真剣で私に恋しなさい!Another   作:ag260

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ストーリーを完全オリジナルで考えるのは楽しいんですけど、大分時間が掛かっちゃう作者です。


第三話 出撃風間ファミリー

卓也からの電話で旅行用の資金が盗まれたと分かってから、大和はファミリー全員に緊急招集をかけた。

そして今、大和の連絡から三十分とかからず秘密基地にはファミリー全員(+クッキー)が集まっていた。

 

 

「みんな集まったね。状況はもう知っていると思うけど、旅行資金が奪われた」

 

全員がそろった頃合いを見て、大和が話を切り出す。

その言葉を聞いて、盗まれた場にいた卓也は責任からか、顔を悲しげに歪ませた。

 

「ゴメン、みんな。僕のせいで…」

「何を言う!悪いのはモロではなく、その盗人どもだろう!」

「そうですよモロさん!」

『あんま自分を責めんなよ、モロボーイ』

 

そんな卓也をクリスと由紀江、松風がフォローする。

ファミリーに入って日は浅いが、仲間に対する気持ちは他のみんなとなんら遜色は無い二人である。

 

 

「…ありがとう。クリス、まゆっち」

『オラも忘れんなー』

「ご、ゴメン。松風にももちろん感謝してるよ」

 

クリスたちのおかげで暗かった卓也に笑顔が戻る。

大和は場の雰囲気が柔らかくなったのを察し、話を切り出した。

 

「それじゃ状況を整理しよう。盗まれたものは俺たちが貯めた旅行資金。盗まれた場所は秘密基地から商店街に向かう道の途中。此処まではいいね」

 

大和がみんなを見渡すと全員が頷く。

 

「良し。次は盗んだ犯人なんだけど、モロどんな奴だったか覚えてるか?」

「うん。ええと、盗んだ奴は四人居て、全員が赤いごてごてしたバイクに乗ってたよ」

「そいつらの顔やバイクのナンバープレートとかは見てないか?」

「ゴメン。顔はヘルメットで隠れてて、ナンバーも見ようとしたんだけど全員剥がしてて見れなかったんだ」

「……用意周到なやつらだね」

「ますます許せないわね!」

 

計画性と常習性を覗かせる犯人たちに怒りを見せる京と一子。

 

「クソ!手がかりはねぇのかよ!」

「いやガクト。今のは十分に手がかりだぜ」

 

悔しがる岳人に大和はそういってのけた。

 

「顔やナンバーを隠してるって事は計画性と常習性があるって事だ。それにバイクもモロの話だとかなり改造してる。そんなバイクを使い捨てにするとは考えにくい。おそらく同じバイクで何回かやってるはずだ」

 

そう言うと大和は携帯を取り出し、何かを調べ始めた。

 

「…ビンゴ!ネットの掲示板にここ最近同じようなバイクに引ったくりにあったって書き込みが数件あった!クッキーこの辺の地図出せるか?」

「任せてよ!」

 

 

クッキーは目から光を放ち、前に合ったホワイトボード上に川神周辺の地図を映し出した。

大和はその地図上へネットで被害があった場所に目印を書いていく。

 

「これは…歪ですが円形になってますね」

 

由紀江の言葉通り、地図上に記された目印は川神のある場所を中心に歪ながらも円形に並んでいた。

 

 

「ああ、そしてその中心が奴らの拠点のはずだ」

「この場所は、親不孝通りか?」

 

円の中心を見て岳人が呟く。

確かに円形の中心には川神市内のある通り、通称『親不孝通り』と呼ばれる場所があった。

親不孝通りとは川神の不良たちが集まる通りで、治安はとても悪く地元の人もめったに近づかない場所である。

 

 

「良し!場所が分かったのなら後は成敗するのみ!」

「でも、親不孝通りっていってもかなり広いよ。どうやって犯人たちの場所を特定するの?」

「そ、それは…」

 

