野球の神様   作:茶ゴス

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第5球目

 キャットハンズ第6戦目、相手は西武ライオンズ。ここまでキャットハンズは4勝1敗と貯金3と好調な成績を収めている。例年のキャットハンズを考えればあり得ない数字とも言える。

 得点源はやはり葉羽。これまで17打席、14HRに4盗塁。打率としては10割を叩き出している。ホームランを打たなかった打席。3回の内、2回は敬遠によるもので、1回はシングルヒットによるものだった。

 いかに化け物じみているといえど、全部ホームランに成ることなどはない……いや、17回中14回ホームランもあり得ることではないのだが、それでも彼が完璧超人ではないことを証明されて野球ファンは心底安心しただろう。

 

 しかし、その安心もつかの間、キャットハンズのスタメンを見て唖然とした。

 まず、打順に葉羽の名前がないのだ。葉羽の務めているDHには去年のDH選手であった木下が表示されていた。今季では初出場となるが、そんな事はどうでもいい。問題なのはキャットハンズの先発ピッチャーであった。

 背番号32番、葉羽二浪。そう表示されていたのだ。

 

 

「これは予想できなかった展開ですね」

 

 

 実況の言葉に何人も頷いたのは仕方のないことだろう。投球練習をしている葉羽は落ち着いてボールを投げている。

 特段変わったところはないが、随分とノビのいいストレートを投げている。球速にして130kmは超えているだろう。しかし、それでも葉羽をDHから外してまで投手をさせる意味が解らないのだ。

 まず、初登板で先発させることも意味が解らなかった。通常であれば中継ぎとして登板させるのが当たり前なのに……

 

 だが、同時に何故葉羽がDHになっていたのかという疑問も解かれた。

 最初からキャットハンズは葉羽を投手としても起用することを考えていたのだと……

 

 先発ピッチャーは多くの回を投げ抜く機会が多く、ある程度の休みを挟んで登板する事が普通だ。しかし、葉羽の場合、投手として登板させることを前提とすれば、その打撃力を使わないのは惜しいため、出来るだけ消耗の少ないポジションに付かせるのが1番であろう。だからこそのDH、守備をすることによる体力消費を抑えるための処置だったのだろう。

 

 にしても、そこまでして投手に付かせたいのかは甚だ疑問も残る。投球練習を見る限り、そこまでの投手とは思えない……

 一見してであったが……

 

 葉羽の球を受け取っている捕手が正捕手の六道でなく、椢野だということに疑問が残るため、見えてはいないが、ここだけのインパクトがなければ目ざとい人は気付いただろう。

 椢野が構えた場所に寸分変わらず、投げ込んでいると……

 

 

 椢野からの返球を受け取る葉羽に緊張の色は見えない。それどころか、少し楽しげにしていた。寧ろ、球を受け取る椢野の方が緊張しているように見えた。

 

 多くの困惑を残す中、試合は始まる……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

「(さて、始まったな……)」

 

 

 チラリと相手の一番打者、秋川へと視線を向けた椢野は心中で呟いた。

 マウンドには腕を軽く振り、こちらを見ている後輩の姿がある。背丈が小さいため、まるで子供の野球に付き合ってるような錯覚に陥るが、まごうこと無く、これはプロ野球なのだ。これで食っている身としては真剣にならなければならない。

 

 

「(ま、投手の心配をしなくていいってのは大分気が楽だけどよ……)」

 

 

 審判の開始を告げる声を背に受け、椢野はキャッチャーミットを構える。葉羽がいかに"凄まじい"投手であろうと、新人であることに変わりはない。だからこそ、この舞台での投球がどんなものなのかを知る必要がある。

 

 

「(お前の球なら絶対に打てない。ここにぶち込んでこい!)」

 

 

 葉羽は椢野の構えた場所、要求した球種に頭を縦に振って、構えた。

 左足を浮かし、両手を頭上に振りかぶるワインドアップ。右投げ投手である葉羽が腰を捻り、左足を地面に振り下ろしてしなるように腕を振るった。

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

 

 ズバン!とボールがミットに収まる音が響き、秋川が思わず声を漏らした。いや、秋川だけでなく審判も少し唖然としている。

 

 

「審判、コール」

 

