ここ、川神市には他とは違った特徴を持つ学園があった。
その名も『川神学園』
この川神学園は、それぞれの個性を重んじるための自由な校則とユニークな行事・授業が特徴的で、市内を代表する学園である。
しかし、川神学園にはその中でもさらに特徴的な部分があった。
それは学園側が生徒同士の『決闘』を許可していることである。
『決闘』とはお互いの合意があれば、喧嘩・スポーツ・論戦など、形式を問わずに白黒つけて戦う事が出来る勝負の事を言う。
入学時に配られる学園のシンボルが模されたワッペンを付きつけ、相手がその上にワッペンを重ねた場合、決闘が受託されたことになる。
この川神市には武家の血を引く家柄が多く、川神学園では元気を余らせた生徒たちが頻繁に決闘を行っていた。
そう、今この時も
「両者準備はいいネ?」
「応!」
「いつでも!」
「それでは、勝負開始ダヨ!」
「「おおおおおおおおおお!!」」
立会人の教師の号令と同時に、向かい合ってた二人がグラウンドの中央でぶつかった。
そんな者たちを学園の屋上から眺める一団が居た。
「お?こんな昼休みから決闘か」
「まぐまぐ…あ、本当…まぐまぐ…そうみたいね」
「ワン子、食べ終わってから話しなさい」
「ハ、ハーイ」
その中でも一番初めにグラウンドの様子に気づいた少年。名前を『
特徴の無い普通の男子学生に見える彼だが、とても要領が良く頭がキレ、仲間内からは『軍師』と呼ばれ頼りにされている男である。
ワン子と呼ばれたのは赤みがかった長い茶髪をポニーテールにした活発そうな少女、『
彼女は『川神』と言う名前の通り、川神学園の学長で武術の総本山と呼ばれる『川神院』の総代『川神
その彼女を諌めたのはショートカットで一子とは対照的に大人しそうな少女、『
「あん♪お弁当のおかずが胸の谷間に落ちちゃったぁ。大和ぉ~、口で取ってぇ?」
「お断りします」
その発育の良い体を活かし、大和に対し四六時中アピールをする、大和LOVEな乙女であった。
彼女の大和に対する求愛行動は今回の事だけではなく、一日数回の告白は当たり前、果ては朝晩の布団の中に潜り込むという荒技まで成し遂げる猛者である。
しかし、そんな京の行動にも大和は素っ気なく返す。曰く、『京の真剣な気持ちに軽い気持ちで答える事は出来ない』と言うのが大和の談である。
さらに、『一度でもそれらしき答えを返したら京ENDにまっしぐらになりそうだから』と言うのも大和の談である。
他の面子も見慣れた光景らしく、その行動に誰も反応はしていなかった。
「やり合ってるのは一年生か?」
「そうじゃないかな?この時期だしね」
屋上のフェンスから身を乗り出して、グラウンドの様子を除くのは筋骨隆々と言った体格の男『
そんな岳人に同意を示した少年は『
彼はマンガやアニメに造詣の深い、言うところのオタクである。彼はその華奢な外見通り、大人しい性格をしているのだが、友人や仲間のために真剣で怒る事が出来る熱い一面も持っている。
「この時期、と言うのはどういう事だ?」
卓也の言葉に首を傾げたのは美しい金髪の少女、『クリスティアーネ フリードリヒ』。その容姿、名前からも分かる通り、彼女はドイツから来た留学生である。
彼女は大好物がいなり寿司と言うほどの大の親日家で、日本語も母国語の様に流暢に話す―――のだが、間違った知識がかなり多く、日本にはまだ時代劇の様な江戸文化が多く残っていると勘違いをしたりしている。
「ああ、二年から転校してきたクリスは知らないんだっけ。
「まあ、お互いの事を良く知るための手合せって面も大きいけどな」
「俺様も去年やったなぁ」
「アタシも去年はいっぱい決闘したわよ!」
「ほう。犬もやったのか」
「ええ!二十連勝の記録を打ち立ててやったわ!」
一子は自らの戦歴を誇らしげにVサインを掲げる。
「まあ、自分がその場に居ればその記録も止まっていただろうな」
「そんなのやってみなきゃ分からないじゃない!」
「ならば今自分と勝負するか?」
「受けて立つわよ!」
「……しょーもない……」