猪突猛進に突っ走ろうとするクリスに京が冷静に歯止めをかける。

そんなクリスを見て一子はやれやれと大げさなボディランゲージをした。

 

「まったく、クリは考えなしなんだから」

「むぅ…ならば犬。お前には考えがあるのか?」

「もちろんよ!居場所が分からなければいろんな人に聞き込みをすればいいのよ!」

「あ、あの、一子さん。そんな事をすれば相手にこちらの動きを察知される危険性が…」

「……あ」

「ぷっ。犬、やはりお前も考えなしだったようだな」

「す、少しは考えてる分クリよりマシよ!」

「なにを!?」

 

 

考えを由紀江に簡単に論破された一子にクリスがけしかけ、二人はいつもの喧嘩のような雰囲気になる。

普通ならば、いつもの事だからと流すが今回は状況が違う。

大和は強く机をたたき、場の雰囲気をぴしゃりと締める。

 

 

「喧嘩は後で。OK?」

「「は、はい…」」

 

一子もクリスも自分に非がある事が分かっているため、素直に静かになる。

そんな雰囲気の中、京が脱線した話を戻し切り出した。

 

「でも実際、居場所の特定はどうするの?」

「それに関してもあてはある。要は犯人たちの居場所を知っている可能性が高く、どちらかと言えば自分たちの味方をしてくれる人物に聞けばいい」

「確かにそうだけどよ大和、そんな都合の良い奴が居んのか?」

「おいおいガクト、忘れたのかよ。親不孝通りの事に詳しくて、俺たちの味方をしてくれそうな人が身近にいるだろ」

「そんな奴………」

 

 

「「「「「「「「あ!」」」」」」」」」

 

その瞬間全員の頭の中にある一人の男の顔が浮かんだ。

 

「そうか、ゲンか!」

「確かにゲンさんなら裏事情にも詳しいもんね」

 

岳人と卓也の言う『ゲン』と言う人物は本名を『(みなもと) 忠勝(ただかつ)』と言う大和や京と同じ、寮に住む住人の一人だ。

彼も大和たちと同じく川神学園の二年F組に属している。

 

彼は養父の手伝いとして代行業と呼ばれる、いわゆる『何でも屋』をしているため色々な知識と技術を持っており、仕事上の関係で親不孝通りなどの川神の裏部分にも詳しいのだ。

 

大和はすでに忠勝に対し、事件の内容と犯人を追っている理由をまとめたメールを送っており、今はその返事を待ている最中だった。

 

 

そして数分後。

大和の携帯にメールの返信を知らせる振動が走った。

 

「来た!ゲンさんからだ」

 

大和は携帯を取り出すと、素早く文章に目を通す。

そこには簡単な前書きと、犯人たちの活動拠点と思われる住所が書かれていた。

 

「クッキーこの場所に何があるか分かるか?」

「待って。今検索してみるね……………分かった!その住所には使われてない空倉庫があるよ!」

「空倉庫か…。不良のたまり場としてはありきたりなところだな」

 

大和がそこまで言うと、今まで黙っていた翔一が音を立てながら勢い良く立ち上がった。

 

 

「よーし!敵の居場所は割れた!後は俺たちファミリーに手を出した事を後悔させるだけだ!」

 

翔一の言葉にその場に居る全員が力強く頷く。

 

 

「皆行くぞ!風間ファミリー出動だぜ!!」

「「「「「「「「「おおおぉぉぉ!!」」」」」」」」」

 

 

 

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

 

 

 

親不孝通りのある空倉庫内。此処は今、数十名の不良がアジトとして使っていた。

 

「おい、今日の成果はどのくらいだ?」

 

その倉庫の奥に積み上げられた台の上に座っているリーダー格の男が前にいる一人に尋ねる。

 

