Bad apple.   作:天凪。

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コナンは好きですけど、原作も持ってなければずっとアニメ見ていたわけでもないのでニワカです。


act.1「あ、ボク敵サイドなの」

「ま、待ってくれ! 金ならいくらでも払うからどうか命だけは、」

「ごっめーん無理。来世に期待してね!」

 

 バイバイ、と笑って引き金を引く。軽い破裂音を伴い銃口から放たれた鉛の弾は、寸分違わず額に吸い込まれ脳を破壊し、赤黒い液体を吹き出させた。贅肉を溜めこんだ体は糸の切れたマリオネットのように崩れ落ち、ピクピクと痙攣を繰り返した後、動かなくなった。それを見届けてボクは踵を返した。電球の光を反射し鈍く銀に光る、愛用の凶器(ハンドガン)――コルトディフェンダーをウエストポーチに見せかけたホルスターにしまう。

 鉄の生臭い臭いに顔には出さないが内心眉を顰めていると、前方から見知った、というか今回の任務の相方である優男が現れた。柔らかそうな薄い色の髪をくしゃりと掻いて、そちらは済みましたか、と甘い声で尋ねてきた。

 

「ああ、うん。そっちも終わったみたいだね。」

「ええ。人数はいましたけど一人ひとりの力量はそれほどでもなかったので。」

 

 それでも返り血の一つつけずに終わらせるとは流石だな、と思いながら人を殺した後とは思えない声音で会話する。ふと視界の端に掠めたのは、薄明かりに照らされた物言わぬ屍だった。それに何も言わず足を進めて、男達の立て籠もった薄暗い倉庫から出る。月のない夜の下、相方の愛車である白いRX-7の助手席に乗り込んだ。相方が運転席に乗り込みキーを差し込んだところまで見て、それから先程までいた倉庫に視線を向けた。

 組織の情報を知りすぎてしまった裏社会の住人の始末。それが今回の任務の内容だった。よくある仕事だが、知ってしまったその人は哀れにも頭の悪い人間ではなかったようで、殺されてたまるかと何も知らない部下を引き連れてこんな郊外の倉庫まで逃げてきた。まあ結局殺されちゃったわけなのだが、ボクに。頭の悪い能無しだったら、怯える間もなくさっくり死ねたんだけど。

 そこまで考えて、人を殺したにも関わらず特に何の感慨も浮かばないことに、かなり感覚が麻痺してきてるなあとぼんやり思った。“こちら”に来て初めて人を殺したのはいつだったか、もうあまり思い出せない。思い出さないようにしているのかもしれない。

 

「さて、シードル。どこまで送りましょうか?」

「ん? あ~それじゃあ今日の集合場所のホテル辺りで降ろしてよ。ボクちょっとぶらぶらしたら報告に行くからバーボンは帰っていいよ。」

 

 正面から目を離さないで問いかけてきた相方――バーボンに返事をする。バーボンは短く了解、と返して運転に集中した。

 シードル、とはボクのコードネームだ。幹部に昇りつめるとは思わなかったから、もらった時には心底驚いた。因みにシードルは林檎の果実酒で、その歴史は葡萄の果実酒と並ぶほど古いそう。

 

 唐突にデデンデンデデン、とサイボーグが迫ってきそうな音楽が車内に響き渡る。運転席からの視線を感じながらウエストポーチを探って携帯を取り出す。パキッと音を立てて開くと、思った通りメールが一通着ていた。

 

「なんですかその着信音。」

「面白いでしょ? ちなみに電話は日本の某ホラー映画の着信音だよ。」

「うわ絶対出たくない。」

 

 カチカチとボタンを押しながらポンポンと会話を続ける。良かった、沈黙はボクを殺す凶器になるからどうにかしたかったんだよね。

 着たばかりのメールを開く。送り主は最近よくつるんでいる友人。ゲームセンターで知り合った、表の世界しか知らない少年だ。メール内容を確認して、思わず眉をしかめた。

 

「あーもう、ごめんバーボン、行き先変更。最寄り駅のゲーセン分かる? そこに行ってくんない?」

「何かあったんですか? 任務追加とか……」

「違う違う、表の友達からヘルプが来たんだよ。ゲームで詰んだって泣き付かれた。あんだけそんな装備で大丈夫かっつったのに。あいつの大丈夫だ、問題ないはもう信じないことにする。」

「一番いい装備を押し付けないといけませんね。」

 

 クスクス笑うバーボンはホテルへ向かう道から駅へ向かう道へとハンドルを切る。ボクはボクで携帯を操作して少年に返事を書き、送る。初見での攻略は難しいって言ったのにも関わらず軽装で行ったってことは、たぶん最初っからボクに助けてもらおうと思ってたんだろうな。仕事があるの知っててやってんだから質が悪い。……好意的であることに悪い気はしない、というか好都合なんだけどね。

 

「あいつのお父さんには世話になるから、ね。」

「……なるほど、下心ありありってわけですか。」

「じゃなかったら表の少年にこんな肩入れするわけないっしょ〜。」

 

 目的もなく表の無垢な少年と親密になれるほどボクはもう綺麗じゃない。なんて、ね。 

 

 

 

 ボクには自分でもよくわからない記憶がある。たぶんこれは前世とかいうやつの記憶。表現が曖昧なのは、記憶が朧げだからだ。前の世界での自分自身に関することは殆ど欠落してしまっている。覚えているのは、自分を特定しない知識や、最期の瞬間くらいのものだ。知識は例えば数学、例えば歴史、例えば物語。娯楽であるフィクションの世界の知識は、自分を自分たらしめるものにはカウントされないらしく、結構綺麗に残っている。少年が海賊王を目指す漫画も、炎や水を出してドンパチする派手な忍者漫画も、等価交換で魔法のようなことができる錬金術の漫画も、髭面の配管工がお姫様を助けるゲームも、電気鼠が代表的な携帯できるモンスターのゲームも、生き残った魔法使いの少年が例のあの人と戦う小説も、全部全部覚えている。そういったものに触れ合うよりも前から。

 その中でも異彩を放つ知識が、『名探偵コナン』というご長寿漫画だ。天才高校生探偵が、毒薬で小学一年生にまで幼児退行して、その元凶である黒の組織を追うというサザエさん時空の物語だ。熱心なファンとまではいかないが、そこそこ好きだったようで、漫画は全て揃えていたし、アニメも時間があれば見ていたみたいだし、映画も公開されたら一度は映画館に足を運んで見に行っていたようだ。

 全てを覚えているわけではない。でも、流石に主人公を幼児化させた犯人の顔やコードネームくらいは覚えている。

 ジン。光を飲み込むような黒の衣装をまとい、帽子からは蛇のような鋭い眼光が覗く。彼の顔を見た瞬間、かつての“ボク”が読んだ物語のことが脳裏に過ぎった。

 あ、ボク敵サイドなの。膨大な未来の筋書きに混乱したボクが、一番最初に思った感想だった。




バーボンはいつから組織に潜入してていつから幹部になったんですかね……?

銃はネットで拾ってきた情報だけで書いてます。主人公は小柄なので大きい銃は扱えないということにしています。できるだけ調べて書いてるつもりですが、間違いがあったらすみません。

ちなみに今回殺害された被害者達は裏で悪いことしまくってたため、二人が証拠隠滅しなくても彼らの上司や取引先の手によって綺麗にもみ消されます。だから二人は彼らを始末した後さっさととんずらこいたのです。
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