東方月兎騙   作:水代

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今回、東方屈指のイケメンさんが登場します。


第十三話 ウサギ不死を知る

 

 

 永遠亭にやってきて一週間ほどが経つ。

 この一週間の私の状況を言うと、輝夜様の相手をしたり、八意様に習いながら永遠亭の家事を手伝ったり、てゐと一緒に落とし穴に落ちたり。

 最後のは正直ノーサンキューなのだが、巻き込まれるのだから仕方ない。

 永遠亭は名前の通り、時間が永遠に続くのでは無いかと思えるほどゆったりと日々が過ぎていく。

 ここに来るまでの数日間、色々ありすぎただけにこうした平穏な日々がささくれ立った心を癒してくれる。

 …………まあ、その日までは。

 

「…………よう、輝夜はいるか?」

 

 一週間が過ぎ、ようやく永遠亭での生活に慣れ始めたその頃。

 

 その人来た。

 

 

 

 来客者のいない永遠亭の玄関を無心に箒で掃く。

 幸い、と言うべきか。突風などは竹林が受けてくれるので、掃いたゴミがどこかに飛ぶ、と言う心配は無い。

 この後あれをやり、これをやり、と後の行動を自身の中で考えていた…………その時。

 

 さくっ、さくっ

 

 草を踏みしめるような足音。と、同時に疑問。

 今日はてゐも含めて全員永遠亭にいる。てゐの仲間の兎たちではあんな音は出ない。

 …………と、なると。一体この足音の主は誰だ?

 こんな竹林の奥地まで人間が来るはずが無いし。どうやっても来る途中に迷って妖怪に食われる。

 もしくは妖怪? なら飛んでくるだろうし。

 それに軍にいた頃の経験から分かる…………これは人の足音だ。

 だとするなら…………一体誰だ?

 

 警戒心を(あらわ)に足音の方向を見つめる。

 やがて見つめた方向から人が現れ…………。

 

「初めて見る顔だな、お前」

 

 その人は現れた。

 

「まあ、いいか…………それよりも」

 

 ニィ、と口元を歪め。

 

「…………よう、輝夜はいるか?」

 

 そう言って、赤い瞳で私を見つめた。

 

 

 

「どなたでしょうか…………?」

 会話をする、と言うことは問答無用と言うわけでもないようだ。

 さらにピンポイントで輝夜様の名前を出した、と言うことは永遠亭のことを知っている?

 さらに言うなら…………その身に纏う穢れ。地上の中にあってより一層濃いそれは。

 

 輝夜様たちと同じ…………。

 

「はあ? 私か、私は藤原妹紅だ」

「………………それで、輝夜様に何のご用件で?」

 瞬間、彼女…………妹紅が笑いだす。

「は、はははは!!! 何の用件だ? 決まってるだろ、ああ、決まってる」

 笑い、嗤い、哂い。

 

 そして獰猛な笑みを浮かべ。

 

「殺し合いさ」

 

 瞬間、腰に差していた銃を抜いた。

 

 

 

 三発の弾丸が妹紅の体を貫く。

 吹き飛ぶ妹紅の体を、噴出す血液を見て、月の兵士を殺した時のことを思い出してとっさに吐きそうになるのを堪える。

 だが…………。

「いきなりだな…………まあそっちがその気なら…………私も遠慮はしないがな」

 声が聞こえ。

 

 周囲が炎に包まれた。

 

「っ!!!」

 火の手が永遠亭にまで伸びようとするの見て。

 咄嗟に能力を発動させる。

 

 炎とはつまるところ、燃焼時の反応で起こる光と熱だ。

 つまり、燃えなければ起こらない。簡単な理屈だ。

 そして燃える、とは熱が絶対的に必要となる。

 温度は波で出来ている…………ならば私はそれを操れば良い。

 

 炎に宿った温度を全力で反転させる。

 瞬間、周囲の炎が消滅し。

「なに?」

 驚いた様子の妹紅に…………銃を構え。

「っ!」

 発砲。

 

 妹紅の腹部を銃弾が貫く。

 

 だが、すぐ様に妹紅が起き上がるのを見…………。

 

「蓬莱の……薬……」

 

 呟いた瞬間、妹紅が口を歪めた。

 

「燃えろ!!」

 言葉に従い、その意に従い、周囲がまた燃え始める。

 さらに高い温度で、さらに強力な力で。

 すぐまた能力を使い…………弾かれる。

 消えない、炎が。

 阻まれる、能力が…………宿る意思に。

 理解する。これまでやってきた物理を超越した…………これが、妖怪たちのいる世界。

 けれど。

 