「今日は五~六万ってとこだな」

「…少ねぇな」

「しょうがないだろ。これ以上やると九鬼の目に留まっちまう」

「チッ」

「まぁ、そんな腐るな。今日はさらに良いもんも手に入れたんだよ」

「あぁ?」

「これだよ」

 

男はそう言うと、小型の金庫を取り出した。

それは紛れもなく、卓也から盗んだみんなの旅行資金の入った金庫だった。

 

「金庫か?」

「ああ、今日引っ手くった奴のカバンの中に入ってたんだよ。盗った奴の慌てぶりから、結構な額入ってると思うぜ」

「そりゃいい。開けれねぇのか?」

「暗証番号と鍵がかかってやがる。俺らじゃ無理だな」

「近くの鍵屋じゃ足がつく。面倒だが県外で開けるか。俺のバイクに積んどきな」

「あいよ」

 

 

金庫を持ってきた部下にそう言うと、リーダー格の男は中に入っている額を想像したのか、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる。

その時だった。

 

 

「おっ邪魔しまーす!」

 

倉庫の重厚な引き戸を勢いよく開けながら一人の美女、百代が入ってきた。

 

「な、何だテメェ!?」

 

いきなりの来訪者に中にいた男達が騒ぎ出す。

百代はそんな男たちにうんざりしたような顔を向けながら用件を切り出した。

 

「お前たちが今日ひったくりをした奴の身内だよ。それを返してもらう」

「おいおい姉ちゃん。それマジで言ってんのかよ」

「ここがチーム『烈怒牛(レッドブル)』の本拠地ってわかってんのか?」

「おい待てよ、良く見りゃすごい美人じゃん」

「へへ。こりゃ、いい獲物だぜ」

 

現れた百代を扉の近くにいた男達数人が囲む。

男たちはこれから力の無い女一人を好きなようにできると、ゲスな表情を浮かべている。

 

だが、彼らは気付くべきだった。

百代が現れた時に開けられた扉は大きく重く、さらに錆びていたこともあって大の男数人がかりでやっと開けられる物だったと言う事を。

そして百代がそれを家のふすまでも開けるかのごとく、簡単に開けたことに。

 

 

「大人しくしてりゃ、痛い目には―――」

「ふん!」

 

正面にいた男が百代の体に触れようとした瞬間、男は百代の強烈なアッパーカットにより天井にめり込んでいた。

 

「このアマ!何しやがった!?」

「なにって、ちょっと翼を授けただけじゃないか」

「そんなんで天井に埋まってたまるか!?」

「バカにしやがって、やっちまえ!」

 

 

百代の物言いにキレた男たちは一斉に襲い掛かる。

 

 

「学習しないやつらだ。川神流!『神風の術』!」

 

百代は技により周囲に竜巻を発生させる。

襲ってきた男たちはその竜巻により巻き上げられ、最初の一人と同じく全員天井にめり込むことになった。

 

「な、何だこの女!?」

「いったいどんな手品使いやがったんだ!?」

「落ち着け!相手は一人だ、全員でやっちまえ!」

 

 

騒ぐ男たちをリーダー格の男が一喝する。

リーダーの一声で落ち着きを取り戻した不良たちは、手にナイフやバット、鉄パイプなどを持って百代に突貫する。

 

「おいお前」

 

迫る男たちを前に百代は冷静にリーダー格の男に話しかける。

 

「なんだ、今更命乞いか?」

「違う。お前、私が一人だと言ったな」

「それがどうした!」

「残念。はずれだ」

「あ?」

 

百代が言葉を発した次の瞬間、その脇を二つの影が走った。

 

二つの影はそのまま迫る男たちに向かい、そして

 

「一番槍!川神一子、参上!!」

「正義の騎士!クリスティアーネ・フリードリヒ、推参!!」

 

その二つの影、一子とクリスは手に持ったそれぞれの愛用武器、薙刀とレイピアで先頭集団を吹き飛ばした。

 

 

