線越えてしもうたか?んん?」
「うっせぇ!」
摩耶と共に入った、落ち着いた飲み屋のような場所。
そこでこちらに気づいた、長いツインテールをしたちょっぴり古風な口調の少女が声をかけてくる。
「それで…お主が例の特別枠か。噂は聞いておるぞ?」
「あ…はい!私、夕張って言います!この度は宜しくお願いします!」
「そう堅っ苦しくせんでいいぞ?同じ艦娘じゃ。…む?むしろ性能に遅れをとっとる吾輩が敬うべきか?」
「い…いやいやそんな!もう全然呼び捨てで良いですって!」
「お、そうか?まぁ何はともあれ、お互いうまくやっていこうではないか」
背丈は私より小さく、声や顔立ちも幼さを感じるが、
それ以上に話し方と立ち振る舞いから、歴戦の強者である気迫を感じ、強張ってしまう。
私も…曖昧な記憶の部分も含めたら、相当練度を上げてきた自覚はあるけど、
彼女はそれ以上に、激戦を潜り抜けてきたんだと思う。
「…む、そういえば自己紹介が抜けてしもうたな?吾輩は利根!航空巡洋艦である!!
レオ提督の元で、こう見えても数々の死線を潜り抜けてきたと自覚しておるのじゃ!
索敵砲撃雷撃夜戦!何でもそつなくこなしてみせようぞ!」
「じゃあ私も…はじめましてじゃないけど、あの時は落ち着いてお話できなかったからね。
軽巡洋艦、五十鈴です。リブラ提督の元、馬鹿ど…艦隊の指揮を担っているわ。宜しくね」
「私は重巡足柄よ!!勝って勝って、勝ちまくるのよ!全てはフランの、勝利の為に!!」
うわ!ビックリした…ものすごい勢いで自己紹介に乱入してきたなこの人…
というか足柄さんの腕に抱えてるメガネの人、首しまっちゃってるけど大丈夫なのかな?
「大淀です…来世はキクラゲに生まれ変わりたいです…」
大丈夫だけど、大丈夫じゃないみたい。
「戦艦、長門だ。アクアリウスの為、眼前の敵は焼き尽くす。それしか脳の無い女だが、よろしく頼む」
続々と私を囲っていく少女達の中で、一歩引いた位置に一人、腕を組んで座っている女性。
まるで武人みたい…あ、磯風ちゃんにちょっと似てる。成長した感じの磯風ちゃん…にしては恐すぎるか。
「…おぉ、あとお主と同じく、この中では新顔の伊58って子もおるぞ?」
「ね、ねぇ利根?この子口から緑の液体出しながら、動かないんだけど…」
「からかいすぎたかの?生意気な小童を弄るのは楽しくてのぉ。生きとるかー?」
心配そうに眺める五十鈴と、58ちゃんの頬をつまむ利根。
こ、これ…新人いびりって奴…?
「死んでるでち」
「生きとるではないか。追加で食え。遠慮するでないぞ」
「むぐっ!むぐぅうう!!」
…いや、なんとまぁご愁傷様…
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大淀さんはやけ酒が進み完全にダウン。58ちゃんもトイレに行ったっきり帰ってこない。
「こいつは真面目すぎるからの。定期的にぶちまけとかんと体が持たぬだろうからな」
「だからって顔合わせる度にこれってどうなのって思うことあるけど」
みんなとは何だかんだで打ち解ける事ができた。
摩耶の身の回りの事から始まって、酒癖の悪い提督と仲間達に手を焼いてる五十鈴のことや利根が大袈裟に語る提督の自慢話。
他愛もない話だった。聞いていてどれもクスッとくる。
だけど、私にはそれ以上に聞きたい事があった。
場の雰囲気を壊したくないから、自分では言い出せないけど…
「時に夕張よ」
ふと、利根が私をじっと見据えながら呼んできた。
思わず背筋が張ってしまう。話そっちのけで別の事を考えていたから尚更だ。
「やはり聞きたいかの?我輩達の…大敗北した戦の話じゃ」
一同に緊張が走る。甘美な勝利の話ではない。
目も背けたくなる敗戦の話だ。気軽に聞けるものではない。
だが、知る必要がある。これ程の精鋭達が、何故負けてしまったのか。
私はなにも言わず静かに、それでもハッキリと頷いた。
それを見た利根はソファーに深く腰を下ろし直した後、
感傷に浸る素振りを見せず、落ち着いた様子で語り始めた。
「我輩達の戦力。提督や大本営が収集したデータに基づいた作戦。
以前まで我輩達は敗けを知らなかった。ここまで大掛かりにやれば、尚更敗けるとはおもわなかったものじゃ。
…甘かった、と言えば其までたが…我輩達は為す術もなく蹂躙された。たった一人の、深海棲艦によってな」
今でも覚えておる。あの異質な化け物を。
全身を赤黒く染め、冷徹な面をした女体と、それに付き従う双頭の巨像。
女性と男性が入り雑じり、ノイズと共に発せられた抹殺宣言。
今まで見た深海棲艦には見られなかった、数字の刻まれた紋章。
奴を単純に分けるとすれば戦艦棲姫と言うものになるそうじゃが、
その強さと今までにない特長から、奴を個体種別の名称とは別に、紋章からとってこう呼んでおる。
『ナインボール』と。