今まで書いていたものの書き方を見直したり、新しいシリーズの構成を考えたりと色々してるんですが、とりあえずリハビリを兼ねての短編を。
戦争は終わった。
敗戦側の兵だった俺は本来なら処刑されててもおかしくはなかったが、何の因果か命を拾えたどころか監視すら付かない全くのフリーの状態で解放された。
解放された俺の足は、自然と一度は捨てて敵対までした故郷に向っていた。
「父さん、母さん、マユ・・・・・・」
前の戦争では大切な家族を失った。
「艦長、ハイネ、ヨウラン、レイ……」
今回の戦争では多くの戦友を失った。そして、
「ステラ……」
『守る』と約束した大切な子を目の前で失った。
「本当に、なんでこうなったんだろうな」
始まりは家族を助けてくれなかった"故郷(オーブ)"への、そして家族を奪っていった"戦争"への怒りだった。
怒りだけを胸に国を出て、戦う力を欲した。
そして、"戦争(理不尽)"によって奪われていくものを目の当たりにし、心から"平和"を欲した。
"平和"を求めて戦い、そして敗れ、結局俺はまた全てを失っていた。
『いっそあの時俺も死んでいたら』と何度も思ったが、戦友(レイ)との約束もあって自ら命を捨てる気にもなれずに今を生きている。
「ここにいたのか、シン」
慰霊碑を見上げていた俺に声をかけてきたのはかつてのいけ好かない上司(アスラン・ザラ)。
その後ろにはルナとメイリン、そしてラクス・クラインと前にもここで出会った黒髪の青年がいた。
「なんです? 俺がどこにいようがあんたには関係ないでしょ」
皮肉で返事をするが、正直なところ前ほどアスランに対して不快な感情は湧いてこない。
それが今を受け入れたからなのかは、正直自分でもわからないけど。
「で、オーブ軍のお偉いさんが何の用ですか? しかもラクス・クラインも連れて」
アスランはその問いには答えずに、慰霊碑に向かって黙祷をし、他の4人もアスランに続いた。
「お前のことが気になったから見に来た……ていうのも嘘じゃないが、用があったのはこっちだ」
長いようで短い黙祷を終えたアスランは、そういうと黒髪の青年のほうを指差した。
以前ここで一度会っただけの相手が自分に何の用があるというのだろうか?
アスランやラクス・クラインと一緒にいるって言う時点でただの一般人じゃないんだろうけど。
「こいつの名前はキラ・ヤマト、お前にはフリーダムのパイロットって言った方がわかり易いか」
アスランが告げた名前は、俺の中の激情を呼び起こすには十分すぎるほどの衝撃だった。
父さんの、母さんの、マユの、みんなの、そしてステラの仇が目の前にいる。
その事実に思わず目の前の人物を殴り飛ばしてしまいたくなる衝動に駆られる。
だけど、その衝動もすぐに押さえ込んだ。
確かに目の前の人物は仇かもしれない。
でも俺の家族も、戦友(なかま)も、ステラもみんな戦争があったからこそ死んでいったんだ。
その一端を担っていた自分に怒りをぶつける権利なんてあるはずがない。
それに自分は一度敗けたんだ、だから尚更目の前の人物に何かすることなんて出来ない。
「こうやって顔を合わせるのは2回目だね」
「……そうですね」
キラ・ヤマトへの返事が多少ぶっきらぼうになってアスランの表情がゆがんだが、これくらいは見逃して欲しい。
こっちとしても納得はしてても多少の蟠りはまだ残ってるんだから。
「君には一度あy「謝罪とかは止めてくださいよ。あんたは勝者で、俺は敗者なんです。嫌味にしかならない」……そっか」
キラ・ヤマトの言葉を遮るように告げると、困ったような笑顔を向けられた。
上司の頃のアスランから散々聞かされていたけど、本当にお人好しらしい。
だけど、それと同時に目の前の人物からは人間味というものが殆ど感じられなかった。
精巧な人形のような希薄さというか、そういう不気味さがあった。
「君は、これからどうするの?」
少しの間を置いて出てきたのは、そんな言葉だった。
「……わかりませんよ。戦う理由も、護りたいものも今の俺にはありませんから」
今の俺は空っぽの生きているだけの屍、そんな状態だった。
家族も、戦友(とも)も、何もかもを失って生きる理由さえ見失った。
そんな俺に一体何が残ってるっていうんだろうか。
「じゃあ、君の力を僕たちに貸してほしいんだ」
「……え?」
「世界にはまだ争いの種が残ってる。僕たちはそんなもので不安にならないでいい本当に平和な明日を目指している。
そんな世界を造るために、君も協力してくれないかな?」
目の前の人は何を言ってるんだろうか?