ほのぼのしたお昼ご飯の時間から、なぜか一気にバトルモードに突入する二人。
一子とクリスはクリスの転入初日の決闘相手と言う因縁もあってか、何かにつけて勝負をする間柄だ。
しかし、決して仲が悪い訳ではなく、『戦友』と書いて『ライバル』とも『親友』とも読む仲なのだ。
そんな二人の勝負はもはや日課レベルになっており、内容も単純な手合せの場合もあれば、五十メートル走に走り幅跳び、遂にはカラオケの得点やバッティングセンターでのホームラン数など、もはや『戦友』と言うよりは『遊び相手』と言った方がしっくりくるほどである。
「ならば勝負の内容は第三者…そうだな、大和に決めてもらうとするか!」
「俺か?」
いきなり話を振られた大和は弁当を食べている手を止める。
「ああ、大和ならば自分と犬フェアに戦える勝負を提案してくれるだろう?」
「別に良いけど……そうだな…あっ。良いのがあったぞ」
クリスに言われ少し考える素振りをした後、大和はわざとらしく手を打った。
「二人の今回の勝負内容は…『ジャンケン』だ!』
「「…ジャンケン?」」
「ジャンケンってあのグー・チョキ・パーでやるあのジャンケン…よね?」
「ああ、そのジャンケンだ」
「大和…自分たちの事をバカにしてるのか?そんな運試しのような勝負など」
「運だって勝敗を分ける重要な要素だぞ?例えばクリスと誰かが決闘しているときに、突然突風が吹いてクリスの目にゴミが入ったとしよう。その隙を相手が付いてクリスが負けた場合、お前は『今のは運が悪かっただけだ。今の勝負は無効だ』何て言うのか?」
「自分は騎士だ!騎士はそんな見苦しい真似はしない!」
「そうだろう。それに日本には『勝負は時の運』や『運も実力のうち』って言う諺があるくらいなんだぜ?そう考えれば運だって重要な要素だろ?」
「な、なるほど。ならば犬!今回はジャンケンで勝負だ!」
「良いわよ!じゃあ、先に五回勝った方の勝ちで良いわね?」
「うむ、行くぞ!最初は―――」
大和の説得?に応じて、意気揚々とジャンケンを始める二人を見て大和は再び弁当を食べ始めた。
(ねぇ大和)
ジャンケンをしている二人を尻目に、京は他に聞こえない音量の小声で大和に話しかける。
(どうした?)
(実際のところ、なんでジャンケンなの?)
(面倒だったからな。適当に思いついたジャンケンにそれらしい理由を付けただけだよ)
(悪い大和…でもそんな大和も好きっ!)
(お友達で)
隙あらば告白してくる京にいつものように大和が返事をしていると、グラウンドを見ていた岳人が何かに気づいた。
「お?…あれは…」
「どうしたのガクト?」
「いや、あのグラウンドにいるの…キャップじゃねぇか?」
「どれどれ?……あ、ほんとだ」
卓也の言葉に大和と京も気になったのか、食事の手を止めフェンスに近寄る。
「ああ、あのバンダナはキャップだな」
「うん。間違いないね」
「周りに他の生徒もたくさんいるな」
「なにしてるんだろう…あ、走り出した」
大和たちの視界から少年が消えて数分後、屋上の扉を勢いよく開け、先程グラウンドに居たバンダナを頭に巻いた少年が現れた。
「よっしゃああああ!!賭けでぼろ儲けだぜ!」
「なんだキャップ。賭けをしてたなら俺様たちも誘ってくれたらよかったのによぉ」
「なんだよ。昼飯食う前に誘ったじゃんかよ」
「いや、キャップ『なんかグラウンドの方から面白そうな事をやる匂いがするぜ!』って言って飛び出したじゃん」
「ちゃんと誘ってるじゃねぇか」
「あれで誘ってるつもりだったの!?」
皆から『キャップ』と呼ばれているこの少年は『
彼を含め、今屋上にいる全員は二年F組に所属しており、翔一がリーダーを務めるグループ『風間ファミリー』の一員でもある。さらに、最近転校してきて加入したクリス以外の屋上にいる面子は全員幼馴染の関係にも当たる。
「男子たちの間で交わされる『誘っている』の言葉………良い物だっ!」
「そんな意味じゃないからね!?変な妄想は止めてよ京!」
「お?キャップ戻っていたのか」
「ほんとだ。どこ行ってたのよ?」