「盗んだお金は帰してもらうわよ!」

「盗人猛々しいとはまさに貴様たちの事!神妙にしろ!」

「な、何なんだよこの女たちは!?」

「マズイ、逃げろぉ!」

 

 

先頭集団を吹き飛ばした二人の勢いは止まらず、次々と不良共を蹴散らしていく。

その様子を見ていた後続集団は、敵わないと見るや蜘蛛の子を散らすように我先にと逃げ始める。

 

 

 

 

 

 

大和はそんな様子を離れたビルの屋上から双眼鏡を使って見ていた。

 

「ここまでは予想通りだな。と、すればそろそろ。モロ!」

「OK!京たちに連絡だね」

 

大和は倉庫の様子を窺いながら、隣にいる卓也に合図を送る。

卓也は大和からの合図を見ると、直ぐに他のメンバーに連絡を入れた。

 

 

 

 

 

 

「モロからの連絡……居たっ」

 

卓也から連絡を受けた一人、京は大和たちとは別のビルの屋上から倉庫を見つめていた。

常人ならば双眼鏡などを使う距離だが、『天下五弓』の称号を持つ京の目は肉眼でしっかりと倉庫の窓から逃げ出す不良たちを捕えていた。

 

「…逃がさない」

「な、なんだ!?」

「ぎゃぁ!」

 

京が連続で放った矢は逃げ出す男たちの急所を的確に突き、次々とその意識を刈り取っていく。

数十秒後、そこには京の弓技によって意識を失った男たちの山が出来上がっていた。

 

「任務完了…」

 

動かなくなった不良たちを確認し、京はどこからともなく『10 GREAT』と書かれた赤い看板の様な物をかざした。

 

 

 

そして京が敵を倒していた同時期、ちょうど反対側でも卓也から連絡を受け取った者が逃げ出してきた不良たちの前に立ちふさがっていた。

 

「何だコイツ!?」

「ろ、ロボットだと!?」

 

立ち塞がっていたのは九鬼が造ったご奉仕ロボ、その第二形態、いわゆる戦闘形態のクッキーだった。

 

「武器を捨て投降するのならば、痛い目には合わずに済むぞ」

「何を訳分からねぇことを!スクラップにしてやるぜ!」

 

 

戦闘にいた男がクッキーの言葉に激昂し、鉄パイプをクッキーに向かって全力で振り下ろした。

ガキィィン!と金属がぶつかり合う、甲高い音が辺りに響く。

 

そして次の瞬間、崩れ落ちたのは鉄パイプを振り下ろした男の方だった。

 

「ギャアアァァ!な、何だコイツ!?」

「ふん。その程度の攻撃では、私のボディに傷一つ付けることは出来ん」

 

 

男は自分の手首を抑えながら転げまわる。

それもそのはず。クッキーの身体の硬度が高すぎるせいで、振り下ろした鉄パイプの衝撃がほとんど手首に帰ってきたのだ。軽くても捻挫か、もしかすれば骨が折れているだろう。

 

「貴様らの様な輩は我が剣を見るに値すらしない!喰らえ!クッキービィィィィム!!」

 

 

クッキーが技名を叫ぶと、その身体から収束されたオレンジ色のエネルギービームが発射された。

ビームは大きな衝撃波を伴いながら進み、逃げ出してきていた不良たちをまとめて吹き飛ばす。

 

ビームが通り過ぎた後、そこに動く者は居なくなっていた。

クッキーはスキャンで全員が気を失っているのを確認すると、卵形の第一形態に戻る。

 

「まったく。これに懲りたら、もう悪さなんてしないことだね」

 

 

 

 

 

左右の窓から逃げた者たちが全滅したと分かった残りの者はパニックになっていた。

 

「クソ!なんなんだコイツら!」

「正面も左右も駄目だ!逃げらんねぇぞ!?」

「裏口だ!裏口のバイクで逃げろ!」

 

