「いや、あり得ないでしょ」
「てへっ…………ふぎゃっ?!」
可愛く舌を出すてゐにゴツン、と拳骨を落とす。それほど力を込めたつもりは無かったが、痛かったらしく、涙目になってこちらを見てくる。
「何おどけてるの! ていうか、本気であり得ないでしょ!! なんで自分で掘った落とし穴にかかってるのよ!」
現在の状態を一言で言うなら。
穴の中…………だ。
永遠亭と呼ばれる迷いの竹林の奥地にある建物。それがあの方たちが住んでいるところらしい。
てゐは妖怪兎たちのリーダーのような存在で、妖怪兎たちに知恵をつける代わりに他の人間を竹林に近づけない、と言う約束をあの方たちをしているらしい。
「だったらどうして私を?」
「あんたは
そう言う問題でも無いと思うが…………まあ好都合なので良しとする。
と、まあそんな感じで竹林の中を案内してもらっていたのだが。
この竹林、至る所にてゐの掘ったらしい落とし穴があるらしく、私がかかったのもその一つらしい。
「全く…………こんなところに落とし穴掘ったの誰よ?! 迷惑ね」
「あ、それ私」
「………………………………」
思わず一発殴ってしまった私は悪く無いと思う。
「案内してもらってるくせに殴るとはいい度胸じゃないか」
「私は被害者でしょ! 一発ぐらい殴らせなさいよ!」
一触即発。その時。
ズボッ、と音がし…………。
「へっ?」
「あっ」
と言うわけで冒頭に戻る。
それなりに深い穴ではあったが、そもそも飛べる私たちにあまり関係無く、難なく穴から出る。
「っというか、最初から飛べば良かったんじゃないの?」
「レイセンが引っかかるかなって…………てへっ」
思わず関節技かけた私は悪く無いと思う。
「ふーざーけーるーなー!!!」
「タップタップ!!」
「いやあ、道中は強敵でしたねえ」
「そうね、九割方てゐのせいだと言う事実に私の怒りは天元突破しそうよ」
てゐの掘った落とし穴に私が落ちたり。
てゐの掘った落とし穴にてゐが落ちたり。
てゐの掘った落とし穴にてゐが落ちたり。
てゐの掘った落とし穴にてゐが落ちたり。
「何で私より掘った本人が良く落ちてるのよ」
「まさに墓穴を掘る(どやぁ)」
「誰が上手いこと言えと」
で、一旦話が途切れ。
「ここが永遠亭?」
私の問いにてゐが頷く。
私たちの目の前にあるのは、武家屋敷とでも言うような和風のお屋敷。
とは言っても門は無いようだが、庭も整えられ、木造建築に縁側に障子に引き戸と和風を片っ端から詰め込んだらこうなりました、と言った感じの建物。
ただ、月で見たことのあるような窓の造りがあり、よく見れば他にもところどころではあるが、月の文化が混じったその姿に、なるほどこれはたしかに月の民が設計したのだ、と思わされる。
じっと建物の外観を見ている私にてゐが首を傾げながら声をかけてくる。
「そんなとこでじっとして、中に入らないの?」
その一言で本来の目的を思い出し、はっとなる。
「は、入るわよ」
慌てててゐのところへ行き、玄関の扉へ手をかけたところで。
『あら…………どうしたのかしら? もう降参?』
『そ、そんなわけ無いじゃない…………はぁ、はぁ。ちょ、ちょっと激しかったから、はぁ、はぁ、息切れしただけよ』
『ふふ…………そう、まだ話す余裕があるのね、なら次はもっと激しくイきましょうか』
『ちょ、これ以上激しくなんて無理よ、壊れるわ?!』
『大丈夫よ、すぐに具合が良くなってくるから…………ふふ、そう、すぐに、ね』
「………………………………」
「………………………………」
扉を開こうとした手がピタリと止まる。
ついでに隣のてゐもピタリと止まる。
「ねえ、てゐ。あなたここの住人なんでしょ? 部外者の私が勝手に入るわけにもいかないから先に入ってくれない?」
「何言ってるの、レイセン。あの人たちに用事があるのはそっちなんでしょ? だったらレイセンが入りなよ」
二人が入り口で騒いでいる間にも中での会話は続き…………。