二人でジャンケンをしていたクリスと一子も騒ぎを聞きつけ戻ってきた。
因みにジャンケンの勝敗は、一子に軍配が上がったようである。
「おう!グラウンドでやってた決闘でちょっと賭けをな。見ろ!大勝ちしてきたぜ!」
翔一は少年のような笑顔を浮かべて、手に持っていた袋を掲げる。
なお、賭けと言っても、この学園内の場合は実際の貨幣ではなく、学食の食券や、近くの商店街で使える商品券などで学校側の公認で行われている。
今回の賭けは商店街の商品券だったらしく、その袋の中には商品券が大量に入っていた。
「これで今日の金曜集会はごちそうだぜ!」
翔一の言った『金曜集会』とは彼ら風間ファミリーが金曜日の夜に行う集会の事で、集会と言ってもやる事は土日何か遊ぼうか、からはじまり、夢を語ったり、グチを言ったり、ゲームをしたり、バイトのあまりものをみんなで食べたり等の事である。
元々は昔、京が家の都合で隣の山梨県に転校してしまうことになり、その彼女が週に1度必ず金曜日の夜に引っ越し先から電車を乗り継いで遊びに来るので(泊まり先は川神院)仲間メンバーも金曜の夜は必ず秘密基地に集まったのが、金曜集会の始まりだった。
そしてそれは、京がみんなと同じ川神学園に入学し、新しいファミリーが増えても変わることは無い。
「さすがキャップ、太っ腹だね!」
「自分はいなり寿司が良いぞ!」
「俺様は断然ステーキだぜ!」
「アタシはハンバーグ!」
「ククッ、私は天帝ハバネロカイザードリンクで。大和にも飲ませてあげるね、口移しで」
「真剣で死ぬから勘弁してください」
翔一の持ってきた戦果にみんなではしゃいでいる時。
パアァァン!!
「ごちそうと聞いて美少女登場!」
「あ!お姉さま!」
「おお、ワン子。愛い奴め」
鋭い破裂音と同時にいつの間にか屋上に長い黒髪のグラマラスな美女が立っていた。
一子はその美女を見つけると彼女の胸へ飛び込み、またその彼女も一子を受け止め、頭を撫で始める。
彼女の名前は『
そして彼女も風間ファミリーの一員であり、ファミリー内で唯一の上級生となっている。
「ね、姉さん。今の音は何だったの?」
「ああ、ちょっと音速超えたからな。安心しろ、服は気でガードしたから無事だぞ」
ちょっとと言う軽い感覚で音速を簡単に超えるあたり、百代の人間離れした能力が見て取れる。
ファミリーのみんなにはもはや慣れた事なのか、全員が呆れた顔をしていた。
「聞いたぞキャップ。ぼろ儲けしたんだってな。私も美味しいもの食べたいな~」
「モモ先輩はいつも女子たちに美味しいもの貰ってるじゃんかよ」
そう。この百代、戦闘力は某サイヤ人並みに高いのに、容姿は誰もが認める程の美少女なのである。その強さのため男子からは敬遠されているが、逆に女子からはものすごくモテるのだ。
なので百代はよく女子にご飯をおごってもらったり、差し入れのお菓子などをもらうことが多い。
「いや~、女の子たちから貰う物は美味しいんだが、皆お菓子とかそう言う類の物ばっかりで偶にはガッツリ食べたくなる時があるんだよ」
「あれ?姉さんこの前バイト紹介してあげたじゃないか。そのバイト代があるんだから…」
百代はとにかく自分に正直でよく金欠に陥りやすく、お金が厳しくなったら大和にバイトを斡旋してもらっている。
「………」
「…姉さん。なんで目を逸らすの?……まさか」
「…テヘ♪もう全部使っちゃった」
「全部使ったぁ!?」
因みに大和が百代に紹介したバイトは建設や土方など重労働だが手当の良い物ばかりで、さらに言えば百代は力仕事ならば大の大人の十倍近くの働きが出来るのでバイト代は相当な額になっていたはずだ。
「どうやったらあれだけのお金をこの短期間で使い切れるのさ!」
「ちょっと女の子たちと遊びに行ったら無くなっちゃったんだよ。不思議な事もあるもんだなぁ」
「……姉さん」
「おっと、もうお昼休みも終わる時間だな。皆、さらば!」
大和の怒りを察知したのか、百代は屋上に来た時と同じように大きな音のみを残して姿を消した。
「たっく、今日の集会でこってり絞ってやる」