パニックに陥ってる一人が叫んだ、裏口から逃げろと言う言葉で魅かれる様に残っていた不良たちは裏口へと向かっていく。

 

だが、もちろんそこにも逃亡を阻止する刺客が軍師の手によって配置されていた。

 

「はぁ…はぁ…。ば、バイクだ!これに乗れば!」

 

裏口から一番に飛び出してきた男が、並べて止めてあるバイクの一台に跨る。

男は素早くエンジンをかけ、急いで発進させようとするが、男の意に反しバイクは全く進まない。

 

「な、なんでだ!?」

「そりゃ、俺様が持ち上げてるからな」

「は?…なぁ!?」

 

男はパニックで気づかなかったようだが、実は男がバイクに乗った瞬間に岳人が男ごとバイクをその自慢のパワーで持ち上げていたのだった。

 

「そして喰らえ!俺様のパワーを!」

 

岳人はそのまま男のが乗ったバイクを、他のバイクに向かって投げつける。

バイク自身の重量と、岳人のパワーが加わったそれを受けた他のバイクは、何台かが走行不可能の状態にまで傷ついた。

 

「チクショオ!ここまでコケにされて黙ってられるか!」

「ああ!やってやんぜ!」

 

開き直った何人かの男たちが、岳人に殴りかかった。

岳人はそれを避けようともせず、その身体に拳や蹴りを受ける。

だが、日常的に武士娘たちから強烈な攻撃を食らう事の多い岳人にとって、喧嘩で鳴らした程度の奴等の攻撃などダメージの内に入ることは無かった。

 

「邪魔だぁ!ハンサムラリアァァット!」

「ぐばら!?」

「グギャ!」

 

殴りかかってきた男たちを力任せのラリアットで吹き飛ばす。

しかしその間隙をぬって数台の無事だったバイクが岳人の横を通り過ぎて行った。

 

「あ、あいつ等!仲間を囮にしやがったな!」

「ヨッシャア!このまま逃げ切って―――ん?」

 

男たちがバイクで岳人の横を駆け抜けた先、薄暗い道路の真ん中に刀を携えた一人の少女、黛由紀江が立っていた。

 

「お、女!?」

「退け!轢いちまうぞ!」

「…………」

 

迫り来るバイクを前に由紀江は刀を構えたまま動かない。

 

「黛由紀江、参ります」

「もうどうなっても知らねぇかんな!」

 

男たちは前にたたずむ由紀江に真っ直ぐ突っ込む。

それに対し由紀江は、あくまで冷静に力を溜めている。その姿は普段の姿とは違い、四天王の名に恥じない風格を漂わせていた。

 

「ハアァァァ!」

 

由紀江が気合の入った声を上げた次の瞬間、男たちが走らせていたバイクは一台残らずバラバラに切り裂かれていた。

乗っていたバイクが急に切り裂かれ、男たちは勢いよく前方に投げ出される。

地面にぶつかった時の衝撃で全員行動不能になったのか、うめき声は聞こえるが逃げ出そうとする者は居なかった。

 

「やりましたね松風」

『ナイスファイトだったぜまゆっち!』

 

 

 

「お、姉さんから連絡だ」

「モモ先輩?」

「ああ、制圧完了したから来いってさ」

「了解。他のみんなにも連絡入れとくね」

 

そして、大和と卓也が離れたビルの屋上から不良たちの居た倉庫に入るとそこには翔一を除いたファミリーの面々と死屍累々とした不良共の山が積みあがっていた。

 

「うわぁ。これまた凄いな」

「だね。けど、こんな光景に慣れてきた自分にも驚きだよ」

「あ、大和!アタシいっぱい倒したわよ!褒めて褒めて!」

 

大和の姿を確認した一子が元気よく駆け寄ってくる。

 

「おお。よくやったなワン子、偉いぞ」

「クウゥ~ン」

 

