夕張と摩耶、二人の頭上を雲龍の放った『流星』が、隊列を組んで通り過ぎる。
先行していく流星。
しかし魚雷投下点まで進む前に何機かが対空砲によって撃ち落とされていく。
軽巡ツ級。火力は重巡クラスには劣るものの、その耐空力は深海棲艦でも随一の艦種。
幾つかの流星はその機銃を掻い潜り、雷撃を放つものの数が少なく、
相手の被害は重巡リ級を小破させるだけに留まる。
『…ごめんなさい。あまり良い戦果はあげられなかった』
「気にすんな」
雲龍は戦艦の射程に入らないように、二人とは別に後方を陣取っている。
残った流星達に帰艦命令を出しながら謝罪する雲龍に、軽く宥める摩耶。
「ル級二隻にツ級、リ級二隻、それにチ級…制空権は問題ないけど、やっぱりツ級が厄介ね」
「ツ級を早々に撃破しねぇとな、あたしが狙ってみる」
戦艦の射程圏内、ル級二隻が主砲を夕張と摩耶に向けて撃ち出す。
戦艦クラスの砲撃。撃ちだす量も破壊力も、重巡等の比ではない。
「摩耶、私についてきて!弾着予測場所はレーダーでわかるから!」
「おう、頼むぜ」
艦速一杯。危険域を避けながら敵への距離をさらに詰める。
すぐ後方にル級の砲撃が弾着。水柱と共に発せられる衝撃波が、二人の耳を劈く。
「っ!くぅ、良い火力しやがって!」
「摩耶!お願い!」
「おうよ、倍返しだ!!」
狙うはツ級、掛け声と共に摩耶の装備する20.3cm砲が火を噴く。
だが、敵も安々と当たってくれるほど馬鹿ではない。敵も速度を上げ、砲撃の回避を試みる。
摩耶の砲弾はツ級の左腕艤装を少しだけ抉り取り、
小破していたリ級にも至近弾による衝撃で損害を与える。
「ツ級は小破、リ級は中破ってところか…次はぶっ潰す」
「追撃は私が行ってくるわ!」
ブースト点火、夕張単艦で敵艦隊へと急接近する。
リ級やツ級も、突っ込んでくる夕張に迎撃を開始。
《先程とは威力も弾幕量も桁違いです。主砲の直撃だけは避けたいですね》
《でも、まだまだ余裕で…っ!?》
主砲とは別に、弾速の有る弾丸が夕張にぶち当たる。
正体は戦艦の副砲。
《…大丈夫ですか、夕張》
《平気だけどっ、流石にっ、無傷じゃ済まなそうっ!》
リ級やツ級の主砲はブーストによる機動力で回避出来るが、
その合間、敵の副砲が嫌なタイミングで刺ささってくる。
《艤装がダメージを受けています。所謂ピンチですね》
《副砲でこんな削れるなんて、やっぱこの艤装良いところばっかでもないわね!》
艦娘の防御機構は特殊で、不可視の障壁が艦娘を包み込むように展開されている。
これらが艦娘への直接的な被弾を避けているが、
障壁の受けたダメージは【艤装】や【服】に伝達する。
現在の夕張の損害は軽微ではあるが、右肩のチェーンガン一門がひしゃげ、
服装の胸元部分が千切れ飛び、胸が少しだけ露わになってしまっている。
《こっちもやられっぱなしじゃないんだから!》
両手に持っているヒートマシンガンを、ツ級に向けて放つ。しかし…
ツ級を庇うようにして、リ級が前方に立ち塞がった。
《よっぽど対空要員を失うのが嫌みたいですね》
《そっちがその気なら…!》
夕張は構うこと無く、リ級に向けて撃ち続けた。
自身の装備している兵装の特性を、夕張は前の水雷戦隊戦を通じて少しずつ理解し始めていた。
ヒートマシンガン。とにかく弾幕を形成する為のものを改造したもので、
弾速と連射性が従来よりも犠牲にはなったが、弾着時に小爆発を起こす特殊弾薬により、
ある程度距離があっても安定したダメージが期待できるようになった。
深海棲艦の装甲は実弾よりも、爆薬によるダメージの方が通り易い事が研究で判明しており、
弾速と連射性の低下による精度不足も、この武器の元々の想定相手である【アーマードコア】より
鈍足の深海棲艦では然程問題ではなく、総合的に【対深海棲艦】に特化された武器になっている。
チェーンガン。こちらは完全に弾幕特化であり、とにかくその物量が売り。
しかし、所詮は小口径の実弾である為、
強固な装甲を持つ深海棲艦には弾かれ気味であり、遠距離では大したダメージを見込めない。
この装備の真価はその弾幕による防空と、近距離なら装甲の弱くなった部位に向けることで