敗戦兵を、しかも自分で言うのもなんだけどかなり中枢に近い位置にいた人物に声をかけるなんて。
「待ってください、そんなこと周りが納得するわけがないですよ」
「構いません。そのような柵を越えて手を取り合っていくことが、私たちの進むべき道なのですから」
俺の疑問に答えたのはラクス・クライン。
良く見ると、アスランやルナ、メイリンも同じように笑顔でこちらを見ている。
ここにいる皆が、俺が断るはずがないと思っているみたいだ。
まぁ、戦争に負けて全てを失い、最後には勝者の下で働く。
状況に流されてきた俺にお似合いの最後なのかもな。
殆ど自棄になっていた俺は、差し出されたキラ・ヤマトの手を取ろうとした。
その言葉を聞くまでは……
「人はまた花を吹き飛ばすのかもしれない。でも、いくら吹き飛ばされても、僕等はまた、花を植えるよ……きっと」
それは、前に会ったときにした問いかけへの答えだった。
その答えは、自分でも失くしたと思っていた自分の中のあるものを呼び覚ますのに十分な衝撃となった。
「それがあんたの答えですか」
「そう、あの時の君への答え。シン、一緒に戦おう」
差し出されているキラ・ヤマトの手。俺はそれに手を伸ばし……
「お断りだ」
弾いた。
「え?」
「シンっ、お前!!」
拒否されるとは思ってなかっただろうキラ・ヤマトの驚きと同時に、アスランが俺の胸倉を掴みあげてきた。
「お前、キラが差し伸べた手を払いのけるなんてどういうつもりだ!!」
「相変わらず上から目線なんだな、アスラン」
「キラ」「キラ」と連呼して浮いていたミネルバ時代から全く変わらない元上司にそう返す。
「シン、どうしてっ!?」
ルナの悲しそうな叫びが聞こえる。
ルナだけじゃなく、メイリンやラクス・クラインも皆俺がキラ・ヤマトの手を取ると疑ってなかったみたいだ。
「たしかにあんたの答えは立派だよ」
アスランの手を解き、皆から距離をとる。
「でもな、俺はそれが許せない」
キラ・ヤマトも、ラクス・クラインも、アスランも、ルナもメイリンも。
そこにいる誰もが俺の行動に驚きを浮かべていた。
「あんたたちは未来(まえ)ばかり見すぎて、それ以外を蔑ろにしすぎてる。だから、『花をまた植える』なんて簡単に言えるんだ」
「シンッ、何度言えば分かるんだ! いい加減過去に囚われるんじゃない!!」
本当に同じことしか言わないよな、アスラン。ある意味尊敬するよ。
「違う!」
一瞬浮かんだ場違いな考えを振り切って、俺は叫ぶ。
「確かに俺は過去を思って戦っていた。そういうところがあったのは否定しない。でも、それだけじゃなかった」
もう手遅れなのかも知れない。
「俺が守りたいのは、吹き飛んで失ってしまった悲しい過去じゃない!」
でも、やっと見つけることが出来た。
「そして、吹き飛ばされたものを見ずに新しいものだけを見つめる虚しい未来でもない!」
誰かに言われたわけじゃない、俺の戦う意味。
「俺が、俺が守りたいのは……」
俺が本当に守りたいもの。
「直ぐにでも散らされてしまいそうな理不尽に脅かされている」
それは……
「『今』だっ!!」
「どちらへ行かれるのですか?」
話は終わったと立ち去ろうとした俺に声をかけてきたのは、意外にもラクス・クラインだった。
「さあ? でも今はただ進むだけだよ」
「貴方の言っていることでは、根本的な解決にはなりません」
「だろうね。でも、それがあんたたちみたいに今を蔑ろにしていい理由にはならない」
背を向けたままラクス・クラインに返事をし、再びみんなのほうへ目を向ける。
「別にあんたたちが間違ってるって言うつもりもない。ただ先を行き過ぎて俺には合ってないってだけだ」
そこまで言って、俺はまた背を向けた。
「シンっ、一体どうする気だ!」
「心配しなくても、あんたたちと敵対するつもりはないよ。時間の無駄だし」
俺の言い様に非難の声があがったけど、今まで散々苦汁を舐めさせられてきたんだからこれくらいは見逃して欲しい。
「それとキラ・ヤマト、あんたのおかげで自分でも見えてなかったものが分かった。
多分許すことは一生できないけど、それに関してだけは感謝するよ」
俺は最後にそれだけ告げると、その場を立ち去った。
それから俺はとある伝手を頼って世界中を回り、訪れた先々で復興作業に携わっていった。
戦うことしか知らなかった俺が唯一できた『今』の守り方。
この両手が届く範囲でしかないけど、少しでも『今』を笑顔で過ごせる人が増えてくれれば。
そして、それが世界中に広がっていくための手助けが出来れば。
世界中を混乱させる側にいた人間の1人としての罪滅ぼし・・・・・・になるとは思っていないけど、せめてあの世でマユやステラ、レイに胸を張って会える様に。
俺はこれからも旅を続けていこうと思う。
FINAL PLUSでのシンの扱い、納得しきれないのは自分だけじゃないと思ってる。