大和に頭を撫でられ、気持ちよさそうに目を細める一子。

その姿はまるで本物の犬とその飼い主の様であった。

 

ひとしきり一子を撫で終えると、大和は周りを見渡しある事に気づいた。

 

「あれ?キャップが居ないけど…モロ?」

「おかしいな。ちゃんとメールは送ったはずなんだけど…」

「心配すんなよモロ!キャップに連絡がつかなくなる事なんていつもの事だろ?」

 

 

眉を寄せ心配そうにする卓也に対し、岳人は笑いながら言った。

実際、大の冒険好きである翔一は連休や土日を利用して一人旅に出ることが良くあり、その間三日ほど連絡が無いことも良くあるのだ。

 

「まぁ、確かにキャップの心配は無用だろうね。それよりも早く俺たちの金庫を取り返そう」

「そう言うが弟よ。その金庫はいったいどこにあるんだ?」

「パッと見た感じこの倉庫にはお金を置いておけそうな部屋や金庫は無いから、多分リーダー格のバイクに積んであるんじゃないかな?」

「バイクはどれが誰のだか分からんな。…仕方ない。面倒だが、一つずつしらみつぶしに探すか」

 

今後の方針が決まり、全員がバイクを調べるため裏口に向かおうとしたその時。

 

「ヒャッハー!この瞬間を待ってたんだァ!」

「うわ!?」

 

大和の背後に積まれていた不良たちの山の中からリーダー格の男が飛び出し、大和の裏に周ってその首筋にナイフを突きつけた。

どうやら武道家ではなく一般人だったので、百代や由紀江の気の探知にも引っかからず、人の山に隠れていたためにクッキーのスキャンからも身を隠せていたらしい。

 

 

「動くんじゃねぇ!コイツがどうなっても良いのか!?」

「や、大和!」

「てめぇ、卑怯な真似を!」

「うるせぇ!黙ってろ!」

 

 

怒鳴って手元が狂ったのかナイフの刃が当たり、大和の首筋に赤い線をつけた。

それを見た卓也と岳人は歯噛みしながらも声を抑える。

 

 

大和も恐怖からか大量の冷や汗を額に掻いていた。

最もその恐怖の対象は、ナイフを突きつけている男ではなく。

 

「「「「「…………(ゴゴゴゴゴゴゴゴ)」」」」」

(ヤバいヤバいヤバい!)

 

目の前にいる五人の剣呑な表情をしている女性に対してだが。

 

(なんでこの男も俺を人質にしたんだよ!?普通、人質にするならか弱いモロだろ!)

「なんか今すごく馬鹿にされた気がするんだけど…」

 

大和が首筋のナイフに気を付けながらチラリと女性陣を見ると、女性陣はそれぞれの武器(百代は拳だが)を構えていた。

その瞳は怒りに燃え、もはや殺気すら素人の大和にも分かるほど醸し出している。

しかし、パニックを起こしている男は気が付かないのか、ただ喚き散らしているだけだった。

 

(考えろ俺!もしこのままの状況を放っておいたら、この男の命が危ない!)

 

普段ならば、いくら不良共とは言え鍛えてもいない人に対し武士娘たちはその全力を振るうことは無い。

だが、今は事情が違う。

 

大和と言う思い人を人質に取られ、怒りによって冷静さを欠いた彼女らは躊躇なく男に攻撃を仕掛けるだろう。

そんな攻撃をこの男がまともに喰らえば良くて重傷、下手をすればその命すら危うい。

 

別段、大和自身は不良の男がどんな重傷を負おうと関係ないのだが、万が一の事が男の身に起きてしまえば彼女たちの将来に大きな壁を作ってしまう。

大和は何としてでもそれだけは避けたかった。

 

(冷静になれ!この状況から抜け出す方法を考えろ!)