敵を【穴空きチーズ】に出来るくらいの威力を出せる事か。
あと、チェーンガンの方がコストの都合上提督のお財布に優しい。
メイン火力のヒートマシンガン。牽制、畳み掛け用のチェーンガンといったところである。
特殊弾による小爆発が、既に中破していたリ級の機関部を炎上させ、大きな爆発を起こす。
これが致命傷となり、リ級は断末魔を上げながら沈み始めた。
「まずは一隻!!」
《夕張、次の主砲一斉射が来ます》
《っとと!ひとまず回避行動を…》
《夕張、どうやらブースターもそこまで万能では無いようです》
《え?》
《エネルギー、残り30%。どうやらブースターについては
燃料を別のエネルギーに変換してから利用しているようです。
なので燃料がある限りエネルギーは回復しますが、連続しての使用は難しいようです》
《ちょ!嘘でしょう!?まずいって!》
《やっぱりピンチですね。ですが、今は1人ではありませんから》
瞬間、無傷だったリ級の背部に衝撃が走る。
「あたしを無視してんじゃねぇぞボケ共!!」
摩耶の主砲がリ級に突き刺さったのだ。急所は外したのか、一部の兵装を破壊するだけに留まる(中破)。
『夕張!事情はおめぇの連れに聞いた!一旦下がってこい!』
「う、うん!わかった!」
《…キューブ、あんた結構器用になってきたわねー》
《はい。そのつもりです》
主砲に続き、摩耶は敵に向けて副砲を撃ち続ける事で敵艦隊の注意を引き付け、
その間に夕張は残りのブーストを使って方向転換、引き撃ちしつつ摩耶と合流を開始。
『摩耶!注意して!敵の一斉射撃が来るわ!』
『わかってら!』
しかし、戦艦の主砲だけで無く、重巡軽巡も含めた一斉射撃となると、通常の艦娘にはその回避は困難なものだった。
「摩耶!」
リ級とツ級の砲撃が直撃。戦艦の砲撃も至近弾となって摩耶を襲う。
『…っ!クソがっ!』
障壁による衝撃緩和も、艦娘本体へのダメージを完全に抑えられるものでは無く、摩耶の額から一筋の血が滴り始める。
「大丈夫!?」
「まだまだ、重巡が簡単に根を上げてたまるかっての!」
右手に装備した兵装は無事だが、左側に突き出た船を模した艤装の損害は大きい。(中破)
敵艦隊と二人は、進行方向上同航戦の形となり、しばし睨み合う。
『遅くなってごめんなさい。追撃部隊、発艦準備完了したわ』
『発艦しちゃって!ツ級はなんとかしとくから!』
『了解。全艦、突撃開始』
雲龍の艤装から流星と、爆撃機である【彗星】が発艦される。
《この数の差で【夜】を迎えるのはまずい…ここで一気に決めないと…》
《敵艦隊、陣形を変更しているようですが》
《…複縦陣ね。あいつら、やっぱり昼を凌いでから、夜戦で一気に畳み掛ける気だわ》
【夜戦】。本当に夜になる訳ではなく、深海棲艦の支配する海域では一定時間交戦が長引くと空に不可思議な【闇】が広がる。
闇が海域を覆い尽くす時間は短いが、その性質上航空機による攻撃は不可、双方にとっても砲撃の回避は難しくなる。
『夜戦は殺るか殺られるか』。昼以上に物量での優劣が激しい夜戦。今の状態では避けたい。
《キューブ、どう?エネルギーの方は》
《エネルギー充填完了。問題ありません》
《…ねぇキューブ。良い考え、思いついたんだけど》
《何となく考えてるのはわかります。ですが、成功率は【70%】程。
決して低くはありませんが、失敗すれば命はありませんよ》
命を賭けるには無謀な策略。そうCUBEは一掃する。
《どうせこのままじゃ無事じゃ済まないわ。それに…》
傍らから見れば絶望的な状況。それでも、夕張は笑っていた。
《実験艦としての性分なのかな?こんな状況でも、試せる事が多くて嬉しいの》
《なるほど。やはり私と貴女は【相性が良い】》
彼らは似ていた。その本質は正反対であったが。
方や、好奇心が他の感情を霞ませるほどに強い少女。
方や、好奇心以外の感情が絶望的なまでに薄い少年。
二人を誘う甘い誘惑は、希望へと導く活路となるか、その身を焼き尽くす破滅となるか、
それはまだ、誰にもわからない。
ミリタリー知識あんまり無いから変な点有るかもしれないけど許して。
あと長くなっちゃって一話で終わらなかったのも許して