俺とキンジはアリアのトンデモ発言が理解できなかった。キンジと違い、俺はアリアとの面識はあるのだが、アリアってこんな奴だったっけ?
「ほら、飲み物くらい出しなさいよ!全く無礼な奴ね!」
アリアはソファに座りながらキンジに飲み物を要求した。ソファに座る際、アリアが放課後もガバメント二丁を帯銃しているのが把握できた。
「コーヒー!エスプレッソ・ルンゴ・ドッピオ!砂糖はカンナ!一分以内!」
コーヒーの専門用語多いな。アリアはイギリスの貴族だから紅茶を要求するのかと思ったら、まさかのコーヒー……ってか、エスプレッソ作るには確かエスプレッソマシンかモカエキスプレスがいるよな?それに今から一分以内に作れとか強引だな…。
キンジは額に汗を浮かべながらインスタントコーヒーを作る。まぁそうなるよな…一分以内でコーヒー作れと言われたらそれしかないよな…。そして見るからにコーヒーカップが3個あるな。せっかくだから頂いていくか…。
キンジは出来上がったインスタントコーヒーを持ってくると、俺とアリアに渡した。
「どうも。」
俺はキンジに軽く礼を言うと、インスタントコーヒーを飲む。アリアは差し出されたコーヒーを口にするや否や、カップに鼻を近づけて匂いを嗅ぐ。
「これ本当にコーヒー?」
「それしかなかったんだ。有り難く飲めよ。」
「…なんか変な味。ギリシャコーヒーにちょっと似てるけど……んーでも違う。」
アリアはコーヒーの味に疑問を抱きながらもコーヒーをすすっていた。もしかしてアリア、インスタントを知らないのか…?
「味なんかどうでもいいだろ。それよりもだ…。」
キンジはコーヒーをすするのを止めると、カップをテーブルに置く。
「今朝助けてくれたことには感謝してる。それにその…お前の怒りを買うような発言をしてしまったことは謝る。でも、だからって何でここに押し掛けてくるんだ?」
「分からないの?」
「分かるかよ。白銀はどうなんだ?」
「うーん、俺もさっぱり…。」
「あんた達ならすぐ分かってると思ったのに…んー…でもその内思い当たるでしょ。まぁいいわ。」
それでいいんかい。
「お腹空いたわ。なんか食べ物ないの?」
アリアは唐突に話題を変えた。
「ねぇよ。」
「ない訳ないでしょ。あんた普段何食べてるのよ?」
「食い物はいつも下のコンビニで買ってる。」
キンジはそう答えた。あ、そういえばコンビニ行く予定だったのに、すっかり忘れてた…。
「こんびに?ああ、あの小さなスーパーのことね。じゃあ、行きましょ。」
「じゃあって…何でじゃあなんだよ?」
「馬鹿ね。食べ物を買いに行くのよ。もう夕食の時間でしょ?」
「俺も行くぜ。コンビニ行く予定だったからな。」
アリアに続けて俺もそう言った。確かにまだ夕食を食べてないからな…。それに俺の部屋の冷蔵庫がまだ空っぽだし、せめてジュース数本とお茶を買っておきたい。キンジは溜め息をついた。
「ねぇ、そこって松本屋のももまん売ってる?あたし、食べたいな。」
どうやらアリアの好物はももまんのようだ。ももまんとは、桃の形をしたあんまんだ。一昔前に流行ってたけどな…。
とりあえず俺達は夕食を買いにコンビニへ行くことにした。
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コンビニで買い物を終えた俺達はキンジの部屋へ戻ると、それぞれ買った夕食を食べ始める。キンジはハンバーグ弁当、俺はカツカレー、そしてアリアはももまん7個だ。既にアリアは5つ目を平らげている。おかしいな…桃の形をしただけのあんまんなのに、買い占めたい程うまいのか…?ちなみに先程のコンビニに売っていたももまんの数はちょうど7個。完成に買い占めである。
キンジはハンバーグ弁当を食べながらアリアに向けて「はよ帰れ。」と目で伝えていたが、今のアリアにそんなことが伝わるはずもなく、アリアは6つ目のももまんを味わっていた。
「…ってか、ドレイってなんなんだよ…?」
「確かに…いきなり“ドレイになれ”って言われても…どうすりゃいいのか…?」