 

大和は凶器を急所に突きつけられている、と言う状況にもかかわらず必死に頭を回転させる。

が、

 

(…駄目だ!どう考えても穏便に済まない。このままじゃ…)

 

 

 

 

「へへへ、テメェら全員このナイフで切り刻んでやるぜ!」

 

男がそんな笑いを上げた次の瞬間

 

「ほう。遺言はそれだけか?」

「…へ?」

 

さっきまで離れた場所にいた筈の百代が男の眼前に立っていた。

 

「て、テメェ!?コイツがどうなっても―――」

「ふん」

 

男は慌てて大和にナイフを突きつけようとする。

が、百代が軽い声と共にナイフに向かってデコピンの動作をした瞬間、そのナイフは根元から折れ、刀身は消失してしまった。

 

「良いの―――は?」

「さて、武器は無くなったぞ?それに―――」

「人質、大和さんも返していただきました」

 

さらに、男が百代に気を取られている隙に、男の腕から由紀江が大和を奪い返していた。

 

「ひ、ひぃ!?」

「おっと!」

「どこへ行くんだ!」

「…絶対に逃がさない」

 

堪らず男は逃げ出そうとしたが左右と後ろを一子、クリス、京に封じられ逃げ場をなくしてしまった。

逃げ場を無くし、男の顔が青ざめる。

 

「さて、よくも私の弟分に傷をつけてくれたな。五体満足でここから出られると思うなよ」

「ひ、ヒイィィィッ!?」

「待って!姉さん!」

 

百代が怒りのままに拳を振り上げたその時だった。

 

「イイイヤッホオオオオオオ!!」

「「「「「え?」」」」」

 

男の叫び声が倉庫内に響く。

それも、大和たちが良く知った男の声だ。

 

「きゃ、キャップ!?」

 

その声の主、翔一は裏口の上部に取り付けられている窓をぶち抜きながら、自身の原付ごと跳び入ってきた。

 

「な、なん――ぎゃあああああああああ!!」

「よおっと!皆待たせたな!」

 

突然の登場に全員が呆然としてる中、翔一は原付ごと着地した。

 

「さあ!敵のリーダーは何処だ!やっぱりリーダーの相手はリーダーであるこの俺がやんないとな!」

「………」

「おう大和!敵は何処だ?」

「…あー、キャップ?」

「ん?」

「あそこ」

 

大和が指を指す先には降ってきた翔一とその原付に激突され、ボロボロになっている男が居た。

 

「ああ!?誰だよ、やっつけたの!俺の相手だろ!」

「いや、やっつけたのはキャップ自身なんだけど…」

「へ?俺まだなんもやってねーぞ?」

「まぁ、とにかくキャップが倒したし、そのおかげでいろいろと助かったよ。ありがとう」

「お、おう」

 

身に覚えのないことを言われ翔一は首を傾げる。

だが、実際翔一が乱入してくれたおかげで先程まで女性陣が纏っていたピリピリした雰囲気が霧散したのは確かだった。

 

 

「………良く分からねぇが、俺が倒したんなら結果オーライ!」

 

さすが俺だぜ!と意気揚々とする翔一にファミリー全員が生暖かい目を向ける中、そんな事よりもと大和が話を切り出す。

 

 

「おう、どうした大和?」

「…なんで上から降ってきたの?」

 

大和の言葉に他の全員もそう思っていたのか、全員が首を縦に振る。

そしてその問いに対する翔一の答えは、実に単純で翔一らしいものだった。

 

「だって、その方がカッコいいだろ?」

「……はぁ、なんていうか」

「なんともキャップらしい、だろ?」

「お?クリスも中々分かってきたじゃないか」

「フフン、当然だ。自分は常に成長するのだ!」

「ククク。じゃあ、早く家事スキルも成長しないとね」

『もう手伝わされるのは勘弁だぜー?』

「うっ。そ、それは…」

 

 

 

京と松風の指摘に言葉が詰まるクリス。

そんないつも通りの日常風景の中で皆が笑っているその時

 

