東方月兎騙   作:水代

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第九話 ウサギ幻想を知る

 

 

 

 国産みの神イザナギとイザナミ。

 両神が作り出した月の民たちにとっての始まりの地…………つまり、日本。

 で、私が最初にいたのはアメリカ。最初に見た湖、五大湖か何かだったのだろうか。

 ここで問題なのは、私の勘違い…………と言うか、思慮が足りていなかった部分。

 私の生前……と言うと今が死んでいるみたいなので、前世と言うが、その頃は平成三十数年代。

 人類が月面に基地を作るとかそんな話をしていたころの話だ。

 よくよく考えれば、転生…………憑依か? なんてしている時点で、まともな状況なわけが無いのだが、あまりにも平穏過ぎてその考えに至らなかった。

 

 つまりまあ…………街に入って初めて気づいたが。

 

 現在、終戦前。日本とアメリカが戦争していたりする。

 

 当然と言えば当然の話だが。

 

 この状況でアメリカから直接日本に行けるまともな方法が存在しておらず。

 

 飛んでいくにも、さすがに太平洋横断する気にもなれず。

 

「さて…………どうしよう?」

 

 欧州方面はドイツが周辺国に攻め込まれているせいで、こっちもまともな交通機関が麻痺している。

 後、蛇の道は蛇と言うべきか、偶然出会った妖怪から聞いた話によると、欧州は吸血鬼勢力が未だ残っていて、どうにも危険らしい。

「あれ? これ詰んでない?」

 終戦まで待つべきだろうか? こんな状況じゃ、日本に行けるようになるまで何年かかるか分からない上に、その間にまた次の部隊が月から来た場合、対処に困る。

 また薬物で精神を破壊されて来られたら殺すしかないし、それをするとまた私の立場が悪くなる。

 いや、もうすでに決定的にマズイのだが、それでも豊姫様はこの状況でも諦めずどうにかする、と言ってくれたのだから、私がこれ以上マズイ事態にするのは避けたい。

 

「幻想郷?」

「ケケケ…………ソーサ、イバショノナクナッタヨーカイタチノサイゴノイバショッテワケサ、ケケケケ」

 居場所の無くなった妖怪たちの最後の居場所…………?

「妖怪に居場所が無くなっているっていうのは?」

「ドイツモコイツモ、ニンゲンガカガクヲツイキュウシテゲンソウヲコワスセイデ、ヨウカイハドンドンセカイニイバショヲナクシテイルノサ」

 科学を追及して幻想を壊す…………それの意味は分かる気がする。

 平成三十数年の世界、世の中の不可思議の大半が科学によって究明されていた。僅か十数年の時間で人類は地球上から不可思議を次々と駆逐していった。

 つまりその駆逐された不可思議に生きるのがこの世界の妖怪。

「セカイカラカクリサレタバショデナ、セカイカラワスレサラレタソンザイガソコニヤッテクルッテハナシダゼ」

 世界から隔離された場所…………それって…………。

「マア、グレムリンノオレニハカンケイナイガナ、ケケケ」

「ん、ありがとう。これ、いつもの」

「オウ、アリガトヨ、ウサギノネーチャン、ケケケ」

 楽しそうに人を嗤って、羽の生えた小人のようなソレは、不快な声を荒げながら去っていく。

 その手にしっかりと握り締めたチューインガムを一つ口に入れると、そのまま空へと飛び去っていく。

 

 名をグレムリンと言う。

 半分妖怪化した妖精のような存在で、ここ欧州大半とここアメリカ大陸を主に生息域にしているらしい。

 そのせいか、空軍の戦闘機に張り付いてガソリンを飲んだり、機体に悪戯したり、パイロットを驚かしたりして良く戦闘機を事故らせている迷惑な存在だが、その生息域の広さと噂好きの性格のお陰で、幅広い地域の情報を持っている。

 この数日で得た妖怪とか神様の方面の貴重な情報源だ。

 チューインガムと言う戦時中にはちょっと貴重な嗜好品が好物なのが難点だが、それに見合った以上の情報はくれていると思う。

 

 で、一番気になったのが、ゲンソウキョウと言う場所だ。

 漢字にすれば幻想郷だろうか?