 それでも。

 

 消せる。

 

 何故なら。

 

 私はこれ以上を知っている。

 

「火之迦具土神様には到底及ばない」

 

 依姫様の炎はもっと凄かった。世界を焼き尽くすばかりの勢いで私に迫ってきた。

 

 これなら…………消せる。

 

「っなに?」

 

 消滅した炎に目を開く妹紅。

 さきほどと同じように銃を構える。

 分かっている、相手は不死だ。

 輝夜様たちと同じ、蓬莱の薬を飲んだ不老不死。

 

 だから。

 

「今日はお帰り願います」

 

 呟き。

 

 空間に生み出し続けていた銃弾()()()()()()を射出する。

 

 ピシャリ、と玄関を閉め。

 

 後には、蜂の巣になった蓬莱人が一人。

 

 

 

 

 むくり、と起き上がる。

 ぺっと口の中に広がる土と血が混ざったものを吐き出す。

 ぽりぽりと頭を掻き、目の前の永遠亭を見るがさきほどの兎はもういない。

「あー…………今日は引き返すか」

 どうにもあの兎のせいで、白けてしまった。

 どう呟いたその時。

「あら? 帰るの?」

 声がした。聞き覚えのある声。

 振り向く、そこに輝夜がいた。

「輝夜」

 私はこいつが憎い…………と言うより、憎かった。

 だが、磨耗した。幾百年の時の中で、磨耗してしまった。

 それでもこいつを殺そうとするのは、こいつが私を殺そうとするのは。

 死の無い私たちが生を実感できる時だから。

「ああ、帰るよ。あの兎に止められちまったしな」

「止められたって、貴女全然本気じゃなかったじゃない」

「…………っち、不死でも無いやつに本気なんて出せるかよ」

 

 生まれ生まれ生まれ、生まれて生の始めに暗く

 死に死に死に、死んで死の終わりに冥し。

 

 だが自身は生が暗いとは思わないし、死が冥いとも思わない。

 死に怯え、けれど死を乗り越えてくる。

 だからこそ、生が輝き、だからこそ死に意味がある。

 何故生と死を繰り返すのか? そんなもの、簡単だ。

 生きているから死があるのだ。

 死が無いモノは生きてはいない。

 だからこそ生の尊さを知る。

 死を捨て去り、生を忘れた自分たちだからこそ、失くしてしまったその価値に気づく。

 失くさなければ分からない、なんて言葉は昔から良くあるが、全く皮肉なものだと思う。

 

「新しい住人か?」

 自身の問いに輝夜が頷く。

「そうよ、私と同じところから、ね」

「…………帰るのか? 月に」

「いいえ…………月から逃げてきたのよ、あの子も」

「…………強いな、あいつ」

 まあそれでも負ける気はしないが。

「そうね…………色々あったみたいだから」

 いつもと違う、どこか優しい表情で、輝夜が呟く。

 先ほど戦った相手を思い出し、頷く。

「生の意味と死の意味を知ってたな、あいつ」

 あの目はそう言う目だ。

 生きることを知っている、だから死ぬことを恐れている。

 そして死ぬことを知っている、だから生きていることに必死だ。

 不思議だ、と思う。

 どうやったらそんなことになるのか。

 自身たちのように不死だとでも言うのか?

 けれどそんなはずは無い。あの兎からそんな気配はしない。

「不思議なやつだな、あいつ」

「…………そうね」

 呟く声は、風と共に竹林へ消えていった。

 

 

 




60年周期の大開花の話書こうかと思ったら、もこたん出し忘れてたことに気づいて、慌てて十三話として書いてた話を十四話にしてこの話書き始めた。
所要時間一時間と十五分ほど。まあまあかな?

やっぱもこたんイケメン。

因みに鈴仙の銃は月から持ってきたもの。銃弾? 能力で作れます。隠し設定ですが。その辺の設定もいつかはするかな? 今いえるのは鈴仙の能力はチートだと言うこと。

さらに因みに。
本気で殺しあったら、多分もこたんが勝つ。
今回スペかにするような技系一つも使わなかった、ていうかもこたんがやったことって炎出すだけだったから勝てたけど、技使って殺しにかかられると多分勝てない。でも今の鈴仙も臆病じゃないだけ原作鈴仙よりは強い。

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