「強襲科【アサルト】であたしのパーティーに入りなさい。そして一緒に武偵活動をするのよ。」
どうやらアリアの目的は、俺とキンジをパーティーに勧誘することらしい。勧誘なら勧誘ってはっきり言えばいいのに何故“ドレイ”なんだ……。
「何言ってんだよ。俺は強襲科【アサルト】が嫌で、一番まともな探偵科【インケスタ】に転科したんだぞ。それにこの学校からも、一般高校に転校しようと思ってる。武偵自体、やめるつもりなんだよ。それを、よりによってあんなトチ狂った強襲科【アサルト】に戻るなんて………無理だ。」
キンジは強襲科【アサルト】に戻ることに強く反対していた。言い方からして、相当大変なことがだったのだろう。
「あたしにはキライな言葉が三つあるわ。」
「いや、人の話聞けよ。」
「“無理”、“疲れた”、“面倒くさい”。この三つは人間の持つ無限の可能性を自ら押し留めている良くない言葉。あたしの前では二度と言わないこと。これは光も同じよ。いいわね?」
アリアはそう言うと、最後のももまんを食べる。これは流石に「アッハイ」は言わないぞ。
「キンジと光は……そうね、あたしと同じ前衛(フロント)がいいわね。」
アリアはこうしている間に俺とキンジのポジションを設定し始めた。しかも三人揃って前衛ってどういうことだよ…。
「よくねぇよ。そもそも何故俺と光なんだ?光だけで十分だろ?」
おいキンジ、初対面とはいえ人を売るなよ。
「太陽は何故昇る?月は何故輝く?」
アリアは謎の台詞を言った。アリア…人の話は聞いてやれよ…。
「キンジは質問ばっかりの子供みたい。仮にも武偵なら自分で情報を収集して推理してみなさいよね。」
アリアはそう言った。なんか、俺が空気になってる気けど…まぁいいか。
「そういえば光、あんた自己紹介の時かなり噂されてたわね。」
「まぁ、Sランク武偵って大体そうじゃない?」
「いや、あんたの方は特に噂されていたわ。何でも、“特殊な組織に所属している”って。」
「……。」
俺は沈黙した。そういえばアリアには説明していなかったし、蒸着した姿も見せてないからな…けど、まだ教える訳にはいかないな。
「自分で情報収集してみr「教えないと風穴。」…Oh,no…。」
俺がそう言おうとしたらアリアに脅された……泣けるぜ。
「はぁ、仕方ないか…。」
いつかはアリアに言おうと思ってたけど、こんなに早い時期に言う羽目になるなんてな…。俺は一旦立ち上がると、制服のポケットから手帳を取り出す。だが、それは武偵のものとは別のものだ。
「ああ、その通りだ。俺は“C.S.A.A.”に所属しているんだ。」
「“C.S.A.A.”って確か…。」
「戦闘用強化鎧【コンバットスーツ】によるテロの情報収集・予防・制圧を行う国際組織のことよ。」
戦闘用強化鎧【コンバットスーツ】…宇宙にある小惑星から採取したレアメタルによって作られた特殊なメカスーツのことだ。身体能力の大幅な向上に加え、各種機能、人口衛星による電送が可能だ。軍隊および警察の次世代装備として注目されているが、スーツを作るためには宇宙へ行ってレアメタルを採取しなければならないことから生産性が低く、未だ個数は300着も満たない。そのため、現在でも軍隊や警察の特殊部隊や“C.S.A.A.”にのみ配備されているのが現状だ。また、スーツがハッキングを受けると人口衛星からによる遠隔解除が出来なくなるなど、まだまだ問題は多い。ハッキングを受けて奪われたスーツによるテロも多発している。そのテロ行為を抑止するために結成されたのが、“C.S.A.A.”だ。
俺は“C.S.A.A.”のSOD(刑事課)に所属している。他の課と違い、SODには特定の条件を満たしていれば武偵でも所属出来るようになっている。その所属している武偵の殆どがSランクだがな。
「やっぱりただの武偵じゃなかったのね…あんたと一度組んだ時はSランクの武偵としか説明されなかったわよ?」
「色々と事情があるんだよ。それと、パーティー組むのは別にいいけど、2つ条件がある。」