「大和。モモ先輩も言ってたけど、お昼休みもうすぐ終わるよ?」
「!?」
京の言葉を聞いて大和が時計を確認すると、確かに昼休み終了まで残り十分を切っていた。
「マズイ!次の授業はウメ先生の歴史だ!」
「そりゃヤバい!俺様あの鞭の餌食だけにはなりたくねぇからな」
「全員そうだよ!」
各々は食べていた弁当を片し、急いで教室を目指す。
「おい!廊下を走っては――――!」
「クリスだけ先生の鞭の餌食になってもいいのなら歩くんだな!」
「っ!?こ、今回だけだからな!」
廊下を走る皆を諌めようとしたクリスも、大和の言葉に妥協し廊下を走る。
そもそも、血気盛んな生徒の多いこの川神学園では、廊下を走った程度で咎める教師や生徒は少数であり、この騒がしさも川神学園では見慣れた光景だった。
~~二年F組教室~~
授業開始のチャイムが鳴ると同時に、妙齢の女教師が教室に入ってきた。
「起立っ!礼!」
それと同時にF組委員長の号令がかかる。
「良し!それでは授業を始める」
(ふぅ、何とか間に合ったか)
昼食を食べた直後に猛ダッシュで教室に駆け込んだ大和は、脇腹に痛みを覚えながらも内心安堵していた。
二年F組の担任でもあるこの先生は『
その指導の厳しさは凄まじく、宿題のやり忘れなどはもちろん授業開始と終わりの礼や生活態度に乱れなどがあると、激しい叱責と共に彼女の手にある鞭が唸りを上げて飛んでくるのである。
「福本!授業中だぞ!起きろ!」
「あべし!?」
因みにこの鞭打ちの行為、過去問題にもなったのだが、被害者の生徒たちから『良いんです!先生をやめさせないで下さい!ハァハァ』との訴えが殺到したため今もその行為は続けられている。
「――――む!もうこんな時間か。それでは今日の授業はここまでとする。次の授業は、職員会議で今週は中止となっているので授業が終わり次第、HRに移る」
「起立!礼っ!」
「こら熊飼!次はHRだと言ったろ!菓子を食べるな!」
「ううっ!こ、小腹がすいちゃって…」
~放課後~
「俺はこのまま秘密基地に行くけどみんなはどうするんだ?」
「俺はちょっと商店街行って、今日稼いだ商品券でごちそうを買ってくぜ!」
「自分はマルさんに用事があるから、少し遅れる予定だ」
「アタシもトレーニングしてから行くからちょっと遅れるわ」
「俺様は母ちゃんに買い物頼まれちまってな。それが終わったら行くぜ」
「僕は演劇部に行くからその後かな。職員会議でも簡単な自主練習はあるみたいでね」
「…私も弓道部に寄るから、遅れるかも」
「京が弓道部に自分から出る…だと…!?」
「その言い方はちょっと傷つく…」
大和が京から帰ってきた言葉に驚きを露わにする。他のメンバーも少なかれ京の言葉に驚いているようだった。
京は弓道部に所属しており、その腕前は素晴らしく『天下五弓』という弓使いに与えられる最高峰の称号を持つほどだ。
「いやしかし、京が自分から部活に出るなどどういった心境の変化だ?」
KYのクリスがズバッと聞く。実際京はファミリーの仲間さえいれば、他はどうでもいいと言った閉鎖的な考えが強かったのだ。
「…別に。今までも、この先もずっとファミリーのみんなが一番大切なのは変わらないよ。けど、私もそれだけじゃダメかなって思っただけ」
「…京」
ファミリー内でも京と卓也の二人は閉鎖的な考えが強かったのだが、卓也は最近演劇部に所属し、京もこの通り外に目を向け始めた。
そのことを大和は少しさびしく思うと同時に、それ以上にうれしく思っている。その様子はまるで親の様だった。
「じゃあ、秘密基地に真っ直ぐ向かうのは俺だけか」
「そうみたいだな。まぁ、自分たちも用事がすんだら直ぐに向かうぞ」
「じゃあ、一足先に秘密基地で待ってるぜ」
皆と一旦別れ、学校を出て河原を歩き、街の少し外れまで出ると、そこには廃ビルが一棟建っていた。
このビルが大和達が言っていた金曜集会を行う『秘密基地』である。
この廃ビルは持ち主のオーナーとの交渉により、大和たちが警備と管理をしており、不良などのたまり場にされないようにする代わりと定期的な掃除を条件に秘密基地として使わせてもらっているのだ。