 

 椢野の言葉に審判は見た限り”ど真ん中”に突き刺さったボールにストライクをコールした。

 

 

『随分と速い球ですね。球速は……ひゃ、168km/h!?』

 

 

 実況の驚く声。秋川もスコアボードに表示された球速に驚きを隠し切れない。

 これまで日本においては誤測定以外での球速の最速はスピードガンの測定において163km/hとされている。それを5km/hも上回るなど……いや、世界記録が169km/h、実際には171km/hであるが、それに迫る事自体あり得ないことだった。

 機械の故障が頭をよぎるが、秋川にとってはその数字だけでなく、体感した速度がこれまで打席で対峙したどの球より速かったのだ。

 

 葉羽は椢野からの返球を受け取り、サインを確認する。

 

 その小さな身体で放たれた豪速球にまだ動揺を抑えることは出来ないが、秋川はなんとかバッターボックスに立ち、葉羽の投球を注視する。

 どう見てもあの身体から日本最速の球が投げられたことが信じられない。

 

 

 投げられたボールにバットを振るう。

 

 ――ズバン!ブン!

 

 

『今のストレート、球速は167km/h。とてもではありませんが信じられません』

 

 

 音からしても完全に振り遅れている。しかし、それでも希望はある。投げられた場所が2球ともど真ん中なのだ。

 バットを短く持ち、当てることを意識しよう。コースが解っているボールを当てるだけであれば出来なくもない。

 

 

 しかし、その考えは甘かった。

 迎えた第3球目、投げられた場所はど真ん中ではなかった。

 1球外してきたと感じ、秋川はバットを振るわずに見送る。

 

 

「ストライク!!」

 

 

 しかし、入っていた。外角低め、ギリギリストライクといった場所。球速のせいで正確に判断できなかったが、確かに今思えばストライクに入っている球であった。

 完全に負けた打席であった。秋川は葉羽に視線を送りながらベンチへと戻る。

 

 そんな事は露知らずと言わんばかりにマウンドを整える葉羽は次の投球に意識を集中させていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 あの後、2番、3番と三球三振で抑えた葉羽はベンチで手厚い歓迎を受けていた。

 

 初めて請け負ったイニングで全て三球三振に抑える事が出来る新人がどれだけいるだろうか。

 そんな凄まじい投球に士気が上がらないわけがない。1回の裏、キャットハンズは葉羽のいない穴を埋めるように奮起し、2点を奪いとり、葉羽を援護した。

 

 

 迎えた2回表。相手打者は西武の4番打者、中村田。

 1球目、高めのストレートをバットに当て、ファール。球速168km/hの球を一発目でバットに当てただけでも凄いといえるだろう。

 しかし、2球目……

 投球フォームに変化はない。投げられた球は若干遅く感じるが、中村田の方へと向かってきた。

 思わず仰け反って迫る球を躱すが、中村田は信じられないものを目撃する。

 

 球が自分を避けた……いや、信じられない角度で曲がった。まるで直角に曲がったのではないのかと錯覚するほどのキレのあるスライダー。最終的にはストライクゾーンの外角よりの高めで椢野のミットに収まった。

 

 

『キレのあるスライダー。いや、キレのありすぎるスライダー。そして信じられないのはその球速、159km/h……夢でも見ている気分です!』

 

 

 ストレートと比べれば球速は抑えられてるが、それでも十分変化球としては早過ぎる。あれを打つ手は自分には現状無い。打てるビジョンが浮かばない……

 

 

 そして3球目……投げられたと同時にキャッチャーミットにボールが収まる。

 見えなかった。ストレートが投げられるのを待っていた。待っていたのに手が出なかった。

 

 コースはど真ん中、だが、その速度は……

 

 

『ひゃ、175km/h!?』

 

 

 世界記録をも超える速度を叩きだした。

 機械の故障等も考えられたが、後に映像分析が行われ、この記録は間違いであったことが判明する。

 

 結果は測定された球速よりも2km/h遅い。173km/hと……

 

 

 この試合、葉羽は27人連続三振と前代未聞の記録を叩き出し、完全試合を記録した。




葉羽二浪

球速     175km/h
コントロール 100(S)
スタミナ   100(S)

変化球
割愛
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