 忘れ去られた妖怪たちが最後にやってくる場所。

 外界と隔離された独自の世界。

 それが日本にあると言うのだ。

 もし彼の御方がいるとするなら、一番可能性が高いだろう。

 

 まずはその幻想郷へ行く方法を探そう。

 

「…………で? どうやっていけばいいの?」

 

 グレムリンについでに聞いておけば良かった…………などと思っても後の祭り。

 

 と、その時。

 

 ふっ、と一瞬、気が遠くなったかと思うと。

 

「…………………………え?」

 

 景色が一変していた。

 

 

 

 

「…………え? いきなり何? ここどこ?」

 っさきまで街にいたはずなのに、どうして私はいきなり森の中にいるのか。

 と言うか気づいたら森の中にいること多いなあ、と心中で呟く。

 と、ふと視界の中に違和感を覚える。

 何かがおかしい…………そしてすぐに気づく。

「木の種類が全然違う…………」

 アメリカ原産の木々とは全く違う、けれどどこかで見た覚えのある木々。

「っていうかこれ松?」

 松の木、それにクヌギも生えている。こっちはブナだろうか。

 足元には笠のついたままのドングリがたくさん落ちている。

 どこかで見た覚えのある、と言うか。

「もしかして…………日本?」

 いや、日本以外の森を見たことなんてほとんど無いから分からないのだが、そう言えば直前までと気温も違うし、天気もなんだか曇っている。

 さっきまでの街とはかなり離れた場所であることは間違い無い。

 この梅雨前のようなじめじめとした空気、曇った空。

 生前の日本の気候のそれに良く似ている。

「…………この不可思議現象。もしかして、ここが幻想郷?」

 幻想が辿りつく最後の場所、となるとこんな不可思議によって飛ばされた地なんてそれ以外思いつかない。

 

 だがそうなると疑問が起こる。

 

 何故私はここにいる? どうやって私はここに来た?

 

 ……………………。

 

 ……………………………………。

 

 ……………………………………………………。

 

「って、分かるか!!」

 

 情報が少なすぎる。

 こんな状況で見知らぬ土地で単独で行軍など考えただけで頭が痛い。

 だが、そうも言ってられない、それにここは隔離されている、つまり月から発見されにくい。

 だったら、目的の人物がいるかいないかはともかく、ここに拠点を張るべきだろう。

 だとするなら、もっと情報がいる。特にここは妖怪の巣窟らしいから。

 人も住んでいるらしいが、一体どうやって妖怪に襲われずに済んでいるのだろうか?

 まだ月からこちらにやってきて数日だが、妖怪に襲われる人と言うのをすでに三人以上知っている。

 まして何十年、何百年と言う間妖怪の脅威に晒され続けて良く今まで生きてこれたものだと感心する。

「…………まずは人のいるところを探してみましょうか」

 妖怪よりかはまだ話が通じるだろう。能力で耳を隠し、さらに見えたとしても違和感を覚えないように錯覚させれば普通に人間にしか見えないだろうし。

 

 そうして森から飛び立ち、適当な方角にぶらぶらと飛ぶ。

 大きい山があったが、妖気が漂っていたので、危険と判断。さらに探索を続けると、遠くのほうに神社らしきものも見つけたが、同じくらい遠くに人の住む村らしきものも発見。

 さて、どちらに行くべきか、と考え…………神社に言って神様にでも会ったら嫌なので、村のほうへと向かう。

 それから村から見えないところで、降り立ち能力で普通に人間に似せて村へと近づく。

 入り口に武器を持った人間たちがいるが…………さてはて、どうなることやら。

 

 

「通っていいぞ」

 滅茶苦茶あっさり通れました。

 そんな簡単に通して良いのか? とも思ったのだが。

「あんた外来人だろ、その格好見れば分かるよ、ここにそんな珍しい服は無いからな」

 と言ってあっさりと納得していた。

「外来人?」

 と、聞き覚えの無い単語だったので聞き返すと、男が頷いて答える。

「外の世界から来た人間のことだよ、あんたもその口だろ?」

「それ以前にここはどこ?」

 だいたいの検討は付いていたし、ほぼ確信も持っているが、話の流れとして聞いておく。

「ここは幻想郷だよ。結界によって外の世界から隔離された秘境さ」

 やはりここが幻想郷…………そしてさらに気になる単語が出てくる、結界と今言ったが。

「結界、って何?」

「俺も良く知らんが、幻想郷と外とを隔てる結界が張られているんだって話だぜ?」

 これ以上詳しくは稗田様にでも聞いてくれ、とのこと。

 その稗田様はどこにいるのか? と聞くと、里で一番大きな屋敷にいる、と返す。

 簡単な礼だけ告げると、稗田様のところに行くなら失礼の無いようにな、との言葉に苦笑いして返した。

 

「大分情報が集まってきたけど…………後は稗田様、とやらのところで聞くとしますか」

 

 やや賑やかな人里の往来を、そんなことを呟きながら歩いていった。

 

 




展開が急? そうでも無い。
レイセンはすでに幻想の存在でしか無いんだから、いつ幻と実体の境界に引き寄せられてもおかしくは無かったですよ。
で、そんな時に自分から幻想郷に「行きたい」と思ったことがトリガーになって…………とかそんな感じでご都合で。

グレムリンしゃんはオリ。まあモブだし許せ。

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