大和はビルの中を迷いなく進み、中腹にある一室に入った。
「あっ、大和さん。こんにちは」
「まゆっち、こんにちは。もう来てたんだね」
大和が部屋の中に入るとそこには緑がかった長い黒髪を二つに結った少女がこちらを振り返っていた。
彼女の名前は『
彼女も風間ファミリーの一員であり、今までに紹介した大和、翔一、一子、百代、京、クリス、岳人、卓也と由紀江を合わせた九人が風間ファミリーの総員である。
由紀江は今年川神学園に入った新入生で一年C組に所属している。しかし一年生とは思えないほどのスタイルを有しており、大和曰く『一年生であんな桃尻を持っているとは、末恐ろしい』と言う事らしい。
「今ちょうどお茶を淹れてたんですが、大和さんもどうですか?」
「貰おうかな。まゆっちの入れるお茶は美味しいしね。今日のお弁当もありがとう。美味しかったよ」
「いいいいいいいえ、そそそそんなお礼を言われるほどじゃ!」
「ま、まゆっち、落ち着いて」
「す、すみません」
実は由紀江は成績優秀、文武両道、家事万能、眉目秀麗と非の打ち所が無い様な少女なのだが、対人スキルが著しく低く、なんと川神学園に来るまで友達と呼べる存在が居なかったほどである。
友達が居なかった理由は本人の口下手さやら色々あるのだが、特に大きな理由が今由紀江の側に立てかけられている『物』によるところが大きいだろう。
その物とは『真剣』である。『マジ』と読むのではなく本物の刀と言う意味の『真剣』だ。もちろんこれは国から帯刀を許可されもっているのだが、普通に考えれば真剣を持っている女子にあまり近づきたくはないだろう。
『まゆっち、リラックスだって。落ち着いてまゆっちのポテンシャルを発揮するんだ!』
「そ、そうですね松風。何事も冷静に取り組まなければ…私、頑張ります!」
『その調子だまゆっち!その調子で目指せ友達百人!』
「『おー!』」
今、喋りだしたのは由紀江が持っている馬の携帯ストラップ『松風』。この松風は由紀江が父からもらった物で、付喪神が宿った――――――――と言う設定らしい。
実際は由紀江本人が腹話術で話しており、これは昔、由紀江が友達欲しさの寂しさと欲望から生まれたもので言わば、まゆっちのもう一つの人格と言っても良い物である。
「松風は今日も絶好調だな」
『そうだぜ~。オラは何時でもフルスロットルさ!』
「そうか。じゃあ、今度背中に乗せてくれ」
『お~っと、大和が乗るのはオラじゃないだろ?』
「じゃあ、なにに乗るんだよ?」
『そんなの一つに決まってるだろ!大和が乗るのはまゆ――――』
「ま、松風!な、なにを言い出すんですか!?」
『もごもご…』
「…なんなんだ?」
突然危ないことを喋りだした松風の口を由紀江が取り押さえる。
大和たちファミリーは由紀江のこの行動にもう慣れ、松風を一つの個体として扱っているが、他の人たちにはただの珍行動にしか見えず、それがさらに由紀江の友達が出来ない理由に拍車をかけていた。
「あっ、大和にまゆっちもう学校終わったんだね」
「クッキー。今日は五時間目で終わりだったからね」
大和と由紀江が話していると、扉が開いた。そこに居たのは人ではなく、卵形のロボット『クッキー』。
九鬼財閥と言う世界有数の財閥が作り上げた、お世話ロボットで色々な事があり、今は翔一をマイスターとして仕えている。
「そうだったんだ。ジュースが冷えてるけど飲む?」
「今はいいや。まゆっちが入れてくれたお茶があるし」
「そう?そう言えば他のみんなは?」
「ああ、少し遅れるらしいけど、そろそろ―――」
「おーす。俺様の登場だぜ」
「ごちそういっぱい買ってきたぜ!」
そうこうしている内に用事を済ませた岳人と翔一が秘密基地にやってきた。二人の手には商店街で買った食べ物の入った袋が提げられている。
「キャップさんに岳人さん。こんにちは」
「マイスターにガクト。お疲れ様。ジュースが冷えてるけど飲む?」
「おう!俺ポプシコーラな!」
