不登校生の暗殺教室   作:ドロイデン

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プロローグの時間

――いつからだろう、母親が俺達の事を置いていったのは。だから俺達は居なくなった母親の代わりのように家事を、そして勉学を頑張ってきた。

 

 

――いつからだろう、父親が酒に溺れ居なくなっていったのは。だから俺達は父親の名義で内職のアルバイトで生活し、奨学金を貰うために今以上に勉学に取り組んだ。

 

 

――そして今日、俺達は全てを失った。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

「はぁ……もっと手軽に稼げる方法ねぇかな……」

 

 俺、深川浅はいつものようにパソコンの画面を見ながらあるサイトをチェックしていた。FX……いわゆる株取引のサイトで、現在の取引合計額がマイページに記されている。既に0が6を越えているものの、どうしても最近は稼ぎが悪い。

 

「……新作の『ポケ○ン』のプレイ動画でも投稿しようかな……でも編集面倒だし……」

 

 ため息を漏らしながら、俺はおもむろに机のなかにしまっていたゲーム機を取り出して電源を入れる。その時だった。

 

ピンポーン!!

 

「…………」

 

 まるで狙ったように聞こえたその音は間違いなく俺の家のインターホンの音だった。しかし俺は宅配を頼んでいなかったし、ネットショッピングで今日に届くとも聞いてない。間違いだと思い俺は居留守を決め込もうとするが

 

ピンポーン!!ピンポーン!!

 

「…………」

 

 どうやら俺が在宅なのは筒抜けらしい。しかし俺はやる気になったことを途中で投げ出すのが一番嫌いだ。よって再び居留守を決めこ

 

ピンポーン!!ピンポーン!!ピンポーン!!ピンポーン!!ピンポーン!!ピンポーン!!ピンポーン!!…………

 

「あぁ!!もう!!なんなんだよ!!」

 

 俺は流石に苛ついて部屋からでて玄関へと向かう。靴を履き、イライラしながら鍵を開ける。当然チェーンロックは掛けたままだ。

 

「何なんですかいったい!?新聞なら間に合って…………」

 

 俺はそう言おうとするが尻窄みに小さくなっていく。そこに居たのは明らかに公安のような黒いスーツにネクタイをした男が目の前に立っていたからだ。あまりの迫力に思わずドアを閉めそうになってしまうほどに鋭い目付きをしていた。

 

「…………休日にすまない、日本政府の烏間というものだ。少しばかり用があるのだが、構わないかな?」

 

 男……烏間という人はさっきの迫力をそのままにこちらへ聞いてくる。

 

「…………政府の人間って、俺が何かやりましたか?言っちゃ悪いですけど、不正や違法はしない主義なんですけど?」

 

「ああ、勘違いしないでくれ。別に君を取って食ったり、ましてや捕まえて刑務所に送ろうなどとは考えていない。そこは録音してもらっても構わない」

 

「はぁ……」

 

 俺は仕方なくチェーンを解錠し、烏間さんを部屋の中へ入れる。

 

「…………随分質素な部屋だな」

 

 入るなりそんなことを言うが、俺は全然気にしない。確かに家は一軒家だが、家具は基本的に自室に、リビングには大きめのテーブルに椅子が四席と、そこから少し離れてテレビデッキがあるだけの、観葉植物すらない簡素な物だった。

 

「両親共に蒸発してしまったんで、今の家主は俺ですよ。ちゃんと家賃やら生活費だって払ってますし」

 

「いやそれは別にいいが……まるで生活感の欠片もないと思ってだな」

 

「自分の部屋に行けばテレビだろうとネットだろうと完備してますしね。空いてる部屋も、お金稼ぐ為の動画の撮影場所になってますし」

 

 烏間さんはなるほど、というとテーブルの手前側に座る。俺は食器棚からグラスを取りだし麦茶を注ぎ、烏間さんのテーブルに置く。

 

「それで、用っていうのは?」

 

「その前にまず、君は月の事件を知ってるか?」

 

 烏間さんはいきなりそんなことを聞いてきた。

 

「そりゃネットでもあんなに騒がれたんだから知らないわけないじゃないですか。つい数週間前に月が謎の爆発して、七~八割ぶっ飛んで三日月になったっていうあれですよね?」

 

「そうだ。そして、君は『椚ヶ丘学園』の中等部三年E組に所属してる…………それは間違いないか?」

 

「まぁ今は引きこもって通ってないですけど…………それがいったい」

 

 俺がそう言うと、烏間さんは俺に向かってとあるファイルを取り出した。そこに描かれていたのは…………

 

「黄色い大きなタコ?」

 

 自分でも何言ってるのか分からないが、そう言うのが一番だった。黄色い真ん丸頭に、宇宙人のように大量に生えた触手……どこからどう見てもタコとしか言い表せられない。

 

「そうだ。こいつが月の事件の犯人であり、三年E組の担任だ。君には、このタコを暗殺してもらいたい」

 

「……………………は?」

 

 俺は今何を言ってるのかさっぱりだった。

 

「…………烏間さん」

 

「…………なんだ?」

 

「一度精神科に行った方が宜しいのでは?いくら政府の仕事が大変だからといってそんな幻覚を見るなんて……」

 

「本当にそうだったならどれだけ良かっただろうと思うよ全く……」

 

 烏間さんはまるで馴れたようにため息を漏らす。というか額に怒りマーク着いてるって、どんだけ同じことを言われたんだろうな……。

 

「えっと……つまり、このタコが月を爆破した犯人で、俺達のクラスの担任だと?そして同時に生徒に暗殺させようと?」

 

「そうだ」

 

「…………ちなみにこのタコの特性は?」

 

「マッハ20で動ける」

 

「無理ゲーだろ!!」

 

 何マッハ20って!!普通にそれ光の早さ超えてるよね!!そんな化け物殺せるわけないだろ!!