「条件?」
「一つ目は“ドレイ”としてではなく、“協力者”として見ること。二つ目はスーツ強奪者との戦闘では必ずバックアップとして立ち回ること。この際は俺がフロントだ……まぁ、ざっとこの二つだ。」
「…分かったわ。」
俺が二つ程条件を提示すると、アリアは少し考えたが、了解してくれた。アリアに「こっちの仕事に関わるな。」と言っても無駄だからな…。
「…ということはつまり、光も持ってるのね…戦闘用強化鎧【コンバットスーツ】を。」
「どうして言い切れるんだ?」
「勘よ。」
アリアは勘でそう言ってきた。確かに俺はコンバットスーツ・ギャバンtype.Gを授かっている。だけど今言うのはやめておこう…。基本的にあれは切り札だからな。
「とにかく、もう帰れよ。」
「そのうちね。」
「何時だよ!?」
「キンジが強襲科【アサルト】であたしのパーティーに入るって言うまでよ。言わないのなら泊まっていくから。」
「ファッ!?」
アリアの二回目のカミングアウトでキンジは思わず声を漏らした。
「ちょっと待て!だめだ!絶対だめだ!帰r…うぇっ!」
キンジはてんぱったまま喋ったためか、食べたハンバーグをリバースしそうになった。おいおい、リバースはやめろよ…?
「うるさい!泊まってくったら泊まってくから!長期戦になる事態も想定済みよ!」
やっぱり、アリアが指差すからして、あのトランクは宿泊セットだったか…。アリアの強引なやり方にキンジのイライラが溜まっていく。そして…
「出てけっ!!」
部屋中に怒号が響きわたった。だが、その怒号を言い放ったのはキンジではなく、なんとアリアだった。
「何で俺が出て行かなきゃいけないんだよ!?ここはお前の部屋か!」
「分からず屋はお仕置きよ!外で頭を冷やしてきなさい!しばらく戻ってくるな!」
完全に逆ギレのアリアの怒号に、結局キンジは追い出されてしまった。これはいくらなんでもやり過ぎだ…。キンジ、かわいそうに…。
「あんたもよ!光!」
「なんで!?」
「うるさい!風穴空けるわよ!」
理不尽だなオイ!?凶暴を通り越して狂暴だな…。俺はアリアに怒鳴られると、椅子の横に置いた買い物袋を持って部屋を出る。冷蔵庫入れなくて正解だったわ。もし入れてたら回収できなかったしな…。
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「ふぅ…。」
アリアに追い出された俺は、自室に戻ってきた。俺は冷蔵庫にコンビニで買ってきたものを入れる。あ、そういえばこの東京武偵高って“あいつ”がいたよな…?
ピピピピピッ!
すると、俺のスマホから着信音が鳴った。俺はスマホを取り出して通話相手を見る…どうやら“あいつ”からだ。
「もしもし。」
『よう、光!久しぶりだな!』
「猛か。」
電話相手は俺の親友・濱野猛だ。装備科【アムド】のSランク武偵で、俺と同じく“C.S.A.A.”に所属している。猛とは俺が武偵として活動を始めた頃からの長い付き合いだ。1年前に日本に帰国し、東京武偵高校に入学したらしい。
『昨日長官からお前が転校してくるって連絡があってさ、それで気になって電話を掛けてみたんだ。』
「ああ、別にそれは構わないぜ…それと猛、実は転校してきたばかりで自室に予備の弾がないんだ。だから弾の購入がしたいんだ。」
『弾?分かった。えーと、弾薬は?』
「9mmパラベラム弾を10箱。それとUSP用のマガジンを10個、グロック26用のマガジンを6つだ。」
『OK。じゃあ明日昼休み後に装備科【アムド】の棟に来てくれ。』
「ありがとな。また明日会おう。じゃあ、お休み。」
『ああ。』
俺は猛に弾薬とマガジンの注文を依頼すると、電話を切る。さてと…風呂入って寝るかな?
「本当に死ね!!このド変態!!!」
「アイエエエエエエ!?」
下の部屋でアリアの怒号とキンジの断末魔が聞こえた。あっちはあっちで大変だな……ナムアミダブツ。
俺は風呂に入ると、就寝用のジャージに着替え、寝室へ移動して寝る。