「俺様四ツ山サイダー!」
「はいはい、………どうぞ」
「んぐっ……ぷはぁっ!生き返るぜー!」
「ゴクゴクッ……ぷぅっ。やっぱり夏はキンキンに冷えた炭酸に限るな!」
「夏本番はこれからだぞ?そんな事して体調崩しても知らないからな」
「そんな冷たい飲み物を一気に飲むと体に悪いですよ」
「大丈夫だって」
「そう!夏には体調を崩してる暇なんかねーぜ!最初から最後まで遊びまくるんだからな!」
「キャップ、文脈が訳わからなくなってるから」
まぁ、この二人なら体調を崩すなんてそうそうないか。と大和は自分で注意しつつも考えていた。
岳人はその位で体調を崩すような軟な体はしていないし、翔一は持ち前の強運でトラブルを回避するからだ。
「まあまあ、確かに一気飲みは良くないよ?ポップコーンがあるからこれでも食べながらゆっくり飲みなよ」
「おお!サンキュークッキー!」
「しかし、またポップコーンかよ。俺様ポテチとか食いたいぜ」
「な、なんだよ!せっかく僕が好意で作ってあげてるのに!そんな事言うと―――」
「この剣の錆にしてくれるわ!」
岳人の言葉にクッキーが切れたかと思うと、いきなりクッキーが卵形から人型の第二形態に変形し、岳人に向かってライトセイバーの様な光る剣を突きつけた。
「どわぁっ!?いきなり剣を向けるなよ!」
「フフフ。この剣が血を欲している」
「まるっきり妖刀じゃねーか!!」
「ふん。冗談だ」
そう言うとクッキーは再び第一形態の卵型に戻った。このクッキーお世話ロボットと謳っている割にキレやすく、さっきの様に怒ると戦闘型の第二形態に変形するのだ。
「
「何をやってるんだ?ドアの外までガクトの間抜けな声が響いていたぞ?」
「サラリと毒を混ぜんなよモモ先輩!」
そうこうしている内に用事を済ませたファミリー達が秘密基地に集っていく。
そして、
~~夜~~
「それじゃ、今から金曜集会を開始するぜー!」
「「「「「「「「おーー!」」」」」」」」
翔一の合図とともに仲間たちの掛け声が秘密基地中に響く。
そして、買ってきたごちそうに皆が手を伸ばし始めた。
「うめぇー!」
「キャップに感謝だね!」
「さすが俺たちのキャップだぜ!」
目の前のごちそうに舌鼓を打つ翔一、卓也、岳人。
「ほ~ら大和。お姉ちゃんが食べさせてあげようか?」
「…姉さん。………
「ううっ。舎弟が鬼畜だぁ」
「じゃあ大和、私が食べさせてあげるよ?」
「…京、その料理に付いた赤いソースはなんだ?」
「デッドチリソースだけど?」
「なんでソースに死を意味する単語が入るんだよ!」
「…美味しいのに」
「いやそれを美味しく感じるのは京だけだろう」
「モモ先輩まで…ひどい」
いつも通りのやり取りをする百代、大和、京。
「クリ、今日の
「ぐぬぬ、次は負けないからな!」
「お二人は本当に仲がよろしいですね」
『オラ、あの二人を見てると何だか和むぜ…』
「まゆっちと松風も大概だと思うけど…」
ほほえましい光景の一子、クリス、由紀江、クッキー。
金曜集会はいつもと同じように始まった。
「そう言えばさ」
皆で御馳走を食べているとき、大和が呟いた。
「二週間後に五連休があるよね」
「そう言えばそうだな」
大和の言葉に百代が相槌をうつ。
「新しいファミリーも増えた事だし、親睦会も含めてどこか旅行に行かない?」
「りょ、旅行ですか」
「良いじゃないか!自分は京都に行ってみたいぞ!」
「えー。俺はエジプトとかの遺跡探検がしたい!」
「何でキャップは親睦会で秘境に行きたがるのさ!?」
「俺様は海のあるところに行きてーな。それで水着のお姉さま方と…」
「……しょーもない」
「国内も良いが、海外の姉ちゃんたちを侍らすのも良いな」
「アタシは海外より国内が良いわ。英語とか話せないし」
みんな旅行に行くことには賛成の意見を述べる。
「はいはい。旅行の行先は一旦置いといて、先に考える事があるだろ?」
皆が意見を交わし合っているのを大和が止めた。
「先に考える事?」
「旅行に行くための資金だよ。もし、飛行機に乗る様な場所ならそれなりにかかるしな」