『ねえ、もう止めない? これ以上は…………』
『あら、もう弱音? さっき降参しないって言ったばかりなのに』
『こ、これ以上は…………ほら外に人もいるし、ね?』
『何言ってるのよ…………外の二人なんてどうでもいいでしょ』
「「って気づいてたのなら止めてよ?!」」
思わず普段の口調も忘れて二人が同時にツッコミ、スパン、と玄関の戸を開く。
中にいたのは長い黒髪の…………美人なんて言葉では表せないほどの、例えるならAPP18くらいの女性。
もう一人は銀髪の赤と青で彩られた奇抜な服装の女性。
そして銀髪の女性が黒髪の女性を押し倒し、その手に握った注射器らしきものを黒髪の女性に向け、黒髪の女性がそれを全力で止めようとしている図。
「え…………と…………? てゐ? この方たちが?」
「そうだよレイセン、あんたが探してた…………」
「…………って、あんたたち見てないで助けなさいよ!!!」
直後に響く黒髪の女性の声を他所に、私は現実の無常さに天を仰いだ。
「私、レイセンと言います。失礼ながら貴方様がたが八意様と輝夜様でありますでしょうか?」
平伏の姿勢で尋ねる私に、何事も無かったかのように平然とした顔で佇まいを直した銀髪の女性が頷く。
「ええ、私が八意××。まあこちらでは永琳と名乗っているのでそう呼びなさい。それから」
ちらり、と隣に座る黒髪の女性を見やると、一つ頷き口を開く。
「私が蓬莱山輝夜よ。私たちを知っていると言うことは、あなた、月の兎かしら?」
「はい、月より逃げてきました」
本当は嵌められたのだが、そこは別に重要ではないのでこれで通しておく。どうせ玉兎なんて身勝手なやつばかりと言うのが月の民の基本的な見識だ。突っ込まれることは無いだろう。
「逃げてきた?」
「はい、近々戦争が始まると言う噂に怯え月より地上へと逃げて参りました…………少なくとも月ではそう言われています」
怪訝な表情の八意様、どうでもよさそうな輝夜様。二人の視線に晒されたまま十数秒の沈黙。
やがて沈黙を破ったのは八意様だった。
「…………まあ良いでしょう。それで? 玉兎が私たちに何の用かしら? 月から指名手配されてる私たちを手柄に月へ戻りたいとでも言うのかしら?」
「いえ、違います。用件は二つです。一つ目は言伝です」
「伝言? 誰からかしら?」
「…………綿月豊姫様からでございます」
瞬間、八意様の表情が、たしかに一瞬変わった。
「はい、月より逃げてきました」
そう言う目の前で平伏する少女の言に納得する。
少し突飛ではあるが、玉兎と言うのは身勝手な生き物だ。
月から逃げ出すと言うのは少々度を越した部分もあるが、あり得なくも無い。
「逃げてきた?」
だが。
「はい、近々戦争が始まると言う噂に怯え月より地上へと逃げて参りました…………
どういうこと? 口に出しかけた言葉を飲み込み、考えてみる。
月ではそう言われている、と言うことは真相は違う、と言うことだろうか?
十数秒の沈黙。その間刻々と思考を巡らせ続け、いくつかの仮定を立てる。
「…………まあ良いでしょう。それで? 玉兎が私たちに何の用かしら? 月から指名手配されてる私たちを手柄に月へ戻りたいとでも言うのかしら?」
確率的にはそれが一番ありそうではあったが。
「いえ、違います。用件は二つです。一つ目は言伝です」
あっさりと否定され、兎が用件を告げる。
「伝言? 誰からかしら?」
そして。
「…………綿月豊姫様からでございます」
その口から出てきた名前に、一瞬息を飲んだ。
儚月抄読んだら、やっぱ玉兎はみんな八意××様、って発音できるみたいだった。
ていうか、たかが3000字ぽっちなんで五日もかかるんだよ、って思ってる方もいるかもしれんが。
それは違う。書き始めたのは一時間半前だ。一時間半前に書き始めるまでずっとゲームしてただけだ。
俺は書くのが遅いんじゃない、書き始めるのが遅いだけなんだ。
って何の言い訳にもなってないなこれ…………。