 

「その通りだろうな。何せ奴は私がナイフを振って避けるどころか髪型をセットしてしまうくらいだ」

 

「なんで髪型セットしてるの!?」

 

「この間は対象に攻撃しようとした戦闘機を回避して、機体にワックスを掛けてピカピカに磨きあげてきた」

 

「戦闘機にワックスってどういう状況だよ!?」

 

「しまいには殺しに来た筈の暗殺者が卑猥な格好にされたらしい」

 

「まさかの触手プレイ!?変態だろ……って変体だった!!」

 

 もう驚き過ぎて喉が疲れてきた。ていうか自分の突っ込みに突っ込む始末だし。

 

「とにかくだ。君以外のE組生徒全員には許諾して貰っている。君にも…………」

 

「(へぇ……全員が乗るほどの報酬なのかね……)一体何で乗せたんですか?」

 

「現金だ」

 

「そら当然でしょうね。……5億位ですか?」

 

「100億だ」

 

「………………」

 

 俺は頭を抱えた。いや幾らなんでもそれは……

 

「……聞き間違えたんですかね……幾らなんでも」

 

「100億だ、事実から逃げるな」

 

「逃げたくもなるわそんなもん!!」

 

 俺はもう何度目かと声を張り上げた。

 

「100億、100億ですよ!!こんな借金大国にして一生を精々3億あれば過ごせるような俺達に100億とかどうなってるんですか!!日本財政破綻しますよ!!」

 

「仕方あるまい、何せ奴は来年の三月までに殺されなかったら地球も爆破するといってるくらいだ。地球の存亡に比べたら100億など安い紙切れなんだろう、上からしてみれば」

 

 烏間さんの言葉に少しだけ納得する。確かに地球爆発するとなればこれだけの報酬を用意するのも当然と言えば当然だ。

 

「それで、引き受けて貰えるだろうか?勿論必要なものがあればこちらでも――」

 

「――悪いけど、この話は無かったことにできないよな?」

 

 烏間さんは何、と呟くと目筋を少し吊り上げる。

 

「……理由を聞かせて貰えないか?」

 

「まずリスクとリターンが釣り合わない。確かに殺せば100億になるかもしれないが、それは結果論、殺せない確率だってあるし、プロの暗殺者が負けるくらいだ、生徒に殺される確率は極めて低くなる」

 

「ほう……(こいつ、さっきまでの素顔とは一変ここまで冷静に状況を分析するか……)」

 

「何より俺達はE組……アンタも知ってるだろ?椚ヶ丘のE組の別名くらい」

 

「…………『エンドのE組』」

 

「ん。もしその担任のタコがどんなに凄い教師としての技術を持ってるであろうと、結局は最下層(エンド)、もし殺せなかったら、きっと他の連中は絶対に挫折するだろうな」

 

「…………その言い方、まるで確信を持ってるようだな」

 

「当然だろ。伊達にあの支配バカと舌戦してるんじゃねぇんだ。それくらいは今の情報だけでもすぐに思い付くさ。それに……」

 

 俺はちらりとカレンダーを確認する。

 

「もうしばらくすれば『中間テスト』だ、俺があの人なら、E組がやってる範囲をわざとずらすなり、範囲を広げるなりして俺らが上に来るのを阻止するに決まってる」

 

「なるほど……」

 

 烏間さんは苦虫を潰すように呟く。

 

「…………まぁでも、個人的にはやってみるのも一興だとは思うがな」

 

「…………ならなぜ?」

 

「金だよ。一応俺がこの家の主人なんだが、如何せん生活費がギリギリなんだよ。何せ最近は株も全然予想だにしない動きをするしよ」

 

「株か……他に何で生活しているんだ?」

 

「動画サイトでのゲームプレイ実況アップロードやら、親名義で内職のアルバイト……いつもそんなこんなで稼いでるよ。月10数万程度。けど暗殺まで組み込まれたら流石にキツい」

 

「…………こちらで生活費を卸そうと言ったらどうだ?」

 

 烏間さんは苦虫を潰すように言う。

 

「いや、まぁそれは構いませんけど……けど国のお金をそんな簡単に……」

 

「問題ない。必要経費だと報告書には記載しておけば良い話だ」

 

 それは業務上横領になるんじゃ……そう思ったが言うのはやめることにした。社会に行けばそんなことは日常茶飯事なのだろう。

 

「…………はぁ、仕方ありません。受けてあげますよ、受けて。ただし、絶対に殺せる確証はありませんからね?」

 

「結構だ。ならば後で必要なものを明日までに送らせてもらう事にしよう」

 

 そう言うと烏間さんは立ち上がる。出ていくところまで見送ると、俺は烏間さんが渡してくれた情報に再び目を通す。

 

「殺せんせー…………ね。面白そうな先生だといいな~」

 

 久しぶりに面白そうな予感に、()は不敵に笑う。その声はさっきまでの低い『仮初め』の()の声じゃなく、ハスキーで透き通った、しかしどこか狂ったような()の声だった。

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