「資金は個人個人で出すんですか?」
「いや、今回の旅行は今から皆でバイトをして、そのバイト代のみを資金にする。その方が結束も強まるし、みんな平等に遊べるからね」
「なるほど」
「でもそれなら余計先に行先を決めた方が良くないか?」
「このメンバーでそんな簡単に行き先が決まるわけないだろ?だったらそのわずかな日数分もバイトに費やした方が効率的だ。資金は多いに越したことは無いしな」
「むぅ。それもそうか」
「だから今から皆には―――――」
大和はそう言うと自分のカバンの中から大量のチラシ、冊子を取り出した。
「資金集めのバイトを決めてもらう!」
「おおー。また大量に持ってきたな」
大和が取り出したのは求人情報の載っているチラシや冊子だった。
「俺様は体を使う系の仕事だな」
「アタシもそう言うのがいいわ」
「なんか面白いバイトないのかー?」
「僕はできれば事務関連の方が助かるよ」
「わ、私にもできるバイトが在るんでしょうか?」
『まゆっちなら何でもできるさ!頑張れ、まゆっちは出来る子!』
「自分はバイト、と言うのは初めてだな」
「私は大和の世話係のバイトが―――」
「そんなのはございません」
「けち。……じゃあ、本屋の店番とかで良いや」
「大和ぉー。綺麗な姉ちゃんとかと遊べる仕事ないのかー?」
「そんなのもございません」
「けち。……まぁ、私もまた土方系かなぁ」
「競争率が低くてなるべく割のいいバイトのチラシを持ってきたけど、ちゃんと募集要項は確かめてね」
そして、皆でバイトを探し―――――
「皆、候補は決まったな?」
「おう!」
「あぅあぅ。今から緊張します…」
「まゆっち、自分も初めてなんだから大丈夫だぞ!」
翔一は持ち前の容姿と明るさ、そして脚力を活かした川神市で流行りつつある、自転車タクシーの運転手。
クリスと由紀江はお互いがバイト未経験だったので、一緒に売店の売り子をやることになった。
「俺様の肉体でガッツリ稼いでやるぜ!」
「僕もまゆっち程じゃないけど、緊張するなぁ」
「むぅ…。もっと美少女らしい仕事は無いもんかな」
岳人と百代はその力を活かし、工事現場へ。卓也はパソコン関係の知識を活かせる事務仕事を選択した。
「トレーニングの代わりになるし一世紀二章だわ!」
「ワン子、それを言うなら一石二鳥」
一子は走り込みの鍛錬も兼ね、朝夕の新聞配達。京は宣言通りに書店のレジへ。
「大和はバイト何にしたんだ?」
「俺は家庭教師だよ」
「はぁ~。よく勉強とか教えれるな。俺様教科書開いただけで熱でるぜ」
「まあ、教えるのは中学生だからね。そこまで難しい内容じゃないよ」
「よーし!それじゃあ、バイト先も決まったことだし、今日は前祝でパーッとやるぞ!」
「「「「「「「「おおーー!!」」」」」」」」
翔一の音頭を皮切りに再びファミリーたちの宴が始まる。その宴は夜が深まっても止むことは無かった。
そして――――――――
「よっしゃ―!一番、島津!歌いまーす!」
「ワハハハハ、良いぞ良いぞ!」
「良いぞー!もっと脱げー!」
「あれ?今まゆっちが松風になって無かった?……まあいっか!アハハハハハハ!」
岳人が上半身裸になりながらソファーの上に立ち上がり、雑誌をマイク代わりに歌い始めた。クリスもそれを諌めるどころか笑いながら盛り上げる。
由紀江は松風との境界線を無くし、一子は笑い転げる。
どんちゃん騒ぎと言うのもはばかられるほど、今秘密基地の中は混沌としていた。
その原因は冒頭に戻る。
「よーし!それじゃあ、バイト先も決まったことだし、今日は前祝やるぞ!」
「「「「「「「「おおーー!!」」」」」」」」
「そしてなんと――――」
「キャップ、まさかそれは?」
「そうだぜ大和!『川神水』だ!」
翔一が取り出したのは一升瓶に入った『川神水』と呼ばれる川神市特産の湧水で、ただの水なのにお酒みたいに酔える、未成年の味方な水だ。
「いつの間に手に入れたんだ?」
「商店街の福引で当たったぜ!」
「さすがキャップ、なんという豪運」
「まあ細かいことはいいだろ!皆でパーッと飲もうぜ!」
