オープン戦,キャットハンズは2勝1敗と、勝ち越してリーグ戦開幕を迎えることが出来た。例年オープン戦でも勝ち越せなかった事を考えれば今年のキャットハンズはいつもとは違うと言う事が誰にも解る。
いや、キャットハンズに入った葉羽がとんでもない存在だということを思い知ったのだ。
3試合、全てに代打で出て、7打席6HR1四球。彼は敬遠以外の打席でホームランしか打っていない。1試合目に2本ホームランを打った事をマグレと言っていた人たちも、流石にこの3試合の結果に認めざるを得なかった。
更に、敬遠した後も葉羽は止まらなかった。彼が敬遠された状況は1アウトランナー無しの状況だった。ゲッツーに抑えるつもりだったのだろう。それ故投手も捕手も最大限警戒してたはずだった……
それでも、彼は2連続で盗塁を成功させ、彼は3塁に進んだ。一球外して様子を見たはずが、止めることが出来なかった。
キャッチャーの肩が悪いわけじゃない。葉羽が速すぎたのだ。この試合を見ていた人は誰もが思ったはずだ。「どないせえっちゅうねん」と。
しかし、だからこそだろう。何故ここまでの選手がこれまで埋もれてきていたのかが……その話題に世間は注目している。
報道の話のネタをつかむべく、ジャーナリストなどは彼の経歴を洗った。
小学生の時には野球のチームがあったようだが、入部した経歴はなし。中学以降は野球部のない学校となっている。しかし、彼の恩師や友人は彼が野球の練習をしている風景をよく見ていたとのこと。それは近くの神社であったり、空き地であったり。
そして市民グランドなどで友人と野球で遊んでいた。それくらいだった。
それ以外に情報がない。独学であれだけの成績を叩きだしたことに納得出来ないのだ。もし、自分一人の練習だけでプロの試合で毎打席ホームランを打てたとなれば、彼はそれだけの練習を行ってきていたに違いない。しかし、確証は得られなかった。謎は深まるばかりである。
◇
開幕戦。レギュラーが発表される。あれだけの成績を叩きだした葉羽の名は勿論開幕スタメンの中に入っていた。DHというポジションで。
どういった意図があるのかがファンにも解説者にもわからない。別段守備が悪かった様子はなかった。寧ろ打席でのインパクトが強すぎて印象に残ってないが、葉羽の守備も素晴らしい物であったのだ。送球もブレることなく、しかもかなりの速さの球を一塁へと投げていたのだ。守備から外す理由がわからない。監督は無能などの書き込みもあったが、葉羽がDHという役割を与えられたことにチームメイトは納得していた。無論、葉羽の守備の良さを理解していないわけでも、それがいらないわけでもない。もっと別の理由からDHのほうが良いということに結論付いていたのだ。
恐らく、この状況においてその真意を理解できたものは葉羽という存在に目が眩み、キャットハンズが対面しているある問題を軸において考えてみれば解ったのかもしれない。
いや、あるいはその可能性を考えてみて、捨てた者もいるだろう。
あり得ない。こんな事例は稀に起こることなのだと思うしかなかった。これだけホームランを打てるだけで異常な選手。更にあり得ないことが起こるとは到底思えなかった……
キャットハンズの先発は宇都宮。この試合、まず一勝をあげて勢いづきたいキャットハンズのメンバーが浮足立たぬように配慮した采配。4番にいるのはプロ一年目の葉羽。その采配にチームメイトからは文句は出ない。
例年、ピッチャーの出来は良いが、勝てないのは決定的に打撃力が足りていなかったのだ。どれだけ失点を抑えてもバッターが打てなければ勝てない。その事に野手たちはある意味投手たちに申し訳ない気持ちになっていたのだ。しかし、ここに来て葉羽という異常な打者の加入に投手陣は願い叶ったりと感じ、野手にとっては文句の言えない状況になっていたのだ。
そんなことは露程も思わず、葉羽はベンチから声援を送っていた。
背丈のせいだろうか、まるで子供に応援されてるような錯覚を浮かべ、むず痒く感じるキャットハンズナインだが、自分たちのすることは変わらないと気合を入れなおす。葉羽という得点源を得てもそれ以上に取られてしまっては意味が無いのだ。
そして、随分と気合が入っていることにはベンチの面々にも伝わっていた。
「みんな集中できてそうだね」
「先輩方にとって……いいえ、野手の皆にとってこいつはカンフル剤になったってことかな」
「宇都宮さんも球が走ってるし、僕達の出番はないかな」
「どっちにしても、登板したなら抑えればいい話ですよ。援護はありますからね!」
相手は千葉ロッテマリーンズ。決して油断できる相手ではないが、今年のキャットハンズにとって萎縮する相手ではなかった。一人の新人が加入するだけでここまで違うものなのかと少し選手という存在の認識を改めた監督は試合の行く末を見守る。
少し不安定な状況のチームに危うさを感じていたが、それは杞憂に終わり、結果的にチームは8-0と圧勝。その打点を全て一人で叩きだした葉羽に野球ファンや他球団は戦慄する。
5打席5ホームラン。その結果にファンたちは漫画か何かのような結果に驚きと、日本記録を大きく塗り替える可能性のあるバッターへの期待の目で葉羽という選手を見ていた。
そして、違うリーグのカイザースのエースは、葉羽に対し、闘志を燃やし、ノーヒットノーランを達成したのはまた別の話。
後1話で導入編は終わり(予定)です!