東方月兎騙   作:水代

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今回は原作一切関係ないけど、ただちょっと鈴仙どれくらい強いの? っというのを書いてみたかった。
本当はまだ対人戦が一番面白くなるけど、今回はこれで我慢。


第十五話 ウサギ妖怪退治をする

 

 

 竹の花が散って、幾度の年が過ぎたか。

 穏やかに過ぎていく永遠亭の日々。

 そんなある日の師匠の第一声。

 

「うどんげって実際どの程度強いのかしら?」

 開口一番。師匠の口から出た言葉に首を傾げる。

「えっと、何の話ですか? それより朝食できましたよ、師匠」

 あら、ありがとう。と頷き、けれど動こうとしない師匠。

 どうしたものか、と思っていると再度師匠が口を開く。

「たしか月では都市防衛隊にいたのよね?」

「え、あ、はい」

「都市防衛は依姫の管轄だったはずだけれど、今でも?」

「はい…………と言っても私がこちらに来るまでは、ですが。依姫様が訓練をつけていました」

「と、なると貴女も?」

「はい、そうですけど…………?」

 思い出すのは、豊姫様を背負って依姫様から逃げる日々。

 あれ? 私の仕事って何だっけ…………?

「と、なるとそれなり強いのかしら?」

「まあ…………そこらの妖怪程度に負けるつもりはありませんけど」

 実際問題、能力を使えば大妖怪とか呼ばれている存在とも渡り合える…………と、思う。

 戦ったことが無いので、分からないが。少なくともこの地上に依姫様より強い存在がいるとも思えない。

 だ……大丈夫……こ、ここは地上。依姫様はいない…………あの神殺しの炎が迫ってくることも無い…………無いはず…………。

「うどんげ? どうかしたのかしら?」

「え、あ……はい。いえ、なんでもありません」

 思い出して思わず震えた私を見て、不思議そうな表情をする師匠。

「えっと、結局は何故そのようなことを?」

 なんだか先ほどから迂遠な話しばかりで、核心が見えないので思い切って聞いてみる。

 

「ええ、そうね…………まあ言ってしまうと、ちょっと妖怪退治をしてきて欲しいのよ」

 

 ピン、と人差し指を立て。

 師匠が、そう言った。

 

 

 なんでも…………近頃、竹林の竹を根元から食い荒らす妖怪がいるらしい。

 さらにはその妖怪、雑食らしく竹林に住む妖怪兎たちにまで襲い掛かってくるそうで、どうにかしてくれ、とてゐを通して兎たちから師匠に要請があったらしい。

 ちょっと補足説明をするなら。

 竹林に住む妖怪兎はそのほとんどがてゐに率いられた群れだ。偶に群れから逸れる兎もいるらしいが、そう言った兎は里に出て畑を荒らして人に狩られたり、別の妖怪に食べられたりするらしい。

 で、本来妖怪兎に知能なんてものはほとんど無く、ほとんど本能だけで生きているらしいのだが、てゐが群れを率いることによって、一定の方向性のようなものを与えることはできるらしい。

 そう言った兎は、人の少ない永遠亭の貴重な労働力であり、故にこそその兎たちの要請を師匠も聞くことにしているらしい。

 と言っても、だいたいがくだらないことで、却下されるらしいが。

 時々こう言った緊急性の高いものもあるらしい。

 師匠が受けた話だが、忙しい師匠に代わり私が言って来い。とまあつまりそう言う話らしい。

 

 

「で、肝心の妖怪の風貌が分からない…………と」

 一体私に何を倒して来いと言うのか。

「黒くて、びょいーんとしてて、ぐわあ、って感じのやつらしいよ?」

「と言うか、なんでてゐまで来るの? 危ないわよ?」

「まあ鈴仙一人行かせるのもなんだし」

「へえ、てゐって戦えるの? そうよね、伊達に長生きして…………」

「逃げ足だけは自慢できるよ」

「戦えないじゃないのよ…………」

 まあ軍事訓練を受けた兎なんて、地上では私くらいのものだろうけれど。

「それじゃ、師匠。行ってきます」

 永遠亭を出る前に師匠に一声かけて行こうとし…………。

「あら、鈴仙、どこに行くの?」

 廊下を歩いてきた姫様が私たちを見つけ、声をかけてくる。

 どうでもいいが、あの竹の花の咲いていた日以来、姫様は私を鈴仙と呼ぶようになった。

 一度理由を尋ねてみたら『家族なのにいつまでも上の名前で呼ぶなんて仰々しいじゃない』とのこと。

 と言うか因幡って苗字だったのか、と言う私の感想は置いておき、鈴仙と言う音は豊姫様に貰った大切な名前なので、そちらで呼んでもらったほうがしっくり来るし、ありがたいと言える。

