こ、この小説で、では…………せ、設定の、ど、どく、独自解釈や、お、おりじ、オリジナル設定などを、ふ、ふ、ふく、含みま、す。
狂気を操る程度の能力。
それが私の持つ私だけの力だ。
字面こそアレではあるけれど、その実かなり応用性のある便利な能力だったりする。
その能力は突き詰めると『波を操る』ことに収束する。
波…………海の波だけでは無い、もっと抽象的な意味で、だ。
一番最初に出来たのは、人の波を操ること。
人の精神には波がある。
波長を長くすれば、即ち暢気となり、何事にもやる気なくし動かなくなる。
波長を短くすれば、即ち狂気となり、情緒不安定で感情的になり、人と話が出来なくなる。
その高低差を大きくすれば起伏の激しい性格になる。
その高低差を小さくすれば何事にも動じなくなる。
そうして人の精神を操ることに慣れたころに出来るようになったのが、世界の波を操ること。
この世界は全て波で出来ている。
光は波で出来ている。
音は波で出来ている。
温度は波で出来ている。
その他、この世界のありとあらゆるものは波で出来ている。
私をそれを操ることができる。
光を操り、物を見えなくしたり。
音を操り、何も聞こえなくしたり。
温度を操り、燃えているものを凍らせることも凍ったものを燃やすこともできる。
まあ…………だからと言って。
「…………どうしました? 来ないのですか?」
どうしてかは知らないけれど、依姫様とガチンコバトルさせられている罠。
例のごとく私には拒否権は無い件。
だってペットだし…………自分で言ってて泣きたくなる。
依姫様曰く『どれほど強くなったか、私が計ってあげましょう』とのことだが、正直余計なお世話だとしか言えない。
とは言ってももう始まっているので、今さらどうこう言っても仕方ないのだが。
本当なら適当にやってお終い…………と行きたいところなのだが、最初に依姫様が『本気でやってないと判断した時は本気を出さざるを得なくしてあげます』と恐ろしい宣言をしてくれたので、死に物狂いでやる必要がある。
考えろ…………どうすればこの戦いを生き抜ける?
「来ないのでしたら…………」
必死に思考する私を嘲笑うように依姫様が腰の剣に手をかけ…………。
「こちらから行きましょう…………安心しなさい、神霊は使いませんから」
たった一歩で私の懐までの距離を詰めた。
カチャ…………剣が抜かれる音。
スゥゥゥ…………その刀身が鞘から抜き放たれ。
チン…………短い音と共に、
「?!」
手ごたえの無さに驚く依姫様へ向け、ピストルの形を作った指を向け。
「っ!」
指先から銃弾が射出される。
ほとんど零距離発射のそれを、けれど依姫様は人間じゃないよこんなの、と言いたくなるような反射神経でそれを避ける。
まあそれは予想はしていたのでそれまで
途端、私の背後に現われる幾千の弾丸に、依姫様がわずかに眉をしかめる。
「撃て」
言葉と共に放たれた幾千の弾丸が依姫様へと向かい…………。
と、同時に自身の能力を全開で発動させる。
「
直後、幾千の弾丸の姿が、
「ふむ」
自身へと飛来する無数の、それも歪んでしまって撃ち落すのも難しそうなそれを見て、けれど依姫様がそれだけ呟き。
「天宇受売命よ」
その一言で、
…………………………ん?
「って、依姫様、戦う前に神霊を降ろさないって言ったじゃないですか?!」
「思ってたよりもやりますねレイセン、想像以上の成長です」
「無視?!」
ていうか、気のせいだろうか、先ほどから依姫様の背後に何かオーラ的なものが見えるのは。
「その成長振りに免じて、私の本気を見せましょう」
あれ? 何か地雷踏んだ? もしかして前言撤回させられたこと苛ついてましたか…………?
「なに、たったの一度だけですから…………まあそれで立っていた者もいませんが」
私の人生オワタ。
「さあ…………行きま「私のペットになにしようとしてるのよ、依姫」…………お姉様」
「お姉様じゃないでしょ。私のペットなんだから、あんまり無茶させないでよ、ほら行くわよ、レイセン」
やばい、人生で初めて豊姫様に感謝したかもしれない。
「あ、はい、豊姫様」
感涙を流していると、豊姫様に呼ばれたので慌てて駆け寄る。ついでに依姫様に一礼するのを忘れない。
「全く、依姫も相変わらずねえ…………あまり気を悪くしないでね、レイセン。あれで依姫、貴女に期待しているのだから」
豊姫様の住居、綿月家に連れてこられた私は、椅子に座っている豊姫様に頼まれて、お茶を淹れる。
コップに入れたお茶を豊姫様に差し出し、先の言葉の意味を問い返す。
「期待、ですか?」
首を傾げる私に、豊姫様が頷く。
「依姫が言ってたけど『レイセンは才能もある上に、他の玉兎と違い真面目に訓練するので伸びも段違いに速いですね、能力もありますし、もっと訓練を積めばまともな戦力として数えることができるかもしれませんね』ってね」
告げられた言葉に目を丸くする。
普段通りの鬼教官だった依姫様が、まさか裏ではそんな風に褒めてくれているとは思わなかった。
「と言うか、前々から疑問だったんですが、都市防衛隊って相手がいるんですか? 私たちの仕事って何なんですか?」
都市防衛隊、と名乗るからには、都市を防衛するのが仕事だ。
そして、防衛と言うからには敵の存在が不可欠だ。
だが平穏甚だしい月の都でその敵と言うものを一度も見たことが無いのだが。
だとするなら都市防衛隊の存在意義とは何だろうか。
私のそんな疑問に手元の扇子をピシャリと閉じ、口を開く豊姫様。
「以前地上の妖怪が月の都に大挙して押し寄せてきたことがあったわね…………後はまあたまに迷い込んでくる漂流者の相手とかかしら?」
「地上?」
「あれよ、あれ」
そう言って指差す先は遠くの空に見える青い星…………地球だ。
「たしか月の民の方々は地上からやってこられたとか」
「ええ、遠い遠い昔には私たちもあそこにいたわ。けれど地上は穢れに汚染されてしまった…………だから私たちは穢れの無い月に来たのよ」
「穢れ…………」
たしか穢れは寿命のようなものだったっけ? 何か違ったような…………?
「地上…………かあ」
そんな私の独り言に豊姫様が首を傾げる。
「地上がどうかしたのかしら?」
「いや…………どんなところだろう、って」
私がそう答えると、少し眼を見開き。
「さあ…………穢れの溜まり切った不浄の地のことなんて知らないわ」
突如そう言い捨て、急ぎ足で部屋を出た豊姫様。
突然のことに私はしばらくの間、眼を丸くし…………。
「地上…………か」
前世の自身が住んでいたであろう地に思いを巡らせた。