野球の神様   作:茶ゴス

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第1球目

 太陽が燦々と照りつける中、キャットハンズの女性選手の一人、早川あおいは春季キャンプの行う場所、またたびスタジアムへと向かっていた。

 彼女の去年の成績は50試合2勝3敗、防御率2.85と悪くはないが凄い成績とはいえない出来であった。女性投手ということである程度の注目が集まる中ではその成績が自ずと浮き出てしまう。故に結果が落ち込めばやはり女性に野球はできないと言われてしまうほどだ。

 

 同世代に猪狩守が居ることも彼女にとっての不幸の一つだろう。彼女にはどうあがいても猪狩を超えることは出来ない。まず、何よりも筋力が違いすぎる。彼女と手必至にトレーニングは詰んだが、学生時代に最新鋭の施設で身体を作ってきた猪狩のような球を投げられるはずもなかった。

 

 彼女は彼女なりに戦うが、それでも届かない。それどころかプロ野球のトップクラスで戦うことが出来てすらいない。

 キャットハンズにはもう一人女性投手が居るが、その選手もまた、成績が伸び悩んでいる。いや、キャットハンズ全体が全球団の中で低い水準となってしまっているのだ。

 それでもファンが多いのは4人の女性選手の存在だということもあおいにとっては悔しい事であった。

 

 どれだけ努力しても成績を伸ばせないだけではない。その状態でオールスターの人気投票で上位に挙げられることが堪らなく嫌だった。

 

 その環境に以前までは楽しみを感じていた野球に苦手意識を持ってしまっている。その事に気付いているからこそ、彼女はスタジアムへと進む足取りが重くなっているのだと自覚した。

 

 

 ため息を吐きながら、一瞬視線をさげ、歩く。あまりゆっくり歩いていると、今の御時世、某SNSサイトなどに無意味に写真を上げられるかもしれない。特に悪いことはしていないが、気味の悪いことなので避けたいのは事実。重い気持ちを振り払い、その歩を早める。

 

 

「わぷっ」

 

 

 何かにぶつかった。少し前方を確認していなかったため人にぶつかったようだ。

 いたたと言いながら尻餅をついている姿が見える。

 

 

「ご、ごめんね」

 

「いやいや、こちらこそごめんねー」

 

 

 声からして男のようだ。しかし、その身長は女性であるあおいよりも少し小さい。童顔でその肩に担いでいるバットケースから、野球をしている中学生なのだと予想したあおいは少し苦笑いを浮かべ手を差し出した。

 そして思い出す。以前にも似たようなことで騒ぎ立てられたことがあったということに。

 

 ある意味野球をしている中で自分を知らない者はいないと言ってもいい。プロ野球初の女性選手として活動している自分はそれはそれは大きく取り上げられ、取材を何回も受けた。成績も大したことないのに初勝利の時には新聞の一面を飾るほどだった。

 

 また騒がれるかと、思いながら見てみると、不思議そうな顔をしてこちらを見ている少年の姿があった。

 

 

「ありがとー」

 

 

 少年はあおいの手を取ると立ち上がり、膝に着いた砂をはたいて少し頭を傾げながらあおいに話しかけた。

 

 

「お姉さんは野球してるんだ」

 

「へ?」

 

 

 その言葉の意味を一瞬理解することが出来なかった。そして同時にこのあおいの肩に担がれたバットケースに向けられた視線を見て自分が思い上がっていることに急に恥ずかしくなってしまった。

 この少年は自分を知らないのだ。まるで知られているのが当然だと思っていた自分に軽く自己嫌悪に陥るほど恥ずかしい。

 

 

「ま、まあね。僕は早川あおいって言うんだ」

 

「そうなんだ。どこかで聞いたような……気のせいかな!」

 

 

 懲りずに名乗ってみる自分に更に恥ずかしくなってくる。何をしているのだじぶんはと感じながら、少年の聞いたということは恐らく気のせいではないと言いたくなるのを必死に堪える。

 

 

「えっと……名乗られたら名乗り返さないとダメだよね?僕は葉羽(はばね)二浪(じろう)って言う名前だよ」

 

 

 その名前に何かが引っかかった。つい最近どこかで聞いたような名前。

 しかし、初対面の少年の名前など知るはずもないと考えあおいはこれからは変に思い上がらないようにしようと自分に言い聞かせ、目の前の葉羽少年へとニコリと笑った。

 

 

「じゃあ僕はこれから用事があるから行くね?」

 

「うん!じゃあね早川さん!」

 

 

 少年がかけ出すのを見送ったあおいはその歩をもう一度スタジアムへと進め始める。

 

 

 

 

 

 

 

「あ!影山さん!」

 

「お、葉羽君。あまりウロウロしないように。君を送っていく私の身にもなってくれ」

 

 

 背後より二つの声が聞こえ、あおいは振り返った。

 聞き覚えのある声に名前。数十mほど離れた場所には先程の少年と、キャットハンズのスカウトである影山秀路、見た目は怪しい風貌の男であるが見る目はあると有名な彼が立っていた。

 

 

 そして思い出す。葉羽という名前を……

 それは、今年のキャットハンズが獲得したドラフト五位の男。野球部のない高校出身であり、ある意味野球界で騒がれている男の名前だということに。

 

 その写真を見たことはなかった。またキャットハンズのオーナーがファンを増やすために変なことを始めたのだと考え、見向きもしなかったことだ。

 

 早川あおいはこの日を忘れないだろう。

 自分よりは年下であることには変わりない。だが、それでもあの幼さを残した顔つきの少年が、彼女の後輩のみずきの一つ下であると信じられなかった。

 

 そして、それが後に『野球の神様』と称される男との遭遇であることを、あおいはいつまでも記憶に焼き付けることになった。




葉羽君の経歴というか正体
1.小学生の頃からサクセスモードをこれまでずっとやってきた(練習相手は友達)。
2.野球部に入ったことはない。
3.野球に興味はあっても選手にはあまり興味はなかった。
4.神社で特訓していた。
5.怪しげな博士の所に度々拉致されていた。
6.仙人のような存在に目をつけられていた。

尚、少し実際のパワプロとはシステムの違った育ち方となっている。
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