Moon Knights IS〈インフィニット・ストラトス〉 作:アマゾンズ
特訓が飽和状態になる
それぞれの思い
以上
IS学園に帰還後、臨海学校で起きた実戦による処理及び生徒二人の行方不明による処分について会議が開かれ引率した三人の教師の処分決定がなされた。
山田真耶に対してはの訓告のみ、織斑千冬は六ヶ月の停職、その間の担任は山田真耶となり、フー=ルーは二ヶ月間の謹慎、その後の二ヶ月は減給となった。
夏休みに入る前の最期の登校日、1組は重苦しい雰囲気となっていた。
クラスから二人の行方不明者、更には千冬とフー=ルーの停職処分などが重なりクラスメイト達も明るく振舞う事など出来なかった。
「では、今学期はこれにて終了です。皆さん、良い夏休みをすごしてくださいね」
真耶が締めくくりの挨拶をすると同時にチャイムが鳴り、クラスメイト達は教室をそれぞれ出て行く。
そんな中、専用機を持つメンバーは集まって現状を整理していた。
「つまり、今の俺達ではカロ=ランに勝てない。そういうことだね?シャルロット」
「うん、あくまで僕自身の分析だけどね」
「いや、逆にそれがありがたい」
「シャルさんの分析は正しいと思いますわ・・・今のわたくし達では」
「悔しいが、事実だからな」
「そうね・・・」
臨海学校の実戦以降、夏休みに入るまでの間にそれぞれが最も必要と思われる訓練を可能な限り行ってきた。だが、自分達が考える訓練では限界が来ていた。
「僕は義姉さんに訓練の事で掛け合ってみるよ」
「俺も会社に連絡してみる。特訓の後だけど」
「俺は政征と同じだな」
「わたくしは一度、祖国へ戻らねばなりませんので・・・」
「ごめん、私もよ。爪龍の事を報告しなきゃいけないの」
「私は此処に残る」
それぞれが目的を明確にし、メンバーは解散となり教室には政征とシャナだけが残った。
「政征、カロ=ランとはもしや?」
「察しの通りだよ、アイツが二人を連れて行った」
「シャナ・・これからの戦いはもっと酷い事になるかもしれない。ひょっとしたら真の死を迎える事だってありえる」
「!!」
政征の今の目は普段の穏やかな目ではなく、戦いに赴く時に見せる騎士の目だ。
「それでも、共に居てくれるか?」
「聞かれるまでもありません・・・」
「ありがとう、一度部屋へ戻ろう」
「はい」
この時にシャナは漠然とした不安がよぎっていた。
戦いに赴く騎士達は真の死、つまり命を落とすことが多い。
自分は恋という異性を愛する感情を知ってしまった。それだけに自分から離れて欲しくない、死を向えて欲しくないといった感情が溢れ出し、それが不安を増長させている。
「(私も戦わねばなりません・・・)」
政征の横を歩きながら、シャナは決意を固めていた。
◇
夏休みに入ると同時に政征と雄輔はアリーナで実戦を意識した特訓をしていた。
「そこだ!」
「うお!?」
政征は雄輔とのオルゴンソードの競り合いに押し負け、倒れた。
機体性能は上のはずがモエニアに軽々と吹き飛ばされた事に雄輔は違和感を抱いていた。
「っ・・・」
「政征、お前・・・」
「気づかれてたか、そう、今の私では二次移行したラフトクランズを上手く扱うことが出来んのだ」
「反応が速すぎてついて行けないのか、だから・・・」
二次移行を果たしたという事はIS自体が強力になるという事だ。
だが、修理・改修された鈴の機体とは勝手が違うために極めて扱いにくい。
「それに・・私も感じていたが雄輔、お前からも焦りを感じるぞ」
「・・っそうだな、俺は二次移行していない。正直、その事でお前に嫉妬している」
「お互いにままならないって事か」
「そうだな」
これ以上は無意味と判断した二人はお互いにISを解除した。
いがみ合いになりかけているのは嫉妬と焦り、お互いに爆発しそうな感情を抑えているからだろう。
「政征、一つだけ聞かせろ」
「何だ?」
「もし、お前がシャナさんと戦う事になったらどうする?」
「・・・わからない。でも、俺の手で倒してと欲しいと請われたら倒すさ」
政征はそのままアリーナを出ていき、雄輔だけが残された。
「気づいていないのか?政征。お前はシャナさんがアキレス腱になっているんだぞ。おまけにお互い、特訓してもこれ以上の成長が無いとは」
そんな呟きを政征が去った通路へつぶやくが、独り言のように消えていった。だが、事実として雄輔の考えは正しい。
どんなに騎士を名乗ろうとお互いに十代の高校生、どこかに脆さは必ず出てくる。