そしてみんなで川神水を飲み始め数時間。
「ワハハハハハ!」
「アハハハハハ!」
皆出来上がっていた。翔一が持ってきた川神水の瓶は、全部空になって床に転がっている。
大和は押さえていたため、正常な判断が出来る程には意識を保っている。
因みに
「ZZZZZZ…俺は、…風邪だぁ…ZZZZZZ」
「ZZZZ……キャップ、感じが違うから……ZZZ」
翔一と卓也は早々に酔いつぶれ寝ていた。
「モロ、お前も誤変換だから…」
そんな大和のツッコミも耳に入ることは無く、二人は再び微睡の中へ沈んでいく。
「やぁ~まとぉ~。お姉ちゃんに酌しろ~」
「ちょっ!?姉さん!?」
「待つんだモモ先輩っ!大和の独占は許さない!」
大和に酌をせびりながら、腕に絡みついてくる百代を見て、京も負けじともう片方の腕に絡みつく。
二人とも顔が真っ赤で、酔っている事が分かる。
(当たってる!柔らかい塊が当たってるからあああああ!!)
必死に煩悩に耐える大和。しかし、さらにそこに
「みんな何をやってるんだ!自分も混ぜろー!」
「お姉さまズルい!」
クリスと一子も加わってきた。
(マズイマズイマズイマズイマズイマズイ!!!)
「こらー!大和坊!!オラにも構えー!オラはさびしいと死んじゃうんだぞ!」
「それはウサギだろって言うか、まゆっち!?松風が出てるから!!」
駄目押しとばかりに由紀江も追加される。
因みに岳人はその光景にショックを受け、血涙を流しながら気を失った。
今回彼女たちがこのような行動に出たのは、酔っていると言う理由もあるが、それは切っ掛けに過ぎない。
なぜなら、彼女たち全員が『直江 大和』に対し、恋心を持っているからなのだ。
由紀江やクリス、一子など、普段は羞恥心の方が上回り、積極的にアピールできない面々も酔いのせいでタガが外れ、このような行動に出たのだ。
そんな彼女たちの行動に大和は
(ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい)
ゲシュタルト崩壊を起こしそうなほど焦っていた。
普段から接触の激しい百代と京に加え、今日はクリス、一子、由紀江まで加わっている。
大和は、常日頃の京のアピールを交わす猛者だが、彼だって思春期真っ盛りの高校生なのだ。
この状況で心揺れないはずが無い。
「そうだ!クッキー!!」
「なんだよ大和?」
「助けてくれ!」
寝てしまった翔一たちに毛布を掛けてあげているクッキーに助けを求める大和。
「僕は良くはかんないけど、その状況は一般的には良い物じゃないの?」
「酔ってる女の子に手なんか出せるかぁ!!」
「しょうがないなぁ……ほら皆、大和が困ってるんだから――――」
「「「「「あ゛?」」」」」
「―――僕、隣の部屋で省エネモードになって待機してるね」
大和を助けようとしたクッキーは女性陣の鋭い視線にさらされ、すごすごと退散していく。
「クッキイイイイイイ!?」
「「「「「大和ぉ(さん)」」」」」
自身にかかる吐息に大和は
「ウオオオオオオオオオオオオ!!!」
~朝~
秘密基地の一室には川神水で酔いつぶれた者たちの累々たる屍が転がっていた。
そんな中一人起き上がっている者の姿があった。
「………俺は……耐えきったぜ…!」
ただ一人起き上がっていた大和は、皆の看病(二日酔い)をするためにクッキーを呼び、そのまま倒れ込んだ。
そんな大和の様子をクッキーは後に
「まるで悟りを開いたかのような穏やかな顔をしていた」
と語る。
因みに大和以外のファミリーメンバーは皆、その晩の記憶を失っていた。
この作品は作者が書いているもう一つの作品の合間に三日程度で書き上げた物です。
そのため完成度などは低いかもしれません。
更新はもう一つの作品が行き詰ってる時や気分で書き上げるので不定期の亀更新となります。
それでも温かく見守ってくれる方は是非、次話もよろしくお願いします。
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