「姫様、おはようございます。朝食は用意してありますので」

「あら、ありがとう。それよりどこかに行くの?」

「ええ、まあ…………最近竹林に出た妖怪にうちの兎たちも被害を受けているらしいので退治しに」

 なるほど、と姫様が頷く。

「そう、気をつけなさいな。少々の怪我なら永琳が治してくれるから、ちゃんと無事に帰ってきなさい」

「分かりました。それでは、行ってきます」

「行ってきまーす」

 そうして、姫様に見送られ、私とてゐは永遠亭を出た。

 

 

 一口に竹林と言っても、その大きさはかなりのものだ。

 その妖怪は、竹林のどこか、に出没するわけで、それを退治しようと思うなら、この広大な竹林を歩き回る必要がある。

 上から飛んで探すと言う手もあるにはあるが、肝心の妖怪が黒っぽい以外、ほとんどまともな情報が無いのだから、見落とす可能性がある。

 と、なるとやはり歩きしかないのだが…………。

「…………てゐ、言い訳はある?」

「…………てへ、ごめん」

 歩いたら歩いたで、何時の間に量産したのかそこら中に掘られたてゐの落とし穴に落ちる…………しかもてゐごと。

「だからなんであんたは自分の掘った落とし穴の位置も覚えてないのよ!?」

「作りすぎちゃって、どれがどれだか」

「このお馬鹿兎!!」

 全く、こんな時に件の妖怪が出てきたらどうするのか…………なんて考えてしまったのがいけなかったのか。

 

 ギチギチ…………ギチギチギチ…………

 

 何かが、聞こえた。

 

 ギチギチギチ……ギチギチギチギチ……

 

 聞こえる。近い。そう…………ほとんどすぐ傍から。

「てゐ!!!」

 咄嗟に叫び、てゐを掴んで飛ぶ。

 穴から出てきた瞬間、()()()()()()()()()

 空間のずれは、即ち位相のずれ。位置情報のずれだ。

 咄嗟のそれが功を奏したのか。

 私たちのほぼ真横を黒い影が通り過ぎていく。

 ドスン……と重い音が響くと同時、穴から少し離れた地点に着地する。

 振り返るとそこに、根元がぐしゃぐしゃに潰れた竹が数本。それと、そこに横たわる黒いソレ。

「……………………黒くて、びょいーんとしてて」

「ぐわあ…………」

 

 兎曰くの黒くて、びょいーんとしてて、ぐわあ…………な妖怪。

 

 それは。

 

「百足?」

「でっか…………」

 

 体長十メートル以上はあろうかと言う、巨大な百足だった。

 

 

 

 撃つ。弾かれる。

 撃つ。弾かれる。

 撃つ………………。

「埒が明かないわね」

 空気を固めただけのお手軽衝撃弾では妖怪百足の頑強な甲殻に弾かれるだけだ。

「やっぱり実弾じゃないとダメね」

 人差し指をピン、と伸ばし…………目を閉じる。

 想像(イメージ)を作り出す。

 大丈夫…………月にいた頃は毎日触れていた。

 その感触は…………鮮明に思い出せる。

 時間にして一秒にも満たないその間。

 目を開く。

 そこにあったのは、指先に具現した実弾。

 幻想郷に来て覚えた技術の一つ。

 魔力の具現。

 普通、妖怪や妖獣に宿るのは妖力と言うマイナス方向に突っ切った破壊的な力らしいのだが。

 月の兎には魔力が宿る。魔力とは理を打ち崩す力だ。魔法とは理に穴を開け、自身の無理を通す技法だ。

 無理が通れば道理が引っ込むを行うのが魔法と言う技術で、その方法に決まった形は無い。

 故に私のように魔法を習ったわけでも無い一介の兎でも簡単なことはできる。

 もう数百年以上前からこの国にあった技術なのだと、師匠は言っていた。

 私が覚えたのはたった一つ…………即ち、魔力で銃弾を作り出す方法。

 本来なら数十秒と言う時間をかけ、一つのものを具現するのが精一杯らしいが、手馴れたもの、今自身がそれがそこにあるのだと、明確に意識できるのなら今のように一秒にも満たない時間で生成することも可能らしい。

 私自身、これで作れるのは銃と弾だけだ。と言っても、銃を作るよりは自分の能力で撃つほうがやりやすいので、基本的には作るのは弾だけだが。

 

「これで、どう?!」

 指先に具現した三つの弾丸が放たれ、百足を撃つ…………だが。

 カキン、と音を立て、銃弾がぱらぱらと落ちる。

 肝心の百足は、その甲殻に少々傷をつけているが、表面が少し削れている程度。

 だが傷ついたのは事実であり、その凶暴性をさらに増して襲い掛かってくる。

 蛇行するような動きで地を這い寄ってくる百足に、私は飛び上がって避ける。

 そのまま宙で刹那に弾丸を生成し、放つ。

 私の放った銃弾を気にも止めず、百足がこちらを向き。

 