それを補う為の特訓もお互いにクセを知り尽くしているが故に成長を感じる事が出来なくなってきていた。
雄輔は自分の嫉妬と友の焦り、特訓のマンネリの解消方法を考えながらアリーナを出て行った。
◇
「はぁ・・はぁ・・」
イギリスにあるセシリアの別荘でセシリアはずっとプールで泳ぎ続けている。
彼女は政府への報告を済ませた後に自宅から別荘に移り、ずっとこのままだった。
「(このままでは追いつけない・・・どうすれば)」
「お嬢様」
「はぁ・・はぁ・・・チェルシー?」
泳ぐのを止めたと同時に声をかけたのは彼女のメイドであり、幼馴染でもある女性、チェルシー・ブランケットだった。
「それ以上は負担が過ぎますよ、休憩なさってください」
「ですが・・!」
「なさってください」
「分かりましたわ」
観念したセシリアはプールサイドへ上がり、用意された椅子に座った。
「お嬢様、何を焦っておられるのです。身体を酷使しても焦りは消えませんよ?」
「ええ・・・チェルシー、貴女に聞きたいことがありますわ」
「なんでしょう?」
「追いつきたくても追いつけない時、貴女ならどうしますの?」
「・・・私ならまず自分の出来る事を振り返ります。そしてそれを意識せずともこなせる様になるよう努力します」
「!」
「お嬢様、誰でも壁にぶつかって乗り越えられない時は必ず来ます。それが今のお嬢様なのでしょう」
チェルシーの言葉にセシリアは軽く俯いた。的を射た事を口にされ、自分の焦りを見抜かれたゆえだろう。
「今のお嬢様は焦りすぎです。先程、私が言ったように自分の出来る事を振り返ってみて下さい」
「チェルシー・・・」
「出過ぎた真似をして申し訳ありません。お茶を淹れてまいります」
チェルシーは別荘へ歩いていき、中へ入っていった。
その姿を見送ったセシリアはプールにもう一度、飛び込むと泳ぐ事はせず浮かぶように両手を広げた。
「今のわたくしに出来る事・・・それを意識せずにこなす」
プールに張られた水が焦りという熱が冷めていく感覚にセシリアは軽く目を閉じ、しばらくその身を任せる事にした。
◇
時を同じくして、一時帰宅したシャルロットはカルヴィナとアル=ヴァンに頼み事をする為にリビングへ呼んでいた。
「カルヴィナ義姉さん、アル=ヴァン義兄さん。二人に頼みたい事があるんだ」
「随分と急ね?」
「一体、頼み事というのは?」
「うん、僕・・・いや、僕を含めた友人達全員を改めて鍛えて欲しいんだ!」
シャルロットの突然の言葉に二人は面食らった。自分と友人達を鍛えて欲しいと言ってきたからだ。
だが、二人の顔はどこか申し訳なさそうだ。
「シャル、心情としては鍛えてあげたいのだけど・・」
「今すぐにという訳にはいかんのだ」
「!どうして!?どうしてなのさ!」
納得がいかないとシャルロットは声を荒らげて立ち上がった。
「スペースナイツ研究所から試作型武装のテストを頼まれてるのよ」
「私も接近戦のアドバイザーとして参加して欲しいと会社からも言われてしまっているのだ」
「そんな・・・」
今の自分達では到底、勝てない相手が出てきてしまった。
鍛えて欲しいと頼んだはずが間が悪く断られたのだ。二人は会社の社員でもある、それだけに自分だけの我が儘で二人に迷惑はかけられない。
そう考えてしまったシャルロットは椅子に座り直すと俯いてしまった。
「でも、上に相談はしてみるわ」
「私もセルダ殿に掛け合って特訓相手がいないか聞いてみよう」
その言葉を聞いたシャルロットは顔を上げ、二人を見た。
「可愛い義妹がこんなにも必死に頼み込んできたんだもの、無下には出来ないわよ」
「そうだな・・カリンの言う通りだ」
「義姉さん、義兄さん」
シャルロットは泣きそうになっていたが、それを見たカルヴィナがシャルロットに軽くデコピンをした。
「痛っ!?」
「すぐに泣くんじゃない、全く!」
「カリンは相変わらずか」
「うう・・」
この厳しさこそがカルヴィナの優しさである、厳しさゆえの優しさという不器用な愛情しか彼女は示せないのだ。
デコピンした後、カルヴィナはシャルロットの近くへと歩み寄った。
「シャル、立ちなさい」
「え?」
言われるまま立ち上がり、それと同時にシャルロットはカルヴィナに抱きしめられた。
「ね、義姉さん!?」
「心を強く持ちなさい、私が言えた義理じゃないけどシャルは自分が思っている以上に強いんだから」
「うん・・うん!」
義理の姉とはいえ抱き締められた事にシャルロットは実の母の事を思い出していた。
幼い自分が泣いた時、叱られた時、褒められた時にこうして抱き締めてくれた。