「む?」

 

急に百代がその表情を変えた。

 

「どうしたの姉さん?」

「この気……」

「誰か来たの?」

 

そう言って大和が正面の扉に目を向けた瞬間、その人物は現れた。

 

「よぉ。また派手にやったな」

「ヒゲ先生。来てくれんだ」

 

現れたのは髭を生やした中年の男性『宇佐美(うさみ) 巨人(きょじん)』だった。

彼は大和たちの通う川神学園で『人間学』と言う授業を受け持っている教師である。

そして彼は忠勝の養父でもあり、代行業者として様々な依頼をこなしていたりもする。

 

「や、大和さんが呼んだのですか?」

「うん。ゲンさんにメールを送った時、後処理をやってもらおうと一緒にね。警察に頼むと色々と後面倒だからさ」

「ったく。中年使いの荒い奴だよ…」

「まぁまぁ、今度またウメ先生の情報もってくからさ」

 

何故ここで大和たちの担任である梅子の話が出るかと言うと、宇佐美が彼女に惚れているからと言う実に簡単な事だからだ。

もっとも、積極的に行われる宇佐美のアピールは梅子に気づかれること無く空回りで終わる事がほとんどだが。

 

「…しかたねぇなぁ」

 

口ではめんどくさがりつつも了承してくれたのか、宇佐美は意識の無い不良たちをテキパキと縛り上げてゆく。

 

「ほれ、ここはオジサンがやっとくからお前たちは自分の金取り返してさっさと帰りな。そろそろ通報するからよ」

「分かった。ありがとヒゲ先生」

「ちゃんと情報は頼むぞ?」

「任せといてよ」

 

 

宇佐美に促され、ファミリー一同はバイクの止めてある裏口へ出る。

しかし、そこには大量のバイクが置かれており、個人のバイクの特定は困難そうに見えた。

 

「うえ~。この中から探すのかよ」

「…さすがに数が多い」

 

置かれているバイクの数を見て、岳人と京が辟易とした声を上げる。

 

「仕方ないよ。こればっかりは地道に「あったぞおお!」―――へ?」

 

地道にやって行かなきゃ、と言おうとした大和の声にかぶせる様に翔一の声が響く。

驚いて大和がそちらを振り向くと、そこには確かに大和が用意した金庫を掲げる翔一が居た。

 

「きゃ、キャップ、もう見つけたの!?」

「おう!これで合ってるよな?」

「……うん、シリアルナンバーも一緒だから間違いない」

「もしかしてキャップはどのバイクに積まれてたのか知ってたの?」

 

あまりにも早い金庫の発見に卓也がそんな疑問を口にした。

 

「いや?てきとーに開けてみたら見つけただけだぜ!」

「さ、さすがとしか言葉が出ないな」

「これがキャップクオリティね」

 

数あるバイクの中から適当に一台選び、見事当てた翔一の運命力にクリスと一子の二人もただ感心するのみだった。

 

「良し!目的の物は回収した!帰るぞ皆、明日は沖縄だああ!!」

「「「「「「「「おおおおおおぉぉ!!」」」」」」」」」

 

 

目的の物を取り返し、明日の旅行を楽しみに意気揚々と引き揚げていく風間ファミリーの面々。

 

その後、今回の騒ぎで荷造りが出来ていなかった者たちのドタバタや、宇佐美が不良たちの小さい組織とは言え、犯罪グループを摘発したとして警察から謝礼をもらっていたことを旅先で知ったなどの出来事はまた別の話である。

 

そして、旅行先の沖縄でも武士娘を中心に繰り広げられる騒動もまた別の話である。




投稿が大分時間が経ってしまいスイマセン。
元々の遅筆に加え、オリジナルストーリーを考えるとどうしても遅くなってしまいますね。

次回の構想は出来ているので次話はもう少し早く更新できるのではないかと思います。
A3早く出ないかな…。
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