 ギチギチギチ

 

 不快な音と立てると共に、その口から何かが吐き出される。

「っ!!」

 能力で自身の体を衝撃波で飛ばし、それを避ける。

 避けざまに再度銃弾を生成、放つ。

 自身の甲殻の硬さに自信でも持っているのか、避けようともせず銃弾を受け、何事も無かったかのように飛び上がってくる。

「飛べるの!!?」

 まさかあのフォルムで空を飛べるなどと予想も付かず、一瞬判断が遅れ…………。

「…………あ」

 ギチギチギチ

 目の前に迫った百足。

 その口が大きく開き…………。

 そして、その赤い複眼と目が合い…………。

 

 次の瞬間、百足が力を失い、落ちた。

 

「…………ヒヤッとしたわね」

 目が合った瞬間、相手の目を通して、能力で思いっきり波長を乱してやったのだが、もし通用しなかったらあれで死んでいたかもしれない、と思うと背筋が凍る思いだった。

 下を見下ろすと、五感が上手く機能せずもがく百足の姿。

「でもまあ…………これで終わりね」

 指先に銃弾を生成、そして射撃。

 ズブッ

 放たれた銃弾が、百足の甲殻に弾かれ…………ず、その体に突き刺さる。

 

 ギチギチギチギチギチ

 

 痛みにもだえる百足。

「過信したわね」

 たしかに銃弾に少々撃たれようが、弾いてしまうような硬さの甲殻だったかもしれない。

 だが、この短時間に同じ箇所を何度も撃たれれば、いつかは貫かれるのも道理だ。

 最初の一発で、完全に無傷なら諦めていたが、多少なりとも傷がついていた。

 少なくとも、私の弾丸は百足の装甲を削っていた。

 ならば同じ場所に撃ちつづければ貫けると思っていた。

 だがそれでも拳銃の銃弾程度では百発撃っても弾かれていただろう。

「知ってる? 私って銃器の扱いは一通り習ったけど…………一番得意なのは狙撃なのよ」

 ぽとり、と手の上に落ちてきた弾丸…………先の鋭角になっており、拳銃の銃弾よりも三倍近く長いそれ。

 ライフル弾…………拳銃の銃弾ごときとは比べ物にならないほどの威力を持つそれ。

「油断した? 最初に撃った9mm弾程度じゃその甲殻は貫けないって?」

 一発目の銃弾は見事に弾かれた。それで大丈夫だと思ったから、百足は二発目からは避けるそぶりも無かった。

 私が二発目から全く違う弾丸を使っていたことにも気づかず。

「…………まあ所詮妖怪と言っても、虫じゃその程度よね」

 そもそもこちらの言っていることを理解しているのかすら怪しい。

 痛みすら持ってなさそうな相手にこれ以上時間を割いてやる義理もない。

 

「だから…………」

 

 パチン…………と指を鳴らす、と同時に周囲の()()()()()()()()数百発のライフル弾。

 

「さようなら」

 

 瞬間、それら全てがもだえる百足妖怪へと殺到し………………後には妖怪の死骸だけが残った。

 

「さて、てゐでも探しに行きましょうか…………全く、どこまで逃げたのかしら?」

 

 振り返った竹林の中。

 見渡す限りに広がる竹林(たけばやし)

 穴から出た瞬間、まさしく脱兎のごとく逃げ出してしまった家族を思い。

 

 一つ、ため息を吐いた。

 

 

 




原作鈴仙のいくらでも出てくる銃弾の謎。
分からなかったので、適当に設定つけてみました。
時々出てくる空間に貯めた、ってのは要するに空間の波を弄って一時的にずれた空間に物質を置いておく。で、それを繰り返して元に戻すといつの間にか大量に溜まってる、という仕組み。空間がずれてるだけで位置がずれてるわけじゃないので、走りまわってるうちにちょっとずつ仕込んで、数百、千と溜まったら一気に開放するのがうちの鈴仙のやり方。分からんかったら、全方位から飛んでくるゲートオブバビロンとでも思ってくれれば。理屈は全然違うけど、やってることは似てるし。




ところで…………気力が尽きた。
原作までもうあっぷあっぷで何も書けない。
前も言ったかもしれないけど、やる気が出ないと何も書けない。
実際更新までに一週間近くかけてるけど、これ書き始めたの数時間前。
と、言うわけで。
何かこんな話しやって欲しい、というのがあったら募集。


「 」が「 」する話。とか「 」が「 」したら「 」が「 」になっちゃう話とかそんな感じにリクエストプリーズ。
思いついたら書いてみる。

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