そんな二人の様子をアル=ヴァンは微笑ましく見ていた。
◇
日本滞在組より時差が一時間前の中国では鈴が政府の人間と話をしていた。
「つまり、甲龍のデータと爪龍のデータを両方持ち帰ったと?」
「はい、これも全てアシュアリー・クロイツェル社のおかげです」
鈴は緊張した様子もなく堂々と話を続けている。自分がやってきた行動に恥じることはない現れだ。
「では、引き続き君には代表候補生を勤めてもらう」
「承知しました」
「爪龍は我らの新しい宣伝となるからな。しっかり頼むよ」
「はい、では失礼します」
鈴は部屋から出ていき、建物から出るとため息をついた、単純に政府との会話での緊張が解けたせいだ。
「はぁ・・・やっぱり息が詰まるわね」
身体を軽く伸ばし、鈴は自宅へと帰宅した後にランニングを始めた。
日本へ帰るまでの5日間、一時でも身体を鈍らせないために。
「はっ・・はっ・・ダメね、まだまだ足りない」
日本から故郷に戻ってからも鍛錬を欠かさなかった。自分で考えられる限りのトレーニングをしてきたがそれも限界に来ている。
「やっぱり、あの人達に鍛えてもらった反動ね。自分で考えた特訓じゃ足りなく感じちゃうもの」
イメージによる独闘などを繰り返しても特訓の物足りなさを身体が鈴に教えていた。
「・・・・・・」
ランニングを終えて自宅に戻り、誰も居ない部屋で鈴は床に座ると瞑想を始めた。自分自身を最も見つめ直す方法として日本人の格闘家から教えてもらったものだ。
時間にして30分は経っただろう、ゆっくり目を開けるが鈴はどこか悔しそうな表情をしている。
「あの時の境地・・どうしても私だけじゃ至れない」
鈴自身も伸び悩んでいた。特訓の時に至れた穏やかで澄んだ心の境地、それが自分だけでは至れずに鈴は強く拳を握った。
必ず至ってみせるという決意を固めながら。
◇
「うおお!」
「はあああ!!」
何処かの施設の闘技場のような場所で一夏と箒がISによる戦闘訓練を行っていた。
「そこまでだ、今日の訓練はここまで」
「く・・・はぁ・・はぁ」
「はぁ・・・はぁ!」
二人の息は上がっており、特に一夏は酸素を貪るように呼吸が早かった。訓練といっても学園の中での経験しか無かった反動だろう。
「はぁ・・・は・・。なんとか、マシになってきたか」
「ふふ、確実に強くなっている。これだ!これが私の望んでいたものだ」
二人はカロ=ランから殺し合いを前提とした訓練を受けていた。迷いなく相手を死に至らせる嫌悪、二人はそれを克服し始めていた。
「まだだ、まだこの程度じゃ」
「そうだ、この程度ではまだ足りん」
「ありがとうな?箒、いつもこんな訓練に付き合ってもらって」
「構わない、私も好きでやっている。一夏のためにな」
「それでも助かる、全ては」
「そうだ、全ては」
「「破滅の名の下に!」」
二人の様子を見ていたカロ=ランは次の策を講じていた。それはかつて自分が全ての実権を握ろう暗躍した時のように。
「さて、次はシャナ=ミアを確保をせねばならんな」
カロ=ランの次の標的、それはシャナ=ミアであった。彼女を確保できれば自由の騎士は必ず死地に飛び込んでくるだろうと。
「くくく・・・フォルティトゥードーの名を持つ者よ。お前の忠義はどこまで耐えられるかな?」
自分の手駒となる二人を見つめながらカロ=ランはIS委員会に連絡端末でコンタクトを取っていた。
IS委員会に関しては先ず、自分が女尊男卑の考えを持っている事と相手側の不正などをちらつかせ手玉に取った。
無論、これはカロ=ラン自身が謀士長として培ってきたものだ。相手の情報を自身の道具とし、優位に立つ。
これがカロ=ランの最も得意とするものだ。女尊男卑を謳ったのは単純に思想として使えたに過ぎない。
自分も同調していると思い込ませる事で内部への侵入を容易にするためでもあった。
「これで、味方も揃い始めた。まだ準備は必要だが後はシャナ=ミアのみ」
カロ=ランの視線はモニターに映っているシャナ=ミアに移った。
「皇家の資格はやはりお前にはない、破滅を受け入れよ、全てを私の手中に収めんが為に」
モニターに移ったシャナ=ミアを睨みながらカロ=ランは部屋を出て行った。
ようやく更新できた。
ラウラだけが抜けていますが、ラウラは出会いがあるため裏側編になります。
この世界のカロ=ランは謀士長であった時の経験が有るため策謀、戦略、交渉が得意です。
シャナを狙っているのは単純な人質と戦いに使える駒としか考えていません。