『死後』という概念には様々な解釈がある。
例えば悪人は地獄に、善人は天国にという理論。
死後という概念がそもそも間違いで、死んだ後はただ虚無が広がるだけなんて言う人もいる。
そして死後、人は新たな人格を得て転生するという理論。
何故急にこんな話を始めたか、それは俺の体感時間で数分程前まで遡る。
8月1日。夏休みも始まったばかり、高校3年の俺は受験勉強の息抜きに駅前の本屋まで本を買いに行った。
セミの鳴き声や車の音、喧騒に包まれる大通りを歩いていた時だった。
背後で突然悲鳴が上がった。
驚いて後ろを振り向いた俺の目に映ったのは血を流しながらうずくまっている女性、そしてナイフを振り回しながら俺に迫ってくる男。
「俺を必要としない世界なんか!俺を必要としない奴らなんか!皆、殺してやる!」
確かそんなことを叫んでいた気がする、そして俺は対した抵抗も出来ずにその男に首を切られた。
首の、しかも耳の少し下の頸動脈を皮膚を切り裂きながら通過するナイフの感覚をまだ覚えている。
出血多量で死ぬ前に、そのあまりの出血の勢いにショック死したらしい。
遠くから聞こえるサイレンの音を聞きながら俺は意識を閉ざしたのだった。
そして現在、死んだはずの俺は、何故か意識が戻ると何も無いただ床だけが何処までも広がっている白い空間にいた。
「ここ、は……」
「ここは現実と幻想の境界だよ」
思わず呟いた言葉に返ってくる少女の声。
顔をあげるとそこには何時の間にか白いワンピースを着た少女が立っていた。
「君は?」
「私は君が生み出した幻想」
少女は笑ながら言う。
「それは、どういう意味?」
「えーとね、元々私っていう概念なんてないの。今君が見てる私は君が見たいと思ってる私なんだ」
「……まあ、何となく分かったよ。それで?俺は何でここにいるんだ?」
1番聞きたかった事を聞いてみる。あの時確かに死んだ俺が、何故こんなところで目が覚めたのかと。
「君は確かにその時死んだ、疑いようもなくね。でも、何故か君の魂は死後の世界、あの世に行かなかったんだ。だから、私が彷徨っていた君の魂をここに連れてきたの」
「死後の世界?そんな物が本当にあるのか?」
「もちろんあるよ、この空間がその証拠。この空間は君が元いた現実と現実で死んだ人達が行くはずの死後の世界、幻想の世界を支えるため存在してるんだよ」
「なるほど、じゃあ何で俺はその幻想に行けなかったんだ?」
少女は首を振る。
「それは私にも分からない。ただ1つ言えるとしたら、これはとっても珍しいこと。今までにこんな事は一度も無かった、だからこれから君がどうなるのかも全くの未知数」
少女はそう言って謝る。
「そうか、じゃあそんな俺を君はこれからどうするんだ?」
「全くの未知数、だから私達は君をこの世界から飛ばす事に決めたの。不穏分子は、出来るだけ作りたく無いから」
「私達って?それに、この世界から飛ばすってどういう事なんだ?」
突然の少女の発言に元々状況把握が追いついてなかった俺の頭はさらに混乱気味になる。
「私達は私達。私と、現実の管理者と、幻想の管理者」
「君みたいな存在が現実にも幻想にもいるのか。それで、この世界から飛ばすって?」
「そのままの意味、私達の管理する世界の外の世界に、君を飛ばすの」
外の世界?そんな物まであるのか……いや、世界は1つだけとは限らない。この世界の隣の世界、おそらくパラレルワールドの様な世界なんだろう。
「その世界には君みたいな管理者はいないのか?」
もしその世界にも管理者がいるのなら、その世界でも不穏分子として扱われ挙げ句の果てにパラレルワールドをたらい回しにさせられかねない。
「私達の様に、世界に意識が宿るのは極稀。その世界には私達の様な存在はいない」
それならまだ安心だ、まあ、その世界でどんな事が待ち受けているのか分かったものじゃないんだが。
「君の心配は分かる、私達も君をこちらの勝手で世界から追い出す事を悪く思ってるんだ。だから、君には贈り物をする事にしたの」
そう言って少女が近寄ってくる。
顔と顔が触れ合いそうになるまで近づく少女、でも何故か俺の体は全く動かない。
「君は次の世界でも人間として生きる事が出来る、そして、君には自身の身を守るための力を渡す」
「身を守る力って……むぐっ」
そこまで言いかけたところで少女は俺の顔を両手で固定し、キスをしてきた。
生前も、付き合ってた人はいなかったからこれがファーストキスだろう。だが、俺にはそのキスの感触は一切分からなかった。
少女が急にキスをしてきた、というのもあるがそれ以上にキスと同時に自身の体の中に流れ込んでくる暖かい何かに意識を持っていかれたからだ。
「……ん、力の譲渡は出来た」
数分後、少女が俺から離れる。
「これが……力?」
確かに体の中に今までには無かった暖かい何かがあるのを感じる。
「その力は使い方次第ではとても強力、だから、使い所を間違えないで」
「分かったよ」
もともと人を悲しませる事は好きでは無い、悪い事には使わないとは思うが。
「それともう1つ、君に力をあげた。これは私からの贈り物」
「その力って?」
「それは後々分かると思うよ?面白い力だから、君も気に入ってくれると思う」
「そうか、ありがとう」
そう言うと少女は花が咲く様な笑顔を見せる。
「うん、なんか私、君を気に入っちゃったみたい。でも、もうお別れ」
もうそろそろ時間らしい、だんだん体の感覚が薄くなっていく。
「最後に、君の今後の人生が幸せになる事を祈ってるね……ばいばい!」
少女のその言葉を最後に、俺はまた意識を失うのだった。
という事でプロローグでした、主人公の名前はそのうち出ると思います。
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ではでは、また次回!